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以下の小説にはBL・やおい・耽美と呼ばれる表現が含まれています。
久しぶりのデートである。
いや、デートだと思っているのは俺だけかな、などと伊勢崎は浮かれていた。
「まあ、いいですが」
電話をした時、新見は相変わらずクールに誘いに乗ってきた。「借りていたネクタイも返さなくてはいけませんしね」
理由をつけないといけないのか、と伊勢崎は不満だったが、彼を再び誘い出せたのはよかった。以前電話が来たときは、彼は多忙を極めていたらしいが、あれから一週間がたち、ようやく落ち着いたようである。
「外食でもしようか」と伊勢崎は新見を誘ったが、彼の反応は鈍かった。伊勢崎は知らないことだったが、外食は園田との付き合いで十二分に行われていたので、彼としては飽きていたのだった。
返事がどうもノリ気でないことを察した伊勢崎は改めて頭を捻ることになった。フランス料理か割烹にでも行こうと思っていたので、他は何も想定していなかった為だ。
しばらく無言が続いたが、突然新見からため息が漏れた。しまった、機嫌を損ねただろうか、と伊勢崎は警戒したが、そうではなかった。
「一人暮らしなもので、家庭の味が食べたいですね。どうでしょう」
意外な提案だった。勝手な想像だが、彼には肉じゃがなど生活観のある料理よりも上品なコース料理がよく似合ったから。
「だめですか」
絶句した伊勢崎に新見は再び聞く。
「えーと、つまりは俺が作るってことか?」
苦笑をしながら伊勢崎が問い返すと、つらっとした声が返ってくる。
「他に誰がつくるんですか」
ごもっとも。
しかし、伊勢崎は料理という料理を作った試しがなかった。大抵は馴染みの定食屋で朝食兼昼食をとり、夜はもっぱら枝豆で晩酌だ。
しかし、せっかく取り付けた約束をこんなところで壊したくなかった。
「分かった。なんかつくろう。お前さんの為に」
「・・・不気味な言い方しないでください」
「そんな言い方するなよ。これでも人をもてなすのはお前さんが初めてなんだから」
今度は新見が絶句する。たっぷり二秒の無言の後にようやく出た一言。
「初めてですって?」
「そう」
「・・・勘弁してくださいよ」
新見の声はひどく重々しかったが、伊勢崎はこの時点でやる気になっていた。
「そう言うな。これでも料理には自信があるんだ」
「・・・今初めてだって言ったじゃないですか」
新見の声はいつにも増して低かった。
何とか説得すると、新見は呆れながらも「まあ期待はハナからしてませんがね」と了承してくれた。
「じゃあ今週の日曜に」
伊勢崎は強引にそう言って、まだ何か言いたそうな新見の言葉を聞かずに話題を変えた。
そして今に至る。
「どーしたらいいっ!」
新見と約束を取り付けた当日の朝。伊勢崎は右隣に住んでいる川村に泣きついていた。
川村は脱色した頭をして、耳にピアスの穴が三つも開いた今時の大学生だったが、今は夏休みで偶然にも在宅していた。家はボロだが、室内にはギターやら音楽関係の機械が置いてあり、こちらは掃除も手入れも行き届いていて随分と高価そうである。
