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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

氏名表示権の侵害性

【氏名表示権の意義】

著作者人格権としての氏名表示権(著作権法19条)については,著作者が他人名義で表示することを許容する規定が設けられていないのみならず,著作者ではない者の実名等を表示した著作物の複製物を頒布する氏名表示権侵害行為については,公衆を欺くものとして刑事罰の対象となり得ることをも別途定めていること(同法121条)からすると,氏名表示権は,著作者の自由な処分にすべて委ねられているわけではなく,むしろ,著作物あるいはその複製物には,真の著作者名の表示をすることが公益上の理由からも求められているものと解すべきである。したがって,仮に一審被告と一審原告との間に本件各銅像につき一審被告名義で公表することについて本件合意が認められたとしても,そのような合意は,公の秩序を定めた前記各規定(強行規定)の趣旨に反し無効というべきである。
一審被告は,著作権法19条が氏名表示権の行使の一内容として,明文を以て著作者の変名を表示することや著作者名を表示しないことも認めていることを理由に,真の著作者名を表示することが公益上の理由からも求められていると解することは妥当でないとも主張するが,著作権法は,真の著作者の変名表示や非表示を認めるにすぎず,真の著作者ではない者を著作者と表示することまでも許容する趣旨ではないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
<平成180227日知的財産高等裁判所[平成17()10100]>

氏名表示権(著作権法19条)については,公表権(同法18条)のように,著作者の同意があれば侵害の成立を阻却することを前提とする規定(同条2項)が設けられていないこと,著作者ではない者の実名等を表示した著作物の複製物を頒布する氏名表示権侵害行為については,公衆を欺くものとして刑事罰の対象となり得ることをも別途定めていること(同法121条)からすると,氏名表示権は,著作者の自由な処分にすべて委ねられているわけではなく,むしろ,著作物あるいはその複製物には,真の著作者名を表示することが公益上の理由からも求められているものと解すべきである。
<平成170623日東京地方裁判所[平成15()13385]>

被告書籍の第3章は,原告の著作物又はこれを原著作物とする二次的著作物を含むところ,被告らは,被告書籍の発行に際し,原告の同意を得ることなく,被告書籍に原告の氏名を著作者名として表示しなかったことが認められるから,被告らは,原告の氏名表示権を侵害するものと認められる。
被告らは,被告書籍の参考文献欄等に原告の氏名を表示したと主張する。被告書籍において,原告の氏名は,あとがき欄には協力者として,参考文献欄には参考文献である原告書籍の著者として,それぞれ表示されていることが認められるが,氏名表示権は,「著作者名として」表示し,又は表示しないこととする権利であるから(著作権法191項),協力者や参考文献の著者として表示されるだけでは足りない。被告らの上記主張は,採用することができない。
<平成250314日東京地方裁判所[平成23()33071]>

【公衆への提供・提示】

著作権法19条1項は,文言上その適用を,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用により著作物の公衆への提供又は提示をする場合に限定していない。また,同法19条1項は,著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護するものであると解されるが,その趣旨は,上記権利の侵害となる著作物の利用を伴うか否かにかかわらず妥当する。そうすると,同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。したがって,本件各リツイート者が,本件各リツイートによって,上記権利の侵害となる著作物の利用をしていなくても,本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは,著作権法19条1項の「著作物の公衆への提示」に当たるということができる。
<令和2721最高裁判所第三小法廷[平成30()1412]>

被告B論文は,そもそも公表されておらず,公衆に提供ないし提示されたものではないから,そこに原告論文の著作者名が表示されていないとしても,それによって原告の氏名表示権が侵害されたということはできない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]>

被告らが設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵する行為は,「著作物の公衆への提供若しくは提示」(著作権法191項)に当たらず,氏名表示権を侵害することはない。
<平成220226日東京地方裁判所[平成20()32593]>

原告は,本件動画の「公衆への提供若しくは提示」に際し,原告の変名である「P2」を無断で使用し,原告の氏名表示権を侵害した不法行為が成立する旨主張する。しかし,被告は,本件動画へのリンクを貼ったにとどまり,自動公衆送信などの方法で「公衆への提供若しくは提示」(法19条)をしたとはいえないのであるから,氏名表示権侵害の前提を欠いている。
<平成250620日大阪地方裁判所[平成23()15245]>

