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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

渉外関係(準拠法)事例

【中国/香港/日本】

原告が本件著作権の共有持分権を有するかについて
⑴ 原告は,中国法人である北京COM4LOVESが,職務著作として本件著作権を取得した後,香港法人である香港COM4LOVESに対して本件著作権の共有持分権を譲渡し,さらに,同社は,原告に対して本件著作権の共有持分権の一部を譲渡したため,原告は,本件著作物の共有持分権(翻案権を含む。)を有していると主張する。
⑵ そこで検討するに,職務著作に関する規定の準拠法については,その性質上,法人その他使用者と被用者の雇用契約の準拠法国における著作権法の職務著作に関する規定によるものと解される。そして,中国国内における使用者と労働者の労働関係の形成,労働契約の締結,履行,変更,解除又は終了には,中華人民共和国労働契約法が適用される(同法2条)。しかして,中華人民共和国著作権法16条1項は,「公民が法人或いはその他の組織にかかる業務上の任務を遂行するために創作した著作物は職務著作であり」と,同条2項柱書は,「次に掲げる形態のいずれかの職務著作物については,…著作権にかかるその他の権利は,法人或いはその他の組織がこれを享有する」と,同項1号は,「主として法人或いはその他の組織が物質上の技術的条件を利用して創作し,かつ法人或いはその他の組織が責任を負う…コンピューターソフトウェア等の職務著作物」と,同条2号は,「法人又はその他の組織が著作権を享有することを,法律・行政法規が規定し,又は契約で定められた職務著作物」と,それぞれ規定している。
そして,これらの法令に基づき,北京COM4LOVESが,職務著作として,本件著作権を取得したことについては,当事者間に争いがない。
⑶ 次に,著作権の移転について適用されるべき準拠法については,移転の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
ア まず,著作権の共有持分権の移転の原因関係である譲渡契約について適用されるべき準拠法は,通則法7条により当事者の選択によることになるが,当事者間での準拠法の選択がない場合には,同法8条1項により「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」によるとされ,同条2項により特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは,その給付を行う当事者の常居所地法が「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」と推定されることになる。
これを本件についてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,北京COM4LOVESは,香港COM4LOVESに対して本件著作権の共有持分権(翻案権を含む。)を譲渡し,さらに,同社は,原告に対して本件著作権の共有持分権(翻案権を含む。)の一部を譲渡したことが認められる。そして,当事者間においては,上記各譲渡に係る契約について適用されるべき準拠法の選択がないことから,通則法8条1項及び2項により,北京COM4LOVESから香港COM4LOVESに対する本件著作権の共有持分権の譲渡に係る契約の準拠法は,特徴的な給付たる上記譲渡を行う北京COM4LOVESの常居所地法である中華人民共和国法となり,同様に,香港COM4LOVESから原告に対する本件著作権の共有持分権の一部の譲渡に係る契約の準拠法は,特徴的な給付たる上記譲渡を行う香港COM4LOVESの常居所地法である香港法となるところ,弁論の全趣旨によれば,中華人民共和国法と香港法のいずれについても,上記各譲渡は,債権行為として有効であることが認められる。
イ 次に,著作権の共有持分権という物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法に関しては,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされる(通則法13条参照)。そして,著作権は,その権利の内容及び効力が,これを保護する国(保護国)の法令によって定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に,著作権の共有持分権という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記アで認定したところに加え,弁論の全趣旨によれば,本件著作権を取得した北京COM4LOVESから香港COM4LOVESに対する本件著作権の共有持分権(翻案権を含む。)の譲渡及び同社から原告に対する本件著作権の共有持分権(翻案権を含む。)の一部の譲渡は,いずれも日本国内における原告ゲームの知的財産管理(ライセンスや著作権侵害行為の除去その他の権利行使)等の便宜のためにされたものであることが認められ,少なくとも本件では日本における著作権が問題となっているのであるから,保護国である日本の法令が準拠法となるというべきである。そして,日本国の法令においては,著作権の共有持分権の移転の効力は,その原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされているのであるから,同契約締結に当たる上記各譲渡により,本件著作権の共有持分権(翻案権を含む。)は移転しているといえる。
<令和3218日東京地方裁判所[平成30()28994]>

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