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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物の侵害性

【スローガン】

原告スローガン【『ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート』】や被告スローガン【『ママの胸より チャイルドシート』】のような交通標語の著作物性の有無あるいはその同一性ないし類似性の範囲を判断するに当たっては,①表現一般について,ごく短いものであったり,ありふれた平凡なものであったりして,著作権法上の保護に値する思想ないし感情の創作的表現がみられないものは,そもそも著作物として保護され得ないものであること,②交通標語は,交通安全に関する主題(テーマ)を盛り込む必要性があり,かつ,交通標語としての簡明さ,分りやすさも求められることから,これを作成するに当たっては,その長さ及び内容において内在的に大きな制約があること,③交通標語は,もともと,なるべく多くの公衆に知られることをその本来の目的として作成されるものであること(原告スローガンは,財団法人全日本交通安全協会による募集に応募した作品である。)を,十分考慮に入れて検討することが必要となるというべきである。
そして,このような立場に立った場合には,交通標語には,著作物性(著作権法による保護に値する創作性)そのものが認められない場合も多く,それが認められる場合にも,その同一性ないし類似性の認められる範囲(著作権法による保護の及ぶ範囲)は,一般に狭いものとならざるを得ず,ときには,いわゆるデッドコピーの類の使用を禁止するだけにとどまることも少なくないものというべきである。
これを本件についてみると,まず,原告は,母親が幼児を膝の上に乗せて抱いたりするよりもチャイルドシートを着用させた方が安全であるという考え方を広めたいとの趣旨から,「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との対句的表現を用いたものであり,この表現の前に更に,「ボク安心」との表現を配置して,両者を対句的に用いることにより,家庭的なほのぼのとした車内の情景を効果的に的確に表現し,これらを全体として575調で表現している。他方,「チャイルドシート」は,もともと,保護者が車内に同乗する幼児の安全を守るために着用させるものであり,また,幼児を同乗させる車内の光景としては,父親が車を運転し,母親が幼児を保護するのがその典型的なものとして連想されるため,幼児とその母親とチャイルドシートは密接に関連する題材であるということができ,このことから,「ボク」,「ママ」及び「チャイルドシート」という三つの語句は,チャイルドシートに関する交通標語において,使用される頻度が極めて高い語句であると推認することができる。また,チャイルドシートの使用を勧めるに当たり,チャイルドシートを使用しない従前の状態との対比を明らかにすることにより,その効果を高めようとして,「…よりチャイルドシート」とすることは,ごくありふれた手法に属する。このようにみてくると,原告スローガンに著作権法によって保護される創作性が認められるとすれば,それは,「ボク安心」との表現部分と「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との表現部分とを組み合わせた,全体としてのまとまりをもった575調の表現のみにおいてであって,それ以外には認められないというべきである。
これに対し,被告スローガンにおいては,「ボク安心」に対応する表現はなく,単に「ママの胸より チャイルドシート」との表現があるだけである。そうすると,原告スローガンに創作性が認められるとしても,それは,前記のとおり,その全体としてのまとまりをもった575調の表現のみにあることからすれば,被告スローガンを原告スローガンの創作性の範囲内のものとすることはできないという以外にない。
<平成131030日東京高等裁判所[平成13()3427]>