氏名表示権(著作権法19条1項)は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表示するか否か,表示するとすれば実名を表示するか変名を表示するかを決定する権利である。
本件表示【注:被告ホームページに掲載された,Bのプロフィールや活動内容等の表示のことで,当該被告ホームページにおいて,本件各書籍の具体的な表現が掲載されているものではなく,また,その内容が提供されているものではない】は,Bの活動等を紹介する記事中の「主な著書」との見出しに続けて,本件各書籍等のタイトル及び出版社を表示し,その表示に続けて,本件書籍1については「(全面指導解説)」,本件書籍2については「(全面指導解説,DVD全面出演指導)」と表示するものである。被告ホームページにおいて,本件各書籍の具体的な表現が掲載されたり,その内容が提供されたりしているものではない。被告ホームページのこのような内容に照らせば,著作物である本件各書籍につき,被告ホームページにおいて公衆への提供,提示がされているとはいえないから,本件表示は,著作物(本件各書籍)の公衆への提供,提示に際してされたものということはできない。また,本件表示は本件各書籍の原作品における表示と関係するものではない。
したがって,仮に原告が本件各書籍の著作者であるとしても,本件表示は,本件各書籍に係る原告の氏名表示権を侵害するものではない。
<平成3082日東京地方裁判所[平成30()8291]>

著作物又は二次的著作物の「公衆への提供又は提示」とは,特定多数の者に提供又は提示することも含む(著作権法2条5項)が,本件記録ビデオが被告P2らの挙式及び披露宴の様子を収録したものであることからすると,仮に被告らが本件記録ビデオを複製するおそれがあるとしても,被告○○が複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのは被告P2らに限られ,3年以上前に挙式等を行った被告P2らが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのも肉親くらいであり,被告P2らが今後SNSサービスに投稿するおそれがあるとも認められないから,被告らが特定多数の者に対してであっても本件記録ビデオを複製し,頒布するおそれがあるとは認められない。
したがって,被告らが原告の氏名表示権を侵害するおそれがあるとは認められない。
<平成31325日大阪地方裁判所[平成30()2082]>

【原著作物の著作者名】

被控訴人が控訴人Aの意に反して甲曲を改変した乙曲を作曲した行為は、同控訴人の同一性保持権を侵害するものであり、さらに、同控訴人が甲曲の公衆への提供又は提示に際しその実名を著作者名として表示しているところ、被控訴人は、乙曲を甲曲の二次的著作物でない自らの創作に係る作品として公表することにより、同控訴人の実名を原著作物の著作者名として表示することなく、これを公衆に提供又は提示させているものであるから、この被控訴人の行為は、同控訴人の氏名表示権を侵害するものである。
<平成140906日東京高等裁判所[平成12()1516]>

原告は,被告各番組において原作者として原告の氏名が表示されていないとして氏名表示権侵害を主張するところ,被告各番組のエンドロールで,「参考文献 X著『田沼意次 主殿の税』」,「参考文献 X著『開国 愚直の宰相堀田正睦』」,「参考文献 X著『調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚』」と表示されていたことが認められる。
上記各表示は,原告各小説と併せて「X著」と表示して,その著者が原告であることをその実名の表示をもって示しているものと認めることができる。
そして,「参考文献」との記載によって,被告各番組が原告各小説に依拠して制作されたことは明らかであるから,被告各番組は原告各小説の二次的著作物に該当すると認められるところ,上記各表示は,「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示」(著作権法19条1項後段)に該当するものと認められる。
<平成27225日東京地方裁判所[平成25()15362]>

【その他】

原告の単独の著作物である本件著作物につき,被告○○との共同著作物であるかのような表示を付して本件出版物として出版した行為は,原告の氏名表示権を侵害したものというべきである。
<平成130920日東京地方裁判所[平成11()24998]>

氏名表示権を規定する著作権法19条は,著作者の著作物に表現された思想が独創的であることを要件としておらず,独創性の程度によって,著作物との関連が明らかではないような氏名の表示方法が許容されると解すべき根拠はない。
<平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>

【「氏名権」侵害】

平成23年度及び平成24年度の理科学習ノート・3年生に,原告の作成したイラスト類が使用されていないのに,イラスト作成者として原告の氏名が表示されたことは当事者間に争いがない。これは被告らの過失による原告の氏名権侵害の共同不法行為であり,原告はこれにより無形損害を被ったと認められる。
<平成28623日東京地方裁判所[平成26()14093]>

