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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権侵害総論

【著作権侵害の意義】

自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであ(る。)
<昭和55328最高裁判所第三小法廷[昭和51()923]>

著作権侵害行為は、既存の著作物を利用してある作品を作出する場合に成立するが、その利用の態様としては、①既存の著作物と全く同一の作品を作出した場合、②既存の著作物に修正増減を加えているが、その修正増減について創作性が認められない場合、③既存の著作物の修正増減に創作性が認められるが、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われるに至っていない場合、④既存の著作物の修正増減に創作性が認められ、かつ、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしまっている場合が存在する。そして、著作権(著作財産権)との関係からいえば右①②の場合は著作権中の複製権(著作権法21条)の侵害であり、右③の場合は著作権中の改作利用権(同法27条)の侵害であり、右④の場合には、全く別個独立の著作物を作出するものであって、著作権侵害を構成しない。また、著作者人格権との関係からいえば、右②③の場合が同一性保持権の侵害であり(最高裁判所昭和55328日判決参照)、右④の場合は著作財産権の場合と同様、侵害にあたらない。したがって、著作権ないし著作者人格権に対する侵害の有無は、原作品における表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得することができるか否かにより決められなければならない。
<平成71019日京都地方裁判所[平成6()2364]>

著作権侵害の成否とは、要するに、思想そのものではなく、思想(それ自体独創性のあるものであると否とを必ずしも問わない。)についての創作性ある具体的表現が無断で利用されているかどうかということであ(る。)
<昭和530621日東京地方裁判所[昭和52()598]>

被告計画書が原告企画書の著作権を侵害したか否かを判断するにあたり,著作物性のない部分について,これを比較することは無意味であるから,一個の著作物においても,その著作物における創作的な表現部分について,これが複製されたかどうかを判断することが必要であ(る。)
<平成130621日大阪高等裁判所[平成12()3128]>

論文に同一の自然科学上の知見が記載されているとしても、自然科学上の知見それ自体は表現ではないから、同じ知見が記載されていることをもって著作権の侵害とすることはできない。
<平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]>

仮に,原告の主張するように,原告著作物に記載されている野球の打撃理論等を被告が公式戦等の試合において実践したとしても,当該行為は著作権法にいう著作者の権利を侵害するものではない。(中略)本件において,原告が著作権侵害として主張する内容は,単に,被告が原告著作物に記載された内容を参考にして競技をしたというにとどまるものであって,原告著作物の具体的な表現を利用したものとはいえない。
<平成150306日東京地方裁判所[平成14()26691]>

【著作物の毀棄行為】

本件において,原告が著作権侵害と主張する行為は,本件図面の毀棄行為であるところ,仮に本件図面に著作物性が認められたとしても,著作物が固定された有形物である本件図面の毀棄行為は,その著作物についての著作権を侵害することにはならないから,原告の主張はそれ自体失当である。
<平成191212日東京地方裁判所[平成19()17959]>

【キャラクターの利用行為】

漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない(最高裁判所平成9年7月17日第一小法廷判決)。したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。 <令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]>

【プログラム著作物の使用】

著作権の支分権の中には使用権は含まれていないから、プログラムの著作物の使用は、著作権法1132項に該当する場合以外は著作権侵害とはならない(。)
<平成151218日大阪地方裁判所[平成14()8277]>

被告の行為は,適法に複製された本件プログラムの複製物を本件装置において使用しているにすぎないものであるところ,その行為は,「著作権に含まれる権利の種類」(21条ないし28条)に規定されている権利のいずれを侵害するものでもないし,複製が適法である以上,著作権法1132項の場合にも該当しない。
<平成210226日大阪地方裁判所[平成17()2641]>

【著作権侵害の依拠性】

旧著作権法の定めるところによれば、著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。
<昭和5397最高裁判所第一小法廷[昭和50()324]>

