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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1143項事例⑥

▶令和4623日東京地方裁判所[令和3()21931]▶令和41221日知的財産高等裁判所[令和4()10082]
1 争点 1(本件画像に係る原告の著作権の有無)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告といつも社が令和元年9月頃に本件委託契約を締結したこと、本件委託契約は、ネット通販用広告画像等の制作を含むWebサイト関連業務サービス及び検索エンジン最適化サービスの提供をその内容とし、同サービスに基づきいつも社が新規に作成した成果物の著作権は検収完了時をもって同社から原告に譲渡されることが定められていたこと、いつも社は、令和2330日頃、本件委託契約に基づいて本件画像を制作し、これを原告に納品したことがそれぞれ認められる。
【⑵ 本件画像②及び④中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像③中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、本件画像⑦はスポンジを、本件画像⑧は本件商品とスポンジを被写体としてありふれた態様で撮影した写真であり、本件画像中の文章はごくありきたりの広告文又は説明文にすぎないものの、これら素材の選択、配置及び組合せに全く選択の幅がないわけではなく、本件商品の特徴を分かりやすくする工夫も見られないではないし、個性の顕れも一応うかがわれるから、本件画像には創作性があるといえ、本件画像を著作物と認める。】
(3)】これらの事実によれば、本件委託契約に基づき、いつも社の原告に対する本件画像の納品により、本件画像に係るいつも社の著作権が原告に譲渡されたことが認められる。
したがって、原告は、本件画像の著作権を有する。
2 争点 2(本件画像の複製【又は送信可能化】における被告の故意又は過失の有無)について
(1) 前提事実のとおり、被告は、遅くとも令和3217日頃~同年329日頃にかけ、被告ストアにおいて、本件商品のう17種の商品の画像(本件画像)を本件画像と組み合わせて本件画像とし、商品ごとにページを分けて、取扱商品の紹介画像として順次掲載した。
そうすると、その際、被告は、各ページの制作にあたり本件画像を複製して利用したものと認められる。
(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、インターネット上のショッピングモール「楽天市場」に「BONBONMAMA」のショップ名で出店し、本件商品を販売しているところ、原告ウェブサイトには、本件画像を含む各種画像の末尾に「Copyright (c) 2020 BONBONMAMA. All Rights Reserved./エス・アンド・ケー株式会社により作成されたコンテンツ(画像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は、/日本や外国の著作権法やその他の知的財産権法により保護されており、当社の許可なく使用はできません。/無断でこれを使用した場合には、これらの著作権法その他の知的財産権法に違反することとなり、当社に生じた損害の賠償を請求します。」(「/」は改行部分を示す。)との本件警告文が付されていることが認められる。
他方、被告は、その主張を前提としても、コンサルタントから紹介されたツールを使用して本件画像を被告ストアに掲載したというのであり、それ以上に被告が本件画像の著作権の帰属等に関する調査等を実施したことをうかがわせる具体的な事情は認められない。
被告は、自ら本件画像を制作した者ではなく、第三者から紹介されたツールを使用して本件画像を利用したに過ぎない以上、本件画像を複製【又は送信可能化】して被告ストアに掲載するにあたっては、本件画像の著作権の帰属及び著作権者による利用許諾の有無等について調査確認すべき注意義務を負っていたといえる。にもかかわらず、上記のとおり、被告は、本件画像を漫然と被告ストアに掲載したにとどまり、本件画像の著作権の帰属等に関する調査等を怠った。原告が原告ウェブサイトに本件画像等と共に本件警告文を掲示していることに鑑みると、インターネット上の画像検索等の手段により本件画像の著作権が原告に帰属すること等は比較的容易に調査確認し得たとみられる。
したがって、被告ストアへの本件画像の掲載に際して行われた被告による本件画像の複製行為【又は送信可能化】について、被告には少なくとも過失があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
3 争点 3(原告の損害額)について
(1) 前提事実のとおり、被告は、遅くとも令和3217日頃~同年329日頃にかけ、被告ストアにおいて、本件商品のうち17種の商品の画像(本件画像)を本件画像と組み合わせて本件画像とし、これを複製の上、商品ごとにページを分けて、取扱商品の紹介画像として順次掲載したが、原告から通知を受けた翌日の令和3416日、同日に本件画像を削除した旨回答した。その後、被告ストアにおいて本件画像の掲載が継続していたことを認めるに足りる証拠はない。
このことから、被告による本件画像の利用期間は比較的短期間にとどまるものといえる。
他方、被告は、被告ストアの各商品紹介ページに、17種の商品の紹介画像として本件画像を複製【又は送信可能化】の上掲載したところ、その数は決して少なくない。もっとも、本件画像は、本件商品の特徴等を説明する本件画像と、本件画像として別紙画像目録記載の各画像のいずれかとを組み合わせることにより、本件商品の各仕様の形状、内容等を表すものとして制作されたものであることがうかがわれる。そうすると、本件画像を構成する本件画像と本件画像となり得る別紙画像目録記載の各画像とは、その利用態様の把握にあたっては、特段の事情がない限り、全体として一体を成すものとして捉えるのが相当である。すなわち、著作権法1143項に基づく損害額の算定に当たり、本件画像と組み合わせられる本件画像の違いは、一体としてみられる本件画像の利用の一態様に過ぎず、利用料相当額の算定に直ちに反映されるべき事情とはいえない。
