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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

プログラム著作物の侵害性(2)

ゲームのプログラムについて
 【控訴人は,】被告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムは,原告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムを複製又は翻案して作成されたものであり,原告ソースコードに係るプログラム著作権をも侵害している旨を主張し,これに沿う証拠を提出する。
そこで検討するに,前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告ゲーム及び被告ゲームは,携帯電話機等を用いて配布・実行されるゲームアプリ(Androidの場合にはGoogle Play,iOSの場合にはApp Storeを介して配布)であり,サーバー側のプログラムとネットワークを介して通信しながら実行が進められるものであることが認められる。また,前記の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームには,任務(ミッション)画面(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)が存在し,これらは,主に①「メインミッション」ボタン,②「デイリーミッション」ボタン,③「功績」ボタン, ④「ヘルプ」ボタン,⑤「戻る」ボタンという5つのボタンと,上記①ないし③のボタンにそれぞれ対応した表示項目で構成されていることが認められる。
この点,被告は,そもそも,原告ゲームに原告ソースコードが存在すること,被告ゲームに被告ソースコードが存在することを争っているが,仮に原告の主張を前提とした場合,原告ゲームのゲームアプリ(sanguo_Google_34_1.200.34.apk)及び被告ゲームのゲームアプリ(戦姫コレクション_v1.0.68.apk)は,主として,①オープンソースのゲームフレークワーク(ゲームの基本的な処理を行うプログラムであって,これに含まれる各種「処理」を呼び出すゲームのソースコードを記述することで,グラフィック描画,キャラクターの動作,ネット通信等のゲームプログラムにおいてよく使用される機能を簡単に実現することができる。)であるCOCOS2D-X,②原告ゲームにつき473個,被告ゲームにつき555個のLuaファイル(Lua言語で記述されたソースコード)等から構成されていると考えられる。そして,原告ゲームの上記473個のLuaファイルのうちの「MissionMainPage.lua」(「任10 務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラム)のソースコード(原告ソースコード)とこれに対応する被告ゲームのプログラムのソースコード(被告ソースコード)は,それぞれ別紙「ソースコード対比表」の「原告ソースコード」欄及び「被告ソースコード」欄記載のとおりであると認められ,その大部分(「AUTHOR」欄の開発担当者の氏名や作成日付を含む。)が一致していることが認められる(原告ソースコードの行数が182行,被告ソースコードの行数が190行であり,これらのうち165行が共通しており,類似度は90.66%である。)。
【ところで,著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解される。すなわち,プログラムの具体的記述において,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れていることが必要であると解される。
これを原告ソースコードについてみるに,前記認定のとおり,原告ソースコードは,原告ゲームの473個のLuaファイルのうちの1個である「MissionMainPage.lua」であり,原告ソースコードに係るプログラムは,「任務(ミッション)」に係る画面(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)の切り替えに関する処理及び表示内容の更新処理を行うプログラムである。
そして,原告ソースコードの記述は,原判決別紙「ソースコード対比表」の「原告ソースコード」欄記載のとおりであり,個々の記述の意味は,同表の「裁判所の認定」欄記載のとおりである。
原告ソースコードの記述は,いずれも単純な作業を行うfunction(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等)が複数記述されたものであり,ソースコードによって記述される機能が上記のとおりローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等の単純な作業を行うことである以上,表現の選択の幅は狭く,その具体的記述の表現も,定型的なものであり,ありふれたものであると言わざるを得ない。
また,個々の記述の順序や組合せについても,ゲームの機能に対応させたにすぎないものであり,ありふれたものである。
そうすると,原告ソースコードの具体的記述に控訴人の思想又は感情が創作的に表現され,控訴人の個性が表れていると認めることはできないから,原告ソースコードに係るプログラムは,プログラムの著作物に該当するものと認めることはできない。
したがって,被告ソースコードの大部分が原告ソースコードと共通しているとしても,原告ソースコードに係るプログラムの著作物性は認められないから,被告ソースコードの制作は,原告ソースコードに係るプログラム著作権(複製権又は翻案権)の侵害に当たらない。】
<令和3218日東京地方裁判所[平成30()28994]/令和3929日知的財産高等裁判所[令和3()10028]>

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