既存の著作物の表現内容を認識し,それを自己の作品に利用する意思を有しながら,既存の著作物と同一性のある作品を作成した場合は,既存の著作物に依拠したものとして複製権侵害が成立するというべきであり,この理は,翻案権侵害についても同様である。
<平成170517日東京地方裁判所[平成15()12551]>

二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。
<平成210326日大阪地方裁判所[平成19()7877]>

対象となる作品が原著作物に依拠して作成されたものであるか否かは、当該作品の制作者につき判断されるべき事項であるから、対象となる作品が共同制作にかかるものである場合には、共同制作者のそれぞれにつき依拠の要件を充足しているか否かを判断する必要があるが、共同制作者の全員が原著作物に接していなければならないというものでは必ずしもなく、自らは原著作物に接する機会がない場合であっても、当該作品を制作するについて他の共同制作者が原著作物に接していて、これに依拠していることを知っているような場合には、原著作物に接する機会のない者についても、同様に依拠の要件を充足しているものと認めるのが相当である。
<平成80416日東京高等裁判所[平成5()3610]>

【依拠の推認】

そもそも著作権侵害とは既存の著作物に依拠し、これと同一性或いは類似性のある作品を著作権者に無断で複製することによつて生ずるもので、仮に第三者が当該著作物と同一性のあるものを作成したとしても、その著作物の存在を知らず、これに依拠することなしに作成したとするならば、知らないことに過失があつたとしても著作権侵害とはならないものと解すべきである(昭和5397日最高裁第一小法廷判決)。従つて、依拠した結果同一性或は類似性のあるものを作成すると侵害行為となるが、たとえ依拠した場合でも換骨奪胎して同一性或は類似性のないものを作成したとすれば、侵害行為は該当しない。

そうだとすると、著作権侵害を判断するに当つては、先ず既存の著作物に依拠したか否かの点が前提となり、依拠した場合に同一性或は類似性を判断することになる。但し、第三者が既存の著作物と同一或は類似のものを作成した場合、それは依拠したことを推認する資料となりうるのであつて、それが酷似すればする程その度合は強くなるといえる。
<昭和590210日東京地方裁判所八王子支部[昭和56()1486]>

何より、甲曲と乙曲の旋律の上記のような顕著な類似性、とりわけ、全128音中92音(約72%)で両曲は同じ高さの音が使われているという他に類例を見ない高い一致率、楽曲全体の3分の1以上に当たる22音にわたって、ほとんど同一の旋律が続く部分が存在すること、乙曲は反復二部形式を採用しているものの、その前半部分と後半部分に見られる基本的な旋律の構成は、甲曲の起承転結の構成と酷似していること、他方、甲曲程度の比較的短い楽曲であっても、その旋律の組立てにはそれ相応の多様な創作性の余地が残されていると解されることは前示のとおりであり、以上のような顕著な類似性が、偶然の一致によって生じたものと考えることは著しく不自然かつ不合理といわざるを得ない。そうすると、このような両者の旋律の類似性は、甲曲に後れる乙曲の依拠性を強く推認させるものといわざるを得ない。
<平成140906日東京高等裁判所[平成12()1516]>

被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は,控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ないところ,①被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は,原則として50音順としているが,例外的に50音順を崩して配列した箇所が4箇所あり,その配列及び最後に生薬である「ヨクイニンエキス」を配列している点に至るまで,控訴人書籍漢方薬便覧部分と完全に同一であること,②控訴人書籍が被控訴人書籍より先に発行され,これに接する機会があったこと,③「今日の治療薬」が先駆的な書籍であったことからすると,同種の書籍を発行するに当たって,これを参考にしなかったとはいい難いこと等に照らすと,被控訴人は,控訴人書籍漢方薬便覧部分に依拠して被控訴人書籍を発行したものと推認される。
<平成250418日知的財産高等裁判所[平成24()10076]>

