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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

不法行為に関するその他の論点

【不当提訴の成否(不法行為性)】

法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として 正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当 該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。
以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。
<昭和63126最高裁判所第三小法廷[昭和60()122]>

被告は、まず、本訴請求にかかる訴え等の提起・維持は、何ら法律上の根拠がないのに原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を構成すると主張する。
民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63126日第三小法延判決参照)。
これを本件についてみるに、本訴請求のうち、主位的請求にかかる映画の著作物の著作権に基づく請求、著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求及び不正競争防止法211号に基づく請求は、前示のとおり結局理由がないものとして棄却すべきものではあるが、被告が原告の製造、販売する本件ゲーム機本体にのみ接続可能なコントローラーであって連射機能を付加した被告製品を原告の了解を得ることなく製造、販売している事実自体は争いがなく、被告による右被告製品の販売行為が映画の著作物についての上映権の侵害行為となり、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであり、あるいは、本件ゲーム機によって映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様は本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当するという原告の法律上の主張については、結果的に当裁判所の採用しないところではあるものの、一応一つの見解としては成り立ちうるものであって、理由のないことが誰の目から見ても明らかであるとまではいえず、本件全証拠によるも、提訴者である原告において右法律上の主張が理由のないことを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知りえたとも認められず、本件訴訟の全過程をみても本訴請求にかかる訴え等の提起・維持が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえないことが明らかであるから、被告に対する不法行為を構成しないというべきである。加えて、当裁判所が原告の予備的請求を一部認容すべきものと判断したように、原告の本訴請求も、その請求の趣旨、原因いかんによっては理由があることになるのであるから、なおさら不法行為を構成しないといわなければならない。
<平成90717日大阪地方裁判所[平成5()12306]>

本件仮処分申立てが,相手方に対する違法な行為といえるためには,同申立てに係る審理において,申立人の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであり,しかも,申立人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに,あえて仮処分命令を申し立てたなど,仮処分命令の申立てが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁第三小法廷昭和63126日判決参照)。
そこで,この観点から,被告が原告らを相手方としてした仮処分命令の申立てが,違法な行為といえるか否かについて,検討する。
前記で認定判断したとおり,原告らが携帯万能を販売する行為は,被告が携快電話について有する著作権を侵害するものではないから,本件仮処分申立ては,結果として被保全権利がなく,理由がないことに帰する。
しかし,①被告は本件開発委託契約の17条合意により,プログラムのソースコードを除き,携快電話についての著作権を取得していたこと,②原告らの販売する携帯万能のデータファイルには,携快電話のそれと全く同一のファイルが多数含まれており,具体的には,画像ファイル及び携帯電話機情報ファイルが全く同一であり,着信メロディーのサンプル曲である音源ファイルは7個が同一であったこと,③携快電話と携帯万能は,起動直後の画面,スケジュール編集画面,メールツール画面,メール転送設定画面,ブックマーク編集画面,着メロ編集画面,画像編集画面,iアプリ作成画面が極めて類似していたこと等の事実経緯に照らすならば,被告が,原告らによる携帯万能の販売行為を自己の携快電話について有する著作権を侵害するものと信じたことについては相応の事実的及び法律的根拠があったというべきである。
そうすると,被告の本件仮処分申立ては,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとは認められないから,原告らに対する違法な行為とはならず,不法行為を構成しない。
<平成160128日東京地方裁判所[平成15()5020]>

被告は,一連の原告の行為及びこれに伴う原告の説明等は,民法90条によって禁止される暴利行為に当たる不当に高額な損害賠償金を,あたかも正当なものであるかのように被告に誤信させる欺罔行為であり,不法行為に当たると主張する。これは,すなわち,本件本訴の提起に至るまでの原告の被告に対する請求や言動,本件本訴提起自体,及び本件本訴での原告の主張立証活動が,被告に対する欺罔行為であり,不法行為に当たると主張するものと解される。
そこで,検討するに,民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和63年1月26日判決照)。
これを本件についてみると,本訴において原告が主張した著作権侵害は,結果として法律的根拠を欠くものではあった。もっとも,その判断は一定の法律的判断を要するものであるし,また,損害賠償請求金額についても,その妥当性はさておき,写真素材の販売代理店等においては不正使用があった場合に正規の使用料の数倍から10倍程度の金額を請求する旨の利用規約を定めていたものと認められるから,原告が代理人弁護士を選任することなく自ら一連の行為を行っていることも踏まえると,原告がその主張する著作権侵害やそれに基づく損害賠償請求金額について,根拠を欠くものであることを知りながら又は容易に知り得たといえるのにあえて訴えを提起したといった事情を認めるに足りる証拠はなく,原告の訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認めることはできない。同様に,原告の本件本訴の提起に至るまでの一連の請求や言動,本件本訴での原告の主張立証活動が,被告に対する欺罔行為であり,不法行為に当たるものと認めることもできない。したがって,被告の主張は採用できない。
<平成30329日 東京地方裁判所[平成29()672]>

