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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

演奏権▶個別事例①(音楽教室での演奏/ダンス教室での演奏)

[音楽教室での演奏]
▶令和3318日知的財産高等裁判所[令和2()10022]
音楽教室における2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか
控訴人らは,引用に係る原判決のとおり,音楽教室における2小節以内の演奏については,短すぎるため,どの楽曲を演奏しているかを特定することができず,著作者の個性が発揮されているということはできないから,著作物に当たらず,このような演奏については演奏権が行使されたとはいえない旨主張する。
しかしながら,一つの楽曲中から取り出した2小節分につきいずれも著作物性がないなどということはおよそ考え難い。
前述のとおり,音楽教室における演奏の目的は演奏技術等の習得にあり,演奏技術等の習得は音楽著作物に込められた思想又は感情の表現を再現することなしにはあり得ないから,音楽教室において,著作物性のない部分のみが繰り返しレッスンされることを想定することはできない。したがって,仮に,レッスンにおいて2小節を単位として演奏が行われるとしても,それは,終始,特定の2小節のみを繰り返し弾くことではなく,2小節で区切りながら,ある程度まとまったフレーズを弾くことが通常であると推認され,これに反する証拠の提出はない。そして,本件使用態様のとおり,レッスンにおいては特定の課題曲が演奏されることが決まっているのであるから,特定の2小節が演奏されたとしても,当該部分が課題曲のどの部分であるかは判然としているのであり,課題曲の2小節分が様々な形で連続的・重畳的に演奏されたとしても,それが課題曲の演奏であると認識され,かつ,その楽曲全体の本質的な特徴を感得しつつ,その特徴が表現されているとみるのが相当である。
したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができず,演奏された小節数を問わず,演奏権の侵害行為が生じる。

[ダンス教室での演奏]
平成150207日名古屋地方裁判所[平成14()2148]
著作権者は,その著作物を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(「公に」)演奏する権利を専有しており(法22条),「演奏」には,生の演奏だけでなく,著作物が録音されたものを再生することを含むとされている(同法27項)ところ,被告らは,本件各施設において,ダンス教師が受講生に対し社交ダンスを教授するに当たり,管理著作物を含む音楽著作物を録音したCD等を再生する方法により演奏していることは当事者間に争いがない。
しかるところ,原告は,受講生に対し社交ダンスを教授するに際して管理著作物等を再生する行為は,「公に」演奏する行為に当たると主張するのに対し,被告らは,上記再生行為は,特定かつ少数の者に対するものであると主張して,「公に」演奏する行為であることを否定するので,まず,この点について検討する。
一般に,「公衆」とは,不特定の社会一般の人々の意味に用いられるが,法は,同法における「公衆」には,「特定かつ多数の者」が含まれる旨特に規定している(同法25項)。法がこのような形で公衆概念の内容を明らかにし,著作物の演奏権の及ぶ範囲を規律するのは,著作物が不特定一般の者のために用いられる場合はもちろんのこと,多数の者のために用いられる場合にも,著作物の利用価値が大きいことを意味するから,それに見合った対価を権利者に環流させる方策を採るべきとの判断によるものと考えられる。かかる法の趣旨に照らすならば,著作物の公衆に対する使用行為に当たるか否かは,著作物の種類・性質や利用態様を前提として,著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断するのが相当である(このような判断の結果,著作権者の権利を及ぼすべきでないとされた場合に,当該使用行為は「特定かつ少数の者」に対するものであると評価されることになる。)。
これを本件についてみるに,被告らによる音楽著作物の再生は,本件各施設においてダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであることは前記のとおりであり,かつ,社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり,その練習ないし指導に当たって,ダンス楽曲の演奏が欠かすことができないものであることは被告らの自認するところである。そして,被告らは,格別の条件を設定することなく,その経営するダンス教授所の受講生を募集していること,受講を希望する者は,所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること,受講生は,あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく,事前に受講料に相当するチケットを購入し,レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって,営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること,レッスン形態は,受講生の希望に従い,マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること,以上の事実が認められ,これによれば,本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である被告らは,ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当である。
この点につき,被告らは,①本件各施設におけるCD等の再生は,被告らとダンス指導受講の契約を結んだ特定の生徒に対し,ダンス技術の指導に伴ってなされるものであり,両者の間には密接な人的結合関係に依存した継続的な関係が存することに照らせば,本件各施設におけるCD等の再生は特定の者に対してなされるものであること,②被告らのダンス指導は個人レッスンを基本としているところ,その生徒数は数名,多くとも10名程度であるから,多数の者に対する演奏ともいえないこと,などを理由に,公衆に対するものではないと主張する。 なるほど,顧客である受講生らと被告らとの間にダンス指導受講を目的とする契約が締結されていること,この契約は,通常,1回の給付で終了するものではなく,ある程度の期間,継続することが予定されていること,本件各施設において,一度にレッスンを受けられる受講生の数に限りがあること,本件各施設におけるダンス教授が個人教授の形態を基本としていること,以上の事実は否定できない。しかしながら,受講生が公衆に該当するか否かは,前記のような観点から合目的的に判断されるべきものであって,音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ないし特別な関係が存することや,著作物利用の一時点における実際の対象者が少数であることは,必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上,①上記認定のとおり,入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受講生資格を取得することができ,入会の申込みと同時にレッスンを受けることも可能であること,②一度のレッスンにおける受講生数の制約は,ダンス教授そのものに内在する要因によるものではなく,当該施設における受講生の総数,施設の面積,指導者の数,指導の形態(個人教授か集団教授か),指導日数等の経営形態・規模によって左右され,これらの要素いかんによっては,一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能と考えられることなどを考慮すると,受講生である顧客は不特定多数の者であり,同所における音楽著作物の演奏は公衆に対するものと評価できるとの前記判断を覆すものではないというべきである。

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