被告デザイナーが各被告イラストを原告イラストに依拠して作成したと認められるかが問題となるが,各被告イラストが作成されたのは平成24年6月頃から平成25年3月頃であると認められ,これは原告イラストが作成されて,複数のTシャツ販売サイトに原告イラストが付されたTシャツが出品された平成23年9月よりも後のことであるから,被告デザイナーが原告イラストに接する機会はあったと認められる。
そして,各被告イラストは,表現上の本質的な特徴部分において,原告イラストに類似又は酷似しているということができるのであって,特に被告イラスト1については,原告イラストを見ずにこれをデザインしたということが実際上考え難いといえる程に似ている。
以上のように,原告イラストと各被告イラストとが類似又は酷似していることに照らせば,そのようなイラストを作成した被告デザイナーが,原告イラストを参照し,これに依拠して各被告イラストを作成した事実が推認される。
(略)
そして,仮に被告が被告商品を製造販売した際に原告イラストの存在を認識していなかったとしても,被告は被告デザイナーから,原告イラストに依拠して作成された各被告イラストの提供を受け,これを付して,被告商品を製造販売したのであるから,被告の依拠性も認められる。
<平成31418日大阪地方裁判所[平成28()8552]>

本件イラストと被告イラストは,いずれも,互いの額を接して向き合う大小2頭のパンダを描いたものであり,2頭のパンダの姿勢,表情,大きさの比などを含めた構成が類似しており,表現上の本質的な特徴が同一である。そして,その同一性の程度は非常に高いものであるから,被告イラストは,本件イラストに依拠して有形的に再製されたものであると推認することができる。
<平成31313日東京地方裁判所[平成30()27253]>

本件出版物の質問票の質問と新日本版の質問票の質問は,その内容においてほぼ重なるが,これらはいずれもMMPIを翻訳したものでその内容が共通することは当然であり,その重なりによって,本件出版物の質問票が新日本版の質問票に依拠して作成されたと認めることはできない。
<平成301115東京地方裁判所[平成29()22922]>

【依拠性と特定性】

まず,被告らが原告各イラストに依拠したものであるか否かについて検討する。ここでいう「依拠」とは,ある者が他人の著作物に現実にアクセスし,これを参考にして別の著作物を作成することをいう。
ところで,原告著書に描かれている原告各イラストは極めて多数にのぼり,被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成されたものであるかを個別に特定して主張立証することは著しく困難である。他方,原告著書のように,同一のコンセプトに基づき,かつ同一の特徴を有する人物をひとつのキャラクターとして多様に表現する場合,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストに依拠しながら,その本質的な表現上の特徴を直接感得できるようなイラスト(すなわち,同一のキャラクターを表現していると認められるイラスト)を新たに創作するものと解される。したがって,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストを原著作物とする二次的著作物と見られる場合が多いと考えられる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない(最高裁平成9717日第一小法廷判決)から,第三者が二次的著作物に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとしても,その再製した部分が二次的著作物において新たに付与された創作的部分ではなく,原著作物と共通しその実質を同じくする部分にすぎない場合には二次的著作物の著作権を侵害したものとはいえない。しかし,二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。また,一話完結の連載漫画などとは異なり,原告著書のように1冊の著書に多数のキャラクターがイラストとして描かれている場合に,どのイラストをもって原著作物とし,どのイラストをもって二次的著作物とするかを判然と区別することは困難である。以上の点を考慮すると,本件において,原告としては個々の被告各イラストについて,原告各イラストのうち被告らが実際に依拠したイラストを厳密に特定し,これを立証するまでの必要はなく,原告各イラストのうちのいずれかのイラストに依拠し,そのイラストの内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製し又はそのイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したことを主張立証することをもって,原告各イラストの著作権侵害の主張立証としては足りるというべきである。
<平成210326日大阪地方裁判所[平成19()7877]>

【著作権侵害の特定性】

一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。
<平成9717日 最高裁判所第一小法廷[平成4()1443]>

原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである。
この観点から検討すると,一審被告らの主張のほとんどは,原著作物のどのシーンに係る著作権が侵害されたのかを特定しない主張であって,主張として不十分であるといわざるを得ない。そして,原著作物の特定のシーンと本件各漫画のシーンとを対比させた内容を検討してみても,原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず(なお,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べているのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),また,基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。
<令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]>