【不当告訴・告発の成否(不法行為性)】

一般に,告訴,告発をする者は,犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認すべき注意義務を負っており,かかる注意を怠って告訴,告発を行えば不法行為になるというべきである。
これを本件についてみるに,そもそも,本件告訴に係る告訴事実が認められることは,前記において検討したとおりであるから,原告が上記注意義務に違反して本件告訴を行ったと認めることはできない。
よって,本件告訴が違法であるとする被告の主張は理由がない。
<平成230209日東京地方裁判所[平成21()25767]>

【不法行為の成立要件】

著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには,行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り,また,故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって,著作権の帰属に関する行為者の認識の有無,行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か,さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。
<平成231031日知的財産高等裁判所[平成23()10020]>

【将来発生する不法行為(著作権侵害)による損害賠償請求】

1審原告は,本件口頭弁論終結以後も,1審被告らの不法行為が継続することが確実であると主張して,将来の不法行為に基づく損害賠償を請求している。
将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民事訴訟法135条),継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決等参照)。
本件についてみると,本件店舗においては,ライブの出演者自らが演奏曲目を決定しており,1審被告らによる1審原告著作物の利用楽曲数は毎日変動するものであり,その損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することはできず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるものである。1審被告らは,平成28年4月以降,本件店舗の営業形態を変更し,平成29年春頃には閉店予定であると主張し,現に本件店舗の貸借契約が平成29年5月31日に終了することに照らすと,口頭弁論終結日以降の損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に認定することは,なおのこと困難である。さらに,権利の成立要件の具備については権利者である1審原告が主張立証責任を負うべきものである。
そうすると,本件の損害賠償請求権は,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有さないから,1審被告らに対する金員支払請求のうち,口頭弁論終結日の翌日である平成28年9月13日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法であるといわざるを得ない。そして,このことは,1審原告の請求が,将来の不当利得返還請求であると解した場合も,同様である。
したがって,上記部分に関する訴えは,いずれも却下を免れない。
<平成281019日知的財産高等裁判所[平成28()10041]>

【共同不法行為性】

原告は,被告○○が被告△△に対して本件各プログラムを使用させたことによる貸与権侵害については,被告△△による共同不法行為も成立すると主張する。
しかし,著作権法上,貸与行為について一定の行為が著作権(貸与権)侵害とされているにもかかわらず,被貸与者の行為について著作権侵害となる行為が規定されていないこと,著作権法1132項が,プログラム著作物の違法複製物の使用について,違法複製物であることを知って複製物の使用権原を取得した場合に限って著作権侵害を構成するものとしていることに照らせば,プログラム著作物について貸与権侵害行為が行われた場合においても,被貸与者の行為が独自に著作権侵害を構成することはなく,ただ,被貸与者において貸与者が権限なく貸与行為を行っていることを知りながら貸与を受けた場合につき貸与者の行為に意を通じて加功したものとして,共同不法行為者としての責任を負う場合があるにすぎない。
本件においては,被告△△において,被告○○が本件各プログラムの複製物を貸与する権原を有していないことを知りながら,訴外財団からリース契約上の地位の譲渡を受けたとまでは認められない。したがって,貸与権侵害につき被告△△が共同不法行為者としての責任を負うとする原告の主張は,採用できない。
<平成160618日東京地方裁判所[平成14()15938]>

