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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

公表権▶公表の意義/侵害性一般

▶平成120229日東京地方裁判所[平成10()5887]
本件詩は言語著作物であるから、これが発行された場合に公表されたといえる(同法41項)ところ、右の「発行」とは、その性質に応じて公衆の要求を満たす程度の部数の複製物が作成され、頒布されたことをいい(同法31項)、さらに、「公衆」には、特定かつ多数の者が含まれるとされている(同法25項)。
これを本件についてみるに、本件詩は、平成3年度の甲府市立北中学校の「学年文集」に掲載されたこと、この文集は右中学校の教諭及び同年度の卒業生に合計300部以上配布されたことが認められる。
右認定の事実によれば、本件詩は、300名以上という多数の者の要求を満たすに足りる部数の複製物が作成されて頒布されたものといえるから、公表されたものと認められる。また、本件詩の著作者である原告は、本件詩が学年文集に掲載されることを承諾していたものであるから、これが右のような形で公表されることに同意していたということができる。

平成301211日東京地方裁判所[平成29()27374]
法にいう「公衆」とは飽くまでも不特定多数の者又は特定かつ多数の者をいう(法2条5項参照)のであって,被告B個人が公衆に当たると解する余地はない。

▶令和4729日東京地方裁判所[令和2()22324]▶令和527日知的財産高等裁判所[令和4()10090]
著作権法2条7項は、上演、演奏又は口述には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され又は録画されたものを再生することなども含む旨規定しているところ、脚本の翻案物である映画が上映された場合には、当該脚本に係る実演が映写されるとともにその音が再生されるのであるから、著作物の公表という観点からすると、脚本の上演で録音され又は録画されたものを再生するものと実質的には異なるところはないといえる。
上記規定の趣旨及び目的並びに脚本及び映画の関係に鑑みると、脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、上記脚本は、公表されたものと解するのが相当である。

▶令和3414日東京地方裁判所[令和2()4481]▶令和31222日知的財産高等裁判所[令和3()10046]
本件懲戒請求書の公表の有無について
(1) 弁護士会に提出されたことについて
ア 被告らは,本件懲戒請求書は,弁護士会への提出により,「発行」され,又は「上演,演奏,上映,公衆送信,口述若しくは展示の方法で公衆に提示」されたものであるから,「公表」(著作権法4条1項)されたものであると主張する。
しかし,本件懲戒請求書が第二東京弁護士会に提出されたとしても,同請求書は同弁護士会における非公開の懲戒手続に使用されるにすぎず,その手続の性質上,同請求書にアクセスすることができるのは,同手続に関与する同弁護士会の関係者に限られると解するのが相当である。そうすると,その提出をもって,本件懲戒請求書が「発行」(同法3条)され,又は,「上演,演奏,上映,公衆送信,口述若しくは展示の方法で公衆に提示」されたということはできない。
イ 被告らは,第二東京弁護士会の綱紀委員会の委員は約100名に上り,その他の弁護士会の職員も懲戒請求書を随時閲覧することになるので,懲戒請求書が同弁護士会に提出されると,必然的に多数の関係者の目に触れることになると指摘する。
しかし,綱紀委員会規則によれば,同委員会においては,7名以上の部会員からなる部会による議決手続(11条)や1人又は数人の主査委員により調査手続が行われると定められており(51条),本件の懲戒手続に関与しない綱紀委員会の委員や弁護士会職員が本件懲戒請求書を広く閲読することが当然に予定されていると考えることもできない。
これらの手続において,本件懲戒請求書の複製物が作成されることは想定されるとしても,「発行」とは「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」(著作権法3条1項)が権利者の許諾を得るなどして作成・頒布されることをいうところ,本件懲戒請求書は,その手続の性質上「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」を作成・頒布することを当然に予定するものではなく,また,そのような事実も認められない。
ウ また,被告らは,懲戒請求の審査手続が公開され得るものであることなども指摘する。しかし,審査手続が公開されたとして,それをもって,当該手続に係る懲戒請求書が「公表」されたということはできず,懲戒処分に対する取消しの訴えが提起された場合も同様である。
エ したがって,弁護士会に対する本件懲戒請求書の提出行為が,著作権法4条にいう「公表」に当たるということはできない。
(2) 産経新聞社に提供されたことについて
ア 被告らは,本件懲戒請求書は原告により産経新聞社に提供され,その重要な一部が本件産経記事として報道されたのであるから,同請求書は「公表」されたものであると主張する。
本件産経記事は,前記のとおり,本件懲戒請求書の「懲戒請求の理由」の第3段落全体(4行)を,その用語や文末を若干変えるなどした上で,かぎ括弧付きで引用しており,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,産経新聞社に対し,Yの氏名に関する情報を含め,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を提供したと推認することができ,これを覆すに足りる証拠はない。
しかし,本件産経記事で引用されたのは,本件懲戒請求書のごく一部にとどまり,後記ウのとおり,当該引用部分が本件懲戒請求書の主要な部分であるということもできないことに照らすと,本件産経記事における上記引用によって,本件懲戒請求書が公表されたということはできない。
イ 被告らは,【著作物の一部が提示】されたにもかかわらず,その全体を市民の共通財産として利用し得ないというのは不合理であると主張する。
しかし,本件懲戒請求書はその全部が不可分一体の関係にあるものではなく,公表された範囲もごく一部にとどまることに照らすと,前記判示のとおり,本件懲戒請求書の一部の内容が本件産経記事に引用される形で公衆の認識し得るところになったとしても,当該請求書が公表されたということはできない。
ウ 被告らは,本件産経記事の引用部分は,本件懲戒請求書の主要な部分であると主張する。
しかし,本件産経記事に引用された部分は,Yのブログに掲載された記事についての意見であって,懲戒請求の理由そのものではなく,当該引用部分が「懲戒請求の理由」に占める割合もごく一部にすぎない。本件懲戒請求書には,上記の引用部分に続いて,他の弁護士に対する懲戒請求の理由が引用され,当該理由がYにも同様の理由が妥当するとされた上で,原告の意見が更に記載され,結論に至っているものであり,当該引用部分が本件懲戒請求書の主要な部分であるということはできない。
(3) 小括
以上のとおり,本件懲戒請求書が公表されたということはできない。

