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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

コンテンツ契約紛争事例▶紛争事例①(キャラクター商品化権に基づく独占的利用権許諾契約

[キャラクター商品化権に基づく独占的利用権許諾契約]
▶令和2625日東京地方裁判所[平成30()18151]
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告において「チェブラーシカ」等の劇場用アニメ映画で描写された登場人物としてのキャラクターを利用したぬいぐるみ,トートバック等多数の商品を販売する行為が,原告の上記キャラクターに関する著作物に係る独占的利用権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条,著作権法114条3項に基づき損害賠償金1億1000万円(うち1000万円は弁護士費用)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
(1) 当事者等
ア 原告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州法の下で設立し,存続する,アニメーション作品の事業開発,ライセンス,商品化,供給等を業とする会社である。
イ 被告は,キャラクター商品の企画,製造,販売等を業とする有限責任事業組合である。訴外テレビ東京ブロードバンド株式会社(以下「TXBB」という。)は,被告の組合員であったが,平成27年5月に脱退した。
(2) TXBBとSMFとの間の契約
平成17年(2005年)3月21日,TXBBは,ロシア所在の訴外連邦国営単一企業「創造製作組合映画スタジオソユーズムリトフィルム」(以下「SMF」という。)との間で,概ね次の内容の契約を締結した(以下「本件TXBB契約」という。)。
ア SMFは,TXBBが,旧ソ連諸国を除く世界のすべての国及び地域において,訴外A(以下「A」という。)の作品であると考えられている「チェブラーシカ・シリーズ」と呼ばれる全ての文学作品を基に製作されたアニメ映画「ワニのゲーナ」,「チェブラーシカ」,「シャパクリャク」及び「チェブラーシカ学校へ行く」(以下,併せて「本件映画」という。)につき,劇場で上演する権利,劇場外で上演する権利,ビデオ映像に変換する権利,テレビで放映する権利,通信チャネルを介した公衆送信の権利,商品化する権利(おもちゃ,衣服,アクセサリー,ゲーム,コンピューターソフトウェア,印刷物,雑誌,書籍,漫画本,その他の様々な種類及び様々な媒体の商品,宣伝広告活動,製造,転売,賃貸,通信チャネルを介した送信及びその他のサービス提供事業において,許諾対象作品を全面的又は部分的に利用する権利),派生的権利(本件映画の全面的又は部分的な翻訳,脚色,映画化,舞台作品化及びその他の形への変換により新しい作品を製作する権利,並びにそれらの新しい作品のコピー,上演,通信チャネルでの公衆送信,商品化,及びその他のあらゆる形での使用を行う権利のほか,これらの権利の全て又は一部を第三者に再許諾する権利)を独占的に利用することを許諾する。
イ 許諾の期間は,平成26年(2014年)12月31日までであるが,TXBBはSMFに対して3万米ドルを支払うことにより許諾期間をさらに10年延長することができる。以降についても同様である。
(3) 原告とSMFを契約当事者とする契約書の存在
平成28年(2016年)8月18日の作成日付で,原告とSMFが契約当事者として表示され,次の内容が記載された契約書が存在する(以下「本件原告ライセンス契約書」といい,これに記載された内容の契約を「本件原告ライセンス契約」という。)。
ア SMFは,原告に対し,本件映画の視覚的イメージに記録された主人公の動的人形像であるキャラクター(チェブラーシカ,ワニのゲーナ,シャパクリャク)及び本件映画のその他のキャラクター(以下,併せて「本件キャラクター」という。)を使用するための独占的利用権を付与する。この利用権は,本件キャラクターを本件映画から離れて(独立的に)任意の形態及び任意の方法で繰り返し使用する権利であって,所定の商品の製造又は所定のサービスの提供など所定の利用態様及び利用方法により複製,翻案,譲渡する権利(以下「本件キャラクターに係る商品化権」という。)を原告に与えるものであり,同利用権はアジア全域(日本を含む。)で効力を有する。
イ 本件原告ライセンス契約に基づく本件キャラクターの使用権は平成28年(2016年)9月1日から令和3年(2021年)8月31日までを期間として,原告に付与される。
(4) 被告の行為
被告は,遅くとも平成28年(2016年)10月12日以降,平成30年(2018年)6月7日まで,日本において,本件キャラクターを利用したぬいぐるみ,トートバック,ポーチ,マスキングテープ,缶バッジ,マグカップ,クリアホルダー,カレンダー,スケジュール帳,ピロシキ,チョコレートケーキ,クッキー,チーズケーキ,サブレ,ドラマCD,ドーナツ,プレート,絵本,ポケットウォッチ,スマートフォン関連グッズ,腕時計,スケジュール手帳等,多数の商品(以下「被告商品」という。)の販売を行っている。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の被告に対する損害賠償請求の成否)
