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以下の小説にはBL・やおい・耽美と呼ばれる表現が含まれています。

13.甘い果実

13-2/2

 気づけば、新見の腕を後ろから掴んでいた。
 少し目を丸くして振り返った新見に、溝口は「ちょっと休んでけば」と声を掛ける。
「でも迷惑でしょうし」
「なんで?いいよ、酔っ払い」
 その台詞に新見は苦笑した。自分では真っ直ぐに歩いていたつもりだったが、相当ひどい歩き方だったんだなと自嘲する。
 溝口に言われるままにソファーに腰掛け、彼が持ってきた水を口に含む。新見はずいぶん気分よく酔っ払っている自分に戸惑う。
 水を飲み干して、隣に座った溝口の横顔を見る。テレビのチャンネルを忙しなく変えながら、彼は煙草を咥えてポケットに手をやった。何かを探しているらしいが、見つからないらしい。新見がダイニングテーブルの方へ目を向けると、そこにライターがある。薄く笑って立ち上がると、テーブルの上のライターを取った。
「係長」
「ん?」と振り返った顔の目の前でライターの炎を見せると、「あ、ワリ」と彼は煙草に火をつける。炎で顔に陰影が出来て、睫毛が少し下を向く。煙草に添えられた指が長く細い。
 新見は思わず見とれてしまった。
 伊勢崎とは違う色気があると思った。
「なにジロジロ見てんの」
 照れたように溝口は言い、わざと新見から視線を外した。そして再びテレビのチャンネルを変える。そんな溝口に新見は身体を寄せた。肩に頭をのせて力を抜く。
「どうした?」
 溝口の態度は落ち着いたもので、テレビの電源を消すと、寄りかかってきた新見の肩を軽く抱く。
 新見の鼻に紫煙がまとわりつく。
 しばらくずっと二人はそうしていた。時計の針が動く音、冷蔵庫のモーター音、そして新見の耳には、早鐘のように打ち付ける溝口の鼓動。
「緊張してます?」
 思わず笑って新見が溝口に聞けば、バツが悪そうな顔で彼は煙草を灰皿に押し付ける。
「課長がたぶらかされたのも納得」
「ひどい言い方だ。課長とはそういう関係じゃありませんよ」
「へえ?」
「あの人は私の保護者というか、理解者というか、そういう方です」
「じゃあもう一人の男の方だ」
「え?」
「来てたって聞いたよ。ブランドスーツ姿のいい男が会社に」
 伊勢崎のことを出されて新見は思わず微笑んだ。その表情を見て、溝口は「こっちが本命か」と呟く。
「係長はホント噂がお好きですね。聞くのと喋るのとどっちが好きなんですか?」
「どっちも好きじゃないよ」
 眉をひそめて溝口は言ったが、新見に言わせれば説得力がなかった。あの日の夜は、三人の女性にそそのかされている感があったが、本人も相当下世話好きとみた。
「おい、まさか噂を流してたのが俺たちだと疑ってるんじゃないだろうな」
 急に黙りこんだ新見の態度に、溝口はそう言うと、詫びれもしない肯定の言葉が返ってくる。「思ってますよ」
「だからあの夜も言ったけど違うって。俺たちも噂を聞いて悪ノリしたけど、発信源じゃない。あの三人にも確認済みだ。第一噂っていうのは、尾ひれやら何やらがついて発信源なんて一つじゃないさ。現に課長との話は間違いだったわけだろ?」
 気分を害したように溝口は言い、新見はその態度で疑いを解いた。もし当事者ならもっと巧く誤魔化す術を彼は持っているはずだった。こんなに必死になって、しどろもどろで話すとはなんとも愉快痛快。
「まあこの辺で許してあげますか」
「全然納得してないだろ、お前」
 憮然とした顔を至近距離で見て新見は微笑んだ。ふと視線が合って、お互いに瞳の奥を探りあう。触れている体温が布越しでひどくもどかしい。
「おかしいな、俺ホモじゃないんだけど」
「私だって違いますよ」
 そしてどちらともなく唇を合わせる。目を閉じて味わうように互いの舌を絡めあう。今度はどちらともなく目を開けて、微笑み合う。
「課長は私を淫乱だというんですよ、ひどいですよね?」
「つまりキスはしたってことか」
「おや失言しました」
「言い得て妙だな」
「なにがです」
「淫乱だ」
