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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物②

【ノンフィクション・歴史的記述】

歴史上の事実や歴史上の人物に関する事実は,単なる事実にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないというべきである。他方,歴史上の事実等に関する記述であっても,その事実の選択や配列,あるいは歴史上の位置付け等において創作性が発揮されているものや,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作権法の保護が及ぶことがあるといえる。
<平成261219日東京地方裁判所[平成25()9673]>

歴史上の事実や歴史上の人物に関する事実は,単なる事実にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないというべきである。他方,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,事実の選択,配列や,歴史上の位置付け等が著作物の表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。
本件において,控訴人は,原告各小説の各ストーリーを構成する個々の出来事の選択とその配列の仕方に創作性があると主張し,各ストーリーを構成する出来事に5つのWが備わっていれば,それを複数選択し,配列したものには,創作性があると主張する。
しかし,原告各小説は歴史を題材とした小説であるから,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列しただけでは,歴史上の事実等の経過を示したものにすぎないこと,あるいは,これらの事実等についての見解や歴史観を示すものにすぎないことがあるから,常に著作権法の保護の対象となるとはいえない。控訴人主張に係る各ストーリーに創作性があり,事実の選択や配列が表現上の本質的特徴を基礎付けるというためには,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列することだけでは足りず,少なくとも,事実の選択や配列に創作性が発揮されているといえなければならない。
(略)
控訴人は,著作権法で保護する人物設定であるためには,登場人物に,具体的な「性格,思想,道徳,経済観念,経歴,境遇,容姿等」を与えればよいのであって,原告小説の6人の登場人物についての人物設定はいずれも,かかる要件を満たすから,著作権法で保護されるべきものである,と主張する。
しかし,原告小説の6人の登場人物は,いずれも歴史上の実在の人物であり,具体的な「性格」等を与えるだけでは,単なる歴史上の事実か,歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないから,著作権法の保護の対象となるとはいえない。他方,人物設定に関する記述であっても,人物設定をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,歴史上の位置付け等が表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。
<平成28629日知的財産高等裁判所[平成27()10042]>

ありふれた表現は,一般に,複数存在するのであるから,歴史的事項を説明する表現に他の表現を選択する余地があるとしても,そのことを理由として,直ちに個性の発揮が根拠付けられるものではない。
<平成27910日知的財産高等裁判所[平成27()10009]>

原告各著作物は、原告の体験した事実や歴史的事実を基礎に記述された読み物である。自ら体験した事実や歴史的事実に関する記述部分であっても、どのような事実を取捨選択するか、また、どのように表現するかについては、様々な方法があり得るから、表現上の創意工夫の発揮される表現が用いられている限り、原則として、創作性が認められることはいうまでもない。
<平成130326日東京地方裁判所[平成9()442]>

【歴史教科書】

歴史教科書は,簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであって,一般の歴史書と同様に,その記述に創作性があるか否かを問題とすべきである。すなわち,他社の歴史教科書とのみ対比して創作性を判断すべきものではなく,一般の簡潔な歴史書と対比しても創作性があることを要するものと解される。
そして,簡潔な歴史書における歴史事項の選択の創作性は,主として,いかに記述すべき歴史的事項を限定するかにあるのであり,選択される歴史的事項は一定範囲の歴史的事実としての広がりをもって画されている。したがって,同等の分量の他書に一見すると同一の記述がなかったとしても,それが,他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や,当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充,付加するにすぎないものである場合には,歴史書の著述として創意を要するようなものとはいえない。(中略)
以下,他社の歴史教科書に同様の表現があるか否かの点を中心に,控訴人各記述の創作性を検討するが,これは,他社の歴史教科書が同等の分量を有する歴史書として,もっとも適切な対比資料であり,他社の歴史教科書に同様の表現があることは,当該表現がありふれたものであることの客観的かつ明白な根拠だからである。
<平成27910日知的財産高等裁判所[平成27()10009]>

【自然科学論文】

自然科学上の知見を記載した論文に一切創作性がないというものではなく、例えば、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章で構成される段落について、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章として捉えた上で、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせて見たときに作成者の個性が現れている場合には、その単位全体の表現として創作的なものということができるから、その限りで著作物性を認めることはあり得るところである。
<平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]>

