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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権等管理事業▶著作権等管理事業法16条の意義と解釈

▶令和31028日知的財産高等裁判所[令和3()10047]
本件利用申込み拒否1の違法性等について
(1) 控訴人X1の権利侵害の内容について
楽曲の作詞又は作曲をした著作者(以下,単に「楽曲の著作者」という。)は,著作物である楽曲を公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利を専有する(著作権法22条)から,著作者以外の第三者は,営利を目的としない演奏である場合を除いて(同法38条1項),著作権者からの利用の許諾を受けなければ楽曲を演奏することはできず(同法63条1項),当然にはその楽曲を演奏することによる利益を享受することはできない。
他方,楽曲の著作者は,著作物の適切な管理と簡易迅速な使用料の分配を受けることを目的として,著作権等管理事業者に楽曲の管理を委託することができる。被控訴人は,著作権等管理事業法3条に基づき著作権等管理事業者として登録を受け,著作者等からの委託を受けて数多くの楽曲に関する著作権等を管理する一般社団法人であるところ,著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ著作物の利用の許諾を拒んではならないとされている(著作権等管理事業法16条)から,演奏家は,被控訴人が管理する楽曲について,このような法規制に裏付けられた運用を通じて,希望する被控訴人の管理楽曲を演奏することができる利益を有している。そして,こうした利益は,表現の自由として保護される演奏家の自己表現又は自己実現に関わる人格的利益と位置付け得るものであるから,民法709条の「法律上保護される利益」であるといえる。そうすると,楽曲の著作者から委託を受けて著作権等を管理する被控訴人が演奏家の希望する楽曲の利用の許諾を拒否する行為は,著作権等管理事業法16条が規定する「正当な理由」がない限り,上記の意味での人格的利益を侵害する行為であって,不法行為を構成するというべきである。
そこで,被控訴人がした本件利用申込み拒否1について著作権等管理事業法16条に規定する「正当な理由」があるかについて,以下検討する。
(2) 本件利用申込み拒否1についての「正当な理由」の有無について
ア 著作権等管理事業法16条は,「著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない。」と規定するところ,著作権者等は,多くの利用者に著作物等の利用をしてもらうことによって多くの使用料の分配を受けることを期待して,著作権等管理事業者に著作権等の管理を委託しているから,著作権等管理事業者が利用者の申込みを自由に拒絶することは,委託者の合理的意思に反するのみならず,著作物には代替性がないものも多くあって,著作物の円滑な利用が阻害されることとなることから,著作権等管理事業者は,原則として,著作物等の利用を許諾すべきことが定められたものと解される。このような規定の趣旨に鑑みれば,利用者からの申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反する場合には,同条の「正当な理由」があるというべきであり,例えば,利用者が過去又は将来の使用料を支払おうとしない場合が考えられる。
また,著作権等管理事業の制度趣旨に基づき,被控訴人が多数の委託者からの委託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲に係る著作権等の集中管理を前提とした委託をしている以上,通常の委託者の合理的意思を検討するに当たっては,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関する適正な管理と管理団体としての業務全般への信頼の維持という観点を軽視することは相当でない。そうすると,利用者からの申込みを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者の利害や実情にとどまらず,著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反するか否かの観点から判断されるべきである。
イ このような観点から本件利用申込み拒否1についてみると,前記認定事実によれば,本件店舗は,Aらが経営主体となって開店したライブハウスであり,出演者から会場使用料を徴収せず,来客が支払ったライブチャージは出演者がほぼ全て取得する運用になっていたものの,出演者は本件店舗に備え付けられた音響設備や楽器を使用して演奏を行うこと,ライブの予定日等の情報を本件店舗のホームページに掲載したり,チラシを店頭に置いて配布するなどし,本件店舗の来客者がライブチャージとは別に店舗に支払う飲食料金によって本件店舗の収益とする構造になっていたことからすると,本件店舗の経営者であるAらは,本件店舗における楽曲に係る演奏主体に当たるということができる。