【法192項の意義と解釈】

控訴人は,被控訴人らにおいて,12年度資料を複製した13年度資料及び14年度資料を使用した際,Bの氏名を表示して控訴人の氏名を表示しなかったものであり,控訴人の氏名表示権を侵害した旨主張する。しかし,12年度資料の表紙に講師名として記載されている控訴人の氏名の表示は,あくまでも当該維持講習の講師名を表示するものであって,12年度資料の著作名義を表示するものとはいえない。氏名表示権の,著作者名を表示するかしないかを選択する権利であるという側面からみた場合,控訴人は,12年度資料について,少なくとも,控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを選択しているものと解される。そうすると,13年度資料及び14年度資料に講師名としてBの氏名を付するとともに,その他は,12年度資料及び同資料を含む講習資料集と同様の表示をして,平成13年度及び平成14年度の維持講習の講習資料集を作成し,使用することは,著作者名を表示しないこととした控訴人の措置と同様の措置をとっていることになるから,著作者名の表示に関する控訴人の当時の意思に反するものではなく,控訴人の氏名表示権を侵害するものとはいえないと解するのが相当である。したがって,氏名表示権の侵害をいう控訴人の主張は,理由がない。
<平成181019日知的財産高等裁判所[平成18()10027]>

被告は,本件各映像を本件映画に使用するに際し,原告の名称を表示しないことは,「すでに著作者が表示しているところ」に従ってしたものであり,著作権法19条2項により許容されると主張する。
しかし,著作権法19条2項は,「著作物を利用する者は,…その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。」と規定し,著作者名を表示する場合に,その表示として,既に著作者が表示した名称等を用いることを許容するにすぎず,同条3項において著作者名の表示を省略できる場合が規定されていることからしても,著作者名を表示しないことを正当化する規定ではないと解される。
<平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]>
【控訴審も同旨】
控訴人は,氏名の不表示は当該著作物を無名のままにするという著作者の積極的な意思表示であり,著作権法19条2項の解釈としても,「無名の著作物については,その著作者において氏名を表示しないこととする権利を行使したものと考えられるから,その著作物を利用するに際しては…無名の著作物として利用すれば足りる。」と解されている(から,本件映画に被控訴人の名称を表示しなくても氏名表示権侵害は成立しない)と主張する。しかしながら,本件においては,そもそも被控訴人が本件各映像を無名の著作物として公表することを選択した事実,すなわち,本件各映像について著作者名を表示しないこととする権利を積極的に行使した事実を認めるに足る証拠はない。したがって,本件各映像が無名の著作物であるとの前提自体が失当であるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の主張は採用できない。
<平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]>

【法193項の意義と解釈】

著作権法193項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができると規定する。
これを本件についてみるに、本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝誌である「ツーユー評判記」に掲載するために、すなわち「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告に用いる目的で撮影されたものであるところ、本件使用も、まさに「セキスイツーユーホーム」の広告である新聞広告に用いたものである。そして、一般に、広告に写真を用いる際には、撮影者の氏名は表示しないのが通例であり、原告も従来、この通例に従ってきたが、これによって特段損害が生じたとか、不快感を覚えたといったことはなかったことが認められる。
上記の事情に照らせば、本件使用は、その目的態様に照らし、原告が創作者であることを主張する利益を害することはなく、公正な慣行にも合致するものといえるから、同項によって原告の氏名表示を省略する場合に該当するというべきである。
この点につき、原告は、本件使用は無断使用であることを理由に、同項の適用はない旨主張する。しかしながら、著作者人格権と著作権は別個の権利であり、前者は著作者に専属するものであるのに対し、後者は著作者が他者に譲渡することができるものであることに照らせば、著作物の使用が著作権者の許諾を受けたものであるか否かは、同項の適用の可否とは関係がないものというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。
<平成170117日大阪地方裁判所[平成15()2886]>

著作権法193項にいう「著作物の利用の目的及び態様に照らし」とは,著作物の利用の性質から著作者名表示の必要性がないか著作者名の表示が極めて不適切な場合を指すものと解される。
<平成180331日東京地方裁判所[平成15()29709]>