 溝口は新見のシャツの下から直接背中に触れた。きめ細かい肌は女のそれと変わらない。新見の手も溝口の背中に触れてきた。腰の辺りから確かめるように背中までを撫で上がってくる。ぞくぞく痺れるような感覚があって、溝口の欲情がせりあがってきた時に、吐息のような声が聞こえた。
「あぁあ、いい」
 顎を上げて酔ったように言う新見の首筋に溝口は唇を寄せる。背中に触れていた手を胸に持ってきて突起に触れると、ぴくと新見の身体が震えた。
「ン、っ、」
 その声に溝口は我慢がきかなくなった。ソファーの上に新見を押し倒すと、彼のシャツを捲り上げて乳首に吸い付いた。新見は気持ちよくて「っ、あ、そこ」と息を荒げ、溝口のシャツを握る。それが暴れて抵抗しているような良さがある。
 互いの腰がぶつかりあって、溝口の膨らみが新見の股間に当たった時、彼のものも大きくなっていることに気づいた。
「・・・お前、男なんだな」
「何を、いまさら」
 息を乱して言い合って、股間を擦り合わせ続けた。ズボンの狭さが窮屈になってきた時に、溝口は苦しそうに眉間に皺を寄せた。正直彼は混乱していた。きれいな容姿なのに、肉体は男である目の前の人物をどう扱えばよいのか。
「触ってあげましょうか?」
 そんな戸惑いを察したように新見は言い、絶句している溝口のジッパーを下ろし始めた。彼が二の句を告げる前に、膨れ上がっている肉棒を取り出して握る。
「ぅ、あ」
 溝口は押し寄せてきた快感に考えるのを放棄した。感触を確かめるようにゆっくりと腰を揺らす。リズムに合わせて新見はそれをすりあげてやる。
「あッ、っ、はぁ」
 段々溝口の息が上がっていくさまを新見は純粋に楽しんでいた。彼の中に、以前深町を抱いた時に灯った炎がひとつ。
「に、新見。ワリぃ、俺、も、もう、イキそ」
 溝口は絶頂が近いことを新見に訴え、眉間に力を入れた。そして痙攣するように震えたかと思うと、新見の手のひらに生暖かい精液を放出した。荒げた息で溝口はぐったりと新見に覆いかぶさり、ぼそりと耳元で詫びる。
「どうして謝るんですか?」
 新見の声は笑いを含んでいて、溝口はますます申し訳なくなった。
「途中まではホントにイケると思ったんだ。でもお前がその」
「勃起してて萎えた?」
「そんな露骨に」と苦笑しながら顔を上げると、新見の視線が先程とは違うことに気づいた。豹変したその顔つきに一瞬息がつまる。
「お前、何か考えてるだろう」
「どうして?」
「目つきがまるで男だ」
 その溝口の台詞に新見は笑った。そして手についた精を舐めあげながら言う。「最初から私は男です」
 反射的に顔を引いた溝口の顔を新見は両手でがっちりと押さえ込んだ。その力強さに溝口は一瞬怯んだが、ふわりとされたキスは優しく、ドキリと胸が鳴る。
「反則だ」
「なんとでも」
 新見は鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌な顔つきで、跨ったままの溝口のシャツのボタンを外した。上半身を起こして互いに向かい合い、彼の乳首に唇を寄せる。
「ぁ」
 思わず溝口が声を上げると、新見は薄く笑った。溝口ははだけたシャツに、下半身を出しっぱなしの姿で床に膝をつかされる。後ろから新見は覆いかぶさり、耳朶の後ろ側を舐め上げる。
「くっ、ぅ」
 シャツを全て脱がされて、ズボンも途中まで下ろされる。尻を晒す形になって溝口は羞恥にかられた。
「これから起こる事に抵抗しないんですか?」
「起こる事?」
「私があなたを抱くこと」
 背中にキスの雨を降らせながら新見は言い、溝口は震えながら呻いた。
「なんかもう、どうでもよくなってきた」
「いいですね、その言い方」
 笑いを含んだ新見の声を背後に聞きながら、溝口は少し我に返る。確かに何か間違ってるかもしれないと。
 でも、あがなえない。
 晒した蕾を新見が撫でるように触れてくる。溝口は鳥肌を立てて思わず尻を上げた。その時己のモノから残滓が滴り床を濡らす。
「これ、どうしたの」
 後ろから伸びた新見の指が亀頭に触れる。濡れている先をゆるゆると輪を描くように。
「や、やめ」
 尿道辺りを虐められ、精液が潤滑油のように新見の指を滑らした。そしえてべたべたになった指をそのまま蕾へと差し込まれる。
「あ、ぁぁあ」
 異物感が全身を駆け上がる。快感なのかどうなのか分からない痺れに溝口は身体を委ねた。指が抜き差しされている感触が妙に癖になる痛みで。