一般に,監修とは,書籍の著述や編集を監督することといわれるが(広辞苑第5版),監修者としての関与の程度には,出版物の権威付けのために名義のみを貸すにすぎないものあるいは単に表現上の軽微な事項や内容的に不適切な点を指摘するものから,監修者自ら内容を検討し,相当部分について加筆補正するなど,監修者が著作物の実質的な内容変更を行うものまでさまざまな形態が考えられる。後者の場合のように,本来の著作者とともに共同著作者と評価され得る程度に関与している場合は,監修者も著作者とともに著作権侵害について共同不法行為による損害賠償責任を負う場合があるというべきであるが,監修者としての関与の程度が出版物の権威付けのために名義のみを貸すにすぎない場合又は単に表現上の軽微な事項や内容的に不適切な点を指摘するにすぎない場合は,特段の事情がない限り,共同不法行為責任を負わないというべきである。
<平成170517日東京地方裁判所[平成15()12551]>

原告は,まず,被告百貨店が被告会社による著作権及び著作者人格権の侵害行為を幇助したと主張する。
そこで判断するに,原告は本件看板の作成行為及び本件売場への設置行為について著作権及び著作者人格権の侵害があると主張するところ,まず,本件看板の作成は被告会社により行われたものであって,作成行為自体に被告百貨店が関与したことをうかがわせる証拠はない。また,本件看板を本件売場に設置し,これを訪れた買物客らに見える状態に置くことは,それ自体として原告写真についての原告の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない(著作権法25条参照)。なお,原告は,本件各パネルを本件売場において組み立てて本件看板とする行為が著作権又は著作者人格権を侵害するものであって,被告百貨店はこれを幇助したとも主張するが,上記行為は複数のパネルを順番に並べるという単純な行為であって,これを独立の侵害行為とみることは相当でない。したがって,被告百貨店が被告会社による著作権等の侵害行為を幇助したと認めることはできない。
原告は,次に,被告百貨店には百貨店としてテナントに対して適切な管理監督をする条理上の義務があり,また,本件の状況下において被告会社が著作権について明確な処理をしたか否かを精査する義務等があるところ,これらを怠ったことに不法行為責任を負う旨主張する。
そこで判断するに,百貨店を経営する会社がテナントに対して著作権法に反する行為をしないよう適切な管理監督をする義務を負い,これに反したときは第三者に対して損害賠償責任を負うと解すべき根拠は見いだし難い。また,本件の関係各証拠上,被告百貨店が被告会社による著作権及び著作者人格権侵害の事実を知り,又はこれを容易に知り得たとは認められないから,原告の主張するような精査等の義務を負うと解することもできない。
したがって,原告の主張はいずれも採用することができず,被告百貨店に対する原告の請求は理由がない。
<平成26527日東京地方裁判所[平成25()13369]>

被告C及び被告Aは,その答弁書において,CとDは同じ会社ではない旨述べるが,これを共同不法行為の成立を争う趣旨であると善解しても,被告Cの代表取締役たる被告Aと被告Dの代表取締役たる被告Bは夫婦であること,被告らがそのホームページにおいて本件各店舗を福岡市内に展開する同系列の店舗として宣伝していること,本件各店舗内で従業員の異動が行われていることなどに照らせば,本件各店舗は,実質的に被告らが共同して経営していたものと認めるのが相当であるから,本件各著作権侵害行為につき,被告らは共同不法行為責任を負うものというべきである。
<令和元年1126日福岡地方裁判所[令和1()1429]>