▶平成10523日横浜地方裁判所[昭和60(行ウ)5]
設計図面自体は一般的に公衆に提供されることを予定している著作物ではなく、設計者が設計委託者に対し部数を限つて設計図書を提供するのが通例で、設計図書自体を公表することは通常の場合考えられないが、このことを理由に設計図書に関し著作権の一態様である公表権が否定されるものではないというべきである。
ところで、設計者が設計委託者に対し設計図書を提供する場合、部数を限つて設計図書を提供するのが通例であるが、委託者がその設計図書を利用してなす建築も一回かつ一棟に限られていること、設計委託契約上の権利義務は相手方の書面による同意がなければ第三者に譲渡できないとされていることからすると委託者に設計図書を提供することは公衆に提供することに当らず、また、建築確認申請に際し設計図書を添付、提出したことも、建築確認という行政手続のために当該行政庁に提出したものであり、公衆に提供したことに当らない。
[控訴審も同旨]
▶平成30531日東京高等裁判所[平成1(行コ)69]
設計図書自体は一般的に公衆に提供されることを予定されている著作物ではなく、設計者が設計委託者に対し、部数を限って設計図書を提供するのが通例であろうし、本件においても、○○企画が委託を受けて設計した場合、設計図書の著作物は○○企画に属すること、○○企画が委託者に提出する設計図書は5部以内とし、5部を超える場合は有償とすること、委託者がこの設計図書により建物を建てることができるのは一回かつ一棟限りであること、設計委託契約上の権利義務は相手方の書面による同意がなければ第三者に譲渡できないことが認められるのであるから、本件各図面が、公開を予定して作成され、一般に広く公開されているということはできないし、また、建築確認申請書に添付することは、建築確認という行政手続のために当該行政庁に提出したにすぎず、そのことだけで公表に付したと理解することはできない。