そして,前記認定事実によれば,Aらは,本件店舗を開設した平成21年5月以降,客から受領したライブチャージからライブで演奏された被控訴人管理楽曲1曲当たり140円を徴収し,保管していたものの,被控訴人に使用料を支払うことなく,無許諾で出演者に被控訴人管理楽曲の演奏をさせており,別件一審判決で演奏の差止めと使用料相当額212万4412円等の支払を命じられた後も,被控訴人の利用許諾を得ることなく控訴人らを含む出演者に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏させたのみならず,著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決を不服とする意向を示すとともに,ライブ演奏の予約済みの出演者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に演奏利用許諾の申込みをするようホームページ又はメールで呼びかけ,これに応じる形で本件3曲を含む被控訴人管理楽曲9曲の利用許諾が申し込まれた(本件利用申込み1)といえる。
このように,本件店舗においては長期間にわたって被控訴人管理楽曲が無許諾で使用されていたにもかかわらず,過去の使用料が全く清算されておらず,Aらが著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決に従わない旨を表明している状況の下で,本件利用申込み1は,従前どおりの本件店舗の営業形態を前提としつつ,形式的に演奏の利用主体を出演者として被控訴人に利用許諾を求める本件店舗のホームページ等の呼びかけに応じた形でされたものであることが認められ,また,前記認定事実によれば,控訴人X1は,本件店舗に21回程度出演して被控訴人管理楽曲を演奏しており,別件一審判決直後も本件店舗において無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していたことが認められる。そうすると,このような客観的,外形的状況に照らせば,控訴人X1による本件利用申込み1につき,被控訴人において,著作権の管理に係る被控訴人の方針に従わず,無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を利用してきた本件店舗の運営姿勢に賛同し,支援するものと受け止めることは避けられないものというべきである。そして,上記のような本件店舗の運営姿勢は,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に支障を生じさせるものであるといわざるを得ない以上,この運営姿勢に賛同し,支援するものと理解される本件利用申込み1に被控訴人が許諾を与えることは,通常の委託者の合理的意思に反するものであり,被控訴人の管理団体としての業務の信頼を損ねかねないものでもあるから,このような疑念を払拭するに足りる特段の事情が認められない限り,被控訴人が本件利用申込み1を拒否した判断が不合理なものであるとはいえないし,本件において上記特段の事情を認めるに足りる事情や証拠は見出せない。
したがって,本件利用申込み拒否1には著作権等管理事業法16条に規定する「正当な理由」があるというべきである。
(略)
(3) 演奏の自由及び著作者人格権の侵害について
上記の点に関する控訴人X1の各主張について理由がないことは,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
[以下、当該論点に関する原判決]
▶令和3416日東京地方裁判所[平成30()36307]
(2) 演奏の自由の侵害
原告らは,本件利用申込み拒否1は,憲法の保障する原告X1の演奏の自由を侵害する違憲な行為でもあると主張するが,一般社団法人であり,著作権等管理事業法上の著作権等管理事業者にすぎない被告の行為に憲法の人権規定を直接適用する法的な根拠はなく,米国法上の国家行為の理論も適用の余地はない。
(3) 著作者人格権の侵害
原告らは,原告X1の要望に反する本件利用申込み拒否1は,原告X1が作詞・作曲した曲について,著作権法113条11項に基づき,その著作者人格権の侵害とみなされると主張するが,原告X1が作詞・作曲した楽曲については,本件利用申込み拒否1により「その著作物を利用する行為」が存在しなかったのであるから,原告らの主張は理由がない。
これに対し,原告らは,同項の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」には利用申込みを拒否する不作為も含まれると主張するが,かかる解釈は同項の文言と整合せず,採用し得ない。』

▶平成200917日大阪高等裁判所[平成19()2557]