【大学の使用者責任(民法715条)】

原告は,本件大学院の教員の職務に学術論文の執筆が含まれているか否かという実質面で判断すれば,被告学園に,被告Y1による被告ら各共著論文の公表についての使用者責任が認められると主張する。
しかし,大学又は大学院の教員が行うすべての学術論文の執筆,発表が,使用者である大学又は大学院の事業,及び,被用者である教員の職務の範囲の両方に含まれているとは限らないし,外形上,被用者の職務の範囲に含まれているともいえない。そして,事実的不法行為に関する「事業の執行について」の要件は,職務関連性のみならず,使用者による被用者の行為の支配可能性をも考慮して判断すべきであるところ,憲法23条が規定する学問の自由及び大学の自治の観点からすれば,大学又は大学院における雇用契約上,被用者である教員の研究の内容やそれに基づく研究の成果として発表された論文の内容について,公表までの段階で,使用者は過度に関与すべきではなく,被告学園の就業規則が,研究に関して,職員が研究目的達成努力義務を負うことしか規定していないのもかかる趣旨に基づくものと解される。本件における氏名表示権侵害行為後に発表された,平成26年8月26日付け文部科学大臣決定「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」も,研究活動における不正行為について,一次的には,研究者自身の倫理及び社会的責任の問題と捉え,二次的に,研究機関の対応強化を提案し,不正行為を事前に防止する取組みを推進すべきという行為指針を示しているが,ここでも,研究機関の取組内容として,論文盗用等の不正行為に対し,事後的には,調査や告発等比較的具体的な提案がなされている一方で,事前の予防措置としては,研究倫理教育といった比較的抽象度の高いものしか挙げられていないのも,同様の見地に立つものと解される。このような事情からすれば,被告Y1が執筆に関与した被告ら各共著論文の公表につき,被告学園の使用者責任を肯定することはできないというべきである。
原判決が,被告学園の使用者責任を否定するに当たって,被告ら各共著論文の名義に所属する大学名や肩書きが記載されていないことや,本件大学院ないし被告学園の名義で発表されたものでないこと,本件大学院の研究・教育課程において発表されたものではないことを理由として掲げたのは,大学院の教員の職務におよそ研究発表が含まれないことを前提とした上で,職務関連性及び事業執行性を否定したものではなく,本件で問題となる被用者の不法行為が,肩書き等を示さない論文発表という行為の外形からだけでは,当然に被用者である被告Y1の職務の範囲に含まれているとはいえず,取引的不法行為に必ずしも当たらないことを明らかにしつつ,具体的な職務命令の不存在等を指摘することで,事実的不法行為を認めるための要件である上記支配可能性を否定し,職務関連性と支配可能性を総合考慮すると,「事業の執行について」の要件該当性が否定されるべきことを示したものと解され,正当なものとして是認できる。
<平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>
【参考:原審】
被告Aは,被告ら各共著論文による氏名表示権侵害についてのみ,被告Bと連帯して損害賠償義務を負うものと認められるところ,原告は,被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が被告学園の事業の執行について行われたものであるとして,被告学園がその使用者責任(民法715条1項本文)を負うと主張する。
しかし,被告ら各共著論文は,いずれも被告A及び被告Bが共同で執筆して発表したものであるが,それらはいずれも一般社団法人電子情報通信学会発行の「信学技報」に,両被告の個人名で掲載されて公表されたものであって,本件大学院の研究・教育課程において発表されたものではなく,本件大学院ないし被告学園の名義で公表されたものでもないのであるから,被告Aが本件大学院の教員の職務として被告ら各共著論文を執筆し,公表したものと認めることはできない。
このほか,本件全証拠によっても,被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が被告学園の事業の執行に当たり,それについて被告学園が使用者責任を負うと解すべき事情を認めるに足りる証拠はない。
よって,被告学園の使用者責任に関する原告の上記主張は採用することができず,原告の被告学園に対する損害賠償請求は理由がない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]>

【会社法4291項適用の可否】

被告会社は本件各ウェブサイトに本件各漫画を含む同人誌等を,更新を繰り返しながら多数掲載し,無料で閲覧することを可能にしつつ,広告を掲載して広告掲載料を得ることを業としていたものと認められるが,被告会社の従業員数が約30名程度であること,役員は亡Z,被告Y1,被告Y2ほか1名であり,その役員構成は平成21年以前から亡Zの死亡時まで不変であることなどに照らすと,本件各漫画等の違法な掲載について代表取締役である亡Z及び被告Y1は認識し,仮に認識していなかったとしても容易に把握し得る状況にあったと考えられる。
取締役は,会社に対し,善管注意義務を負い(会社法330条,民法644条),会社の事業において第三者の著作権等の権利を違法に侵害しないよう注意する義務を負うところ,亡Z及び被告Y1が,被告会社による本件各漫画に係る公衆送信権侵害行為を防止する措置を何ら講じなかったことは任務懈怠に当たり,悪意又は少なくとも重過失が認められる。
したがって,被告Y1及び亡Zの権利義務を承継した被告Y2は,会社法429条1項に基づき,損害賠償責任を負い,当該責任は,被告会社の不法行為に基づく上記損害賠償責任と不真正連帯債務の関係に立つ。
<令和2214日東京地方裁判所[平成30()39343]>