【語呂合わせ】

〇原告語呂合わせ1及び被告語呂合わせ1について【「ビヤーッ、どっと はえる( )。」(原告語呂合わせ)vs.「びぃあ~,どっと あごひげ伸びる」(被告語呂合わせ)※英単語「beard」を記憶するための語呂合わせ
原告語呂合わせ1と被告語呂合わせ1とは,「びあー」様の記述に続けて「,どっと」と記述する点において共通している。
しかしながら,上記共通部分はごく短い上,共に「beard」という英単語とよく似た発音を有する語句を主要な構成要素とするものであるが,特定の英単語を語呂合わせにしようとすること自体はアイデアであって著作権法上の保護を受け得ないところ,同アイデアを表現する上では,当該英単語とよく似た発音を有し,かつ,当該英単語の日本語訳と意味が通じる日本語の語句を選択した上,この語句と,当該英単語の日本語訳とをつなげることが不可欠な要素となり,これらの要素は,特定の英単語を語呂合わせにしようというアイデアを表現する上で不可欠な表現上の制約であるというべきである。そして,「beard」の発音をカタカナ読みして「ビアード」とし,これと日本語訳(あごひげ)とを「どっと」というありふれた語句を付加してつなげることは,誰が行っても必然的に同一の表現になるものではないとしても,上記表現上の制約により相当程度限定された選択肢の中でされた表現の域を出るものではなく,かかる意味においてありふれた表現と言わざるを得ないから,思想又は感情を創作的に表現したものと認めることは困難である。
したがって,原告語呂合わせ1と被告語呂合わせ1とは,表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,被告語呂合わせ1は,原告語呂合わせ1を複製又は翻案したものには当たらない。
〇原告語呂合わせ4及び被告語呂合わせ4について【「ぶっちゃけ( )です。」(原告語呂合わせ)vs.「ぶっちゃけ肉屋ですから」(被告語呂合わせ)※英単語「butcher」を記憶するための語呂合わせ
原告語呂合わせ4と被告語呂合わせ4とは,「ぶっちゃけ」「です」と記述する点において共通している。
しかしながら,上記共通部分はごく短い上,「butcher」の発音をカタカナ読みして「ブッチャー」とし,音を付加して「ブッチャケ(ぶっちゃけ)」として,これに「です」との助動詞を付加して日本語訳(肉屋)とつなげることは,誰が行っても必然的に同一の表現になるものではないとしても,上記で述べた表現上の制約により相当程度限定された選択肢の中でされた表現の域を出るものではなく,かかる意味においてありふれた表現と言わざるを得ないから,思想又は感情を創作的に表現したものと認めることは困難である。
したがって,原告語呂合わせ4と被告語呂合わせ4とは,表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,被告語呂合わせ4は,原告語呂合わせ4を複製又は翻案したものには当たらない。
〇原告語呂合わせ44及び被告語呂合わせ44について【「コンパ理系とで( )。」(原告語呂合わせ)vs.「コンパ理系とで複雑だ」(被告語呂合わせ)※英単語「complicated」を記憶するための語呂合わせ
原告語呂合わせ44と被告語呂合わせ44とは,「コンパ理系とで」と記述する点において共通している。
しかしながら,上記共通部分はごく短い上,「complicated」の発音をカタカナ読みして「コンプリケイテッド」とし,音を一部変化させて「コンプ」を「コンパ」と,「リケイテッド」を「リケイトデ(理系とで)」として,これを日本語訳(複雑な)とつなげることは,誰が行っても必然的に同一の表現になるものではないとしても,上記で述べた表現上の制約により相当程度限定された選択肢の中でされた表現の域を出るものではなく,かかる意味においてありふれた表現と言わざるを得ないから,思想又は感情を創作的に表現したものと認めることは困難である。
したがって,原告語呂合わせ44と被告語呂合わせ44とは,表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,被告語呂合わせ44は,原告語呂合わせ44を複製又は翻案したものには当たらない。
〇原告語呂合わせ45及び被告語呂合わせ45について【「これスッポンだと( )。」(原告語呂合わせ)vs.「これスッポンだと一致す」(被告語呂合わせ)※英単語「correspond」を記憶するための語呂合わせ
原告語呂合わせ45と被告語呂合わせ45とは,「これスッポンだと」と記述する点において共通している。
しかしながら,上記共通部分はごく短い上,「correspond」の発音をカタカナ読みして「コレスポンド」とし,音を一部変化させて「コレスッポンダ(これスッポンだ)」として,これに「と」との助詞を付加して日本語訳(一致する)とつなげることは,誰が行っても必然的に同一の表現になるものではないとしても,上記[1]で述べた表現上の制約により相当程度限定された選択肢の中でされた表現の域を出るものではなく(語呂合わせの類書に「これスッポンだ!形が一致する」「これスッポンと一致する」との語呂合わせがあることからも,他の表現の選択肢が限られていることがうかがわれる。),かかる意味においてありふれた表現と言わざるを得ないから,思想又は感情を創作的に表現したものと認めることは困難である。
したがって,原告語呂合わせ45と被告語呂合わせ45とは,表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,被告語呂合わせ45は,原告語呂合わせ45を複製又は翻案したものには当たらない。
<平成271130日東京地方裁判所[平成26()22400]>

