Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為▶一般不法行為[否認事例]①(映画の公開中止、映像データの破棄)

▶令和4729日東京地方裁判所[令和2()22324]▶令和527日知的財産高等裁判所[令和4()10090]
争点5(本件映画の公開中止による原告X1の期待権侵害の成否)
原告X1は、本件映画の公開につき法的保護に値する期待権を有していたところ、被告○○映画らが【控訴人X1】に対する十分な説明なく、一方的に本件映画の公開を中止したことにより、同期待権が侵害された旨主張する。
そこで検討するに、前記前提事実のとおり、【被控訴人▽▽映画は、合計207万3000円を支払って、控訴人X1から、本件映画を買い取るとともに、本件映画に係る著作権を譲り受けたものである】。そのため、原告X1が本件映画の公開を期待していたとしても、自らの判断で本件映画の著作権を【被控訴人▽▽映画に】譲渡している以上、本件映画を利用できるのは著作権者又はその許諾を得た者に限られることは明らかである。そうすると、原告X1の上記にいう期待は、事実上のものにすぎず、法律上保護される利益であるとまで認めることはできない。
したがって、原告X1の主張は、採用することができない。
争点6(本件データ等の廃棄による原告X1の人格権侵害の成否)
原告X1は、被告○○映画らが本件データ等を廃棄した行為につき、本件映画が原告X1の人格、思想及び表現を具現化したものであり、原告X1にとって唯一無二の作品であるのに、本件映画の公開を永久に不可能にするものであることを踏まえると、原告X1の人格そのものを否定する人格権侵害に当たり、原告X1に対する不法行為を構成する旨主張する。
【しかしながら、本件データ等は、本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータであり、その内容に照らすと、本件データ等の中には、著作物たる本件映画の全部又は一部を構成するものも含まれると認められる。そして、本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等についてみると、前記前提事実のとおり、控訴人X1は、本件映画と共にその著作権を被控訴人▽▽映画に譲渡している以上、もはや本件映画を利用する権利を有しておらず、加えて、被控訴人○○映画らが私企業であり、上映すべき映画、保存すべき映画等についての選択の自由を有しているものと解されることにも照らすと、被控訴人○○映画らが本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等を廃棄したとしても、控訴人X1が本件映画の著作権に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、当該廃棄によりこれが侵害されるということにはならない。また、前記前提事実によると、控訴人X1が被控訴人▽▽映画に対して本件映画を譲渡した結果、本件データ等に係る所有権その他の権利は、被控訴人▽▽映画に原始的に帰属することになるのであり、加えて、被控訴人○○映画らが上記の選択の自由を有しているものと解されることも併せ考慮すると、この点からも、控訴人X1が本件データ等に係る所有権その他の権利に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、被控蔵映画らが本件データ等を廃棄したことによりこれが侵害されるということにはならない。】
したがって、原告X1の主張は、採用することができない。
争点7(本件映画の著作権の帰属)
原告X1は、被告▽▽映画において、本件著作権譲渡契約に付随する義務として、本件映画の公開延期や公開中止を決定するに当たっては、原告X1に対して十分な説明を行うとともに、原告X1との間で十分な協議を尽くす信義則上の義務を負っていたというべきところ、被告▽▽映画は、そのような義務に違反したものであるから、原告X1による契約解除の意思表示により、本件映画の著作権は、原告X1に帰属する旨主張する。
しかしながら、原告X1は自らの判断で本件映画の著作権を【被控訴人▽▽映画に】譲渡している以上、本件映画を利用できるのは著作権者又はその許諾を得た者に限られることは、上記において繰り返し説示したとおりである。そうすると、被告▽▽映画が上記にいう信義則上の義務を直ちに負っていたものと解することはできず、その他に本件に現れた諸事情を考慮しても、上記義務を負うことを裏付けるに足りる事情を認めるに足りない。
したがって、原告X1の主張は、採用することができない。
[以下、「控訴人らの当審における補充主張について」]
(11) 控訴人X1は、控訴人X1と被控訴人▽▽映画との間には映像作品の公開を前提とした本件基本契約が締結されており、本件映画も公開を前提として制作の委託や完成作品の買取りがされたことからすると、控訴人X1は自身が監督を務めて制作された本件映画が公開され、観客によって視聴されることにつき合理的な期待を有しているところ、上記の事情に加え、表現の自由が基本的人権として保障されていることに鑑みると、上記期待は法的保護に値する人格的権利ないし利益であると主張する。
確かに、本件基本契約の内容や取引通念に照らすと、被控訴人▽▽映画は、控訴人X1との間で、控訴人X1が制作した映画を公開することを予定して、その買取りに係る本件基本契約を締結し、本件映画も、そのような本件基本契約に基づき、公開を予定して、被控訴人▽▽映画が控訴人X1から買い取ったものと認められるから、控訴人X1において、本件映画が公開されるとの期待を抱くのは、無理からぬところである。
しかしながら、映画を公開するか否かの決定権は、著作権に含まれる権利(上映権)として著作権者が専有するものであるし、取引通念に照らしても、映画を制作した映画監督等から当該映画やその著作権を買い取った映画会社等は、当該映画を公開するのが当然であるとまでいうことはできない。被控訴人▽▽映画が本件映画の公開を予定して控訴人X1から本件映画を買い取ったなどの控訴人X1が主張する事情を考慮しても、本件映画と共にその著作権を被控訴人▽▽映画に譲渡した控訴人X1が抱いたであろう上記の期待は、いまだ事実上のものであるといわざるを得ず、これが法的に保護された権利ないし利益であるということはできない。
以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(12) 控訴人X1は、控訴人X1と被控訴人▽▽映画との間には映像作品の公開を前提とした本件基本契約が締結されており、本件映画も公開を前提として制作の委託や完成作品の買取りがされたことからすると、控訴人X1は自身が監督を務めて制作された本件映画が公開され、観客によって視聴されることにつき法的保護に値する合理的な期待を有しているといえるから、被控訴人▽▽映画は本件映画の公開延期や公開中止を決定するに当たっては、少なくとも控訴人X1に対して十分な説明を行うとともに、控訴人X1との間で十分な協議を尽くすべき信義則上の義務を負っていたと主張する。
しかしながら、前記(11)において説示したとおり、映画を公開するか否かの決定権は、著作権に含まれる権利(上映権)として著作権者が専有するものであり、取引通念に照らしても、映画を制作した映画監督等から当該映画やその著作権を買い取った映画会社等は、当該映画を公開するのが当然であるとまではいえないし、また、本件基本契約の内容をみても、被控訴人▽▽映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたものと認めることはできず、その他、本件全証拠によっても、被控訴人▽▽映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたものと認めることはできない。なお、本件映画が公開されることにつき、控訴人X1が法的に保護された権利ないし利益を有していたといえないことは、前記(11)のとおりである。したがって、被控訴人▽▽映画が本件映画の公開を予定して控訴人X1から本件映画を買い取ったなどの控訴人X1が主張する事情を考慮しても、被控訴人オーピー映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたということはできない。
以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。

一覧に戻る

https://willwaylegal.wixsite.com/copyright-jp