Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為▶一般不法行為[否認事例]③(大手学習塾向けの補習サービス

▶平成30511日東京地方裁判所[平成28()30183]
原告は,本件における被告の行為は,原告の作成したテスト問題等を不正に使用することにより原告の営業の自由を妨害することを目的とするものであり,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たるので,一般不法行為を構成すると主張する。
本件においては,被告が原告の著作権を侵害したと認めるに足る証拠はないところ,著作物に係る著作権侵害が認められない場合における当該著作物の利用については,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないというべきである(最一小判平成23年12月8日参照)。
本件についてみるに,原告は,被告が原告作成に係る問題等を入手し,ライブ配信などの方法でその解説をするのは原告のノウハウにただ乗りするものであると主張するが,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業としてその補習を行うこと,すなわち,当該大手学習塾の授業内容を理解し,又はその実施するテストの成績を向上させるため,当該大手学習塾の問題や教材を入手し,その解説等を行うとのサービスを提供することは,自由競争の範囲を逸脱するものではなく,そのような営業形態が違法ということはできない。
また,原告は,被告の行為は原告の営業の自由を妨害し,原告の顧客を奪取することを目的とするものであると主張するが,被告がそのような主観的な意図を有していたことをうかがわせる証拠はない。加えて,被告が原告学習塾の生徒に提供するサービスは,原告学習塾における理解の深化や成績向上等を目的としているのであるから,被告学習塾に通塾する原告学習塾の生徒は原告学習塾における学習を継続することを前提としているものと考えられる。そして,仮に被告の行為により原告のプリバード(個別指導塾)の受講者が減少したとしても,それは大手学習塾の教材や問題の補習というサービス分野における自由競争の範囲内であるというべきである。
さらに,原告の作成した問題の入手方法,ライブ解説の配信方法等についても,原告の営業を妨害するような態様で行われていたと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,本件における被告の行為については,不法行為の成立が認められるべき特段の事情は存在しないというべきである。
[控訴審も同旨]
平成30126日知的財産高等裁判所[平成30()10050]
控訴人は,被控訴人が本件各表示をしていることが不競法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないとしても,被控訴人において,控訴人が多額の費用と労力をかけて作成した著作物であり,いわば企業秘密として非常に大きな価値を持つテスト問題について,控訴人に無断でその解説本を出版し,あるいは,ライブ解説を提供する行為は,控訴人の作成したテスト問題等を不正に使用することにより,控訴人の営業の自由を妨害することを目的とするもので,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為であるから,一般不法行為を構成すると主張する。
控訴人は,著作権侵害ないし不競法上の不正競争行為の主張をするものではないから,被控訴人の行為が一般不法行為を構成するのは,被控訴人の行為により,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益が侵害されるといえる特段の事情がある場合に限られるというべきであるところ(最高裁判所第1小法廷平成23年12月8日判決参照),被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害すると直ちにいうことはできないし,控訴人の主張も,そのような利益が存在することを十分に論証しているとはいい難い。
さらに,控訴人のテスト問題を入手して解説本の出版やライブ解説の提供を行うについての被控訴人の行為が,控訴人の営業を妨害する態様であったこと,又は控訴人に対する害意をもって行われたことをうかがわせる証拠はなく,被控訴人の行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱する不公正な行為であったとも認められない。
以上のとおりであるから,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,控訴人に対する一般不法行為に当たるということはできない。
控訴人は,大手学習塾である控訴人学習塾での成績を向上させるため,被控訴人が控訴人において多大な時間と労力をかけて作成したテスト問題の解説を行うという被控訴人学習塾の営業は,控訴人のノウハウにただ乗りするものであって,自由競争の範囲を逸脱し,一般不法行為を構成すると主張する。
しかし,大手学習塾が,自ら作問したテスト問題の解説を提供するという営業一般を独占する法的権利を有するわけではないから,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業として大手学習塾の補習を行うことそれ自体は自由競争の範囲内の行為というべきである。そして,控訴人が主張する,中学校受験生を対象とする学習塾同士が熾烈な競争下にある中で,控訴人がその教育方針に従い,そのノウハウに基づいてテスト問題を作問していること,被控訴人による解説は控訴人による事前の審査を経ておらず,その内容が受験テクニックに偏ったもので,控訴人の出題意図や教育方針に反することといった事情があったとしても,このことから直ちに,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が社会通念上自由競争の範囲を逸脱するということはできない。
控訴人は,被控訴人が,①控訴人学習塾の生徒をターゲットに控訴人学習塾での成績アップを宣伝文句として生徒を集め,②控訴人学習塾のテスト問題を中心にライブ解説の提供及び解説本の出版をし,③控訴人学習塾の大規模校の周辺を中心に被控訴人の学習塾を展開し,④合格率の高い控訴人学習塾の生徒を集客することにより,被控訴人の実績を誇示していることからすれば,被控訴人には,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったと推認されると主張する。
しかし,控訴人学習塾の生徒が被控訴人学習塾を選択し,プリバートに入室しなかったとしても,それが社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではないのは上記に説示したところから明らかである。そして,上記①~④の事情があることにより控訴人の信用が害されるとする根拠は不明であり,これらの事情から,被控訴人に,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったことが推認されるという控訴人の主張は採用できない。
以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の一般不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

一覧に戻る

https://willwaylegal.wixsite.com/copyright-jp