自然科学論文,ことに本件のように,ある物質の性質を実験により分析し明らかにすることを目的とした研究報告として,その実験方法,実験結果及び明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を記述する論文は,同じ言語の著作物であっても,ある思想又は感情を多様な表現方法で表現することができる詩歌,小説等と異なり,その内容である自然科学上の知見等を読者に一義的かつ明確に伝達するために,論理的かつ簡潔な表現を用いる必要があり,抽象的であいまいな表現は可能な限り避けられなければならない。その結果,自然科学論文における表現は,おのずと定型化,画一化され,ある自然科学上の知見に関する表現の選択は,極めて限定されたものになる。
したがって,自然科学論文における自然科学上の知見に関する表現は,一定の実験結果からある自然科学上の知見を導き出す推論過程の構成等において,特に著作者の個性が表れていると評価できる場合などは格別,単に実験方法,実験結果,明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を定型的又は一般的な表現方法で記述しただけでは,直ちに表現上の創作性があるということはできず,著作権法による保護を受けることができないと解するのが相当である。
これに対し,原告は,自然科学上の知見の表現においては,表現技法は,論理性,一義性,明確性等の要請があり,当該自然科学上の知見を一般的に認識し得るようにするための論理的かつ簡潔な表現技法も,著作権法上保護されるべきものであると主張する。
しかしながら,原告主張のような表現技法について著作権法による保護を認めると,結果的に,自然科学上の知見の独占を許すことになり,著作権法の趣旨に反することは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
<平成170428日大阪高等裁判所[平成16()3684]>

【法律問題の留意事項】

ある法律問題についての見解や手続における留意事項自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することや手続における留意点を表記することが著作権法上禁止されるいわれはない(。)
<平成27130日東京地方裁判所[平成25()22400]>

租税論の入門的教科書】

既に明らかとされている原理・原則・定説を解説する場合についても,これをどのような文言,形式を用いて表現するかは,各人の個性に応じて異なり得ることは当然である。したがって,原理・原則・定説を内容とする租税論の入門的教科書であっても,わかりやすい例を用い,文章の順序・運びに創意工夫を凝らすことにより,創作性を有する表現を行うことは可能であり,記述中に公知の事実等を内容とする部分が存在するとしても,これをもって直ちに創作性を欠くということはできず,その具体的表現に創作性が認められる限り,著作物性を肯定すべきものと解するのが相当である。
<平成190528日東京地方裁判所[平成17()15981]>

【司法書士試験受験対策本】

原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で民法の基本的概念を説明するものであるから,民法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈等を簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避であるというべきであり,その記載内容,表現ぶり,記述の順序等の点において,民法の該当条文の内容等を簡潔に整理した記述という範囲にとどまらない,作成者の独自の個性の表れとみることができるような特徴的な点がない限り,創作性がないものとして著作物性が否定されるものと解される。
<平成240928日東京地方裁判所[平成23()14347]>

【法律論文中の記述(もとになる文献がある)】

被告らは,原告表現1は証拠文献を要約して引用したものにすぎず,創作性がないと主張する。しかし,著作権法2条1項1号所定の「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の何らかの個性が表れたものであれば足りるというべきであるところ,原告表現1は,9頁にわたる証拠文献を,「再送信同意の基本原則」,「具体的な技術要件」,「再送信同意の手続き」の3部に分けて簡潔に要約したものであり,各部において証拠文献の該当項の冒頭部分を中心に抜き出してはいるものの,必ずしも冒頭部分をそのまま抜き出したものでないことが認められるから,そこには選択の範囲,記述の順序,文章の運び及び具体的な文章表現等の点において原告なりの工夫がされていると認めることができ,その限度で作者の個性が表れていると認められるのであり,表現上の創作性がないということはできない。
(略)
被告らは,原告表現2には創作性がないから,原告の氏名表示権の対象となるべき表現が存在しないと主張する。しかし,原告表現2のうち共通部分は,2003年改正後の英国著作権法6条の規定について説明するものではあるものの,単に同条の規定をそのまま引用したものではなく,「有線番組サービス」等の独自の訳語を用いながら,記述の順序,文章の運び及び具体的な文章表現等の点において原告なりの工夫をしながら,同条の改正内容を分かりやすく解説した文章であると認めることができ,その限度で作者の個性が表れていると認められるから,全体としては表現上の創作性がないということはできない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]>
【注:控訴審も同旨】
被告らは,原告表現1及び同2の創作性は否定されるべきと主張する。しかし,接続詞の有無等,明らかに表現の本質的部分とはいえない部分を除くと,被告らが,原告表現1及び同2における創作性がない根拠として具体的に指摘するのは,原告表現1が,証拠文献の重要部分をありふれた方法で選別,要約,加工したものである,原告表現2が,英国著作権の条文の客観的な説明にすぎない,という点である。これらは,いずれも原告表現の創作性の低さを指摘するものではあるが,特定のまとまりのある文章から重要と考える部分を選別,要約,加工したり,特定の法律の条文の内容を説明したりする表示方法として,多様な選択の幅がある以上,上記の主張では,原告表現1及び同2に個性の発揮がなくありふれたものといえるほどの事情を指摘できておらず,原告表現1及び同2の創作性は否定できない。
<平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>

