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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為一般不法行為[否認事例]②(放送ナレーションへの無断転載)

▶令和4928日東京地方裁判所[令和3()30051]
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が放送したテレビ番組「将棋フォーカス」(「本件番組」)のコーナー「初心者必見!対局マナー」(「本件コーナー」)におけるナレーション及び字幕(「本件ナレーション等」)が、原告が管理運営するウェブサイト(「原告ウェブサイト」)における文章(「原告文章」)に類似しており、これにより原告の人格権が侵害されたと主張して、民法709条に基づき、合計16万5000円(慰謝料相当額15万円及び弁護士相談費用等相当額1万5000円)及びこれに対する不法行為の日である令和3年5月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件番組の放送により原告の人格権が侵害されたか)について
(1) 原告は、被告によって、原告文章を無断転載して制作した本件番組が放送されたことにより、原告の名誉が毀損される可能性が生じて、原告の平穏な日常を阻害され、原告が、これに対応するために金銭的及び時間的な負担を負い、精神的苦痛を被り、人格権が侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償を請求するものと理解することができる。そこで、この理解を前提に、被告による本件番組の放送が原告の「権利又は法律上保護される利益を侵害した」(民法709条)といえるか否かについて検討する。
 前記前提事実のとおり、被告が原告文章に依拠して本件ナレーション等を作成した結果、本件ナレーション等は、原告文章と類似しており、原告文章中の「以下省略」といった比較的特徴のある表現についてもほぼ同じ内容となっている。そして、被告が、本件番組において本件ナレーション等を流すことについて、原告から事前の了解を得ていたことや、本件番組を放送するに当たり、原告文章が掲載されている原告ウェブサイトを参照した旨を表示したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の上記行為は、公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない。
また、原告が主張するように、原告ウェブサイト中の文章は、分かりやすく面白いものとなるように配慮され、独自性を有していると評価し得ることや、被告が放送法で定められた公共の放送事業者であることからすると、本件番組を視聴した者が、原告文章を見たとき、被告が無断転載をするはずがないと考えて、むしろ原告ウェブサイトの方が無断転載をしていると疑う可能性を否定することはできない。
しかし、前記前提事実のとおり、被告は、本件番組が放送された4日後には、本件番組に係るウェブサイトにおいて、本件ナレーション等が既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章を掲載しており、これは、上記のような誤解が生じることを防止し得る措置であるといえる。そして、本件全証拠によっても、実際に、上記のような誤解が広まったとは認められない。しかも、名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下させる事実を摘示することが必要であるところ、将棋の対局マナーについて述べた本件ナレーション等において、原告の社会的評価を低下させる事実が摘示されたとは認められない。そうすると、原告の主張する名誉毀損の可能性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また、原告の主張に係る平穏に日常生活を送る利益について、上記のとおり、原告の懸念する誤解が実際に広まったとは認められず、原告の名誉が毀損される可能性も抽象的なものに留まることに照らせば、被告に対する損害賠償請求を可能とする程度に、原告の平穏な日常生活が害されたということはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の「侵害」を認めることはできないというべきである。
なお、被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認められ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認められるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張しないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされていないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない。
(2) 以上によれば、本件番組の放送により、原告の人格権が侵害されたとは認められず、また、原告文章に係る原告のそのほかの権利が侵害されたと認めることもできないというべきである。

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