【民法509条の適用の可否が問題となった事例】

控訴人は,仮に,控訴人が,被控訴人に対し著作権・著作者人格権侵害を原因として171万円の損害賠償債務を負担するとすれば,控訴人は,Dの偽計業務妨害行為によって優に1千万円を超える損害を被り,同損害については,Dの使用者である被控訴人に対し,民法715条に基づく損害賠償請求権を有するから,同損害賠償請求権を自働債権とし,被控訴人の上記損害賠償請求権を受働債権として,対当額において相殺する旨の意思表示をするものであり,双方過失による事故で損害が物的損害の場合には相殺の主張を認めても何ら不都合はなく,民法509条の相殺禁止の原則は適用されない旨主張する。
しかし,被控訴人は控訴人に対し民法715条に基づく損害賠償責任を負う余地があるものの,債務が不法行為によって生じたときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができず(民法509条),この理は双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害による損害賠償債権相互間においても妥当するものである(最高裁昭和49年6月28日第三小法廷判決参照)から,控訴人の主張する民法715条に基づく損害賠償請求権を自働債権として,被控訴人の著作権及び著作者人格権侵害による損害賠償請求権を受働債権とする相殺を被控訴人に対抗することはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,不法行為責任の有無を検討するまでもなく,主張自体失当である。
<平成27528日知的財産高等裁判所[平成26()10103]>
【参考:最高裁<昭和49628日最高裁判所第三小法廷[昭和47()36]>
『民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によつて損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解するのが、相当である(最高裁昭和32430日第三小法廷判決参照。)。したがつて、本件のように双方の被用者の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、民法509条の規定により相殺が許されないというべきである。』