【学術的文章】

確かに、控訴人書籍は、控訴人も序文で自認するように、いわゆるアカデミズムの立場での経済学論文とはいえないものの、日本の企業体制について、諸外国の企業体制との対比、歴史的な成り立ちの検討等を通じて分析を加え、筆者なりの視点からの特徴点を提示するとともに、その理論的な説明の体系化を試みたものということができ、日本経済ないし日本社会に関する学術論文と位置づけることができる。そして、その論理展開の特徴として、控訴人の通商産業省(当時)における勤務等を通じて得た知見に基づく具体例を豊富に提示している点を挙げることができる。
このような控訴人書籍の性格にかんがみ、本件において、被控訴人書籍が控訴人書籍の翻案であるというためには、控訴人書籍中で一定の結論を導くための具体例等として記述された個別の記述部分を取り上げて被控訴人書籍の記述部分と対比した上で、当該記述内容を前後の文脈及び書籍全体の論理展開の中に位置づけ、分析の切り口、事実の提示、その評価、結論に至る論理の運び等の総体としての創作性において、その表現形式上の本質的な特徴を被控訴人書籍が備えるかどうかを判断し、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができることを要するというべきである(最高裁昭和55328日第3小法廷判決参照)。そして、個別の記述内容それ自体を対比しても共通点が見いだせなかったり、共通点があっても、その論理展開上の位置づけが全く異なっていたり、その論理展開がごくありふれたものとして学術に属する著作物としての創作性を基礎づけるに足りない場合には、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することはできないといわなければならない。
<平成130328日東京高等裁判所[平成12()1268]>

本件書籍に記載されているような,人体の各器官の構造,各器官と動静脈及び神経叢との各位置関係等についての客観的な事実はもちろん,解剖の手順・手法も,これらに関する考え(アイデア)も,それ自体は,本来,誰に対しても自由な利用が許されるべきものであって,特定の者に独占させるべきものではないことは,当然というべきである。したがって,解剖実習書である本件書籍についていえば,著作権法上の著作物となる根拠としての表現の創作性となり得るのは,表現された客観的事実自体,手順・手法自体やアイデア自体の有する創作性ではなく,これらの創作性を前提にし,これを当然の出発点としてもなおかつ認められる表現上の創作性に限られるものというべきである。他方,本件書籍のような学術の著作物においては,解剖の手順・手法,人体の各器官の構造,各器官相互の位置関係,各器官と動静脈や神経叢との位置関係等について,これを正確に表現することが重視されるため,個々具体的な表現においては,個性的な表現がむしろ抑制される傾向が生じることは,避けられない。そして,これらのことが相まって,このような解剖の手順・手法,人体の各器官の構造,各器官と動静脈及び神経叢との個々的な位置関係についての事実,ないし,これらの手順・手法や事実を前提とした単一の特定のアイデアを記載するときには,個々の文としてみる限り,著作権法上の著作物としての性質(著作物性)の根拠となる表現上の創作性(創作的ないし個性的な表現)は,その存在の余地がなくなる,あるいは,存在は認められても,その類似範囲(それに類似しているとして権利を及ぼすことのできる範囲)は非常に狭くなる場合が多くなることも,避けられないところとなる。もっとも,本件のような学術の著作物においても,ある手順・手法や事実を前提とした単一の特定のアイデアではなく,複数の事項を前提としたあるまとまりをもったアイデアないし思想についてみれば,その表現の仕方には,広い幅にわたって多数のものがあることになるから,著作の幅が広がり,個々の著作者の考え方によって,創作的ないし個性的な表現を採ることが十分に可能になるということができる。
本件書籍についても,その全体を典型とする,あるまとまりのある部分をみれば,上記のような特徴を持った解剖実習のための手引き書として,思想又は感情を創作的に表現した著作物として保護されるに値するものということができる。しかし,その中の単一の特定のアイデアを一つないし二つの文にまとめたにすぎない部分だけを取り上げると,その表現上の創作性ないし個性を認めることができず,これを独立の著作物として認めることができない場合が多いであろうことは,容易に予測されるところである。
<平成130927日東京高等裁判所[平成13()542]>

