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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為▶著作権侵害に基づく不法行為一般

▶平成231031日知的財産高等裁判所[平成23()10020]
著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには,行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り,また,故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって,著作権の帰属に関する行為者の認識の有無,行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か,さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。

平成2869日知的財産高等裁判所[平成28()10021]
控訴人Xは,被控訴人が控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)を侵害する不法行為を行ったことによって控訴人会社の代表者としての控訴人Xが精神的苦痛を受けたとし,このこともって控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求の根拠となる旨主張する。
しかしながら,控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求が認められるためには,被控訴人の行為が控訴人Xとの関係で不法行為を構成することが必要であり,そのためには,被控訴人の行為が控訴人Xの権利又は法律上保護される利益を侵害するものであることが必要となる(民法709条)。しかるところ,被控訴人が原告著作物を複製・頒布した行為は,原告著作物の著作権者である控訴人会社との関係では,その権利(著作権)を侵害する不法行為を構成することが明らかであるものの,原告著作物の著作権者ではない控訴人Xとの関係では,同人のいかなる権利又は法律上保護される利益を侵害することになるのかが不明というべきである。控訴人Xは,自らが控訴人会社の代表者であり,控訴人会社の著作権侵害によって精神的苦痛を受けたことをその主張の根拠とするが,会社の代表者たる個人が,当該会社に帰属する著作権に関して当然に何らかの権利や法律上保護される利益を有するものではないから,控訴人Xが控訴人会社の代表者であることのみをもって,控訴人会社の著作権を侵害する行為が控訴人X個人の権利又は法律上保護される利益をも侵害することが根拠付けられるものではなく,そのほかにこれを根拠付け得る事情も認められない。
以上によれば,控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)侵害を理由とする控訴人Xの慰謝料請求には理由がない。

[将来発生する不法行為(著作権侵害)による損害賠償請求の可否]
平成281019日知的財産高等裁判所[平成28()10041]
1審原告は,本件口頭弁論終結以後も,1審被告らの不法行為が継続することが確実であると主張して,将来の不法行為に基づく損害賠償を請求している。
将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民事訴訟法135条),継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決等参照)。
本件についてみると,本件店舗においては,ライブの出演者自らが演奏曲目を決定しており,1審被告らによる1審原告著作物の利用楽曲数は毎日変動するものであり,その損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することはできず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるものである。1審被告らは,平成28年4月以降,本件店舗の営業形態を変更し,平成29年春頃には閉店予定であると主張し,現に本件店舗の貸借契約が平成29年5月31日に終了することに照らすと,口頭弁論終結日以降の損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することは,なおのこと困難である。さらに,権利の成立要件の具備については権利者である1審原告が主張立証責任を負うべきものである。
そうすると,本件の損害賠償請求権は,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有さないから,1審被告らに対する金員支払請求のうち,口頭弁論終結日の翌日である平成28年9月13日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法であるといわざるを得ない。そして,このことは,1審原告の請求が,将来の不当利得返還請求であると解した場合も,同様である。
したがって,上記部分に関する訴えは,いずれも却下を免れない。

[被侵害著作物を個別に特定する必要があるか]
▶令和4106日東京地方裁判所[令和2()3931]▶令和568日知的財産高等裁判所[令和4()10106]
【カ 以上によれば、平成17年9月1日から平成30年3月31日までの間において、枠付き記事以外に、本件イントラネットに1審原告が発行した東京新聞の記事が掲載されたこと及びその内容を認めるに足りる証拠はなく、また、仮に東京新聞の記事が掲載された可能性があるとしても、その内容を確認することができないから、当該記事が著作物に該当することを認めることはできない。
これに対し、1審原告は、過去の著作権侵害行為を原因とする損害賠償請求をするに当たっては、被侵害著作物を個別に特定する必要はなく、このことは、判例の立場(知財高裁平成28年10月19日判決(同年(ネ)第10041号))であるとして、著作権が侵害されたとする新聞記事の内容を具体的に特定しないまま、1審被告が、平成17年9月1日から平成30年3月31日までの間に、毎月約11本の新聞記事を本件イントラネットに掲載していた旨主張する。
しかしながら、新聞記事においては、訃報や人事異動等の事実をそのまま掲載するものから、主題を設定して新聞社としての意見を述べる社説まで様々なものがあって、記載する事項の選択や記事の展開の仕方、文章表現の方法等において記者の個性を反映させる余地があるとしても、新聞記事であることのみから当然に著作物であるということはできない。
また、新聞記事の中には、通信社や企業等から提供された情報や文章をそのまま掲載するものや、第三者から寄稿されたものもあり、当該記事を掲載した新聞の発行者が当然にその著作権を有するということもできない。
さらに、1審原告が指摘する裁判例は、著作権等管理事業者であるJASRACが、その管理する著作物である楽曲を許諾なくライブ会場で演奏する者に対して著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案であり、上記裁判例は、本件とは、著作物の種類が異なるなど事案を異にするというべきであり、本件に適切でない。
したがって、1審原告の上記主張は採用することができない。他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。】

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