「今、一本入ってるの分かります?」
 頷くのみの溝口を見ながら新見は喉を鳴らす。
溝口の背中のラインはしなやかで、指を咥えこむ尻はほどよく筋肉がついている。早く犯したい気持ちを押さえ込んで彼は指を増やしていく。
「今何本入ってるか分かります?」
「さ、さ、んぼん」
 震えながら答える溝口の股間を見ると、先程まで縮こまっていたものが大きく膨らんで、相変らず先走りか残滓か分からないものが垂れていた。指を咥えこむ蕾は、ぎゅうぎゅうと締め付けて内壁は熱く。
 新見は左手で自分のものを取り出すと、一呼吸つく。指を抜くのと同時にそれをあてがうと、溝口の背中が緊張した。
「係長。私ももう我慢がきかなくなりました」
 背中に覆いかぶさり耳元で囁きながらゆっくりと腰を進めると、溝口の口から悲鳴のような嬌声のような声が上がる。
「ぁあ、っう、新見、新見っ」
 床に爪を立てて溝口は吼え、新見は狭い蕾に無理やり押し入る。眩暈が起こるほどの締め付け感。深町を抱いた時でもこんなに強烈ではなかった、と彼は顔を歪めた。
「あぁあっ、ヤバ、っいい。凄いっ、」
 溝口はゆるゆると動き出した熱い棒に興奮した。今まで経験したことがない圧迫感があり、内壁を擦る刺激が快感なのか痛みなのか混乱してくる。忙しなく蠢く肉棒。今度は奥を突かれて、大きく引く。
「あっ、あっ、そ、そこ、っ」
 溝口が喘ぎ、新見もそれに合わせて腰を振った。二人は快感に貪欲だった。何も考えず、それを追い続けた。溝口は新見にイイところを教えて、新見はその言われた場所を突いた。
 互いに腰のリズムが合い、深く繋がるようになると、絶頂に近づいた溝口は興奮のあまり呼吸が浅くなって眩暈を覚えた。
「ま、まずい」
 荒れた息の間で溝口が言い、新見が腰を引いたタイミングで、それは起こった。
 がくん、と溝口の膝が崩れて、程よく締め付けていた蕾から新見のものが抜けた。
「えっ?・・・ッう」
 新見は倒れた溝口に動転しながらも、同時に射精した。放たれた精が、彼の中ではなく床と尻に散る。
「か、係長っ?」
 新見は余韻を楽しむことなく崩れた溝口の顔を覗き込む。彼は目を閉じ、完全に気絶してしまっていて、声も届いていないようだった。
 こんなことが起こるとは、と新見はしばし呆然とした。混乱する頭で、とりあえずやれることをしようと立ち上がる。彼を仰向けにして、冷したタオルで汗を拭いた。呼吸は落ち着いているが、救急車を呼んだほうがいいのか、と携帯に手を掛けたところで、溝口の瞼が動いた。
「係長、聞こえますか?」
 声を掛けてようやく瞼が開く。時間にして三分程度。
「ア、アレ?」
「よかったぁ」
 新見は安堵した。「どうしようかと思いましたよ。具合大丈夫ですか?」
「う、うん」と溝口は言いながらも上半身を起こす。何が起こったのか覚えていないが、断片的な記憶を辿り想像してみるに、気絶していたらしい。
「数分ですけどね。ああ、怖かったぁ」
 新見は寒々と両腕を抱いていたが、下半身だけ裸だった。慌てていて精の処理もしていないのか、濡れたまま。溝口は思わず自分のものを確認する。縮んではいるが明らかに射精した後が残っていた。
「どうしました?」
 溝口がぽかんとしているので、新見が不安になって声を掛けると、彼は、ぷっと噴出した。
「間抜けなカッコ」
「なに言ってるんですか。心配したんですよ、本当に」
「悪かったよ」
 明るく言われて新見は苦笑する。「人の気もしらないで」
「またしよっか」
「気絶した人の台詞ですか」
 新見が呆れて言うと、溝口は楽しそうに彼の首に両手を巻きつけ、耳元で囁く。「すげぇよかった」
「そりゃどうも」
「あれ。ずいぶんノリが悪いな」
「さっきの衝撃が抜けてないんです。怖かったんですよ、本当に」
 苦虫を噛み潰したように言われて、溝口は安心させるように新見の頭を撫でてやるのだった。

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桃のカペリーニは実在します。某レストランの夏の看板料理らしいです。
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