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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例1143項事例(ポスティング業務にゼンリン住宅地図を使用した事例)

令和4527日東京地方裁判所[令和1()26366]
損害額について
(1) 証拠によれば、原告は、自動車保管場所証明申請や建築確認申請等にゼンリン住宅地図の写しを添付する際に貼付するものとして、ゼンリン住宅地図を複製することを許諾したことを証する複製許諾証を販売していること、複製許諾証は、1申請又は1届出につき1枚貼付するものとし、1枚200円(税抜き)で販売されていること、原告は、ゼンリン住宅地図のうち任意の部分をダウンロードし、これを自宅でプリントアウトすることができる「ゼンリン住宅地図出力サービス」を行っており、1500分の1の縮尺でA3、B4又はA4サイズの住宅地図を1枚550円(税込み。複製許諾付きのもので1枚770円(税込み)。)で販売していること、原告は、ゼンリン住宅地図のうち任意の部分をコンビニエンスストアでプリントアウトすることができる「ゼンリン住宅地図プリントサービス」を行っており、1500分の1の縮尺でA3サイズの住宅地図を1枚400円(税込み)で販売していることが認められる。
上記認定事実に基づいて原告が受けるべき金銭の額に相当する額を検討するに、複製許諾証は、1申請又は1届出につき1枚貼付するものとされているものの、見開きの片側1頁を複製するごとに1枚貼付することを要するのか、見開きの左右2頁を複製したとしても1枚貼付することで足りるのかは明らかでないため、これのみに基づいて額を算定することはできないが、「ゼンリン住宅地図出力サービス」及び「ゼンリン住宅地図プリントサービス」では、ゼンリン住宅地図の見開きの左右2頁と同じかこれより狭い任意の部分を1枚550円又は400円で販売していること等に加え、本件訴訟に現れた全ての事情を考慮すると、原告各地図の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額につき、1頁当たり200円と認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告らは、①公益社団法人日本複製権センターは組織内での利用を目的とした複写に係る使用料を1頁当たり4円と定め、一般社団法人学術著作権協会は内部利用目的の基本複製使用料を1頁当たり2円と定めている、②原告を含む日本の主要地図業者6社のうち3社は被告会社が同3社の販売する地図を複製することにつき追加の許諾料を求めていない、③原告の販売する複製許諾証の価格は公開されておらず、ポスティング業界に対して示されたこともない、④被告らは社内利用としてポスティング用地図を作成するために原告各地図を複製したものであるから、行政庁に対する許認可申請や届出等のための複製ではなく、複製許諾証が必要とされる場合に当たらないと主張する。
しかし、上記①について、著作権法114条3項の「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは、当該著作権の実際の使用許諾契約における使用料等を考慮して認定すべきであると解されるところ、原告は、前記前提事実のとおり、日本全国の地図情報を調査した上、紙媒体である「ゼンリン住宅地図」や電子地図ソフトウェアである「電子住宅地図デジタウン」を作成販売し、前記(1)のとおり、ゼンリン住宅地図を複製することを許諾したことを証する複製許諾証を1枚200円で販売し、ゼンリン住宅地図のうち任意の部分を「ゼンリン住宅地図出力サービス」又は「ゼンリン住宅地図プリントサービス」として1枚550円又は400円で販売しているものであり、本来、原告から原告各地図を複製することの許諾を得るためにはこれらの料金を支払う必要があった。他方で、公益社団法人日本複製権センターや一般社団法人学術著作権協会が定めた複製に係る使用料は、原告が定める上記料金と比較して極めて低廉であるばかりか、同使用料は両法人が管理する著作物について適用されるものであるところ、両法人が原告各地図を管理していることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、両法人が定めた上記使用料を採用することが相当であるとはいえない。
上記②について、原告における原告各地図に係る使用許諾の実績は前記(1)のとおりであり、上記①について説示したとおり、この実績は、原告自身が受けるべき金銭の額に相当する額を算定する上で、当然に重視されるべき事情であるから、他の業者の価格設定の存在により、この事情が直ちに考慮できなくなると解することはできない。
上記③について、証拠によれば、原告は、平成14年10月21日から、1枚200円で複製許諾証の販売を開始し、これ以前は、1申請当たり1200円で個別に複製の許諾を行っていたことが認められるから、複製許諾証の価格は公開されており、ポスティング業界を含め、一般的にこれを知り得たというべきである。
上記④について、前記のとおり、被告会社は、自らの事業であるポスティング業務を行うために、原告各地図を複製し、被告各地図を作成していたものであり、それ自体は原告が想定する複製許諾証の利用目的には該当しないとしても、前記(1)で説示したとおり、原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定するに当たって、考慮すべき一事情となり得ることが否定されるものではない。
したがって、被告らの上記各主張はいずれも採用することができない。
(3) 前記のとおり、被告会社は、別紙記載のとおり、原告各地図を合計96万9801頁複製したものである。そして、前記(1)のとおり、原告各地図の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は1頁当たり200円と認められるので、原告は、被告会社の著作権侵害行為により、1億9396万0200円の損害を被ったと認められる。
そして、被告会社の不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は、1900万円と認めるのが相当である。
したがって、原告に生じた損害額の合計は2億1296万0200円である。

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