(1) 本件において,原告は,本件キャラクターに係る商品化権に係る権利又は法律上保護される利益として,独占的利用権を有する旨主張する。しかして,独占的利用権者は,商品化権の権利者に対し,契約上の地位に基づく債権的請求権を有するにすぎないが,このような地位にあることを通じて本件キャラクターに係る商品化権を独占的に使用し,これを使用した商品の市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると,独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護が与えられるべきである。そうすると,独占的利用権者が,契約外の第三者に対し,損害賠償請求をすることができるためには,現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要というべきである。
そこで,本件事案に鑑み,まず,争点1-2(原告がSMFとの契約により付与されたと主張する独占的利用権に基づく,原告の被告に対する損害賠償請求の成否)について検討することとする。
(2) 上記第2の1の前提事実並びに各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(略)
(3) かかる事実経過に鑑みれば,そもそも原告は,本件原告ライセンス契約に基づいて,本件キャラクターを付すなどにより本件キャラクターを利用した商品を日本において独占的に販売するなど,自ら当該商品化権を専有しているという事実状態を生じさせているものではない上,本件原告ライセンス契約に至る状況等をみても,被告が本件TXBB契約等を通じ日本における当該キャラクター商品の販売を継続していたという状態であるのに,権利者とされるSMFにおいて,本件原告ライセンス契約により原告の利用権の専有を確保したと評価される行為がされたとはいえず(SMFは,被告ないしTXBB等に対し,権利侵害に係る警告,利用行為の差止請求や損害賠償請求,原告からサブライセンスを受けるよう求める通告等をいずれも行っておらず,また,本件訴訟提起の前後を通じても,原告が被告とサブライセンス契約の締結交渉を企図する中で,原告から求めがあったにもかかわらず,原告が本件キャラクターの独占的利用権を有することを書面などにより明確にする等の具体的な対応を一切とらず,さらに,被告に対し,利用権を被告と原告の双方に設定した,いわば二重譲渡の状態にあることを認めつつ被告の利用権を優先させるかのような姿勢を見せていた,かえって,SMFは,上記契約の更新期前の時期には,被告との間で被告への利用権設定に向けての交渉や被告映画の販売交渉等に係る合意を行い,また,訴外香港法人に対し本件キャラクターの利用権を付与するなどの状態となっていたものである。
そうすると,このような本件事案における事実状態をもってしては,権利者とされるSMFによって,利用権者たる原告の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為が行われたとはいえず,SMFによって,原告が,現にSMFから唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売している状況に準じるような客観的状況が創出されているなど,原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということはできないというべきである。
したがって,原告は,被告に対し,独占的利用権が侵害されたとして損害賠償請求をすることはできないというほかない。
(4) これに対し,原告は,SMFの代表者であったCが,その陳述書において,原告に独占的利用権を与えたこと,及び本件TXBB契約に基づいて被告が本件キャラクターを利用する権利はないことを言明していることなどから,原告の独占的利用権の侵害による被告の不法行為が成立する旨を主張する。
しかしながら,前記のとおり,原告において本件TXBB契約が終了した旨を主張する平成26年12月31日以降,現時点に至るまで,SMFから被告に対し,本件キャラクターの利用につき警告や法的措置が何ら取られていないこと,本件訴訟提訴後の平成30年において,被告の組合員の職務執行者であるDに対し,本件TXBB契約が終了した旨を明確に主張していないこと,上記Cの陳述書以外に,原告に対する本件キャラクターの独占的利用権の付与を積極的に認める姿勢を明らかにした形跡が全く見当たらないことなどからすれば,権利者とされるSMFにおいて,原告への利用権設定に当たりその専有を確保したと評価されるに足りる行為を行い上記に準じる客観的状況を創出しているといえないことに変わりはなく,同人が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということはできないとの前記判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない(なお,本件の経緯に鑑みれば,仮に,SMFが,被告に対し,本件TXBB契約の存続を否定する趣旨の主張に及ぶことがあったとしても,そのことから,SMFにおいて,原告への利用権設定に当たりその専有を確保したと評価されるに足りる行為を行い上記に準じる客観的状況を創出しているといえることになるものではなく,原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということができない本件事案の下において,原告の被告に対する,独占的利用権が侵害されたことを理由とする損害賠償請求が肯定されることにはならない。)。

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