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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1143項事例➁(映画のダイジェスト版のYouYubeへの投稿)

▶令和41117日東京地方裁判所[令和4()12062]
2 事案の概要
1 本件は、原告らが、被告らほか 1 名は原告らの著作物である別紙著作物目録記載の映画の著作物を編集して作成した動画をインターネット上の動画投稿サイト「YouTube」に投稿し、これによって原告らの著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害したと主張して、被告らに対し、民法 709 条及び 719 1 項前段(損害額につき、著作権法(以下「法」という。)114 3 項)に基づき、一部請求として、前記主文記載の額の損害賠償及びこれらに対する令和 4 6 11 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原告らの主張
(1) 原告らは、いずれも映画の製作・配給等を目的とする株式会社である。
(2) 別紙著作物目録記載の各映画作品(以下「本件各映画作品」という。)は、いずれも映画の著作物(法 10 1 7 号)であり、別紙侵害行為一覧の「映画作品名(正式名称)」欄記載の各映画作品につき、対応する同別紙「著作権者」欄記載の原告が著作権を有する。
(3) 被告ら及び C は、共謀して、本件各映画作品をそれぞれ編集して、約 2 時間の作品全体の内容を把握し得るように 1015 分程度の動画(以下「本件各動画」という。)を作成し、もって原告らが本件各映画作品につきそれぞれ有する著作権(翻案権)を侵害した上、本件各動画を別紙侵害行為一覧の「投稿日」欄記載の日に同別紙「タイトル」欄記載のタイトル及び「URL」欄記載の URL により YouTubeに投稿し、もって原告らが本件各映画作品につきそれぞれ有する著作権(公衆送信権)を侵害した。
(4) 本件各動画は、それぞれ YouTube 上で利用者によってストリーミング再生された。その再生回数は、別紙侵害行為一覧の「再生数」欄記載のとおりである。
これにより、被告らは、少なくとも 700 万円程度の広告収益を得た。
(5) 本件各映画作品につき、消費者がストリーミング形式で一時閲覧する権利を購入するにあたり YouTube 上で支払う価格は、概ね 400 円を下らない。この額から、プラットフォーム手数料(30%)を控除した上、本件各動画が本件各映画作品の全体をアップロードしたものではないことを考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法 114 3 項)は、1 再生当たり 200 円を下らない。これに別紙侵害行為一覧の「再生数」欄記載の再生数を乗じると、本件各映画作品のそれぞれに係る損害額は、同別紙「損害額」欄記載の金額を下らない。
(6) よって、原告らは、それぞれ、被告らに対し、連帯して同別紙「損害額(一部請求における権利者合計)」欄記載の額の損害賠償(一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和 4 6 11 日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告らの主張
事実は認め、主張は争わない。
3 当裁判所の判断
1 原告ら主張の事実については、いずれも当事者間に争いがない。これによれば、被告らは、故意により、いずれも映画の著作物である本件各映画作品について原告らがそれぞれ有する著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害したといえる。
2 損害額について
(1) 弁論の全趣旨によれば、YouTube の利用者が YouTube 上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube 上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画の YouTube 上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2) YouTube における本件各映画作品の各レンタル価格(HD 画質のもの)は、1 作品当たり 400500 円程度であり、400 円を下らないこと、うち 30%が YouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2 時間の本件各映画作品を 1015 分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が 700 万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法 114 3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数 1 回当たり 200 円とするのが相当である。
(3) 上記算定方法によると、本件において原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、それぞれ、別紙侵害行為一覧の「損害額」欄記載のとおりとなる。
したがって、原告らは、それぞれ、被告らに対し、上記金額を自己が受けた損害の額としてその賠償を請求し得る。この額は、いずれも、本件において原告らが一部請求として被告らに対して支払を求める損害賠償額を上回る。
以上によれば、原告らは、それぞれ、被告らに対し、民法 709 条及び 719 1 項前段に基づき、本件における請求額全額の損害賠償請求権及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和 4 6 11 日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金請求権を有することが認められる。

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