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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶一般不法行為事例①(YouTubeにおける著作権侵害通知(動画削除要請))

▶令和41014日大阪高等裁判所[令和4()265]
損害の発生及びその額について
 (1) 精神的損害について
ア 前記で説示したとおり、YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものであるといえ、控訴人Bによる違法な本件侵害通知により被控訴人動画が一方的に削除されたことにより、被控訴人はその人格的利益を侵害されたものと認められる。
イ そして、その削除期間が、令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間に及ぶこと、被控訴人トリニティ動画の動画時間が25分47秒間、被控訴人メランジ動画の動画時間が19分24秒間であって、テロップ挿入や音声等の編集作業にも相応の労力、時間を要して作成されたものであることがうかがわれること、被控訴人動画が投稿されたAのチャンネルには少なくとも1000人を超える登録者がいたことに加え、被控訴人が、削除当日に、控訴人Bに対し、控訴人Bのどの動画の著作権を侵害したことになるのか教えてほしい旨問い合わせたのに対して、控訴人Bは、これに対する回答をしないばかりか、同年6月頃、Cのチャンネルにおいて、被控訴人に向け、本件侵害通知のことを取り上げて「2度あることは3度ある、3度目は命取りです」などとのコメントを記載して、控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかのような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載していることなど、本件に現れた一切の5 事情を考慮すると、被控訴人が上記の人格的利益の侵害により受けた精神的苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
ウ なお、被控訴人は、本件侵害通知による被控訴人チャンネル全体の収益性の低下及び視聴者に対する信頼毀損による視聴数低下について、慰謝料算定に当たっての根拠としても主張するが、被控訴人は、上記各事情によって被控訴人チャンネルの収益性の低下による経済的損害が生じたことをいうものであって、その損害賠償の可否は、そのような経済的損害の発生が認められるか否かの立証に係るものであり、損害の発生が不明な場合に前記イで認定したところを超えて慰謝料として損害賠償を認めることはできないというべきである。したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 広告収益に関する経済的損害について
ア 被控訴人動画の広告収益の低下
被控訴人動画がYouTubeにおいて削除されていた期間は、前記のとおり令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間であるところ、証拠によれば、被控訴人メランジ動画(投稿日は同年2月3日)についての広告収益は、同年2月3日から同月6日までの4日間で合計1463円(1日当たり365.75円)であったこと、被控訴人トリニティ動画(投稿日は令和元年8月1日)についての広告収益は、令和元年11月6日から令和2年2月6日までの93日間で合計1766円(1日当たり18.98円)であったことが認められる。
被控訴人トリニティ動画の削除により被控訴人が失った広告収益は、上記のとおり1日当たり18.98円として算出するのが相当と認めるが、被控訴人メランジ動画の上記収益単価は、投稿直後の4日間の広告収益に基づくものである。広告収益は動画の視聴数等によって変動し得るところ、一般的に、新たに投稿された動画の方が視聴者の耳目を集めやすく、投稿直後は視聴数が多く、その後時間が経過するにつれて逓減する傾向があること自体は否定し難いこと、編み物の編み方に関する動画の視聴は、季節柄、夏場には視聴数が低くなる傾向がうかがわれ、通年で一定しているとはいい難いことからすると、被控訴人メランジ動画の広告収益は、削除後の当初30日間は1日当たり350円、その後は、被控訴人トリニティ動画との対比を考慮して、1日当たり20円として被控訴人の損害を算定するのが相当と認める。
そうすると、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人が被った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日-30日〕)。端数切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、被控訴人動画の削除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。
イ 被控訴人チャンネル全体の収益性の低下等
被控訴人は、被控訴人動画が本件侵害通知によって削除されたことは、被控訴人チャンネルのステータスに影響を与え、被控訴人チャンネルの動画が視聴者の画面に表示されにくくなったり、広告単価が低下したりするなどの不利益を生じさせ、被控訴人チャンネル全体の収益性を低下させている旨主張し、また、被控訴人チャンネルに対する視聴者の信頼が著しく低下し、視聴数が減少して収益性が低下した旨主張する。
