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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

コンテンツ契約紛争事例▶紛争事例④(無期限の利用許諾の終期が問題となった事例)

▶令和31028日大阪地方裁判所[令和2()9699]
1 本件利用許諾に基づく本件使用写真の利用権の存続期間について
(1) 認定事実
(略)
(2) 本件利用許諾の内容
前記認定事実によれば,本件利用許諾は,原告が継続的に被告の協力の下で貴船神社の年中行事等の写真を撮影して被告に提供し,被告において提供を受けた写真をウェブサイトやSNS等に使用して,被告の広報あるいは宣伝に利用する一方で,原告においても前記写真を適宜SNSで利用し,原告の宣伝広告に役立てることを,無期限かつ無償で承諾することを内容とする包括的な合意と解される。
原告は,本件利用許諾により原告が受ける利益はないと主張するが,被告の協力により一般参拝者では撮影困難な構図の写真を撮影することができ,被告の広報写真に採用されていることを実績とすることができる点で,一定の利益があることは否定できない。
そうすると,本件利用許諾は,単に原告が過去に撮影した写真の利用を個別に一時的に許諾するものではなく,継続的に撮影した多数の写真を,相互に広報,宣伝に利用することを前提とした複合的な合意といえるものであって,民法上の使用貸借契約の規定を単純に類推適用するのは相当ではない。
また,本件利用許諾は,終了が想定されておらず,原告も被告も,必要がなくならない限り永続的に本件写真を利用可能であるものと認識していたものであって,これを前提に,原告は被告の協力の下で多数の写真を撮影し,被告は,平成27年6月頃から令和元年8月頃までの約5年間にわたって,原告の助言も受けつつウェブサイトやSNSで本件写真を利用した広報活動を展開し,その結果,原告が撮影し被告に提供した本件写真は1033点に及び,被告のウェブサイトにおいて大半を原告が撮影した写真が占めることとなったものである。
これらの事情からすれば,本件利用許諾は,無償であるとはいえ,双方の活動又は事業がその継続を前提として形成されることが予定され,長期間の継続が期待されていたということができ,個別の事情により特定の写真について利用を停止することは別として,本件写真全部について,一方的に利用を直ちに禁止することは,当事者に不測の損害を被らせるものというべきであって,原則として許容されないものというべきである。
もっとも,本件利用許諾は,信頼関係を基礎とする継続的なものであるから,相互に,当初予定されていなかった態様で本件写真が利用されたり,当初予定されていた写真撮影の便宜が提供されないなど,信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合には,催告の上解除することができると解される(民法541条)。また,本件利用許諾が,原告が著作権者である本件写真を,期限の定めなく無償で利用させることを内容とするものであることを考慮すると,上記解除することができる場合にはあたらない場合であっても,相手方が不測の損害を被ることのないよう,合理的な期間を設定して本件写真の利用の停止を求めた上で,同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば,許容される余地はあるものと解される。
(3) 原告による本件解約告知について
前記(1)の認定事実によれば,原告は本件写真を提供し,被告はこれを広報宣伝に利用するという関係が5年間にわたって継続され,本件利用許諾に関する特段の紛争はなかったところ,原告がP2より被告を退職する話を聞いたことを契機として,令和元年9月13日,突如,被告に対し,本件写真の削除や第三者に提供した写真の削除等を要求し,これに応じなければ刑事事件となり,被告代表者が逮捕されるなどと告知したものである。
さらに,原告は,被告に対し,和解案と称して4000万円の支払を要求し,これに応じず本件写真を削除することになれば,被告の広報活動が1年以上停止してメディアも離れていくことになると告知し,被告からの交渉や京都弁護士会での和解あっせんを拒否し,本件訴訟を提起したものであり,その際,本件利用許諾を解約する理由は,被告に対する報復である旨述べている。また,原告が被告に報復するのは,P2らから聞いた話により,被告代表者親子が被告を私物化し,P2らを退職に追い込んだと認識しているからだというのである。
そうすると,原告が被告に対し本件写真の削除等を要求したことについて,被告が本来の目的以外に本件写真を利用した等,本件利用許諾それ自体に関する内容で,原告と被告との間の信頼関係が損なわれたとすべき事情は何ら主張されていないことになる。
