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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

プログラム著作物▶個別事例➁

▶令和21028日知的財産高等裁判所[令和1()10071]
原告制作ウェブサイトのプログラムの著作物性
ア 著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解される。すなわち,プログラムの具体的記述において,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れていることが必要であると解される。
イ 控訴人は,①本件プログラム中の「style.css」及び「functions.php」の著作者氏名の記述,②ファイルに付されたパスワードの記述,顧客のID,パスワード,メールアドレス,③変数の命名方法,④「style.css」の1行目に「utf-8」を記述し,Unicode による言語設定を行い,レスポンシブデザインとして,750ピクセル,970ピクセル及び1170ピクセルの3つの横幅設定をしたこと,⑤「functions.php」の中で説明文をコメントで付したこと,⑥「common.css」で全体のフォントとして「adobe Fonts」を指定したこと,⑦「member-top.css」で会員専用ページを設定したこと,⑧クラスの定義付け,⑨モジュールの区分け,⑩基礎CSSとして「Bootstrap」を採用したことは,控訴人独自の創作的表現であるから,本件プログラムは,プログラムの著作物に該当する旨主張する。
しかしながら,①,②及び⑤については,控訴人の氏名である「★X★」との記述は電子計算機に対する指令ではなく,また,ファイルに対するパスワードや顧客のID,メールアドレス,コメント等は指令の組合せではないから,プログラムの著作物としての創作性を認める余地はない。
③については,変数名は電子計算機に対する指令の組合せではなく,変数の命名方法は,電子計算機に対する指令についての創意工夫ではない。
④については,「utf-8」を記述したのはあらかじめプログラム言語に準備されている命令を記述したにすぎず,指令の組合せについての創意工夫ではなく,また,特定のピクセル値で3つの横幅設定をしたこと自体は,表現ではなく,プログラミングに関するアイデアにすぎない。
⑥ないし⑩については,フォントの指定,ページの設定,クラスの定義付け及びモジュールの区分け等自体や,どのようなプログラムを採用するかは,表現ではなく,プログラミングに関するアイデアにすぎず,また,「Bootstrap」は控訴人が作成したプログラムではない,したがって,控訴人の上記主張は採用することはできない。
他に本件プログラムの具体的記述に控訴人の思想又は感情が創作的に表現され,控訴人の個性が表れていること認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上によれば,本件プログラムがプログラムの著作物に該当することを認めることはできない。
(略)
本件各データの著作物性
控訴人は,本件各データは,プログラムの著作物である本件プログラムの一部を構成するものであるから,プログラムの著作物として保護される旨主張する。
しかしながら,本件データ1,2,6及び7は,IDやアカウント等の記号の羅列にすぎないデータであり,控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
また,本件データ3ないし5については,どのような表現が創作性を有するのかについて,控訴人は具体的な主張立証をしていない。
さらに,本件プログラムが著作物に該当するものと認めることはできないことは,前記3⑴で説示したとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
 ⑵ 小括
以上のとおり,本件各データが著作物に該当することを認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本件各データの複製等の差止等請求は,理由がない。

▶令和3121日大阪地方裁判所[平成30()5948]
(5) 原告プログラムのソースコード上の表現
ア 原告プログラムの使用言語等
原告プログラムは,Microsoft Visual Studio を使用して,Microsoft Visual Basic言語を用いて作成されている。
イ 自動運転中の画面レイアウト生成のソースコード
自動運転(ユーザーの設定した条件等に従って原告プログラムが自動的に舟券の購入等の動作を実行している状態)中の画面レイアウトについて,処理の高速化を図り,表中の数値等と的中や外れの結果の画像を重ねて見やすく表示するために,市販のソフトウェアにより自動生成されるコードを使用せず,独自のメソッドを作成し,オブジェクトを配列化し,オブジェクト間の関係を工夫した構造を記述している。
ウ 自動運転の設定を保存するための構造体のソースコード
レジストリに保存された自動運転の設定情報を読み込む方法として,自動運転設定画面の情報を格納する構造体を介する方式を採り,コードを軽量化して見やすくし,処理を高速化するために,構造体を画面に表示される項目に対応した構成及び配列として記述し,その一部の項目について固定配列として記述している。
エ 自動運転を制御するための構造体のソースコード
自動運転中に使用する電話締切時刻や進入方法,オッズの取得状態,出走表等の情報について,処理の都度,データベースから呼び出すのではなく,何度もデータベースを直接呼び出す処理を省くため,多数の構造体を定義し,画面の表示の記述に適合した入れ子式の構造を採用している。
DEMEDAS 情報を取得する処理のソースコード
DEMEDAS 情報から必要な要素を抽出処理するに当たって,ウェブサイト側で HTML の記述を変更されると抽出できなくなりやすいデメリットはあるものの,メンテナンス性を考慮して,できるだけ HTML の記述を省略せずに文字列パターンを指定して記述している。
カ 舟券購入サイトへの投票処理のソースコード
舟券をインターネット上で購入できるウェブサイト(BOAT RACE 投票サイト)にログインし,舟券を購入する動作を自動的に実行するに当たって,ユーザーにログイン処理等が行われていることを認識しやすくし,また,投票サイトの仕様変更等に対応しやすくする目的で,より人間の操作に近い動作をするように,基本的には所要の情報をサイトの画面にセットしてサイトの「ログインする」ボタンを押下する動作を WebBrowser ActiveX コントロールを利用してエミュレートする方法により送信する処理を選択し,サイト側の JavaScript 設定によりその方法でうまく動作しない部分については,ボタンの押下処理を残して JavaScript を動作させつつ,その処理を1秒待って情報を直接 POST 送信するように記述している。
(略)
2 争点についての判断
(1) 争点1(原告プログラムの著作物性)について
ア プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合せ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成24年1月25日判決)。
イ そこで検討するに,前記1(5)で認定したところによれば,原告プログラムは,市販のプログラム開発支援ソフトウェアである Microsoft Visual Studio を使用して Microsoft Visual Basic 言語で記述されているから,ソースコードを個別の行についてみれば,標準的な構文やありふれた指令の表現が多用されており,独創的な関数等は用いられていない。
しかしながら,前記(5)イについては,一定の画面表示を得るために複数の記述方法が考えられるところ,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,独自のメソッドを作成して独自の構成で記述しており,同ウ及びエについては,一定の処理方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが,やはり,一定の結果を得るためにどのように指令を組み合せ,どの範囲で構造体を設定し,配列・構造化するかには様々な選択肢が考えられるところ,その具体的な記述は,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,多数の構造体を設定し,配列・構造化した独自のものになっている。
また,同オについては,HTML データから一定の情報を抽出する指令の記述は選択の幅があるところ,メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認められ,同カについても,人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をすることを想定して作成されている投票サイトのサーバーに,人間の操作を介さずに必要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複数考えられるところ,複数の方式を適宜使い分けて記述し,一連の舟券購入動作を構成していることが認められる。
そうすると,前記イないしカのソースコードには表現上の創作性があるといえ,これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも,表現上の創作性が認められるというべきである。

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