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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為▶一般不法行為[認定事例]①(YouTubeにおける著作権侵害通知(動画削除要請))

▶令和41014日大阪高等裁判所[令和4()265]
控訴人Bの本件侵害通知による不法行為の成否について
(1) YouTubeにおける著作権侵害通知制度を前提とする不法行為の成立について
ア YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。
また、収益化されたチャンネルにおいては、YouTubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法的上保護される利益を有すると解することができる。
イ 他方、YouTubeにおいては、前記のとおり、著作権者は、その保有するコンテンツの著作権を侵害すると考える動画がYouTubeに投稿された場合、YouTubeに対して著作権侵害通知を提出することができ、著作権侵害通知がされた場合には、YouTubeにおいて対象動画の投稿者に対して事前の通知をすることなく、対象動画を削除する制度を採用している。
そして、YouTubeにおける著作権侵害通知による動画削除制度は、ノーティスアンドテイクダウン手続等を定めた米国著作権法512条に準拠した方法が採用されているものといえ、YouTubeの仕組みや利用上のルールを説明した「YouTubeヘルプ」においても、正式かつ有効な著作権侵害通知があった場合には著作権法に従って同通知の対象動画は削除される旨記載されており、明らかに手続を誤解している著作権侵害通知や、純粋に手続を濫用していると思われる著作権侵害通知のような例外的場合を除き、YouTube自身が、著作権侵害通知に係る著作権侵害の有無等の実体的判断をなすことは原則的には予定されていないことが認められる。
ウ YouTubeにおける上記のような動画削除制度の下では、削除された投稿者がその扱いに不服がある場合、異議申立てをすることができ、この手続を契機として、投稿者の本名及び住所が著作権侵害通知の提出者に開示されるので、著作権侵害通知を提出した者がその情報を利用して裁判手続を起こすことによって著作権侵害について実体的判断がされることになる(著作権侵害通知を提出した者が所定の期間内に裁判手続を起こさない場合は、削除された動画は復元される。)。
エ ところで、この制度の利用について、「YouTubeヘルプ」においては、著作権侵害通知の要件として、著作権を侵害すると考える投稿の説明に加え、通知者自身が著作権者等であること、投稿者によるコンテンツの使用が法律で許可されていないことを確信していること、通知が正確であることを確認した上でこれを行うことを求め、著作権侵害通知制度を不正使用すると、アカウントの停止や法的問題に発生する可能性があるとの注意もしているが、これは、上記のとおり、YouTubeが原則として著作権侵害の実体的判断をなさないため、著作権侵害通知が潜在的には濫用的に用いられる可能性があることから、著作権侵害通知をする者に予め注意義務を課して濫用的な著作権侵害通知をなさないよう対策を講じているものと解される。
したがって、著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。
オ これに対し、控訴人らは、YouTubeにおいて著作権侵害通知による削除制度があることは、YouTubeの投稿者はその規約に同意して所与のものとしており、投稿者には異議申立てが認められていて、YouTube上で問題を解決することが可能であるから、著作権侵害通知により動画が削除されることはYouTubeの仕組みによって生じる事実上の不利益にすぎない、又は、YouTubeが著作権侵害通知を適当なものと認めて動画を削除した場合には、当該著作権侵害通知は社会的に許容し得る限度を超えた違法なものであるとはいえない旨主張する。
確かに正式かつ有効な著作権侵害通知がされた場合、反論の機会が与えられることもなく対象動画が速やかに削除されるという事態は、YouTubeの規約上予定されていることであって、投稿者はその規約に同意してYouTubeを利用しているということができる。
しかし、上記イ、ウで認定説示したとおり、この著作権侵害通知の制度の下では、著作権侵害の有無等の実体的判断は当該制度内でなさずに最終的には裁判手続を介して確定することを予定しているのであるから、YouTube上で全ての問題の解決が図られるわけではないことがまず指摘できるし、また、制度的に法的根拠がない著作権侵害通知がされる余地を残しているため、著作権侵害通知の制度利用に当たっての注意義務が、上記エのとおり、当該通知提出者に課せられているのであり、そこでは著作権侵害通知制度を不正使用すると法的問題に発生する可能性があるとの注意も明記されている。