川村の家に伊勢崎が転がり込むことはよくあった。もちろん晩酌相手にであって、相談など持ちかけたことなどない。川村自身、伊勢崎が年長者だという意識はなかった。
「なに言ってんすか。いい大人が」
川村は頭をぼりぼりと掻いて、目の前で顔を青くしている二十程度年の離れた伊勢崎を見た。
「イセさんが悪いんでしょうが」
どうして俺がこんなオヤジの相談など、と川村は疑問だったが、ビールを度々おごってもらっている恩があった。
「なあなあ、頼むよ川村くん。君が以前作ってくれた酒のツマミ、あれでいいから教えてくれよ、いいだろう?」
「あ、あれは実家のお袋が送ってきたヤツで俺が作ったわけじゃ・・・」
川村は勘違いしている伊勢崎を慌てて諭すと、彼はいい年をして頭を抱えてうずくまった。そんな頭に嫌味を織り交ぜて言う。
「今更体裁整えたってしょうがないでしょうが。正直に言っちまったら?女とフラフラしていて、料理を勉強している暇がなかったって」
そうである。伊勢崎は職業が不詳な怪しい男ではあるが、妙に女にモテていた。もちろんこんなボロ屋に連れてきたことなど一度もないが、街中で見かけたことが何度もある。昨日ばったり会った時は、目の前にいる姿とは想像できないような上質なスーツを着て、女性と腕を組んで歩いていた。初めて見る女だった。
「あ、あれは違うんだ。ただの・・・」
「ただの?」
川村が伊勢崎に耳を寄せると、彼は詰まったような声を出して絶句した。
「あーどうしたら!」
そして絶叫。
一体どうしたというのか。大体こんなボロ屋に遊びに来る男に対してどうしてこう慌てているのか。川村にしてみれば不思議だった。
「よっぽどのヤツなんだなあ」
しみじみと言うと、伊勢崎はぐっと川村の肩を掴んできた。
「勝負の日になるかもしれないんだ」
「は?」
「あいつにだけは嫌われたくないんだ」と伊勢崎は必死な目を向ける。
川村は不審に思ったが、段々不憫に思えてきて、「まあまあ」と伊勢崎を慰めながらも頭の中で自分が作れる料理を反芻していた。できるといえばカレーだが。
伊勢崎にそれを言うと、それでもいいと言う。
「え、でも酒のツマミとはほど遠いん・・・」
「酒のツマミってのは言葉のアヤだ!」
はあ、と川村は小首を捻ったが、急に元気を取り戻した彼を見て、「まあ元気になったんならいいか」と気楽に考えていた。
新見は実はその日仕事をしていた。いや、実際の営業活動とは違って、個人的な活動だった。営業前の下準備とでもいおうか、次回の営業予定場所の位置を確認しながら車を走らせていた。稀に相手に会ったりする可能性があるので、ジャケット姿で。
地図片手に軽くビジネス街を歩きながら彼はようやく時計に目を走らせた。七時を回っていて夕食時にはいい頃だった。辺りは夕日で赤く染まっていて、そういえば伊勢崎の家を初めて訪れた時もこんな時間帯だったのではなかったか、と思い出し、少し新見は笑った。
車で伊勢崎の家に向かって、以前止めた場所にまた路上駐車をした。迷惑かもしれないと思ったが、残念ながら駐車場所が他に見つからなかった。
相変わらずの光景だった。
ひょいと見上げれば洗濯物が干されていて、開けっ放しの窓たち。そこから漏れる明かりと賑わい。
さて。と新見は伊勢崎の家の窓を見上げたが、ん?と眉を寄せた。今人影が二つ見えたようだったが?
