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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

プログラム著作物②

⑴ プログラムの著作物性の解釈
ア プログラムは,電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れる。
したがって,プログラムが著作物であるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要すると解される。
イ そこで検討すると,前記認定のとおり,本件プログラムは,EDINET【(管理人注)金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類の電子開示システム(英文表記である「Electronic Disclosure for InvestorsNETwork」を略して「EDINET」とも表記されており,以下「EDINET」という。)】における取扱いに変更があったことを踏まえ,ユーザーが作成した会計に関するエクセルファイル等をX-Smartに取り込み,会計科目を開示科目に組み替え,編集作業等を経て,宝XBRLの形式に変換することを簡易に行うことなどを目的として開発されたものであり,相応の分量のソースコードから成るものである。
しかしながら,前記に照らすと,DI社が原告に本件プログラムの開発を委託した際に提供された本件各資料のうち,少なくとも本件資料4ないし6には,本件プログラムに要求される機能及びそれを実現する処理,画面の構成要素等を別紙3本件プログラム説明書と同様のものとすることが概ね示されていたと認められる。
また,前記認定のとおり,本件プログラムは,ユーザーからのフィードバックの結果を踏まえ,順次,DI社からの発注を受けて修正及び追加等をしながら開発されたものであり,その過程で,そのソースコードの一部については,DI社から元となるデータやそのサンプルが提供され,その作成方法を指示されるなどして作成されたものであること,その他,ソースコード中にNetAdvantageに含まれるファイル,VisualStudioで自動生成されるファイル,オープンソースからダウンロードしたファイルから作成された部分や,一般的な設定ファイル等である部分も相応に含まれていることにも照らせば,ソースコードの分量等をもって,本件プログラムに係る表現の選択の幅が広いと直ちにはいえない。
(略)
⑶ 原告の主張について
原告は,本件プログラムはプログラムの著作物に当たるとし,その理由として,①本件プログラムは,原告が創作した部分に限っても,合計4万0381ステップという膨大な量のソースコードから成り,指令の組み合せ方,その順序,関数化の方法等には無限に近い選択肢があること,②本件プログラムにおけるエクセル取込機能及び簡易組替機能は,一般的な用途に使用されるものではないから,これらの機能を実現するためのプログラムがありふれたものであるとはいえないこと,③原告は,NetAdvantageVisualStudio等の開発ツールを用いながらも,ライブラリ群の中からどのライブラリを用いるべきか,どの順番でライブラリを呼び出させるべきか,どのように加工すべきか,どのようにパラメータを設定すべきかなどに工夫を凝らしており,それらに個性が表れていること,④本件各資料は,いずれも要求定義又は外部設計に関するものにすぎず,DI社が要求している機能を実現するための指令の組合せは記載されていないから,本件プログラムに係る選択の幅を狭めるものではないことを主張する。
しかしながら,上記①について,前記⑴アのとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要すると解されるところ,本件プログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,前記⑴イで認定,説示したとおり,多くのステップ数により記述されていることをもって,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。
また,上記②について,原告の主張は,本件プログラムの機能の特殊性を指摘するにとどまっているところ,プログラムの機能そのものは著作権法によって保護されるものではなく,特定の機能を実現するためのプログラムであるというだけで,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。
さらに,上記③について,原告は,ライブラリの使用等にどのような工夫をしたかについて具体的に主張立証しておらず,その点に選択の幅があり,作成者の個性が表れていると認めるに足りない。
また,上記④について,本件各資料にソースコードが具体的に記述されていないとしても,要求されている機能及び処理を実現するための表現に選択の幅があると当然にはいえないから,この点を考慮しても,本件プログラムに表現上の創作性を認めるに足りないというべきである。
<令和234日東京地方裁判所[平成29()19073]>

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