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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

パブリシティ権

【パブリシティ権の意義(性質)と不法行為性】

人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判,肖像につき,最高裁昭和44年12月24日大法廷判,最高裁平成17年11月10日第一小法廷判各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。
これを本件についてみると,上告人らは,昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その当時,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから,本件各写真の上告人らの肖像は,顧客吸引力を有するものといえる。
しかしながら,本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8㎝,横3.6㎝ないし縦8㎝,横10㎝程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。
<平成2422最高裁判所第一小法廷[平成21()2056]>

パブリシティ権は,人格権に由来する権利の一内容を構成するもので,一身に専属し,譲渡や相続の対象とならない。しかし,その内容自体に着目すれば,肖像等の商業的価値を抽出,純化させ,名誉権,肖像権,プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって,パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず,公序良俗違反となるものではない。
そして,パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に,第三者が無断で肖像等を利用するときは,同許諾を受けた者は,その分損害を被ることになるから,少なくとも警告等をしてもなお,当該第三者が利用を継続するような場合には,債権侵害としての故意が認められ,同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立するというべきである。
<平成291116日大阪高等裁判所[平成29()1147]>

原告●●はパブリシティ権者であり,原告会社は原告●●からパブリシティ権の管理委託を受けて独占的利用権及び許諾権を有する者であることからすれば,原告らは,いずれも,被告に対し,原告●●のパブリシティ権侵害に基づく損害賠償請求をなし得るというべきであり,その損害賠償債権は,原告らの不真正連帯債権となるものと解される。
<平成3128日東京地方裁判所[平成28()26612]>

【物(競走馬)のパブリシティ権】

現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。
<平成16213最高裁判所第二小法廷[平成13()866]>

【パブリシティ権に基づく差止請求】

パブリシティ権は人格権に由来する権利であるから(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決参照),原告●●の肖像等の商業的利用につき独占的利用権及び許諾権を有しているにすぎない原告会社は固有の差止請求権を有しない。
(省略)
原告●●は,人格権に由来する権利であるパブリシティ権を有するから,これを侵害する者又は侵害するおそれがある者に対して差止請求をし得ると解すべきである。
<平成3128日東京地方裁判所[平成28()26612]>

【パブリシティ権侵害に対する賠償額算定の際の考慮事項】

原告Xの肖像等が顧客誘引力を有し同人にはパブリシティ権が認められるとしても,それらは,いわゆる超一流のファッションデザイナーのものと同列ではないし,パブリシティ権の形成に当たって被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきである。
(略)
過去においてパブリシティ権の価値が検討された事案の多くは,きわめて知名度が高い権利者(その多くは,知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人,運動選手等である。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を,その知名度の形成に寄与していない他者が利用した事案であるから,これらの事案を通じて形成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判所の判断は,本件にそのまま適用できるものではない。もっとも,原告Xの我が国における認知度は,それなりに高いことからすると,その形成に当たって被告の貢献が大きいことを考慮しても,パブリシティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当ではないというべきである。
<令和2220日知的財産高等裁判所[平成31()10033]>

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