まあ他に誰がいても全く構わぬ関係ではあったが、伊勢崎の性格からしてみれば、二人で会いたいと言い出すはずだった。電話でもそんな勢いだったはずだが。
新見は相変わらず不気味な軋みを立てる階段を慎重に上がると、伊勢崎の壊れたドアの前に立った。
いい香りが鼻をくすぐった。カレーだ。
それが一番簡単だものな、と新見は微笑んで、悪戦苦闘しただろう伊勢崎を想像した。ぐらりぐらりと揺れているドアを慎重にノックすると、すぐ飛び出してくると想像していた伊勢崎が出てこなかった。それどころか室内ではバタバタと慌ただしい音が響く。
ふーん、と新見は眉を吊り上げた。どうやら先程の人影は見間違いではないらしい。
「よ、よお」としばらくして妙に息の上がった伊勢崎がドアの隙間から顔を覗かせた。
「どうも」
新見が言うと、伊勢崎はドアを持ち上げて家の中に招き入れた。新見は自然と室内と見回したが、誰もいなかった。台所ではカレーが入っているらしい鍋が火に掛かっている。
「誰かいらっしゃったんですか?」
ジャケットを脱ぎながら何気なく新見が聞くと、伊勢崎は分かりやすく立ち止まり、絶句した。「ど、どうしてそう思ったんだ?」
「何度も申し上げますが、あなたはいい加減な男ですから、嘘が非常に分かりやすいんですよ」
新見は呆れながらも一つの場所に目をつけた。
このアパートはワンルームで隠れる場所などない。あるのはトイレとあと一つ。
「どうも今晩は」
押入れの中で膝を抱えていた茶髪の男に新見は美しい笑みを浮かべて挨拶したのだった。
「それで?」と新見は畳の上に胡坐をかいて伊勢崎を見た。彼は正座をして大きな身体窮屈そうに丸めていた。
「すまん」
「まあ想像の範疇ではありましたよ。まさか誰かに作らせるとは思いませんでしたが」
怒っているのではなく新見は呆れていた。つくれないのならどうしてそう言わないのか。隣人にまで迷惑をかけて。
「あ、俺が言ったんすよ、イセさんは悪くなくてその・・・」
どういうわけか川村まで正座をして身体を丸くしていた。
新見は申し訳なさそうにしている青年に視線を移すと眉をへの字に曲げた。
「すみませんでした。ご迷惑をお掛けしまして」
「い、いえいえ」と川村は慌てて頭を振った。
どんな男が来るのかと思えば、なんと繊細な作りをした人間だろう。ジャケットを脇に置いて、白いラフなシャツに細身のネクタイをしている。スラックスには皺一つなく、髪も嫌味なく自然に後ろに流していた。ささくれた畳の上で胡坐を掻くなど、全く似合っていないし、カレーも似合わなかった。
「なんていうか・・・カレーなんか作っちまってすみません」
思わず川村の口からそんな言葉が漏れた。
「えーと」と新見は困った。「あの、カレーであったことは一向に構わないんですが」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
「えーっ嘘つかないでくださいよ、カレーなんて似合ってないし!」
その一言で、新見の形のよい眉毛が上がった。「カレーの何がいけないんですか」
「え?」
「私は、カレーもそばもよく食べますよ。それともなんですか、私はいつもナイフとフォークでお上品に食事しているとでも?」
「おいおい、落ち着け」
伊勢崎は妙な展開になった二人を見た。新見はさっきと違って明らかに川村に対して憤慨していたし、川村の方はびっくりしてきょとんとしていた。
「なあ折角だからカレーを食べよう。な、機嫌直して」
伊勢崎がそう笑いかけると、新見は不快そうな顔をする。
「私は最初から機嫌を害してはいません。あなたのいい加減さぶりに呆れてはいましたが」と冷静な声が返ってきた。
「あああ、そう」
「そうだよ。イセさんがいい加減だからこんなことになったんだ」
川村もどういうわけか便乗した。「第一こんなに気を使う相手だったら、女なんかと・・・」
「わーっ」と伊勢崎は素っ頓狂な声を上げた。