【取締役会議事録】

本件文書に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
<平成171025日大阪高等裁判所[平成17()1300]>

【内容証明郵便文書(催告書等)】

本件催告書は,被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき要求するという内容のものであり,その本文は, 本件第1文から本件第5文までの5つの文章【注:第1文…被告サイトに,本件回答書の本文が全文記載されているという事実を表現したもの/2文…本件回答書の文章について,原告が公表権を有しているという主張を表現したもの/3文…本件回答書を,被告サイトに掲載することにより公表したことは,本件回答書について原告が有する公表権を侵害する違法行為であるという主張を表現したもの/4文…被告に対して,被告サイトから本件回答書を削除するよう求めることを表現したもの/5文…本件催告書による原告の催告に被告が従わない場合に,法的手段に訴えることを表現したもの】から構成されている。
(略)
本件催告書の構成は,本件第1文において,本件催告書によって中止を求める対象となる被告の行為を指摘し,本件第2文において,原告の権利内容の主張をし,本件第3文において,本件第1文で指摘した被告の行為は,本件第2文で示した原告の権利を侵害する違法な行為であることを主張し,本件第4文において,被告に対して,本件第1文で指摘した行為の中止を求め,本件第5文において,本件第4文の催告に従わない場合に,原告が法的措置を採ることを示すというものである。
被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき請求するという内容の催告書を作成する場合,種々の構成が考えられるが,上記の構成を採ることは自然であり,実際,代理人催告書も,上記と同じ構成を採っており,各種の催告書の文例にも,上記の構成と同様の構成を採っているものがある。
したがって,本件催告書全体の構成に,原告の個性が現れているということはできないと解される。
これに対し,原告は,本件催告書は,法律上の論点をすべて網羅することはせず,必要な限度において論点を取捨選択し,これを理解しやすい順番に並べたものであり,この点に,創作性が認められる旨の主張をする。
確かに,本件回答書についての公表権に基づき,被告サイトから本件回答書の削除を要求する文章を作成する場合,取り上げるべき論点,記載すべき事項についての選択が可能であり,また,その記載の順序についても,種々のものが考えられるが,著作権法上,言語の著作物として保護されるのは,そのような選択に関するアイデア自体ではなく,具体的な表現であると解すべきである。したがって,素材や表現形式に選択の幅があったとしても,実際に作成された言語上の表現がありふれたものである限り,創作性は認められないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は理由がない。
<平成210330日東京地方裁判所[平成20()4874]>

原告文書は,原告が,○○株式会社(通知人)の代理人として,平成23104日,被告Yに宛てて送付した通知書であり,表題,日付等の記載の後に,通知人の代理人として通知を行う旨及び被告Yの作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨を記載し,上記記事のURLを表示し,さらに,上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨,上記記事の削除を求め,削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨,以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨を記載したものである。
上記原告文書の本文部分は,上記URLの表示部分を含めても17行,URLの表示部分を除けば13行からなるものである。
原告文書は,前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で,これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎない。原告文書の体裁,記載内容,記載順序,文章表現は,いずれも内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであり,ありふれたものというべきであるから,原告文書において何らかの思想又は感情が表現されているとしても,上記思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。
<平成250628日東京地方裁判所[平成24()13494]>

【行政書士会に対する苦情申告書】

原告文書は,原告が東京行政書士会会長宛てに提出した平成231017日付けの苦情申告書であり,A45ページからなる文書である。原告文書は,表題,日付等の記載の後に,苦情の趣旨及び苦情の理由を記載し,さらに「第3 最後に」として,「申告者は,…多くの行政書士の方々が本当に真摯に依頼者のために業務に取り組まれていることをよく存じあげております。そのような中で,本件の苦情対象行政書士のごとく,行政書士法違反の非違行為を行う行政書士がごく少数でも存在することは,行政書士全体の社会的信用を貶めるものであり,適正に業務をされておられる大多数の行政書士の方々にも多大な悪影響を及ぼすものであると思います。」などと記載し,東京行政書士会に調査,対応を求める旨と,状況の改善がない場合には対象行政書士の東京都知事に対する懲戒を申し立てる所存である旨などを記載したものである。
原告文書は,行政書士会に対する苦情申告書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(日付,申告者等の形式的記載事項や,申告すべき苦情の内容,事実関係の記載,上記事実関係の法的評価,非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができる。しかし,苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書は,上記のとおり表現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表現したものに当たるということができる。
したがって,原告文書には著作物性が認められる。
<平成250628日東京地方裁判所[平成24()13494]>

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