被告らは,それぞれが設置する図書館等において,利用者に対する閲覧,貸与等のために本件韓国語著作物【注:日本語の原告著作物の韓国語版をさす】を所蔵しているものである。そして,一般に,図書館等において所蔵する書籍等を利用者へ貸与する際に,当該書籍等に表示されているもののほかに著作者の氏名は表示しないのが通例であり,そのことによって著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく,公正な慣行にも反しないといえる。そうとすれば,書籍等の貸与に当たっては,公衆への提供又は提示に際して付すべき著作者名の表示とは,書籍等に付された表示に尽きるものであり,被告らが本件韓国語著作物を利用者へ貸与する際に改めて著作者名を表示しなかったとしても原告の氏名表示権を侵害する行為があったとはいえない。
<平成220226日東京地方裁判所[平成20()32593]>
【本件の控訴審では次のように述べている】
被控訴人らが本件韓国語著作物を購入してこれを図書館等において貸与することは,当該著作物が控訴人著作物【注:「原告著作物」のこと】を原著作物とするその二次的著作物であるとしても,二次的著作物の著作者が原著作者である控訴人の氏名表示権を侵害して当該二次的著作物を自ら公衆へ提供又は提示する場合とは異なるものであって,被控訴人らの行為は著作権法191項に該当するものではな(い。)
<平成220804日知的財産高等裁判所[平成22()10033]>

被告らは,本件DVDの商品価値は,撮影されている映像の資料的価値ではなく,編集作業による側面が強いことを理由として,素材となった映像を撮影したにすぎない原告の氏名を表示しなくても,原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないか,又は公正な慣行に反せず,氏名表示権の侵害には当たらない(著作権法193項)と主張する。
しかしながら,氏名表示権は,二次的著作物の公衆への提供等に際しての原著作物の著作者名の表示についても認められること(著作権法191項)からすれば,仮に,本件DVDの商品価値が補助参加人による編集作業による側面が強いとしても,そのことのみをもって,本件DVDの素材である本件映像を撮影した原告の氏名を表示しないことが,原告が著作者であることを主張する利益を害しないものとは認められず,また,それが公正な慣行に反しないものであるとも認められないから,被告らの前記主張は,採用することができない。
したがって,被告が本件DVDに撮影者として原告の氏名を表示せずにこれを販売したことは,原告の本件映像についての氏名表示権を侵害すると認められる。
<平成220421日東京地方裁判所[平成20()36380]>

本件画像が本件入れ墨の複製物と認められることは,上記のとおりであり,本件画像が掲載された本件表紙カバー,本件扉及び本件表紙カバーの写真を掲載した本件各ホームページには,いずれも本件入れ墨の著作者である原告の氏名が表示されていないことは当事者間に争いがない。被告らは,上記各掲載について,著作権法193項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると主張(する。)しかしながら,本件書籍において,本件入れ墨は,表紙カバー及び扉という書籍中で最も目立つ部分において利用されていること,本件表紙カバー及び本件扉は,いずれも本件入れ墨そのものをほぼ全面的に掲載するとともに,「合格!行政書士 南無刺青観世音」というタイトルと相まって殊更に本件入れ墨を強調した体裁となっていることからすれば,読者の本件書籍に対する興味や関心を高める目的で本件入れ墨を利用しているものと認められ,本件入れ墨の利用の目的及び態様に照らせば,著作者である原告が本件入れ墨の創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認めることはできない。したがって,被告らによる上記各掲載が著作権法193項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると認めることはできず,被告らの上記主張は採用することができない。
<平成230729日東京地方裁判所[平成21()31755]>