【法律解説書】

本件における原告各書籍及び本件各書籍のような法律問題の解説書においては,関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明したり,法令又は判例,学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等を解説するなどし,それらを踏まえた見解を記述することが不可避である。しかるに,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,法令や通達,判決,決定等である場合には,これが著作権の目的とすることができないものである以上(同法13条参照),当該法令等の記述そのものが複製,翻案となることはないのはもちろん,同一性を有する部分が,法令や判決等によって当然に導かれる事柄である場合にも,創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,当該部分に係る記述も複製,翻案には当たらないと解すべきである。
また,手続の流れや法令の内容等を法令の規定や実務の取扱いに従って図示したり図表にすること,さらには,手続上通常用いられる書面の書式を掲載することはアイデアの範ちゅうに属することであり,これを独自の観点から分類し,整理要約したなどの個性的表現がされているといった格別の場合でない限り,そのような図示,図表や書式は,創作的に表現した部分において同一性を有するものとはいえないから,複製,翻案に当たらないと解すべきである。
さらに,同一性を有する部分が,ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合にも,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから,一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,複製,翻案に当たらないと解される。
そして,ある法律問題について,関連する法令等の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用等を記述する場合には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令等又は判例等によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのため,これらの事項について説明する場合に,条文の順序にとらわれずに,独自の観点から分類し,通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。
<平成230915日名古屋地方裁判所[平成21()4998]>

原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で不動産登記法の基本的概念や手続を説明するものであるから,不動産登記法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈や実務の運用等に触れ,簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避である。
ところで,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や判決や決定等である場合には,これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照),複製にも翻案にも当たらないと解すべきであるし,同一性を有する部分が法令の内容や判例,法令,通達等によって当然に導かれる事項である場合にも,表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。また,一つの手続について,法令の規定や実務の手続に従って記述することはアイデアであり,一定の工夫が必要ではあるが,これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別,法令等の内容や手続の流れに従って整理したにすぎない場合は,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから,手続について,実務の手続の流れに沿って説明するにすぎないものである場合も,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。このように解さなければ,ある者が実務の流れに沿って当該手続を説明した後は,他の者が同じ手続の流れ等を実際の実務に従って説明すること自体を禁じることになりかねないからである。さらに,同一性を有する部分が,法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解であったり,当該手続における一般的な留意事項である場合も,一般の解説書等に記載されていない独自の観点から,それを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じているときは格別,そうでない限り,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし,ある法律問題についての見解や手続における留意事項自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することや手続における留意点を表記することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。
そうすると,法律に従った手続等についての受験対策用の解説書であれば,関連する法令の内容や法律用語の意味を解説し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,判例,法令,通達等によって当然に導かれる一般的な手続を説明しなければならないという表現上の制約があるため,これらの事項について,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,手続の流れを手続の目的に沿って,実務で行われる手順に従い,簡潔に要約し,それを説明する上で普通に用いられる法律用語や手続に関する言葉の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。
<平成27130日東京地方裁判所[平成25()22400]>

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