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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

コンテンツ契約紛争事例▶紛争事例⑥(美術品の公開等を禁止する訴訟上の和解条項)

▶令和4121日東京地方裁判所[平成30()39000]令和4825日知的財産高等裁判所[令和4()10027]
本件禁止条項に違反する行為の意義について
本件禁止条項の対象者について
ア 訴訟代理人である弁護士が関与して成立した訴訟上の和解条項は,その文言自体が相互に矛盾し又はその文言自体によっては意味を了解し難いなど,和解条項それ自体に内包する瑕疵を含むような特段の事情がない限り,これに表示された文言と異なる意味に解するのは相当ではない(最高裁昭和44年7月10日第一小法廷判決参照)。
これを本件についてみると,前記前提事実よれば,本件和解は訴訟代理人である弁護士が関与して成立した訴訟上の和解であるところ,本件禁止条項は,その文言どおり解すれば,「被告」(亡C)が,「公表しない」こと,「作品明細表記を行わない」こと,「年代表記を行わない」ことを定めたものであることは明らかであり,本件禁止条項に,第三者による作品公表等を禁止するものと解し得る文言は存在しない。
そうすると,本件禁止条項は,亡Cに限り,所定の作品公表等を禁止する旨を定めたものであると解するのが相当であり,本件美術商らに対してまで,所定の作品公表等を禁止する旨を定めたものと解することはできない。
イ これに対し,原告は,本件前訴が,第三者である本件画廊1による作品公表等を問題とした事案であったという【前訴和解】の経緯から,本件美術商らに対しても所定の作品公表等を禁止する旨を定めたものであると主張する。
しかし,原告と亡Cを当事者とする【前訴和解】において,第三者による作品公表等を禁止しようというのであれば,和解条項上文言にその旨規定すべきであるのに,そのような明示的な条項はないのであるから,原告主張に係る和解の経緯を考慮しても,上記判断を左右するに至らない。
もとより,物理的,自然的には,本件美術商らが作品公表等をした場合であっても,規範的な観点から,亡Cについて上記の行為の主体性を認め得る場合があることを否定するものではないが,原告の主張のとおり,本件美術商らが作品公表等をした場合に,直ちに亡Cが本件禁止条項違反となると解するのは,その文言に照らし相当ではない。
したがって,原告の主張は,本件禁止条項を正解するものとはいえず,採用することができない。
本件禁止条項にいう「公表」について
被告は,本件禁止条項にいう「公表」は,著作権法4条にいう「公表」に限定される旨主張する。
しかし,本件禁止条項は,訴訟代理人である弁護士が関与して成立した訴訟上の和解によるものであって,これに表示された文言と異なる意味に解するのは相当ではないことは,上記において説示したとおりである。
これを本件についてみると,前記前提事実よれば,本件禁止条項には,単に「公表」と規定するにとどまり,これが著作権4条にいう「公表」と同義であることを明示する文言は存在しない。しかも,【前訴和解】の趣旨目的は,被告において1963年から2001年までの間に制作した作品が本件カタログ・レゾネに全て記載されていることを確認するとともに,これに抵触する行為を禁止するものといえる。そうすると,本件禁止条項は,本件カタログ・レゾネに記載されていない作品については,既に公表された作品を含め,上記の期間に制作された旨の作品明細表記等をしないことを約したものと解するのが自然である。そうすると,本件禁止条項にいう「公表」は,【前訴和解】の趣旨目的に照らしても,著作権法4条にいう「公表」に限定されるものではないと解するのが相当である。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
[控訴審における以下、参照]
令和4825日知的財産高等裁判所[令和4()10027]
本件禁止条項(前訴和解の和解条項2)は、柱書で「控訴人は、自らがこれまでに制作した又は今後制作する作品について、当該作品の作品表記、作品制作、作品発表、作品販売にあたり、以下の事項を遵守する。」と規定し、「ア」で「控訴人は、被控訴人の書面による事前承諾がない限り、本件カタログ・レゾネに記載されていない立体作品を、1963年から2001年までの間に自らが制作した作品であるとして公表しない。」と規定する。このような規定によれば、本件禁止条項アは、亡Xの行為について、所定の公表をしないことを定めたものと認められ、画廊の行為については、直接には定めていないものと認められる。
そして、画廊が本件禁止条項アに違反する行為をしたことによって亡Xが「公表」したというためには、亡Xと当該画廊との間に、亡Xが当該画廊に対し、作品の制作年代を含む作品明細の表示内容や、作品の価格・設置条件等を指示し、顧客との間で作品の価格・設置条件等について交渉するための権限を与えるという合意が存在し、亡Xが、その合意に基づき、当該画廊に対し、作品明細の年代表記の表示内容を指示し、それに従って当該画廊が制作年代を表示するとともに、当該画廊が、亡Xが示した作品の価格・設置条件等に基づいて顧客と実際に交渉を行っているというような密接な関係があることが必要であるというべきである。そのような場合に、当該画廊の制作年代の表示行為は、亡Xの指示に基づくものと認められ、その表示が本件禁止条項アに反する場合には、亡Xが「公表」の主体として本件禁止条項に違反したものと認められる。

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