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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1141項事例①(「漫画村」の管理者に広告掲載料を提供していた広告代理店の共同不法行為性が問題となった事例)

▶令和31221日東京地方裁判所[令和3()1333]
[注:本件は,漫画家である原告が,インターネット上の漫画閲覧サイト(「漫画村」という名称のウェブサイト。以下「本件ウェブサイト」)において原告の著作物である漫画が無断掲載されて原告の公衆送信権が侵害されているところ,被告らは本件ウェブサイトに掲載する広告主を募り,本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料として運営資金の提供等をすることにより,上記公衆送信権侵害を幇助したと主張して,被告らに対し,共同不法行為者としての責任(民法719条2項,709条)に基づき,損害賠償金等の連帯支払を求める事案である。]
原告の損害額について
(1) 財産的損害
前記認定のとおり,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は462円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ,原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相当である。
ところで,本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべきである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること,原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブサイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。
これらの事情に鑑みると,本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害額は,1000万円(109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用
本件訴訟の性質,経緯その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らによる著作権侵害の幇助と相当因果関係のある弁護士費用は,100万円が相当である。
[以下、控訴審参照]
令和4629日知的財産高等裁判所[令和4()10005]
被控訴人の損害額について
(1) 著作権法114条1項に基づく主張(当審における追加主張)について
() 著作権法114条1項に基づく損害の算定について、被控訴人は、1PVで漫画1冊の閲覧が可能であったとして漫画1冊当たり1PVと主張するのに対し、控訴人らは、ページを切り替える度にPVがカウントされている可能性があるためPVを原告漫画のページ数で除した数をもって公衆送信を行った数量と認めるべきであると主張する。
そこで検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトにおいては、ウェブページを切り替えることなく漫画の全ページを閲覧することができたものと認められるから、漫画1冊の全てのページを閲覧しても、1PVのみのカウントとされることもあったことが認められる。したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
もっとも、他方、証拠によると、そもそも本件ウェブサイトの訪問者において、特定の漫画の閲覧を開始するまでに、何度かウェブページを切り替える必要があったこともうかがわれることから、被控訴人の上記主張も直ちに採用し難い。
以上の事情に加え、証拠(乙17)及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトへの訪問者一人当たり10.69PVであったと認められること(なお、乙17において、PVは、これに月間の訪問者数及び1ページ当たりの広告枠の数を乗じると広告の月間表示回数(インプレッション数)が算出できるものとして記載されており、あくまで広告が表示されるウェブページを基準にしたものであることが窺われる。)を踏まえた上で、本件ウェブサイトの訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮すると、少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らないものと認める(換言すると、「受信複製物」の数量をPVの約5%、二度の訪問当たり1冊にとどめることとする。)のが相当である。
(略)
ウ 他方で、訂正して引用した原判決のとおり、被控訴人は、原告漫画1冊当たり46.2円の利益を得られた(控訴人らも、同額を著作権法114条1項の「単位数量当たりの利益の額」とみることについては特に争っていない。)。
エ 前記ア~ウを踏まえると、本件ウェブサイトにおける原告漫画の閲覧に関して被控訴人が得られたであろう利益は、次のように算定することができる(=本件ウェブサイトに掲載されていた原告漫画の巻数×1巻当たり1か月当たりの受信複製物の数量1666冊×原告漫画1冊当たりの被控訴人の利益46.2円×月数。
なお、争点1-3について既に被控訴人の主張を前提として判断した本件行為に係る控訴人らの過失の成立時期を前提としても、既に認定説示した注意義務違反の態様のほか、争点1-1及び1-2について既に認定説示した点に照らすと、本件行為に係る損害を算定するに当たっては、原告漫画のうち平成29年4月にアップロードされたものについても算定の基礎に含めるのが相当である。)。
(略)
() 合計
3086万6548円(なお、同額を原告漫画1冊当たりの被控訴人の利益の額46.2円で除すると、66万8107部となり、原告漫画の発行部数(その発行に係る期間には原告漫画が本件ウェブサイトに掲載されていた期間が含まれている。)に照らしても、上記の額は過大なものとはみられない。)
オ 弁護士費用については、上記損害金の約1割である308万円を認めるのが相当である。
カ 以上より、著作権法114条1項に基づく損害金のうち1000万円及び弁護士費用100万円の合計である1100万円の支払を求める被控訴人の請求には理由があり、また、被控訴人が遅延損害金の起算日とする平成29年11月18日までに上記の額を超える損害が生じていたと認められるから、同日からの遅延損害金の支払を求める被控訴人の附帯請求にも理由がある。

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