これらの事情に加え、本件画像においては商品その他の画像等を利用して本件商品の特徴をわかりやすくする工夫が凝らされていること、他方で、原告は本件画像それ自体を商業的価値のあるものとして第三者に許諾する目的でいつも社に制作を依頼し、その著作権の譲渡を受けたものとは認められないことなどを総合的に考慮すると、本件における「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法1143項)は 5 万円が相当というべきであり、同額が原告に生じた損害と認められる。
【⑵ これに対し、控訴人は、いつも社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価としておよそ700万円を支払った旨を指摘するが、本件委託契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる。】
(3) 次に、】原告は、まず、被告が被告ストアにおいて販売していた 17種の本件商品ごとに別紙画像目録記載のいずれかの画像を組み合わせて利用していたことなどから、本件画像の1ページ当たりの損害額66666円に17を乗じて原告の損害を計算すべき旨を主張する。
【しかしながら、前述のとおり、本件画像①ないし⑦とそれぞれ異なる各本件画像⑧との組合せは一体としてみられるから、まず、各画像の複製又は送信可能化ごとに損害額を算定することは重複となり妥当ではない。また、控訴人指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank、朝日新聞フォトアーカイブ及び株式会社アフロの各料金表は、本件証拠上、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないこと等からすると、これらの各料金表記載の価格を、本件画像の複製又は送信可能化により生じた控訴人の損害額算定に当たり、ウェブページ1ページごとに算定するものとすべき根拠とすることはできない。
他方、控訴人は、控訴人の売上減少額を控訴人の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被控訴人による本件画像の利用と相当因果関係の認められる控訴人の売上減少及びその額の立証はない。この点を措くとしても、被控訴人による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が本件商品を販売したことによって控訴人の売上が減少したという関係も認められず、本件画像の利用と控訴人の売上減少との因果関係を検討する前提も欠けている。
したがって、これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。】
4 小括
以上より、原告は、被告による著作権(複製権)侵害の不法行為に基づき、被告に対し、5万円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為後の日である令和3415日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
▶令和41221日知的財産高等裁判所[令和4()10082]
当審における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は、前記のとおり、本件画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである、第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して使用料を算出するべきである旨主張する。
上記主張に対して、引用に係る原判決において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
すなわち、著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件画像は本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、本件画像ごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件画像の利用期間も短期間であって、現に被告ストアで販売された本件商品も認められないということであれば、閲覧に供された回数も限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像中の写真の一部はスキャンパン社から提供された写真であって、控訴人が著作権を有するものではないし、本件画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではない。
ここで、写真についての利用許諾状況をみてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業使用する者に対し、2万2000円から4万4000円の使用料の支払を求めることがあり、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で使用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに使用する者に対し、同一ウェブサイト内においては使用箇所を問わず、使用期間1年までの場合に2万2000円、使用期間3年までの場合に2万8600円、使用期間5年までの場合に3万3000円の使用料の支払を求めることがあるとの事実が認められるものの、使用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の使用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら使用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記使用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。
以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、ストア(店舗)を基準にして1ストア当たり5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の上記の主張を採用することはできず、また、同に主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。

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