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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

コンテンツ契約紛争事例▶紛争事例⑤(同人誌共同販売事業)

令和4217日東京地方裁判所[令和1()15345]
[事案の概要:本件は、原告が被告に対し、原告が被告と共同で製作した別紙作品(既刊)の同人誌の売上げについて、被告が原告に分配金を支払わないとして、不当利得又は共同著作権に対する侵害行為としての不法行為に基づく損害賠償として所定の金員を請求する等の事案である。]
1 争点1(本件同人誌販売に係る分配金)について
(1) 本件同人誌の分配金の支払に係る合意について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記前提事実に加えて、次の事実が認められる。
(略)
イ 本件同人誌の売上げ、収益の取扱いについて
本件同人誌について、原告は、小説を寄稿するなど相当の関与をしたところ、本件同人誌の売上げは、被告が受領している(「H」を除く。)。
原告は、原告が本件同人誌に貢献していることを理由として、その売上げ、収益の分配について少なくとも被告がこれを取得する旨の当事者間の合意がないことを前提として、被告に利得が生じ、原告に損失が生じていることなどを主張する。
これに対し、被告は、原告と被告との間で、原告は本件同人誌について経費を負担した者が売上げについても取得することにつき合意が成立しており、基本的に被告が経費を負担していたのであるから、原告は売上金を被告に請求できないと主張し、また、「A」、「H」及び「V」について被告が本又は金銭を交付したことをもって、原告が被告に対してこれ以上の請求をしない旨の合意が成立していたと主張する。
原告と被告との間で、本件同人誌の売上金、収益の分配について明示の合意がされたことを認めるに足りる証拠はない。
ここで、原告は、本件同人誌のほとんど(詳細は後記記載のとおり。)において小説又は原告と被告の対談をまとめたもの等を継続的に寄稿しており、その分量も少なくなく、これらの同人誌に対する原告の内容面での関与はゲスト作家の域を超えるものであったといえる。また、原告は、本件同人誌のデザイン等を担当し、同人誌を形にする場面においても大きく貢献したといえる。さらに、原告は、本件同人誌の販売活動においても、即売会での販売、書店委託、通信販売等において継続的に貢献していた。これらを考慮すると、原告は、被告の同人誌のゲスト作家あるいは被告の単なる補助として被告の同人活動に参加していたとはいえず、原告と被告は、共同で同人誌販売事業を行っていたと評価することができるものであった(なお、後記のとおり、当裁判所が認定する原告の各同人誌への貢献度の割合は、5割を超えるものがあり、また、4割のものと3割のものがそれぞれ複数ある。)。
また、被告は、出版社から商業的に発売された漫画本が複数あり、知名度を有することがうかがえるところ、本件同人誌は、そのような被告が自身のサークルの名義で販売するものであるから、収益が上がることが不透明な無名の作家による同人誌とは異なり、発売前から一定の売上げを見込むことができ、経費を管理すればある程度の利益をあげられる可能性が高かったといった事情がある。「V」について、原告はその発売前に被告に対し予測した収益の半額の支払を求めたのに対し、被告は、2度にわたりその支払をしたが、その際、収益の分配等について合意が存在する旨に言及したことを認めるに足りない。
これらの本件における事情を考慮すると、本件同人誌の売上げ、収益の分配について明示の合意をしたことを裏付ける証拠のない本件において、原告は被告に売上金を請求しない旨の被告主張の合意は成立していなかったというべきであり、また、他に各同人誌に共通の特段の合意もなかったと認められる。当事者間の公平の見地から、本件同人誌について、別に個別の合意がある場合を除き、売上げから経費を控除した収益を、原告と被告の貢献度に応じて分配することが公平であり、原告は、被告に対し、被告が各同人誌について、収益を貢献度以上に取得していた場合には、不当利得として、その返還を求めることができるというべきである。
この点について、被告は、同人誌業界においては、経費を負担する者が利益も損失も負担することが前提になっていたことなどを挙げて、被告主張の合意の存在を述べる。仮に同業界においてそのような前提で処理がされる場合があるとしても、本件では、上記に述べたような事情がある。被告の主張するように売上げが全て被告に帰属すると、本件では当事者間の公平を損なうといえる。被告指摘事実は前記認定判断を左右しない。
以下、事案に鑑みて、不当利得返還請求権について、個別の同人誌について、何らかの合意があったか否かについて検討する。
(略)
(4) 両当事者の関与及び分配額
(略)
上記各事情を総合的に考慮すると、両者の本件同人誌販売に関する貢献度は、別紙「原告貢献度」欄記載の割合とするのが相当である。
そうすると、原告の各同人誌についての分配額(マイナス表記の作品については負担額)は、同「原告取得額」欄記載のとおりになり、その合計額は、10万9046円になる。
よって、被告は、本件分配対象同人誌に係る分配金として10万9046円の利得があり、原告は同額につき損失を被ったといえる。よって、原告の不当利得に基づく請求については同額を請求する限度で理由がある。
また、原告は選択的に共同著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求しているが、仮に何らかの権利侵害が認められたとしても、その損害額は、同額を超えるものではない。

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