本件著作物のうち,分冊Ⅰに相当する部分については,少なくとも亡Wの著作権が存することは,当事者間に争いがなく,かつ,本件著作物は,本冊において,その著作者として亡W及び原告X4の氏名が表示されていたのであるから,分冊Ⅰにも,本来,少なくとも亡Wの氏名がその著作者名として表示されなければならなかったことになる(法191項)。しかし,分冊Ⅰの表紙及び奥付には,著作者名として被告Y3の氏名が記載されており,亡Wの氏名は記載されていない。そうすると,かかる分冊Ⅰの著作者名表示は,亡Wの氏名表示権の侵害となるべきものであったということができる。
この点に関し被告らは,分冊Ⅰの前付に,「底本」として,本冊が表示され,そこに「著者 W・X4」との記載がされており,また,被告Y3の「まえがき」,原告X4の「『基幹物理学』序文」及び被告Y2の「『基幹物理学』はじめに」に書誌が掲載されていることから,分冊Ⅰが本冊を改訂した著作物であることが明らかにされているとして,法193項により,原著作者である亡Wの名を省略することができると主張する。
しかし,書籍の著作者名は,その表紙及び奥付等に「著者」又は「著作者」などとして記載する方法によって表示されるのが一般的であるところ,法14条が,著作物に著作者名として通常の方法により表示されている者を当該著作物の著作者と推定すると規定していることにも鑑みると,通常,読者は,そこに表示された者を当該書籍の著作者として認識するものと解される。そうすると,分冊Ⅰについても,その読者は,その著作者名表示から,著作者が被告Y3であると理解するものと解される。
この点,確かに,分冊Ⅰの前付の底本の表示や「まえがき」等の文章を参照すれば,分冊Ⅰが,本冊を分冊化したものであり,本冊を一部改訂したにすぎないものであることは容易に認識し得るが,この前付は,分冊Ⅰの表紙をめくった書籍の内側に記載されているにすぎず,分冊Ⅰを外側から観察しただけでは,それを読み取ることができない。また,本件において,分冊Ⅰの表紙や奥付に亡Wの名を著作者名として表示することが困難又は不適当であったと解すべき事情は認められない。そうすると,上記のように,前付の記載によって本件著作物の著作者が亡Wであり,分冊Ⅰがそれを分冊化したものであることが認識できるとしても,それを理由に,分冊Ⅰの表紙及び奥付に,亡Wの氏名が著作者名として表示されず,被告Y3が単独著作者として表示されることによって,亡Wがその「創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(法193項)と認めることはできない。
よって,公正な慣行に反するかどうかを判断するまでもなく,本件は,著作者名の表示を省略することが許される場合には当たらないから,分冊Ⅰの著作者名の表示は,少なくとも亡Wの氏名表示権の侵害となるべき不適法なものであったというべきである。
<平成250301日東京地方裁判所[平成22()38003]>

原告は,被告各番組において原作者として原告の氏名が表示されていないとして氏名表示権侵害を主張するところ,被告各番組のエンドロールで,「参考文献 X著『田沼意次 主殿の税』」,「参考文献 X著『開国 愚直の宰相堀田正睦』」,「参考文献 X著『調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚』」と表示されていたことが認められる。
上記各表示は,原告各小説と併せて「X著」と表示して,その著者が原告であることをその実名の表示をもって示しているものと認めることができる。
そして,「参考文献」との記載によって,被告各番組が原告各小説に依拠して制作されたことは明らかであるから,被告各番組は原告各小説の二次的著作物に該当すると認められるところ,上記各表示は,「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示」(著作権法19条1項後段)に該当するものと認められる。
仮にそうでないとしても,同条3項は,「著作者名の表示は,著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは,公正な慣行に反しない限り,省略することができる」と規定するところ, そもそも,本件において著作権(複製権,翻案権)侵害が認められるのは,被告各番組のうち,侵害認定表現部分に限られ,ほとんどの部分において複製権侵害,翻案権侵害のいずれも成立していないこと,そして,被告各番組のエンドロールにおける上記表示において,「参考文献」として原告各小説が原告の実名とともに表示されており,かかる表示態様である以上,被告各番組が原告各小説に依拠して制作されたことが十分に感得できること,この点,被告は,シリーズ「THE ナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち」のテレビ番組において,被告各番組と同様に,その回の主要参考文献とした作品については,番組のエンドロールにおいて「参考文献」として当該作品のタイトルとその著者名を併記したものを字幕表示していたことが認められること,それらの諸事情を総合すると,本件においては「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(同条3項)と認めるのが相当である。
また,歴史小説を題材に制作されたテレビ番組において,番組のエンドロールにおいて題材にされた歴史小説のタイトルとその著者名を併記したものを字幕表示するという方法は,通常行われる方法であるといえるところ,被告が被告各番組において行った前記の表示態様は,上記の方法に沿って行われたものであるから,「公正な慣行に反しない」(同項)ものであると認めるのが相当である。
したがって,同項により,著作者名である原告の氏名の表示を省略することができるものというべきである。
よって,被告各番組の公衆への提供又は提示は,原告の氏名表示権を侵害するものではないと認めるのが相当である。
<平成27225日東京地方裁判所[平成25()15362]>

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