著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない(著作権等管理事業法16条)。同法は,管理事業者の登録制度や委託契約約款及び使用料規程の届出・公示等により,著作権等の管理を委託する者を保護するとともに,著作物等の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与することを目的とする(同法1条参照)。そして,著作権者は利用許諾をするか否かを自由に決定できる(著作権法63条1項参照)ことも考慮すると,上記条項にいう「正当な理由」の有無は,著作権者(著作権の管理委託者)の保護と著作権の円滑な利用という法の趣旨を勘案して,許諾業務が恣意的に運用されることを防ぐという観点から判断すべきである。
被控訴人協会は,過去の管理著作物を許諾なしに利用した者から利用許諾の申込みがあった場合に,過去の著作権侵害行為に係る使用料相当額を放置したまま利用許諾することは,管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くとして,昭和22年ごろから,過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当額の清算を利用許諾の条件としている。このような場合にも利用を許諾しなければならないとすると,許諾を拒んで爾後の使用を違法ならしめることにより,過去の侵害行為に係る使用料相当額の損害填補を事実上促進するという効果が失われることになるから(著作権法119条参照),著作権者の利益に反すると解され,また,管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くため,著作権の集中管理に対する信頼を損ない,これによる著作権の円滑な利用を害するおそれがあり,このような場合に利用許諾を拒んでも,許諾業務が恣意的に運用されるとはいえない。したがって,被控訴人協会の上記取扱いは,著作権等管理事業法16条の趣旨に反しないというべきである。なお,このような取扱いは正当な財産権の行使であって,表現の自由を考慮に入れるとしても,公序良俗に反し違法とはいえない。
本件についてこれをみると,控訴人は,本件店舗の開店以来,被控訴人協会と音楽著作権の利用許諾契約をしたことはなく,自らその申請をしたこともなく,被控訴人協会は,遅くとも平成16年5月14日以降,控訴人に,過去の著作権侵害に対する損害金の支払と利用許諾契約の締結を求めたが,控訴人は,仮執行宣言付判決に基づく支払を別として,これに応じていない。そして,本件店舗では開店以来継続的に管理著作物が演奏されていたと認められる。このような事情によれば,控訴人から利用許諾の申込みがあった場合に,過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当額の清算を利用許諾の条件とすることは,著作権法等管理事業法16条の趣旨に反しないと評価できる。
これに対し,本件店舗で管理著作物を演奏しようとする第三者が利用許諾の申込みをした場合に,控訴人も利用主体と認められるという理由で利用許諾を拒むことは,当該第三者の管理著作物利用を過度に制約するおそれがあり,また,著作権者の利益という観点からは,控訴人に対し過去の使用料相当額の清算を促すという点では間接的である一方,当該利用許諾をすれば得られたはずの使用料収入が得られないという不利益もあるのであって,第三者が利用許諾の申込みをした場合に,被控訴人協会が,控訴人による清算を利用許諾の条件とすることは,同法16条の趣旨に反し許されないと解される。
しかし,本件店舗で管理著作物を演奏しようとする第三者からの利用許諾を被控訴人が拒んだことにより,控訴人が被った信用の失墜,営業損害についての具体的事実及び損害を認めるに足りる証拠はない。

平成281019日知的財産高等裁判所[平成28()10041]
1審被告らは,1審原告による利用許諾の拒否を前提とする差止請求には理由がない旨主張する。
しかし,本件の差止請求は,1審原告と1審被告らとの間で1審原告管理著作物に係る利用許諾契約が締結されていないことを前提としており(なお,1審原告による利用許諾が双務契約によりされるものであり,契約の成立には当事者双方の意思の合致を要することは,前記のとおりである。),1審原告による利用許諾の拒否を前提としているものではない。
もっとも,著作権等管理事業法16条には「著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」と規定されていることからすると,1審原告は,利用者からの利用許諾の申入れを正当な理由なく拒否できないから,1審被告らが,使用料規程に定められた方法において許諾の申込みをした場合には1審原告はこれを拒否することができないというべきであって,1審被告らは,1審原告との間で,容易に,1審原告管理著作物に係る利用許諾契約を締結することができ,契約締結後は,同契約に従って1審原告管理著作物を利用できるはずである。