▶平成211224日知的財産高等裁判所[平成21()10051]
本件写真は,本件各走行会において,被控訴人の販売用テント前でインデックス写真等として展示されていることが認められる。そして,著作物は展示の方法で公衆に提示された場合において公表されたものとなるところ(著作権法41項),控訴人は本件写真を本件各走行会において即時販売用に展示することは承諾していたと認められるから,本件写真が○○社のホームページやポスターに掲載された時点では既に著作者の同意を得た公表がされていることになり,著作権法181項の「まだ公表されていないもの(著作者の同意を得ないで公表された著作物を含む。)」に該当しない。

▶平成231031日東京地方裁判所[平成21()31190]
著作物3は,原告が,被告による頒布行為の前に,ライブハウスの関係者にのみ記念として配布する趣旨で,同関係者らに複製頒布したものであり,その数量は少数であることが窺われるが,本件の著作物3のようなDVDに収録された「映画の著作物」については,作成頒布された複製物の数量が少数であったとしても,著作物の性質上,かかる場合においても,公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が複製頒布されたものと認められるから,原告は,被告による頒布行為以前に,当該著作物を公表したと解するのが相当である。
したがって,著作物3について,被告が,原告の許諾を得ることなく,著作物3を複製し不特定人に頒布したとしても,同原告の著作者人格権(公表権,同法18条)の侵害は成立しない。

▶平成250620日大阪地方裁判所[平成23()15245]
原告は,被告による本件動画へのリンクに先立ち,本件生放送をライブストリーミング配信しており,しかも原告の配信動画の視聴者数については,「常時400人以上であり,特に企画番組は人気で,この日は数千人の視聴者を超え」(訴状)ていたとされる。そうすると,著作者である原告自身が,本件生放送を公衆送信(法217号の2)の方法で公衆に提示し,公表(法41項)したのであるから,本件生放送の一部にあたる本件動画について,公表権侵害は成立しない。

平成281215日東京地方裁判所[平成28()11697]
本件講演は原告らそれぞれの思想を言語により表現したものであり,各原告の発言部分ごとに言語の著作物に該当するところ,本件講演会は,定員86名の会場で行われ,対象者が限定されておらず,事前に申込みをすれば誰でも参加することができるものであったというのである。そうすると,本件講演は,不特定又は多数の者に対して行われたものであって,原告らの口述により公衆に提示され,公表されたと認められる。
この点につき,原告らは,本件配信はライブ配信であり,本件講演が原告らによる口述と同時に配信されるため,本件配信の時点では本件講演は未公表であった旨主張する。しかし,本件配信は原告らが公に口述するのに先立って本件講演を配信するものではなく,原告らによる口述を前提として,これをそのまま配信するものであるから,本件配信は原告らが公表した著作物についてされたものというほかない。 
したがって,本件配信による公表権侵害は成立しない。

平成230729日東京地方裁判所[平成21()31755]
原告が自ら本件入れ墨を公表した以上,その後に被告らがこれを原告の承諾していない媒体に掲載したからといって,これが公表権を侵害するということはでき(ない。)

[法18条2項関係]
▶平成251225日知的財産高等裁判所[平成25()10076]
本件写真は,未公表の著作物であった。そして,補助参加人は,原告から本件写真の利用について包括的許諾を受けているのであるから,原告は,補助参加人(ないしは補助参加人から本件写真の著作権の利用の許諾を受けた者)において本件写真が利用ないし二次利用され公衆に提供されることについて包括的に同意したものと認められる(著作権法1821号参照)。そうすると,原告の公表権侵害の主張は理由がない。

[法18条3項関係]
▶平成150528日東京高等裁判所[平成14(行コ)265]
本件小論文は未だ公表されていないものであるから、各応募者は、本件小論文について著作者人格権としての公表権を有するが、著作者が未公表の著作物を地方公共団体に提供した場合には、情報公開条例の規定により開示されることについて、同意したものとみなされることになる(著作権法1832[注:現3])。
しかしながら、その場合においても、開示の決定がなされるまでに著作者が別段の意思表示をしたときは、同意に関する上記規定の適用が排除されると定められている(同号)ところ、2名については、自己の論文が開示されることに反対の意思表示をしているものである。
そうすると、上記2名の論文を開示することは、作成者が識別されない形態を取ったとしても、作成者本人の同意がない以上、その公表権を害することになるから、本件条例により開示が認められるための「公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがない」との要件を欠くものといわざるを得ない。

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