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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作隣接権▶レコード製作者の権利

[レコード製作者の意義]
▶平成141017日東京高等裁判所[平成11()3239]
「レコード製作者」の定義として「(音を)最初に固定した者」として定められているのは、単に商品としてのレコードの複製における技術的熟練に比べて、音の最初の固定行為の方が明白に芸術的想像力を要するという考え方に立って、最初の固定行為に価値を認めたためである。

▶平成190119日東京地方裁判所[平成18()1769]
著作権法上,レコード製作者とは,「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。」(著作権法216号)と定義されているから,レコード(同法215号)に入っている音を初めて蓄音機用音盤,録音テープその他の物に固定した者,すなわち,レコードの原盤の制作者を指すものと解される。そして,レコード製作者であるためには,いかなる方式の履行をも要しないものであるが(同法895項),物理的な録音行為の従事者ではなく,自己の計算と責任において録音する者,通常は,原盤制作時における費用の負担者がこれに該当するというべきである。また,レコード製作者が誰かについては,原盤制作と同時に原始的に決定されるべきものであり,原盤制作後の後発的な費用負担の変更等によって,レコード製作者たる地位そのものが変わることはないものと解される。

▶平成251120日東京地方裁判所[平成24()8691]
著作権法上の「レコード製作者」とは,「レコードに固定されている音を最初に固定した者」(著作権法216号)をいうが,ここでいう「固定した者」とは,物理的な録音行為の従事者ではなく,自己の計算と責任において録音する者,通常は,原盤制作時における費用の負担者がこれに該当するというべきである(東京地裁平成19119日判決)。

▶平成251120日東京地方裁判所[平成24()8691]
製作費の全額として想定された額を全額負担するとの合意をした場合,別段の合意のない限り,その負担者が完成したレコードのレコード製作者となり,レコード製作者の権利の全部を原始的に取得するものというべきであり,実際の製作費が当初の想定を超え,超過分を負担した者がいたとしても,当該負担者がレコード製作者の権利の全部又は一部を取得することはないと解するのが相当である(。)

▶平成30419日大阪地方裁判所[平成29()781]
著作権法2条1項6号は,レコード製作者を「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義しているところ,「レコードに…音を…固定」とは,音の媒体たる有体物をもって,音を機械的に再生することができるような状態にすること(同項5号も参照),すなわち,テープ等に音を収録することをいう。
そうすると,レコード製作者たり得るためには,当該テープ等に収録されている「音」を収録していることはもとより,その「音」を「最初」に収録していることが必要である。
ところで,著作権法96条は,「レコード製作者は,そのレコードを複製する権利を専有する。」と定めているところ,ある固定された音を加工する場合であっても,加工された音が元の音を識別し得るものである限り,なお元の音と同一性を有する音として,元の音の「複製」であるにとどまり,加工後の音が,別個の音として,元の音とは別個のレコード製作者の権利の対象となるものではないと解される。
本件では,音楽CDの制作工程からすると,販売される音楽CDに収録されている最終的な音源は,ミキシング等の工程で完成するものの,ミキシング等の工程で用いられる音は,そこで初めて録音されるものではなく,既にレコーディングの工程で録音されているものである。そして,レコーディングの工程により録音された音を素材としてこれを組み合わせ,編集するというミキシング等の工程の性質からすると,ミキシング等の工程後の楽曲において,レコーディングの工程で録音された音が識別できないほどのものに変容するとは考え難く,現に,本件マスターテープ2に収録されている音が,本件マスターテープ1に収録されている音を識別できないものになっているとは認められない。そうすると,本件音源についてのレコード製作者,すなわち本件音源の音を最初に固定した者は,レコーディングの工程で演奏を録音した者というべきであるから,原告がミキシング等を行ったことによりそのレコード製作者の権利を原始取得したとは認められない。