特定の著作物と他の著作物との間で著作権又は著作者人格権(著作権等)の侵害の有無を判断しようとする場合,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないときには,複製又は翻案には該当しないのであるから,著作権等を侵害されたと主張する者は,自らの著作権等が侵害されたとする表現部分を特定した上で,まず,その表現部分が創作性を有していることを明らかにしなければならない。
<平成27910日知的財産高等裁判所[平成27()10009]>

控訴人は,当審に至っても,本件情報及び本件データベースにつき具体的な特定をすることなく,かえって,これを書面で明確に特定することは不可能を強いる措置であるなどと主張して(いる)。さらに,控訴人は,本件ソフトウェアの著作権侵害についても,原審において,被控訴人ソフトウェアのソースコードが証拠として現に提出されたにもかかわらず,当審に至っても,これと本件ソフトウェアを比較対照するなどの具体的な主張を一切行っていない。(中略)
上記の事情に鑑みると,原判決が説示するとおり【注:原審では、原告の所定の請求に係る部分は,「対象の特定を欠き,不適法であるから,同請求に係る訴えをいずれも却下」することとした】,控訴人の主張は,具体的な裏付けを欠くもの又は憶測の域を出ないというべきである。
<平成29628日知的財産高等裁判所[平成28()10110]>

原告は,本件プログラムを創作するに至ったアイディアや本件プログラムの機能について主張するが,それらについてのプログラムの著作物としての具体的な表現(ソースコード等)の主張はなく,原告が職務の空き時間に作成したと主張する本件プログラムについて,具体的な表現としてのプログラムを認めるに足りる的確な証拠はない。
令和2324日東京地方裁判所[平成31()10821]
【コメント】以下、本件の控訴審<令和21125日知的財産高等裁判所[令和2()10027]>
著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解されるところ,控訴人は,本件プログラムの具体的記述の内容を主張立証していないから,本件プログラムが著作権法上の「プログラム」に該当するものと認めることはできない。

【創作性の程度と保護の範囲】

新著作が他人の著作物を基本として作成された場合であっても、そこに独自の創作性が加えられた結果、通常人の観察するところにおいて、旧著作の著作物としての特徴が、新著作の創作性の陰にかくれて認識されないときは、新著作は単なる複製でも二次的著作物でもなく、他人の著作物の自由な利用により創作された独自の著作物であると認められ、著作権侵害とはならないというべきである。この場合、模範として利用された旧著作の独自性が顕著であればあるほど、新著作中に化体された精神的業績が高度であることが、新著作を独立の著作物として保護するため必要とされるが、旧著作が個性的表現の僅少なものであれば、これに対する著作権による保護は厳格に限定されねばならないから、新著作の著作物としての独自性は認められ易くなるといえる。
<昭和530922日富山地方裁判所[昭和46()33]>

著作権法が保護の対象としているのが現実になされた具体的な表現のみであるとしても、現実になされた具体的な表現に創作性が認められる場合に、次に問題となるのは当該著作物の保護の範囲であり、保護の範囲の広狭を検討するに当たって、本来は著作権法上の保護の対象とならない発想、すなわち、思想又は感情あるいは表現手法ないしアイデア自体の創作性が影響を及ぼすことがあることは、否定できないところである。すなわち、一般的にいって、発想に卓越した創作性が存在する場合には、保護の範囲は広いものとなるであろうし、単に著作者の個性が表われているだけで、誰が行っても同じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないといった程度の創作性しか認められない場合には、保護の範囲は狭いものとなり、ときにはいわゆるデッドコピーを許さないという程度にとどまることもあり得るであろう。
<平成121130日東京高等裁判所[平成10()3676]>