ところで,1審被告らは,1審原告が,「1審原告管理著作物1曲の使用につき140円を1審被告Y1が本件店舗におけるライブの出演者から徴収してその積算額を1審原告に支払い,1審原告がこれを正当な著作権者に分配する」という内容の許諾の申入れに応じなかったことをもって,1審原告が利用許諾を拒否していると主張しているものと解されるが,上記方法は,使用料規程に定められていない方法であるところ,1審原告が,文化庁長官に届け出た使用料規程に定められた方法以外の方法による契約の締結に応じないことは,事務処理の煩雑性を回避して手数料を低廉に保つために必要な合理的な措置であると考えられるから,1審原告には,許諾の申入れを拒否する正当な理由があるといえる。
1審被告らは,使用料規程に「社交場における演奏等のうち,利用の態様に鑑み本規定により難い場合の使用料は,利用者と協議のうえ,本規定の額の範囲内で決定する。」という記載があることから,1審原告は,使用料規程によらない方法での申込みも受諾すべきである旨の主張もしているが,上記規定の文言に照らすと,同規定は,1審原告管理著作物の「利用の態様」が,通常の社交場等における利用の態様とは異なるために,使用料規程に定められた方法を適用することが相当ではない場合に対応するための例外的な規定であると考えられるから,同規定が存在することをもって,1審原告が利用者に対し,当該利用者が希望する使用料規程に規定される方法以外の方法において,利用許諾をすべき義務があるということはできない。

▶令和21210日東京地方裁判所[平成30()39933]
原告の不法行為の成否について
ア 被告は,原告が,著作権等管理事業法16条に反し,正当な理由がないにもかかわらず,歌の手帖社名義の管理著作物の利用許諾申請を拒絶した上,同社を本件紛争に巻き込んだことから,被告と歌の手帖社との間の関係が悪化し,本件業務委託契約を継続することができなくなったものであり,これは被告に対する不法行為を構成する旨を主張する。
イ 著作権等管理事業法は,著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定しているところ(同法16条),同法は,管理事業者の登録制度や委託契約約款及び使用料規程の届出・公示等により,著作権等の管理を委託する者を保護するとともに,著作物等の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与することを目的としており(同法1条参照),著作権者は利用許諾をするか否かを自由に決定できる(著作権法63条1項参照)ことも考慮すると,上記の「正当な理由」の有無は,著作権者(著作権の管理委託者)の保護と著作権の円滑な利用という法の趣旨を勘案して,許諾業務が恣意的に運用されることを防ぐという観点から判断すべきである。そして,原告は,管理著作物の利用許諾申請手続に使用する申込書裏面の利用許諾条項において,原告は,申込者が同条項に違反したときなどは,催告することなく直ちに書面により利用許諾を取り消すことができるものと定めているところ(同条項12条1項),過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当損害金の未清算といった同条項違反がある場合であっても,管理著作物の利用を許諾しなければならないとすると,許諾を拒んで爾後の使用を違法ならしめることにより過去の侵害行為に係る使用料相当額の損害填補を事実上促進するという手段が失われることになり(著作権法119条参照),著作権者の利益に反すると解され,また,管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くため,著作権の集中管理に対する信頼を損ない,これによる著作権の円滑な利用を害するおそれがあり,このような場合に利用許諾を拒んでも,許諾業務が恣意的に運用されているとはいえない。以上によれば,原告が,管理著作物の無許諾利用者による使用料相当損害金の未清算を理由に,同人又はこれと同視できる者に対して新たな管理著作物の利用許諾申請を拒絶することは,そもそも著作権等管理事業法16条の趣旨に反するとはいえないというべきである。
また,訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となるというべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決参照)。
(略)
エ 以上によれば,原告の上記対応が,被告に対する不法行為を構成するということはできず,これを契機に被告と歌の手帖社との間の本件業務委託契約が期間満了によって終了し,これを更新することができなかったとしても,それは被告の前記不法行為に起因するものというほかなく,これによって生じた損害の賠償を原告に求めることはできないというべきである。

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