あまりに大きな声だったので新見は眉間に皺を寄せた。「なんですかいきなり」
「な、なんでもない」
新見にそうフォローすると、すっと川村の手を引っ張る。「川村君ちょっと来なさい」
「なんすか、気持ち悪い」
川村は伊勢崎に手を引っ張られ、台所付近に移動した。
「お前ね。余計なことをいうんじゃない」
伊勢崎は囁くような声で川村に言う。換気扇の音で新見には聞こえないような音量だった。
「事実を言ったまででしょうが。第一あんな気を使うような人間がくるならもっときちんとしたもの用意しておくのが礼儀でしょう」
「気を使っているのはお前だけで俺は使ってない」
「何言ってんすか。あの人とどういう知り合いですか?イセさんとあの人じゃ月とスッポン、漫才もできませんよ」
「それは俺じゃあいつに釣り合わんと言ってるのか」
「見りゃわかるでしょ」
伊勢崎は不満そうな顔をすると、川村の耳をつまみ上げた。
「いてててえ!何すんですか!」
「知らん奴が口を挟むな!」
「俺を巻き込んだのイセさんじゃないっすか。今更仲間はずれはないっすよ」
伊勢崎は絶句した。どういう意味だと川村を見返すと、彼はにぃと笑った。
「川村君。今日はアリガトウ。もう帰っていいよ」
「それはないでしょ。俺もカレー食わせてもらいますよ。なにせ、あそこにある材料は俺が持ってきて俺が作ったんですから」
伊勢崎はそう言われてぐうの音も出なかった。それを楽しそうに見返すと、川村はくるりと新見を振り返り、「今カレー盛りますね」と笑顔で言う。
「はあ」
新見はよく分からない展開に小首を傾げた。
鼻歌まじりに炊飯ジャーからご飯を皿に盛る川村を横目で見ながら伊勢崎は小声で問う。
「お前は何が望みだ?」
「えー別にー?」
「嘘付け。こんなに人に干渉するような男じゃないだろうが」
「そうでもないっすよ。俺だってあんなキレイな男と初めて会って興味あるし」
「興味は持たんでいい」
「酷いなー。紹介ぐらいしてくださいよ。あんなキレイな人ならさぞかしモテるんだろうなあ・・・。うまくいったら女紹介してくれたりとか」
川村が独り言のようにぼそぼそ言いながら二杯目のカレーを盛ると、伊勢崎は意気込んで言う。
「女か。女だったら俺が紹介してやるぞ。だから手を引け。お前がいるとせっかくのデ・・・」
「デ?」
「デ、電気をそろそろ取り替えないといけないんだ」
「・・・俺がいてもいいじゃないですか」
川村は妙に調子がおかしい伊勢崎を不審そうに見つめると、とりあえず二つのカレーを持って新見の元へ戻る。
「お待たせです」
テーブルがないので畳の上に二つのカレーを置くと川村はちらりと新見を盗み見た。
見れば見るほどキレイな男だった。女性のように華奢ではあるが、なよなよとオカマのような感じはしない。不思議な魅力があった。
「あ、今水持ってきます」
「どうぞお構いなく」と新見は川村に言いつつ、妙な感触を味わっていた。伊勢崎と会うときに第三者がいたことがないからかもしれないが、この奇妙な感じはなんであろう。自分で自分がよく判らない。不愉快とかそういうことではないが、妙に居心地が悪かった。初めて来た時はあんなにゆったりとしていたのに、どうしたことだろう。
新見は小首を傾げながら、何気なくネクタイを緩めたのだった。
川村が台所に戻ってコップに水を注いでいると、伊勢崎は腕を組んで不快そうに言う。
「お前が仕切るな」
「もういいでしょ。イセさんは自分で盛ってくださいよ。俺水持って両手塞がるんで」
「お前な」
「イセさんばっかりずるいですよ。美人ばっかり知り合いで」
伊勢崎はそう言われて、昨日ばったり仕事中に川村に会ったことを思い出した。丁度ホテルから出てきたばかりの繁華街の道だった。客は昔からの常連で元モデルだった。
「あのコはたまたま美人だっただけだ。彼女がいいなら紹介するぞ」
「うぅそっ」
「ホントだ、ホント。だから新見は諦めろ」
