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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作物性②

思想性の要件】

「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指(す。)
<昭和620219日東京高等裁判所[昭和61()833]>

「思想又は感情」は、厳格な意味で用いられているのではなく、およそ思想も感情も皆無であるものは除くといつた程度の意味で用いられているものであつて、人間の精神活動全般を指すものであると解するのが相当である。したがつて、「思想」と「感情」の区別も特に問題とする必要がないといえる。
<昭和590928日東京地方裁判所[昭和56()8371]>

「思想又は感情」は人間の精神活動全般を指し、単に事実(社会的事実、歴史的事実、自然現象に関する事実等)のみを記載したものは著作物には当たらない。
<平成101029日東京地方裁判所[平成7()19455]>

客観的な事実を素材とする表現であっても、取り上げる素材の選択や、具体的な用語の選択、言い回しその他の文章表現に創作性が認められ、作成者の評価、批判等の思想、感情が表現されていれば著作物に該当するということができる。
<平成130123日東京地方裁判所[平成11()13552]>

単なる事実の記述は思想又は感情の表現であるということはできない。もっとも,単なる事実の記述のようにみえても,その表現方法などから,そこに筆者の個性が何らかの形で表われているとみることができるような場合には,思想又は感情の表現があるとみて差し支えない。
<平成141029日東京高等裁判所[平成14()2887]>

「思想又は感情を表現した」とは,事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが,事実を基礎とした場合であっても,筆者の事実に対する評価,意見等を,創作的に表現しているものであれば足りる。
<平成160324日東京地方裁判所[平成14()28035]>

「思想又は感情を表現した」というためには,対象として記述者の「思想又は感情」が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら「事実」(この場合における「事実」とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば「誰がいつどこでどのようなことを行った」,「ある物が存在する」,「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないというべきである(著作権法102項参照)。
<平成200717日知的財産高等裁判所[平成20()1000]>

ある著作物が著作権法の保護を受けるためには、その著作物は「思想又は感情」が表現されたものでなければならない。しかしながら、本件データは、自動車部品メーカー及びカーエレクトロニクス部品メーカー等の会社名、納入先の自動車メーカー別の自動車部品の調達量及び納入量、シェア割合等の調達状況や相互関係のデータをまとめたものであって、そこに記載された各データは、客観的な事実ないし事象そのものであり、思想又は感情が表現されたものではないことは明らかである。原告は、本件データは原告が独自に取材、調査し、それを総合的に判断し研究した結果であり、そこには原告の思想が創作的に表現されていると主張する。しかし、原告が主張していることは、原告の一定の理念あるいは思想のもとに本件データの集積行為が行われたということにすぎないのであって、集積された客観的データ自体が思想性を帯びることはないから、原告の右主張は失当というべきである。よって、本件データは著作物性を有しない。
(略)
データ自体は、仮にその集積行為に多額の費用、時間及び人員を費やしたものであったとしても著作権法の保護の対象となるわけではない。
<平成121018日名古屋地方裁判所[平成11()5181]>

著作権法によって保護されるのは、思想又は感情の創作的な表現であり、思想でもアイデアでも事実でもない。したがって、学術研究における実験の結果やそこから得られた知見といった、学術研究の成果そのものは、著作権法による保護の対象とはならないものである。
<平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]>

アンケ-トについても,その質問形式等に,思想・感情が包含され,かつ,他にない創作性が伴うものであれば,これが著作物に当たる場合もあり得ると考えられる。しかし,アンケートの結果そのものは,対象者の回答の集成としてのデータに過ぎず,これに対して一定の考え方のもとに創意工夫をもって整理,分析する等の表現がなされない限り,直ちに著作物に当たると認めることはできない。
そして,四国フォーラムの会場で発表された本件アンケートの結果の内容は,単に「死刑は必要」「死刑は不要」「わからない」との回答の人数及び割合を示したものにとどまる。したがって,仮に本件アンケートの質問形式,アンケート用紙等が著作物に当たると解する余地があるとしても,本件アンケートの結果自体はデータに過ぎず,創作性を備えた著作物と認めることはできない。
<平成130927日高松高等裁判所[平成12()409]>