そうすると、この規約上求められる注意義務を怠った結果もたらされる不利益が、YouTubeの規約に同意した投稿者が受忍すべき事実上の不利益とはいえないことは明らかであるとともに、すべからく社会的に許容し得る限度を超えた違法なものに当たらないとはいえない。
以上によれば、控訴人らの上記主張は失当であって採用できない。
(2) 被控訴人動画による著作権侵害の有無
ア 被控訴人メランジ動画による著作権侵害の有無について
控訴人Bが、令和2年2月6日、被控訴人メランジ動画を対象としてYouTubeに提出した本件侵害通知1は、被控訴人メランジ動画の「動画全体」につき、「編み目(スティッチ)の著作権侵害」があるとするものである。
しかし、編み物の編み目(スティッチ)は、毛糸によって小物又は衣類を作成するに当たっての技法のアイデア又はその技法により毛糸が編まれた編み物の最小構成単位にとどまるものであって、思想又は感情の表現とは認められないから、それ自体を著作物と認めることはできず(知的財産高等裁判所平成24年4月25日判決参照)、控訴人Bがこれを控訴人動画で紹介していたとしても同控訴人が著作権を有するということはできない。
そうすると、被控訴人メランジ動画に控訴人動画におけると同一の編み目(スティッチ)が含まれているとしても、それをもって控訴人Bの著作権を侵害したという余地はない。
したがって、そもそも控訴人Bは侵害主張の根拠となる著作権を有しないことから、被控訴人メランジ動画が著作権侵害をしている旨をいう本件侵害通知1は法的根拠に基づかないものである。
イ 被控訴人トリニティ動画による著作権侵害の有無について
控訴人Bが、令和2年2月6日、被控訴人トリニティ動画を対象としてYouTubeに提出した本件侵害通知2は、被控訴人トリニティ動画の「動画全体」につき、「著作権、翻訳権の侵害」があるとするものである。
しかし、そもそも控訴人Bは、本件侵害通知2において、被控訴人トリニティ動画のいかなる部分が控訴人Bのいかなる著作権を侵害したかについて具体的に特定した記載をしていないし、本件訴訟においてすら、その点について明確かつ具体的に主張をしているわけではない。
もっとも、本件訴訟において控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画における、被控訴人の「鎖1目で立ち上がって」「立ち上がったところで細編み1つ」「細編みしたところに針を入れて、取ってくる。」「そのまま次の目に針を入れて取ってくる。」「更に次の目にも針を入れて取ってくる。」「4本一度に引き抜いてくる。」であるとか、「最後だけちょっと違うので気をつけます。」「鎖編みはしないで」「最後の同じ目に細編みします。」といった口頭による説明と、控訴人動画①~③における控訴人Bの口頭による説明中、立ち上がりの説明を短くして、「同じ目から始める」という説明方法で、細編みの目を共有することを強調したり、段の最後に鎖編みをしがちであるところを「最後だけは細編み」になることを強調したりする点などで同じであるという点を指摘する陳述をし、これらの点で著作権侵害を主張しているようである。しかし、それらの点に関する控訴人動画の口頭説明と思われる部分は、編み目に関するアイデアであって表現それ自体ではない部分、又は編み方の説明としてありふれたものであって表現上の創作性が認められない部分にすぎず、控訴人Bの上記口頭説明部分には著作物性が認められないから、この点で、控訴人Bが著作権を有することを前提とする著作権侵害をいう余地はない。
(略)
(3) 控訴人Bによる本件侵害通知提出の行為態様及びその前後の状況等
(略)
(4) 本件侵害通知の違法性及び控訴人Bの故意又は過失について
ア 前記(2)のとおり、本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかないものであるが、前記(2)で述べたところに加え、上記(3)認定の各事実からすると、以下に詳述するとおり、控訴人Bは、前記注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより、本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。
イ すなわち、控訴人Bの提出した本件侵害通知の記載内容をみるに、本件侵害通知1は、前記(2)アのとおり、被控訴人メランジ動画につき「編み目(スティッチ)の著作権侵害」があるというものであって、編み目の著作物性をいう点において、その通知内容自体から著作権侵害が認められないことが明らかなものである。