あえて特許法と関連づけて述べるならば、著作権法が保護の対象とするのは「表現されたもの」に限られるのであるから、著作権法においては、保護の対象となるのは、いわば、特許法における「実施例」に対応するもののみであり、この、「実施例」に対応する現実になされた具体的表現を出発点として、その表現の本となっている発想等を考慮しつつ、保護の範囲をどこまで拡張すべきかが判断されることになる、というべきである。
<平成121130日東京高等裁判所[平成10()3676]>

著作権法にいう複製あるいは翻案とは、既存の著作物に依拠してこれと同一のものあるいは類似性のあるものを作製することであり、ここに類似性のあるものとは、「既存の著作物の、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとしての創作性の認められる部分」についての表現が共通し、表現が共通しているその結果として、当該作品から既存の著作物を直接感得できると判断できるものであって、この判断には、表現の本となる発想自体の創作性が影響を与え得る、と解すべきである。
<平成121130日東京高等裁判所[平成10()3676]>

著作物と認めるためのものとして要求すべき「創作性」の程度については,例えば,これを独創性ないし創造性があることというように高度のものとして解釈すると,著作権による保護の範囲を不当に限定することになりかねず,表現の保護のために不十分であり,さらに,創作性の程度は,正確な客観的判定には極めてなじみにくいものであるから,必要な程度に達しているか否かにつき,判断者によって判断が分かれ,結論が恣意的になるおそれが大きい。このような点を考慮するならば,著作物性が認められるための創作性の要件は厳格に解釈すべきではなく,むしろ,表現者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りるという程度に,緩やかに解釈し,具体的な著作物性の判断に当たっては,決まり文句による時候のあいさつなど,創作性がないことが明らかである場合を除いては,著作物性を認める方向で判断するのが相当である。
ある表現の著作物性を認めるということは,それが著作権法による保護を受ける限度においては,表現者にその表現の独占を許すことになるから,表現者以外の者の表現の自由に対する配慮が必要となることはもちろんである。このような配慮の必要性は,著作物性について上記のような解釈を採用する場合には特に強くなることも,いうまでもないところである。しかし,この点の配慮は,主として,複製行為該当性の判断等,表現者以外の者の行為に対する評価において行うのが適切である,と考えることができる。一口に創作性が認められる表現といっても,創作性の程度すなわち表現者の個性の発揮の程度は,高いものから低いものまで様々なものがあることは明らかである。創作性の高いものについては,少々表現に改変を加えても複製行為と評価すべき場合があるのに対し,創作性の低いものについては,複製行為と評価できるのはいわゆるデッドコピーについてのみであって,少し表現が変えられれば,もはや複製行為とは評価できない場合がある,というように,創作性の程度を表現者以外の者の行為に対する評価の要素の一つとして考えるのが相当である。このように,著作物性の判断に当たっては,これを広く認めたうえで,表現者以外の者の行為に対する評価において,表現内容に応じて著作権法上の保護を受け得るか否かを判断する手法をとることが,できる限り恣意を廃し,判断の客観性を保つという観点から妥当であるというべきである。
<平成141029日東京高等裁判所[平成14()2887]>

著作権法上の著作物の要件である「創作性」については,著作権法に定義規定がないが,独創性を備えることまで必要であると解すると,著作権による保護の範囲を不当に限定することになりかねないことや,創作性の有無を画する客観的な判定基準を求めることは難しいことなどを考慮すると,表現者の個性が何らかの形で発揮されていれば,創作性自体は認めることができるものと解すべきである。
ただし,創作性の程度には自ずと幅があるのは当然であるから,当該著作物の著作権を新たな著作物が侵害したといえるかどうかを判断するに当たっては,当該著作物の保護の限度を画する要素として,その創作性の程度を考慮することは当然必要になるものと解される。すなわち,創作性の高い著作物については,その保護の範囲は拡大し,著作者の個性は現れているものの極めてわずかな創作性しかない著作物については,保護の範囲は極めて狭小なものに限定されると解するのが相当である。
<平成161124日東京高等裁判所[平成14()6311]>