しかし、「YouTubeヘルプ」において、著作権侵害の「警告を複数回受けると収益化に影響を及ぼすおそれがあります。」との記載がされているものの、どのような場合にいかなる仕組みによって収益化に影響を及ぼすかについては必ずしも明確になっているとは認められない。また、被控訴人が影響を受けたとする被控訴人チャンネル全体の収益について、本件侵害通知がされる前後、さらに被控訴人動画の復元後といった各時点の収益が具体的にいかなるものであったかを認めるに足りる証拠は何ら提出されておらず、被控訴人から数値を示すなどした具体的主張もされていない。YouTubeにおいては、各動画の収益に関する分析情報は期間を区切って画面上に表示させることが可能であるから、本件侵害通知がされる前後、被控訴人動画の復元後といった各時点で動画の視聴数、収益等にいかなる変動があるかを立証することは容易であると認められるにもかかわらず、被控訴人動画ないしチャンネルについてそうした立証が全くされていないことに照らすと、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人のチャンネル全体の収益性が低下するなどして被控訴人が経済的損害を被ったとは認めるに至らないというべきである。
(3) 損害軽減義務違反について
ア 控訴人らは、被控訴人には、YouTubeに対し速やかに異議申立通知を行うことなく、漫然と被控訴人動画が削除されている状態を放置していたことによる損害軽減義務違反があり、被控訴人が軽減できたはずの損害は、民法416条1項類推適用による通常生ずべき損害に当たらないから、控訴人らにおいて賠償責任を負わない旨主張する。
イ しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、①控訴人らによる本件侵害通知により令和2年2月6日に被控訴人動画がYouTubeから削除された後、被控訴人は、代理人弁護士に依頼し、同弁護士において、同年3月5日、YouTubeに対し、編み物の編み方そのものは著作物性の根拠にならないこと等を記載し、その旨を判示した知財高裁判決の存在を指摘して異議申立てをしたこと、②同月8日に、YouTubeから、正当な理由が確認できないため異議申立てを受理できないとの回答がされたため、被控訴人代理人弁護士において、同日及び同年4月10日に、異議申立ての要件とされる「誤り」「によって削除された場合」にいう「誤り」には著作権侵害通知者に著作権が存在しないことも含まれるのではないかということ、控訴人Bによる被控訴人動画同様の編み物に関する投稿動画に対する多数の著作権侵害通知により、これら動画の投稿者らが委縮している状況にあることを指摘して反論をしたこと、③被控訴人が同年7月4日に本件訴訟を提起した後の同年8月29日、YouTubeにおいて、本件削除通知については著作権侵害通知の法的要件が欠けており、控訴人Bから申立てを補足する追加情報の提出もないことから、著作権侵害警告を取り下げることとして被控訴人動画を復元したことが認められる。
まず、被控訴人がYouTubeに異議申立てをするに当たって、代理人弁護士に委任するために一定の期間を要したことについては、本件事案の内容及び難易に加え、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせ等に対する控訴人Bの不誠実な対応や、代理人弁護士によらずにYouTubeに異議申立てをすると、異議申立者の住所といった個人情報が著作権侵害通知をした者に対して自動的に転送されるといった仕組みに照らせば、全くやむを得ないものというべきである。また、後にYouTubeにおいて被控訴人動画が復元されたというのであるから、被控訴人代理人弁護士がYouTubeに対して行った上記異議申立ての内容は、正鵠を得たものであったといえるが、著作権の実体的判断にも関わる問題でもあって、それが理解されるのに一定の期間を要したこともまたやむを得ないものというべきであって、被控訴人が漫然と被控訴人動画が削除されている状態を放置したといった非難は当たらない。
したがって、控訴人らによる本件侵害通知により被控訴人動画が削除されたことで生じた前記(1)ア、イ及び(2)アの損害は、違法な本件侵害通知により通常生ずべき損害であって、それら全てについて控訴人らは損害を賠償すべき責任を負う。
(4) 弁護士費用について
以上のとおり、本件侵害通知により被控訴人が被った損害額が、20万円((1)イ)及び1万7929円((2)ア)の合計21万7929円であること、並びに本件訴訟の内容及び難易等に鑑みれば、控訴人らによる本件侵害通知と相当因果関係のある弁護士費用は、4万3585円と認めるのが相当である。
(5) まとめ
以上によれば、控訴人らは、被控訴人に対し、共同不法行為による損害賠償として、前記(1)イ、(2)ア及び(4)の損害合計26万1514円及びこれに対する不法行為の日である令和2年2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

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