また、本件侵害通知2は、前記(2)イのとおり、被控訴人トリニティ動画の「動画全体」につき「著作権、翻訳権の侵害」があるというものであって、控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画の口頭説明部分が控訴人動画①~③の口頭説明部分の著作権を侵害すると考えて本件侵害通知2を提出した旨陳述しており、本件訴訟においては、その旨主張するようであるが(これ自体が法的に失当であることは前記(2)イのとおりである。)、被控訴人トリニティ動画が控訴人動画のうちいずれの動画のいかなる部分の著作権を侵害したかにつき、明確かつ具体的な主張をしているものではないこと、控訴人Bの陳述も、要は、被控訴人動画において控訴人動画における編み目の作り方が同じであることを中心に著作権侵害があった旨を述べるものであること、本件侵害通知2が本件侵害通知1と同日にされていることに加え、前記(3)の各事実にも照らすと、むしろ控訴人Bは、本件侵害通知2においても本件侵害通知1と同様、本来、著作権侵害が認められない被控訴人トリニティ動画が編み目の著作権を侵害したことを根拠として、著作権侵害通知をYouTubeに提出したものと認めるのが相当である(このことは、控訴人Bの陳述によれば、被控訴人トリニティ動画の25分47秒間のうち、著作権侵害に該当する部分は3分43秒間にすぎないにもかかわらず、控訴人Bが、削除依頼ウェブフォームにおいて、タイムスタンプで該当箇所を特定することもなく、被控訴人トリニティ動画の「動画全体」が著作権侵害部分に該当するとして本件侵害通知2を行っていることからも裏付けられる。)。したがって、本件侵害通知2も、その内容において著作権侵害が認められないことが明らかなものというべきである。
ウ しかし、そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは前記(2)アで説示したとおりであるし、前記(3)アによれば、控訴人Bは、むしろ動画の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたことが認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、前記(3)エによれば、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を検討した様子は全くうかがえない。
そればかりか、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由を端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑させることに終始するものであるし((3)エ)、本件訴訟を提起された後においてすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、その他前記(3)で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定されるには困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人Bの著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否かを検討することなく、すなわち、控訴人Bが著作権者等であることはもとより、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相当である。
エ なお、控訴人らは、専門家であるJ弁理士及びK弁護士にも相談した上で、本件侵害通知を行った旨主張するが、控訴人らが本件侵害通知当時に上記専門家に著作権侵害に関する相談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、また、仮に何らかの相談をしていたとしても、前記の本件侵害通知の内容及び本件訴訟における応訴の内容に照らし、真摯な相談がされたものともおよそ考えられないから 、これによって控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって必要な検討をしたとは認められない。
オ そして、控訴人Bは、被控訴人に対する以外にも、本件侵害通知に相前後して、他の複数のチャンネル開設者に対し、その投稿した編み物動画やアプリケーション上での編み物作品の販売に対し、動画のコメント欄等に抗議を書き込んだり、被控訴人に対すると同様に、編み目を含む編み方の模倣を理由に一斉に複数の著作権侵害通知を提出したりすること((3)イ、ウ、オ)によって、これらの者が、控訴人Bが動画で紹介している編み方と同じ編み方を動画で投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。
さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、控訴人Bに加担する控訴人D又は控訴人B自身において、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方的に押し付けるようなコメントを公表したりして((3)イ、オ、カ)、裁判手続で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたことも認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
カ 以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。

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