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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1143項事例③

▶令和498日東京地方裁判所[令和4()3313]▶令和539日知的財産高等裁判所[令和4()10105]
1 原告の損害額について
(1) 本件画像[注:本件画像はいずれも、原告が本件商品(デンマーク製のフライパン)の宣伝に用いることを目的として制作会社に依頼して制作したものである。このうち、本件共通画像は、本件商品のセールスポイント、本件商品が選ばれる理由及び本件商品を購入した場合の特典についての説明をそれぞれ内容とするものであり、本件個別画像は、種類等が異なる本件商品を個別に写真撮影したものである。]は、商品その他の画像を利用するなどして、本件商品の特徴を分かりやすく伝える工夫を凝らして制作されたものといえる。また、被告が被告ストアに掲載した本件画像の数は少なくない。
もっとも、前記前提事実のとおり、被告が本件画像を掲載したと認められるのは令和 3 3 3 日頃~同年 4 14 日頃の間であって、比較的短期間にとどまる。また、前記前提事実のとおり、本件画像は、本件商品の宣伝に用いることを目的とし、これに沿って、本件商品のセールスポイント、本件商品が選ばれる理由、本件商品を購入した場合の特典についての各説明と本件商品各種の個別の商品の写真からなるものである。そのため、本件画像は、本件商品を宣伝するために本件共通画像 7 枚と当該商品に対応する本件個別画像を適宜組み合わせて利用することを想定して制作されたものといえる。すなわち、被告による本件画像の利用態様は、本件商品ごとに異なる本件個別画像を掲載したことを考慮しても、本件画像の 1 回の利用として想定された範囲内のものにとどまると見るのが相当である。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件における「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法 114 3 項)は 5 万円とし、これを原告の損害額と認めるのが相当である。
(2) 当事者の主張について
【ア 控訴人は、○○社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価として約700万円を支払った旨を指摘するが、本件委託契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、本件画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる。
したがって、上記約700万円の支払に基づいて、控訴人による著作権の行使について受けるべき金銭の額を算定することは相当ではない。
イ 次に、控訴人は、本件画像の1ページ当たりの損害額に被控訴人が本件画像を掲載したウェブサイトのページ数を乗じて控訴人の損害額を算定すべき旨を主張する。
しかしながら、前記⑴のとおり、本件画像①ないし⑦(本件共通画像)とそれぞれ異なる本件個別画像との組合せは、本件画像の1回の利用として想定された範囲内の一体の利用とみられるから、まず、各画像の複製又は送信可能化ごとに損害額を算定することは重複となり妥当ではない。また、控訴人指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank、朝日新聞フォトアーカイブ及び株式会社アフロの各料金表は、本件証拠上、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないこと等からすると、これらの各料金表記載の価格を、本件画像の複製又は送信可能化により生じた控訴人の損害額算定に当たり、ウェブページ1ページごとに算定するものとすべき根拠とすることはできない。
他方、控訴人は、控訴人の売上減少額を控訴人の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被控訴人による本件画像の利用と相当因果関係の認められる控訴人の売上減少及びその額の立証はない。この点を措くとしても、被控訴人による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が本件商品を販売したことによって控訴人の売上が減少したという関係も認められず、本件画像の利用と控訴人の売上減少との因果関係を検討する前提も欠けている。
したがって、これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、前記のとおり、①本件画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである、②第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである旨主張する。
上記主張に対して、引用に係る原判決(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
イ 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、本件画像の1回の利用として想定された範囲内の一体の利用とみることができるから、本件画像ごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件画像の利用期間も短期間であって、現に被告ストアで販売された本件商品も認められないということであれば、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像②中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像③中のフライパンを製造している職人の写真は、▽▽社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(▽▽社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。
ウ 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申請を要するものと定めていること、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていることが認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
エ さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがあるとの事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。
オ 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、ストア(店舗)を基準にして1ストア当たり5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記主張を採用することはできない。】

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