【破産法25312号の該当性が問題となった事例】

【注:事案の概要】
本件は,音楽著作物(歌詞・楽曲)の著作権者から信託を受けて,音楽著作物を管理している原告が,カラオケ装置のリース業者である「訴外会社」の代表者であった被告に対し,著作権(演奏権,上映権)侵害を理由として,民法709条に基づき著作物使用料相当額及び弁護士費用相当額等の支払を求めた事案である。 なお,本件訴訟では,当初,訴外会社も被告とされていたが,その後両者ともに破産手続が開始したことから,原告は,訴外会社に対する訴えを取り下げるとともに,免責が確定した被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を,悪意で加えた不法行為(破産法253条1項2号)に基づく損害賠償請求であると主張するようになった。
社交飲食店の経営者が通信カラオケ装置を店舗内に設置して,著作権者の許諾を得ないまま,同装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を演奏,上映し,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなどして,その営業に利用する場合には,社交飲食店の経営者が演奏権又は上映権を侵害している行為主体というべきであるところ,別紙記載の一部店舗において期間等について争いがあるものの,訴外会社からリースを受けたカラオケ装置を用いて原告の管理著作物を利用していた別紙記載の各店舗の経営者は,みな原告からその許諾を得ていなかったというのであるから,少なくともこれらの者が訴外会社からリースされたカラオケ装置を使用して著作権侵害行為をなしていたことは明らかなことということができる。
そして,カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物利用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である(最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決)から,別紙記載の各店舗の経営者によって著作権侵害に使用されたカラオケ装置をリースしていた訴外会社は,上記注意義務に違反していのたであれば,これによって,別紙各店舗の経営者による著作権侵害行為を幇助する不法行為をなしていたということができる。
原告は,訴外会社の代表者であった被告が,訴外会社が設立された平成14年6月19日の当初から,その業務全般を支配しており,同日以降,訴外会社をしてリース業者として条理上負うべき前記注意義務を履行させるべき立場にあったことから,被告が訴外会社をして,著作権侵害を生じさせる蓋然性の極めて高いカラオケ装置を,原告との間で著作物利用許諾契約を締結させ又は原告に対してその申込みをしたか否かを確認しないまま次々と顧客である社交飲食店に引き渡しさせたとことが不法行為を構成する旨主張し,また被告自ら又は従業員をして,社交飲食店の経営者に対し,著作権料は支払いたい人だけが支払えばよいなどと,虚偽の説明をして,訴外会社との間で,カラオケ装置のリース契約及び情報サービス提供契約を締結するよう勧誘し,また,契約申込書に実際のカラオケ装置の設置日より遅い年月日を記入するなど,カラオケ装置を設置してから著作物利用許諾契約締結までの間の著作物使用料相当額の支払を免れる方法を指導することなどの点でも著作権侵害の不法行為を構成する旨を主張している。
確かに,被告が訴外会社の設立以降,代表取締役への就任の有無にかかわらず,同社の業務に従事して経営上の決定をしていたということからすると,代表取締役に就任していない期間を含めて,被告は訴外会社をして上記注意義務を履行させるべき地位にあったといえるが,後記認定の事実関係からすると,被告は訴外会社をして上記注意義務を履行させていたと認められないし,また被告自らでないとしても,主張にかかるような従業員による不当な勧誘や指導がなされていた事実が全く認められないわけではないところ,これは訴外会社の経営方針を反映するものと推認され,その意味では訴外会社の経営を決する被告が無関係とはいえないから,これらの点からすると,被告には管理著作物の著作権について直接侵害者となる別紙の各店舗の経営者による不法行為についての幇助者ないし教唆者として共同不法行責任が成立することは免れそうにないということができる。
しかし,被告が破産免責を受けていることからすると,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるためには,その損害賠償請求権が単なる不法行為に基づくものではなく,「悪意で加えた不法行為に基づく」もの(破産法253条1項2号)であることが必要であるところ,以下に検討するとおり,本件において被告に成立が認められ得る不法行為をもって「悪意で加えた不法行為」というには足りないというべきである。
なお,原告は,破産法253条1項2号にいう「悪意」を単なる故意と同義であると主張しているが,同項3号に,「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」とあることに鑑みると,同項2号の「悪意」が「故意」と異なる内容を含むことは明らかであって,したがって「悪意」とは単なる「故意」を超えた,権利侵害に向けた積極的な害意を意味するものと解するのが相当である。
(略)
要するに訴外会社ひいては被告の行為がいかに非難に値しようとも,それは他者の利益を顧みずに自らの利益を図ったということにすぎず,そのような行為の結果として無許諾店舗に経営者による原告の管理著作物についての権利侵害が起きようとも,これをもって,原告の権利侵害に向けた積極的な害意,すなわち破産法253条1項2号にいう「悪意」があるとは認められないというべきである。
なお原告は,無許諾店舗の解消に向けての訴外会社の非協力や,無許諾店舗からの過去分の使用料徴収に向けての交渉過程において,訴外会社ないし被告が事実を隠蔽したり,虚偽の報告をなしたりしたことなどにうかがえる一連の悪性をもって,被告の不法行為が「悪意」をもって加えたものであることを基礎づけようとしているが,本件において問題としている不法行為は,無許諾店舗においてされた著作権侵害にリース業者として加功した点をとらえていうものであるはずであるから,上記の点で,訴外会社,ひいては被告の対応が不誠実であることを否定できないとしても,そのような事情をもって,本件で問題とすべき被告の行為が「悪意」をもってなされたとは評価できないというべきである。
したがって,本件では,被告が「悪意をもって加えた不法行為」をしたものと認めることができないから,これに基づく損害賠償請求権も認められない。
<平成27827日大阪地方裁判所[平成24()9838]>

【重複する訴えの提起の禁止(民訴法142条)】

民訴法142条によって二重起訴が禁止されるのは「事件」を同一とする場合であり,「事件」の同一性は,当事者及び訴訟物の同一性により判断される。
別訴の訴訟物は,控訴人の著作権等が侵害されたことを理由とする控訴人の損害賠償請求権である。これに対し,本件訴訟の訴訟物は,被控訴人の営業上の利益が侵害されたことを理由とする被控訴人の損害賠償請求権である。
このように訴訟物が異なるから,「事件」は同一でなく,本件訴訟の提起は民訴法142条に反しない。
<令和元年87日知的財産高等裁判所[平成31()10029]>

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