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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1143項事例④(海賊版アプリのネットオークション販売)

▶令和3119日大阪地方裁判所[令和3()3208]
1 被告販売行為による不法行為の成否(争点1)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,海外サイトにおいて,原告製品[注:機械や構造物の設計,製図等のCAD機能等を有するアプリケーションプログラム]の海賊版を無料でダウンロードし,本件サイトにおいて,別紙記載の原告製品に係る本件海賊版製品の入札を募り,同「終了日」記載の頃,同「落札価格」記載の金額で,各落札者に対し,本件海賊版製品を販売したことが認められ,かかる被告販売行為が,原告の著作権(複製権,譲渡権)を侵害し,不法行為を構成することは明らかである。
(略)
2 被告の故意又は過失の有無(争点2)について
前記1のとおり,被告は,海外サイトにおいて,原告製品の海賊版を無料でダウンロードし,本件サイトにおいて,落札者を募り,各落札者に対し,本件海賊版製品を販売することを繰り返していたのであり,さらに,前掲証拠によれば,被告は,前記販売の際に,本件海賊版製品に,ライセンス認証を回避し,本件海賊版製品を無期限に使用することができるようにする不正プログラムを添付すると共に,自ら作成したマニュアルも添付して,各落札者に対し,インストールをする際には,インターネット回線を一時的に切断し,セキュリティソフト,アンチウィルスソフトも作業終了まで停止するよう指示していることが認められるのであるから,被告に,原告の著作権侵害についての故意があったことは明らかである。
3 損害の発生及びその額(争点3)について
(1) 著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告製品は,オンラインストア等で顧客に対し販売されていること,原告製品には,永久ライセンス版と,使用期間を1か月,1年,3年に制限したサブスクリプション版が存在するところ,これらの動作種別は,ライセンス認証時に原告から送付される認証コードの種別により決せられることが認められるが,被告は,前記認定のとおり,本件海賊版製品の落札者に対し,本件海賊版製品と共に,ライセンス認証を回避する不正なプログラム,及びインターネットに接続せずにインストールをすること等を指示するマニュアル等を添付して,落札者をして前記ライセンス認証システムを無効化させ,これによって,落札者は,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能になったことが認められる。
これらの事実関係に照らすと,原告製品の永久ライセンス版の定価をもって,原告が原告製品の著作権の行使につき受けるべき価額であると認めるのが相当である。
イ これに対し,被告は,原告製品の定価をもって著作権法114条3項の使用料相当額とすることは,最低限の賠償額を保障した同3項の趣旨及び文理に反する旨を主張する。しかし,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使用期間制限の有無や期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能となるのであり,これによって,原告は,被告販売行為がなければ得られたであろう永久ライセンス版の定価の額に相当する額を得られなかったことになるし,被告販売行為の態様は,本件海賊版製品をライセンス認証を回避しつつインストールすることができるよう販売するという悪質なものであり,その違法性は高く,市場への影響も大きい。
被告は,原告製品の定価と原告製品の使用料相当額として受けるべき金銭の額とは別である旨を主張するが,原告製品のようなアプリケーションプログラムの販売価格は,その本質において著作物の使用許諾に対する対価というべきであるから,前述のとおり,原告製品の定価をもって,著作権法114条3項が定める著作権の行使につき受けるべき金銭の額と見ることができるのであり,被告の主張は理由がない。
また,被告は,原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトとの相性の問題等があるため,本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあり得ないことから,原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とするのは相当でないこと,あるいは,原告製品の期間契約には,1か月,1年及び3年の各期間設定があるところ,契約期間が長くなれば割安になることから,原告製品のうち永久ライセンス版が設定されていないものについて1年ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とするのは相当でないことを主張する。しかし,前述したとおり,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使用期間制限の有無や期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能となるのであり,その時点で原告には原告製品の永久ライセンス版の定価相当額の損害が発生したというべきであって,その後,動作環境等により本件海賊版製品を使用できなくなる可能性があることやもともとの原告製品には期間制限があることなどの事情は,損害額の算定には影響しないと解するのが相当である。
ウ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告製品の永久ライセンス版の定価は,別紙記載の価格をくだらないことが認められ,被告販売行為による原告の損害は,同記載の合計10億5509万6750円をくだらない。
(2) 弁護士費用相当の損害について
被告販売行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告が主張する弁護士費用1億0550万円をもって相当と認める。
4 損益相殺(争点4)について
被告は,原告は,販売機会の喪失による逸失利益の賠償を求めているから,被告販売行為によって出費を免れた経費相当額,具体的には,営業利益率を乗じた金額か少なくとも変動費目を控除した金額を損害額から控除しなければならない旨を主張する。
しかし,被告が主張する経費の具体的内容が明らかでないし,仮に原告に出費を免れた経費があったとしても,原告製品の使用許諾料相当額として損害賠償の額を算定するに当たり,経費を控除すべき事情は見当たらない。したがって,被告の主張は採用できない。
5 過失相殺(争点5)について
被告は,原告が,多くの出品者から夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を認識していたにもかかわらず,何らの措置を講ずることなく漫然とその状況を看過してきたから,原告には,自ら損害の拡大に寄与した過失があったとして,過失相殺がされるべきである旨を主張する。
原告が,夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を抽象的に認識していたことは当事者間に争いがないものの,そのことから,直ちに原告がこれに対応して何らかの措置を講ずべき義務が生じるものとは認められず,その他,原告に同義務が生じると認めるに足りる証拠はない。したがって,被告販売行為について原告に過失があり,原告が自ら損害の拡大に寄与したということはできないから,被告の主張は採用できない。
6 消滅時効(争点6)について
被告は,原告が夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を認識していたところ,同サイトに対し,出品者IDと紐付けられた出品者の個人情報を開示するよう求めるなどして容易にこれを知り得るから,原告は,被告が本件海賊版製品を出品した当時,被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を認識していたとして,原告の損害賠償請求はその頃から3年の経過により時効消滅した旨を主張する。
しかし,原告が,夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を抽象的に認識したからといって,そのことから,被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を知ったものとは認められない。一方で,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,令和2年9月18日,大阪府警察から,原告製品の海賊版が本件サイトに出品されていることについて告訴する意思の確認等を受けたことが認められ,原告が,被告が被告販売行為を行っていたことを知ったのはその頃以降であることが推認されるところ,これを覆すに足りる事情はない。そうすると,原告は,少なくとも令和2年9月18日以降に本件訴えに係る損害賠償請求の損害及び加害者を知ったものと認められ,前提事実記載のとおり,原告は,令和3年4月6日,本件訴えを提起したから,本件訴えに係る損害賠償請求権は,訴え提起時において,3年の消滅時効期間が満了していない。
したがって,被告の主張は採用できない。
7 小括
以上によれば,原告の請求は,一部請求額である6000万円を超えて認められ,また,原告は,本件訴えにおいて,被告販売行為のうち不法行為成立時期の古いものから一部請求しているものと解されるところ,別紙記載のとおり,平成30年10月25日時点において,原告の損害額合計が6000万円を超えていることは明らかである。
したがって,被告は,原告に対し,6000万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年10月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

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