【カテゴリー性の要件】

「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。
<昭和620219日東京高等裁判所[昭和61()833]>

「文芸、学術、美術又は音楽」というのも、厳格に区分けして用いられているのではなく、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものであると解するのが相当で、該著作物がどの分野に属するかを確定する実益はない。
なお、知的、文化的精神活動の所産といいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは、必ずしも関係がないというべきである。すなわち、創作されたものが、芸術作品として鑑賞されようと、学究目的で利用されようと、全くの娯楽目的で利用されようと実用目的で利用されようと、また、本件に即していえば、遊戯目的で利用されようと、そのことは、著作物性に影響を与えるものではないと解するのが相当である。
<昭和590928日東京地方裁判所[昭和56()8371]>

著作権法によって保護される著作物とは、文芸、学術、美術もしくは音楽の範囲に属する思想、感情の創作すなわち精神的知的創作と解され、これを言い換えれば、法律によって保護の対象から除外されたもの(著作権法第10条第2項、第13条、旧著作権法第11条)以外の、真善美その他、人間社会における価値に関して表現されたすべての思想、感情の創作をいうのであつて、このような思想、感情の創作である限り、それは、文芸、学術、美術もしくは音楽のいずれかの範囲に属せしめて解することができ、この範囲は、その分類形態を示すものということができる。
<昭和471011日東京地方裁判所[昭和44()9353]>

被告らは、積算くん【注:建築積算アプリケーションソフトのこと】が実用品ないし工業製品であるから「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではないと主張するが、そこに表現されている内容が、技術的、実用的なものであるとしても、その表現自体が知的、文化的精神活動の所産と評価できるものであれば、右要件は充足されるから、被告らの主張は採用することができない。
<平成120330日大阪地方裁判所[平成10()13577]>

本件磁石は,量産される工業製品であるから著作権法21号の「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と認めることはできず,同条の「著作物」に該当しないと解されるので,その再製行為は,そもそも著作権違反の問題になり得ないというべきである。
<平成131011日東京地方裁判所[平成12()2772]>

額に汗その他の注意事項】

著作物性の有無は、あくまで創作物自体の表現内容から客観的に判断すべきであり、その表現を創作する過程の努力は必ずしも重視されるべきではない(。)
<平成130123日大阪高等裁判所[平成12()2393]>

報道すべき主題の発見、取材源の探知、素材の収集は著作権による保護の対象ではないから、それがいかに苦心して発見、探知、収集されたものであっても、既に報道された新聞記事によってその記事が主題とした事項や取材源を知り、その取材源から同様の素材を収集し、その結果、元の記事と同様の事実を含む記事が作成されたとしても、元の記事の著作権を侵害するものとはいえない。
<平成60218日東京地方裁判所[平成4()2085]>

思想又は感情の創作的な表現というためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の何らかの個性が表現されたもので足りると解すべきであるが,事実若しくは事件それ自体など思想又は感情でない部分,思想,感情若しくはアイデアなど表現でない部分又は表現であっても他の表現をする余地が小さく若しくは表現がありふれたものであるなど表現上の創作性がない部分は,いかに思想への想到若しくは事実の発見などに多大な労力を要し,又は思想として独創的なものであろうと,思想又は感情の創作的な表現たり得るものではない。
この点,原告は,本件三文献の解読及び分析に20年の歳月を費やして本件問答集を完成させたこと,従前は類書が存在せず,本件解題に記載された分析も原告が初めてなしたものであること等を,創作的表現の根拠として主張するが,上記のとおり,著作権法は,学術的な思想や発見それ自体を保護するものではないから,本件三文献の解読及び分析に多大な労力を費やしたこと及びそれが原告によって初めてなされたことそれ自体が,著作権法によって保護される創作的表現となるものではない。むしろ,本件解題のように,史料を分析して歴史的な事実を明らかにしようとする場合,個々の分析結果は,他の方法により表現する余地が小さく,学術的な思想ないし発見された事実それ自体であって,創作的表現とならないことが多いというべきである。
<平成261224日 東京地方裁判所[平成26()4088]>

