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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為▶一般不法行為論[学術的成果へのフリーライド]

▶平成120329日東京高等裁判所[平成11()4243]
控訴人は、学術論文においては個々の記載の文章上の工夫より、論文の構造、論旨、論理展開が重要視され、先輩研究者といえども、自分がその分野の研究で先行したからといって、後輩研究者の研究成果を横取りしたり、研究論文を剽窃したりすることは許されないから、そのような行為は、研究者の学問的業績に対する権利、利益を奪うものであって、不法行為を構成すると主張する。
このような一般的見解自体は正当なものと解されるが、本件の場合、被告第一論文並びに被告科研費論文及び第二論文が、原告論文及び原告報告を翻案したものでなく、これらを剽窃したものでもない上、被告第一論文と原告論文とは、C論文の紹介を通じて「エスニシティ」を論ずるという基本的性格において共通する面があり、両者を全体として対比すると、その目的、構成、議論の展開、結論がいずれも異なるものと認められ、被告科研費論文及び第二論文と原告報告とを全体として対比しても、その目的、構成、論理展開がいずれも異なるものと認められる以上、その発表行為が不法行為に該当しないのは当然といわなければならない。

▶平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]
学術研究の成果を他者が盗用し、自らのものとして発表するような行為は、それ自体、一般の不法行為となり得る場合もあるであろう(。)

▶平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]
原告は,被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が,著作権等の侵害に係る不法行為とは別に,一般不法行為(民法709条)に該当すると主張する。
しかし,原告の主張は,一般的に著作には時間や労力を要すること,著作が表現の自由に関わるものであり,その著作者の立場や著作内容によっては他の憲法上の事由に関わること,他人がその著作を無断で利用した場合に,その著作者が何らかの影響を受けることを述べるにすぎず,著作権法がその制定当時から前提にしていた,学術の範囲に属する著作物に係る著作活動の本質やそれに伴う結果を指摘しているにすぎないから,著作権法上の保護法益とは別に保護すべき独自の法益があるとは認められない。
そもそも,著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているのであるから,同法により保護される権利の範囲に含まれないものについては,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,著作物を利用する行為について,著作権法に規律された著作物を独占的に利用する権利を侵害するか否かが問われるのとは別に,著作者の権利を侵害し一般不法行為が成立すると認められるのは,当該利用行為によって,著作権法の規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がある場合に限られるというべきである。
この点に関して原告は,研究者が研究成果を学術論文としてまとめ,広く第三者に公表することが憲法23条の学問の自由の根幹をなす権利であること,研究者は,執筆した学術論文の内容により第三者からその能力,専門性ないし業績を評価されること,学術論文を執筆するためには多大な時間と労力を費やす必要があり,金銭的な支出も不可欠であることを挙げて,学術論文の内容を他人に盗用・剽窃されないことが,著作権法とは別に,法的に保護された利益であって,被告Aが自ら調査・研究を行うことなく原告各表現を盗用・剽窃し,原告の業績等にいわばフリーライドしたことにより,原告の研究を妨害するとともに専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたことが,原告の上記利益を侵害する一般不法行為であると主張する。
しかし,研究者の執筆・公表した学術論文を第三者が複製等によって利用したからといって,それにより研究者の学問の自由が侵されるものとは認められないし,当該研究者の能力,専門性ないし業績に対する評価が低下するものとも解されない。
本件においては,それぞれ6頁から成る被告ら各共著論文において複製された原告論文の2箇所の記述は,いずれも9頁に及ぶ原告論文の中のわずか数行の文章にすぎず,しかも,その内容も(証拠)文献を要約したものであるか,英国著作権法の規定を解説したものであって,その表現の選択の幅は極めて狭く,その限度でかろうじて作者の個性が表れているにすぎないものであるから,被告Aが,これらの記述を利用することによって,原告の費やした時間,労力及び金銭,あるいはそれらにより得られた原告の業績等にフリーライドしたとか,専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたなどと評価することはできないというべきである。
また,被告Aが原告論文の一部を被告ら各共著論文において複製したことによって,原告の研究活動が妨害されたものとも認められない。
以上によれば,被告ら各共著論文の執筆・公表が著作権等とは別の原告の法的利益を侵害し,それが一般不法行為に該当するとの原告の上記主張は採用することができない。
[控訴審も同旨]
▶平成27106知的財産高等裁判所[平成27()10064]
原告は,学術論文を盗用・剽窃されない利益は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは別個の法的保護に値する利益であると主張する。
しかし,著作権法は,学術論文を,学術の範囲に属する言語の著作物として保護の対象とし(2条1項1号,10条1項1号),これに関する盗用や剽窃は,複製権,翻案権や氏名表示権等に係る問題として処理することを想定している(21条,27条,19条)と解されるから,原告の主張する利益は,著作権法が既に想定しているものといえ,別個に保護すべき法益とは認められない。

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