[レコード製作者の複製権]
▶平成120516日東京地方裁判所[平成10()19566]
原告らが主張する「解釈その一」の要旨は、著作権法96条は「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」ことを規定するところ、ここにおける「専有」権という概念が著作権法上明らかでなく、また、いかなる場合に右専有権が「侵害」(同法1121項)されたといえるかも著作権法上明らかではないから、これらの解釈に当たっては著作権法の目的、趣旨に沿って解釈すべきであるとの前提に立った上で、著作権法がレコード製作者にレコードの複製権を認めた趣旨は「レコード製作者の音源制作活動に作詞家・作曲家の音楽創作活動等に準じた創作性を認め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権を保障し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済的利益を確保できるようにすること」にあるから、レコード製作者の音源の複製に対する排他的支配の状態を妨害し、レコード製作者による当該音源の独占的販売による経済的利益の確保を阻害することとなる行為は、それが同法2115号が規定する「複製」に直接当たらない行為であっても、レコード製作者の複製権を「侵害」するものといえる、というものである。
そこで検討するに、著作権法96条は「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する。」と規定するところ、ここにいう「レコードを複製する権利」とは、レコードを「有形的に再製する」(同法2115号)権利であり、また、「専有する」とは、文字通り「専ら有する」ことを意味することが明らかであるから、結局のところ、著作権法96条は、レコード製作者が、自らの製作に係るレコードを有形的に再製する権利を専ら有していることを規定するにすぎないのであり、したがって、ここから導き出されるレコード製作者の権利とは、その製作にかかるレコードを自ら自由に有形的に再製することができるとともに、その意思に基づかずに他人が右レコードを有形的に再製することを禁止し得るという権利であるといえる。してみると、右のようなレコード製作者の複製権を「侵害」する行為として、同法1121項による差止請求等が認められる行為とは、レコード製作者の意思に基づかずにその製作に係るレコードを有形的に再製する行為にほかならないものというべきである。
他方、原告らの主張は、著作権法96条の規定を根拠に、レコード製作者がそのレコードの複製に関して「専有権」なるものを有するとの前提に立った上で、その専有権の内容をレコードの複製を排他的に支配しその独占的販売による経済的利益を確保する権利として位置付け、かつ、右のような専有権との関係で「侵害」の成否を論じるものといえる。しかしながら、前記のとおり、著作権法96条がレコード製作者に認めている権利は、レコードを「複製する権利」、すなわちレコードを「有形的に再製する権利」にすぎないのであり、同条における「専有する」との文言は、右のような権利が当該レコードの製作者に排他的に帰属することを規定したものにすぎないことは、その文言上明らかというべきである。
原告らの主張は、権利の帰属態様が排他的であることを表す「専有する」との文言を、あたかも権利の内容が複製に係る利益を排他的に支配するものであることを表すかのごとく理解することを前提とするものであり、その前提において誤りがあるといわざるを得ない。
また、原告らは、レコード製作者に複製権が認められた趣旨が「レコード製作者の音源制作活動に作詞家・作曲家の音楽創作活動等に準じた創作性を認め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権を保障し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済的利益を確保できるようにすること」にあると解されるとした上で、実質的にみて、レコード製作者の音源の複製に関する排他的支配の状態を妨害し、その独占的販売による経済的利益の確保を阻害する行為については、それが「複製」行為に当たらないものであっても、レコード製作者の複製権を侵害する行為と評価すべきである旨を主張するものであるところ、仮に、著作権法がレコード製作者の複製権を認めた趣旨が原告らの主張するようなものであるとしても、著作権法がそのような趣旨を具体化するものとして現にレコード製作者に認めたのは、あくまでも同法96条が規定する「レコードを複製する権利」を「専有する」ことにすぎないのであるから、右権利を侵害する行為であるか否かは、前記のとおり、それがレコードを「複製」する行為であるか否かによるものとするのが著作権法の採る立場なのであって、これを離れて、同条の実質的趣旨のみを根拠に、複製権侵害行為の範囲を拡張するがごとき解釈は、法律解釈の限界を超えるものといわざるを得ない。
以上によれば、原告らの「レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解釈その一」に基づく主張は採用できない。

[レコード製作者の送信可能化権]
▶令和31014日東京地方裁判所[令和3()16415]
第2 事案の概要
本件は,レコード製作会社である原告らが,電気通信事業等を営む被告に対し,氏名不詳者が,被告の提供するインターネット接続サービスを経由したファイル交換ソフトウェアの使用によって,原告らがレコード製作者の権利を有するレコードの送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害されたことが明らかである旨を主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるか)及び2(被告は本件各発信者情報に関して開示関係役務提供者に当たるか)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,氏名不詳者が,別紙記載の各日時頃,被告のインターネット接続サービスを利用し,同記載の各IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し,ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて,本件各レコードを複製したファイルを不特定多数の者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態に置いたことが認められ,本件全証拠をみても,原告らにより本件各レコードの使用許諾がされたことや著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事実は認められない。
被告は,本件システム[注:BitTorrentネットワークを介して公開されるファイルの流通量等を監視するためのシステムである「P2P FINDER」のこと]の技術的信用性に疑義があると主張するが,証拠によれば,本件システムは,専門的有識者を含んだ構成員で構成されているプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の発信者情報開示関係ワーキンググループ技術部会による認定審査を受けていることが認められる上,本件全証拠をみても,本件システムの技術的信用性を疑わせる事情は見当たらず,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 以上によれば,被告が提供するインターネット接続サービスを利用した氏名不詳者による上記各行為により,原告らが有する本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえ,本件各発信者情報は各権利侵害に係る発信者情報に該当し,被告は,開示関係役務提供者に当たるものといえる。