創作性が認められるといっても,創作性の程度には,高いものもあれば,辛うじて著作権法上の保護を認め得る程度に低いものもある。そして,創作性は肯定し得るもののその程度が低いものは,創作性が高いものに比べて,著作権法上の保護の範囲も自ずと限界があるものというべきであ(る。)
<平成180531日知的財産高等裁判所[平成17()10091]>

創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。
<平成180329日知的財産高等裁判所[平成17()10094]>

確かに,創作性の幅が狭い場合であっても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,同一性を有する表現が一定以上のまとまりをもって当該表現物のほとんどの表現を占めるといえる場合には,そのほとんどの表現を選択していることをもって複製権侵害に当たる場合もあるとも考えられるが,その場合であっても,一定以上のまとまりをもった具体的な表現に筆者の個性が現れていると言えなければ,著作権法によって保護される表現上の創作性を認めることはできないというべきである。
<平成27130日東京地方裁判所[平成25()22400]>

【侵害行為の個数】

1審被告の行為1及び2は,独立した行為ではあるが,それぞれ,1個の著作物である本件写真の一部である右側のペンギンのみを被写体とする部分(右側部分)及び左側のペンギンのみを被写体とする部分(左側部分)を複製及び公衆送信化したものであるから,全体としてみれば1個の著作物を1回利用したものと評価することができる。
<令和元年1226日知的財産高等裁判所[令和1()10048]>

【著作財産権侵害に基づく慰謝料請求の可否】

複製権を内容とする著作財産権と公表権、氏名表示権及び同一性保持権を内容とする著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、また、著作財産権には譲渡性及び相続性が認められ、保護期間が定められているが、著作者人格権には譲渡性及び相続性がなく、保護期間の定めがないなど、両者は、法的保護の態様を異にしている。したがつて、当該著作物に対する同一の行為により著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合であつても、著作財産権侵害による精神的損害と著作者人格権侵害による精神的損害とは両立しうるものであつて、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。
<昭和61530最高裁判所第二小法廷[昭和58()516]>

財産権の侵害により被った精神的苦痛については,一般に,損害の回復により慰謝されるのであって,損害の回復によってもなお慰謝されない精神的苦痛が生じた場合において,慰謝料を請求することができるというべきである。
<平成150718日東京高等裁判所[平成14()3136]>

財産権の侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには,侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難い程の大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解される(。)
<平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]>

本件各使用によって侵害されたのは原告の著作権(複製権)であり、財産権である。そして、一般には、財産権が侵害されたことによって、被害者に精神的苦痛が生じたとしても、その苦痛は、原則として、財産的損害が賠償されることによって慰謝されると解すべきである。
もっとも、侵害された財産権が、被害者にとって、単なる財産的価値にとどまらず、特別の精神的価値があるものであり、その侵害によって、財産的損害の賠償によって十分に慰謝されないなどといった特段の事情がある場合には、財産的損害の賠償の他に、慰謝料の請求を認める余地があると解される。
<平成171208日大阪地方裁判所[平成17()1311]>

財産権侵害の不法行為であっても、加害者の加害態様の悪性が特に強く、財産的損害とは別に精神的損害が生じたと認められる場合には、財産的損害の賠償の他に、慰謝料の請求を認める特段の事情となり得る(。)
<平成171208日大阪地方裁判所[平成17()1311]>

著作財産権である複製権侵害を理由に慰謝料を請求するためには,侵害された財産権が当該被害者にとって特別の精神的価値を有し,そのため,単に侵害の排除又は財産的損害の賠償だけでは償い得ないような重大な精神的苦痛を被ったと認められる特別の事情がなければならないと解される(。)
<平成170720日東京地方裁判所[平成17()313]>

原告は,著作権侵害に係る慰謝料をも請求するが,著作権侵害行為によって生じた損害は財産損害に対する損害賠償によって回復されるのが通常であり,被告による著作権侵害行為の態様を踏まえても,著作権侵害によって金銭をもって慰謝すべき精神的損害が生じたと認めることはできない。
<令和元年1030日東京地方裁判所[令和1()15601]>

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