ようやく食いついた川村に向かってそういうと、彼は「ふーん、ニイミさんっていうんだ」と笑った。
「お前、あいつは男だぞ。ああ見えて結構なものがついてるんだ。お前はゲイか」
「ゲイじゃないけど、あの人ならイケるかも」
「なに?」その一言で伊勢崎の頭に血が昇った。「お前なんか相手にされるもんか」
伊勢崎は言いながら俺も相手にされてないのに、と内心舌打する。
「俺イセさんと違って若いからなあ」
楽しそうに水の入ったコップを持って新見のもとへ駆け寄る川村の背中を見て、伊勢崎の何かが切れた。
「てめえは言わせておけば」
異変に気づいたのは新見だった。川村は背中を向けていたが、新見は正面から伊勢崎を見ていた。顔色もそうだが、人相が明らかに変わった。
「伊勢崎さん!」
新見が叫んだ時には遅かった。伊勢崎は思いっきり川村の背中に蹴りを入れ、ふいをつかれた彼は吹っ飛ばされた。足をカレーの皿に突っ込み、それだけならまだよかったが、体勢が崩れて持っていたコップと水が新見の顔面を直撃。挙句に川村の身体自身が新見に飛び込む形となった。
「いってえ!」
新見がクッションになったので、川村は大したことがなかった。背中が酷く痛んだのと、踏んだカレーで火傷したので喚いたが、目の前の新見を見ると、「ひぃ」と声を詰まらせた。
新見は跳ねたカレーで服が汚れに汚れ、水を浴びた為に髪はぐしょぬれ、しかもコップが当たったのか、額にコブが出来ていた。
「あ、あの新見さん・・・?」
川村がそっと声を掛けると、新見はゆらりと揺れて一言。
「どけ」
「は、はいぃっ」と川村は飛びのけると、新見はゆっくりと立ち上がった。
伊勢崎はようやく我に返り、このとんでもない自体に呆然とした。
「す、すまん・・・」
吹っ飛ばした川村にそう謝ったが、ゆっくりと新見がこちらに向かってくるのを見て嫌な予感がした。いつもの彼じゃない。
服は茶色に汚く汚れ、頭から水浸し。額には何かが当たったようにコブと切り傷。
「ま、待て。これには事情がっ」
「・・・言いたいことはそれだけですか?」
美しい顔は微笑を浮かべて伊勢崎に問うたが、その目は怒りに満ち満ちていた。
新見の腕が上がった瞬間、伊勢崎のボディに一発入った。クリーンヒットしたために、体格のいい彼でも前のめりになる。そしてそれを狙ったかのように次にアッパーカット。最後に新見は可憐に舞った。
川村は見た。細身の体が回り、長い足が伊勢崎のわき腹を直撃するのを。
彼は呻いてその場に倒れた。顔を苦しそうに歪めながら。
「これ、お返しします」
新見は締めていたネクタイを取ると、意地の悪い顔つきで伊勢崎の首を力いっぱい締め付けた。苦しそうに目を白黒させている姿を見て新見は満足げに手を放し、今度は川村の方を振り返る。
彼は腰を抜かしていた。
「あなたもああなりたいですか?」
「いっ、いいえっ!」
新見はその怯えた姿に微笑みを浮かべると、川村に顔を近づけて耳打ちした。
「私はあなたに抱かれる気はさらさらありませんよ。・・・抱いてくれとおっしゃるなら考えないでもないですが」
え、と川村が新見を見ると、妖艶な笑みが近くにあった。
「・・・す、すみませんでした」
思わず謝ると、新見は「残念ですね」と微笑を浮かべた。
新見が立ち去った後、残されたのは窒息しそうな大男と、腰を抜かしている茶髪、そして染みだらけの畳。部屋にはカレーの臭いが充満していた。
「いろんな意味でこえぇ」
川村はいなくなった新見に対してそう独白したが、伊勢崎は否定する余裕もなく何度か咳き込んだ。
嵐のような出来事で、正直伊勢崎の頭は混乱していた。しかし、新見が帰ってしまった以上、失態したことだけは分かった。後々フォローしておかないと、きっと彼は自分など簡単に忘れてしまうだろうと思う。
どっと涙が溢れてきた。
「なんてことしたんだ、川村くーん!」
「俺が悪いのかいっ!」
・・・川村が納得できなかったのはいうまでもない。
了