▶令和31028日東京地方裁判所[令和3()16890]
1 争点(侵害情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利が侵害されたことが明らかといえるか。)及び争点(本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
ビットトレントにおいては,個々の使用者の間で相互に対象となるファイルが共有される。すなわち,ビットトレントにおいて,特定のファイルを入手した使用者は,ファイルの提供者の一覧であるトラッカーに登録され,他の使用者から要求を受けた場合には,自己の使用する端末に保存した当該ファイルを送信して提供することになる。具体的には,特定のファイルをダウンロードし,自己の端末に保存すると,当該端末の電源が入っていてインターネットに接続されている限り,当該ファイルの送信を要求した不特定の者に対し,当該端末に保存された当該ファイルを自動的に送信する状態となる。
ビットトレントにおいて特定のファイルを得ようとする者は,インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトに接続して,当該ファイルのトレントファイルを入手する。そして,トレントファイルに含まれるトラッカーの情報から,当該ファイルの提供者であるピアのアイ・ピー・アドレスを入手し,これに接続して,当該ピアから,当該ピアが使用する端末に保存した当該ファイルの送信を受ける。
プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は,プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインにおいて,発信者情報の開示を請求する者が,権利を侵害するファイルを送信可能状態に置いていたユーザのIPアドレス,タイムスタンプ等を,同協議会が特定方法の信頼性が認められると別途認定したシステムを用いて技術的に特定し,プロバイダ等が確認した場合には,上記の請求に当たり,IPアドレス等の特定方法が信頼できるものであることに関する技術的資料等の提出を要しないと定めるところ,クロスワープ株式会社(以下「クロスワープ」という。)は,一般社団法人テレコムサービス協会が上記のシステムとして認定した「P2P FINDER」(以下「本件システム」という。)を用いてビットトレント等において公開されているファイルの流通量等を監視している。
クロスワープは,本件システムを用いて探索した結果,本件各レコードを複製することにより作成された各ファイルがビットトレントにおいて共有されていることを確認し,上記各ファイルの全体を公開しているピアのものとして特定された本件IPアドレスから,本件各日時頃,上記各ファイルの全体の送信を受けた。上記各ファイルに記録されている各楽曲の歌唱の旋律,歌詞,歌唱方法,歌声,伴奏音楽の楽器構成,演奏方法及び歌唱・演奏のタイミングは,本件各レコードに固定されている各楽曲のものと同一であった。
原告らが製作した本件各レコードを複製することにより作成された各ファイルが,本件各日時頃,ビットトレントを通じて,本件IPアドレスから送信された(前記)ところ,ビットトレントの仕組み(同)に照らせば,本件各日時頃に本件IPアドレスを割り当てられた電気通信設備を電気通信の用に供された者が,上記各ファイルが保存された端末をインターネットに接続すること等により,上記各ファイルを自動公衆送信し得るようにしていたことは明らかである。上記の者は,原告らの各レコード製作者の権利(送信可能化権)を侵害したといえ,これにつき,著作権法上の権利制限事由の存在やその他不法行為の成立を阻却する事由の存在を基礎づける事実は認められない。また,上記の者は,上記行為により不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信,すなわちプロバイダ責任制限法2条1号所定の特定電気通信によって上記各ファイルを流通させたものと認められる(同)。
したがって,特定電気通信による情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるといえ,また,プロバイダ責任制限法2条3項所定の特定電気通信役務提供者である被告が保有する本件各情報は原告らの権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。

[原盤の所有権に関わる論点]
▶平成251120日東京地方裁判所[平成24()8691]
マスターCDの所有権は,特段の合意がない限り,製作費を投じてマスターCDを製作させたレコード製作者に原始的に帰属するものとみるのが相当であ(る。)

▶平成28216日東京地方裁判所[平成25()33167]
原告○○は,本件廃盤処置によって本件原盤,本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして,これが,被告らによる原告○○の本件原盤等に対する所有権を侵害する旨主張する。
しかしながら,本件廃盤処置がされたからといって,原告○○において本件原盤等を使用し,又は収益することが禁じられるわけではない上,これらを原告らにおいて販売するなどの方法によって適宜処分することも可能なのであるから,本件廃盤処置が原告○○の本件原盤等に対する所有権を侵害するものということはできず,原告○○の上記主張を採用することはできない。

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