また,原告は,P2に対する被告の扱いについて多々主張するところ,前記認定したところによれば,原告とP2の関係は,本件利用許諾のきっかけないし動機ではあっても,本件利用許諾自体は原告と被告との間に存するのであって,被告がP2の雇用を継続することが,本件利用許諾存続の条件とされているわけではない。
原告は,令和元年9月末日の時点で原告と被告との信頼関係は修復困難な状態まで損なわれていたから,解約には正当な理由があると主張するが,同月13日以前に,本件利用許諾に関し,原告と被告との信頼関係が損なわれたとは認められないし,P2の退職は,上述のとおり,本件利用許諾に関わるものではないから,これによって原告と被告との信頼関係が損なわれたということはできない。
結局のところ,本件解約告知は,友人であるP2が退職を余儀なくされたことを快く思わない原告が,被告を困惑させ,あるいは被告に損害を与えることを目的としてしたものというほかないから,正当な理由があるとは認められない。
(4) 本件利用許諾に基づく利用許諾の終期について
前記認定のとおり,本件利用許諾は期限の定めのないものであるが,被告の広報活動に利用するという目的の定めはあり,本件解約告知の時点で,被告はその目的に従って本件写真を利用していたのであるから,民法597条3項の類推により直ちに本件利用許諾が終了するとの原告の主張は失当である。
また,前記(2)のとおり,本件利用許諾は,一方的に解約の告知をした場合であっても,相手方において不測の損害を回避するに足りる予告期間を経ることで終了すると解することも可能であるところ,前記(1)のとおり,本件写真は,年間を通じて貴船神社の神事等を撮影したものであって,同様の写真を撮影するためには1年以上の期間を要するものと認められるし,被告のウェブサイト等の広報媒体は,本件利用許諾の継続中に原告の助言を受けつつ大半を本件使用写真を利用するものとして構成されていたから,被告においてこれらの媒体を本件写真を使用しない形式で再構築する作業にも,相応の期間を要するものといえる。さらに,原告の本件写真の削除等の要求は,それまで良好な関係が続いていた中で突如として行われたものであるから,被告において,原告の真意を確認し,交渉の余地を探る等の対応を検討するためにも相応の期間を要するものといえる。
これらの事情を考慮すると,原告が一方的に解約告知をした場合に,本件利用許諾の終了に至る予告期間としては,原告が削除等を要求した令和元年9月13日から1年3か月後の令和2年12月12日までを要すると認めるのが相当である。
原告は,ウェブサイトや YouTube からデータを削除する作業は数時間あれば可能であり,被告はP2や巫女が撮影した多数の写真を保有していたから,令和元年9月末日までに対応することが可能であると主張する。
しかしながら,P2や巫女が撮影した写真とプロカメラマンである原告が撮影した写真の質が異なるのは明らかであり,前記のとおり,原告自身も,原告の写真を全て削除することになれば被告の広報活動が1年間以上停止することになると考えていたものである。また,前記(3)のとおり,原告の本件解約告知の目的が被告を困惑させ,損害を与えることであったことからすれば,被告においてウェブサイト等の広報媒体の質が下がることを甘受すべきものとすることは相当ではなく,被告において損害を回避するに足りる合理的な期間としては,プロカメラマンによる本件使用写真と同種の写真撮影を前提に算定すべきものである。
(5) 以上によれば,本件解約告知によっては,本件利用許諾の効力は,令和2年12月12日以前に消滅することはないところ,被告は,同年11月23日に被告ウェブサイトにおいて本件使用写真の掲載を停止し,同年12月2日に YouTubeの被告アカウントサイトにおいても本件使用写真の掲載を停止したのであるから,被告において本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したものとは認められない。
なお,被告が本件使用写真のデータを被告のウェブサイトや YouTubeのサーバ上から削除したのは令和3年3月5日ないし同月12日であるが,被告のウェブサイト等からのリンクはなく,単にサーバ上にデータが残存していたに過ぎず,データファイルの所在を知らない第三者がアクセスすることはできないから,この状態をもって被告が公衆送信権侵害行為をしたということはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権は認められない。

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