言語の作品について,情報としての価値があるか否かは,思想及び感情の創作的表現であるか否かの判断に影響を与えるものということはできない(。)
<平成140415日東京地方裁判所[平成13()22066]>

【著作物中の一部の著作物性】

一個の著作物の一部でも、その部分のみで右にいう思想又は感情の創作的表現であると認められれば、これを著作物ということができる。
<平成101029日東京地方裁判所[平成7()19455]>

本件写真の2羽のペンギンのうち,右側のペンギンのみを被写体とする部分は,著作物である本件写真の一部であるが,当該部分にも構図,陰影,画角及び焦点位置等の点において,1審原告の個性が表現されているものと認められるから,創作性があり,独立した著作物性があるものと認められる。
<令和元年1226日知的財産高等裁判所[令和1()10048]>

【未承認国(北朝鮮)の法6条該当性

一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。
これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。
そして,事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。
以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。
<平成23128最高裁判所第一小法廷[平成21()602]>

【権利の目的とならない著作物(法13条)】

法令は、その性質上国民に広く開放され、伝達され、かつ利用されるべき著作物であり、そのため著作権法131号においても、憲法その他の法令は著作者の権利の目的とならない旨規定されている。したがって、このような性格を有する法令の全部又は一部をそのまま利用したり単に要約したりして作成されたものは著作物性を取得しないというべきである。
<平成60725日東京地方裁判所[平成4()3549]>

旧法第11条【注:現13条に相当】第1号によれば、官公文書は、著作権の目的から除外されているところ、これは、官公文書が一般に公示され、周知徹底されるべき性質を有するものであり、何人にも自由に利用できる状態に置かれなければならないものであることに基づくのであるが、これに反し、官公庁の発行する文書でも高度に学術的意義を有し、必ずしも一般的に周知させることのみを意図しないものは、学術に関する著作物として、著作権の保護を受けるべきものと解するのが相当である。
<昭和520330日東京地方裁判所[昭和49()2939]>

旧著作権法第11条【注:現13条に相当】には、著作権の目的とならない著作物として、第1号において、法律命令及び官公文書を挙げ、また、現行著作権法第13条も、権利の目的とならない著作物として、憲法その他の法令(第1号)、国又は地方公共団体の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの(第2号)、裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行なわれるもの(第3号)を挙げている。このことからみても、旧著作権法第11条第1号の「官公文書」とは、現行著作権法第13条第2号、第3号の規定で具体的に列挙されている如き官公庁が公務上作成する文書のうち一般公衆に公示する目的の文書をいうものと解すべきである。したがつて、国又は地方公共団体の発行した文書でも、高度に、学術的意義を有し、必ずしも一般に周知徹底させることを意図していない文書は、学術に関する著作物として著作権の目的となりうべきものであることは明らかである。
<昭和570422日東京高等裁判所[昭和52()827]>

鑑定書【注:「不動産鑑定評価書」のこと。以下同じ】そのものについては,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当する「その他の言語の著作物」(同法10条1項1号)として,作成者の著作権が及ぶと解する余地があるとしても,不開示情報3は,裁判所が作成する別件判決の中で,証拠として提出された鑑定書の内容を判断に必要な範囲で引用しているにすぎないところ,裁判所の判決は著作権の目的とはならないとされている(同法13条3号)。そうすると,鑑定書自体は著作物であるとしても,それが証拠として提出され,裁判所が作成する判決中でその判断の一部として引用される限りにおいては,著作権の目的とはならないと解するのが相当である。
<令和元年827日京都地方裁判所[平成30(行ウ)26]>

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