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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

映画著作物の権利者

【法16条の趣旨】

著作権法16条本文は,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定しているところ,同規定の趣旨は,映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については,映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解すべきである。
<平成170830日知的財産高等裁判所[平成17()10009]>

【映画著作物の著作者性】

旧法の下において,著作物とは,精神的創作活動の所産たる思想感情が外部に顕出されたものを意味すると解される。そして,映画は,脚本家,監督,演出者,俳優,撮影や録音等の技術者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であるから,旧法の下における映画の著作物の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者がだれであるかを基準として判断すべきであって,映画の著作物であるという一事をもって,その著作者が映画製作者のみであると解するのは相当ではない。また,旧法の下において,実際に創作活動をした自然人ではなく,団体が著作者となる場合があり得るとしても,映画の著作物につき,旧法6条によって,著作者として表示された映画製作会社がその著作者となることが帰結されるものでもない。同条は,その文言,規定の置かれた位置にかんがみ,飽くまで著作権の存続期間に関する規定と解すべきであり,団体が著作者とされるための要件及びその効果を定めたものと解する余地はない。
<平成21108最高裁判所第一小法廷[平成20()889]>

旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ(最高裁平成21年10月8日第一小法廷判),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分ポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。
<
平成24117最高裁判所第三小法廷[平成22()1884]>

以上の事実を総合すると,被告は,本件著作物について,本件企画書の作成から,映画の完成に至るまでの全製作過程に関与し,具体的かつ詳細な指示をして,最終決定をしているのであって,本件著作物の全体的形成に創作的に寄与したといえる。
<平成140325日東京地方裁判所[平成11()20820]>
【注】本件では、「被告の寄与の程度」について、次の①~⑪のカテゴリーで事実認定をした上で、上記のように結論づけた:①「本件著作物製作の契機及び本件企画書の作成」②「製作体制の確立,スタッフの選定」③「原告の起用」④「基本設定書等の作成」⑤「シナリオの作成」⑥「設定デザイン,美術,キャラクターデザイン」⑦「絵コンテ」⑧「作画」⑨「撮影・現像・オールラッシュ試写」⑩「編集」⑪「音楽,録音(アフレコ)」
一方、「原告の寄与に関する結論」として、「原告は,本件著作物の製作について,設定デザイン,美術,キャラクターデザインの一部の作成に関与したけれども,原告の関与は,被告の製作意図を忠実に反映したものであって,本件著作物の製作過程を統轄し,細部に亘って製作スタッフに対し指示や指導をしたというものではないから,原告は,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということはできない。」とした。

原告は,本件映像の撮影に当たり,讀賣テレビの担当者との間で一度ないし複数回の打合せを行ったことが推測できるが,本件映像において,原告はあくまでインタビュー対象にすぎず,本件映像の全体的形成に創作的に寄与したということはできないから,映画の著作物である本件映像全体について,原告が著作者又は共同著作者であるということはできない。
<平成231028日京都地方裁判所[平成21()3642]>

原告は,原告が,被告及びCとともに,本件映画の共同著作者であると主張する。
映画の著作物における著作者とは,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者をいうところ(著作権法16条),本件映画については,脚本及び監督を被告が,撮影をCが担当し,撮影後の編集作業も被告及びCが行っているから,被告及びCは,本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者といえるが,原告は,自らがプロデューサーを担当することが決まったなどと主張するにとどまり,本件映画の全体的形成に創作的に寄与したことを基礎付ける具体的な事実関係を主張しているとはいえないし,そのような事実関係を認めるに足りる的確な証拠もない。
この点について,原告は,原告と被告との間で何度も脚本の改訂を行ったと主張し,原告本人が「サスペンスの脚本にしてくれということは言っています。」と供述するほか,原告の陳述書には,原告が被告に対し,役名を役者の本名ではなく役名を用いるべきこと,劇団○○のワークショップに参加している者を出演させるべきことなどを指示した旨が記載されているが,仮に,これらの事実が認められるとしても,そのことをもっては,原告が本件映画の全体的形成に創作的に寄与したというに十分でない。
したがって,原告が,本件映画の共同著作者であると認めることはでき(ない)。
<平成30319日東京地方裁判所[平成29()20452]>

【法29条の趣旨】

映画の著作物の「著作権」(著作者人格権を除く。)は,「映画製作者」に帰属する,とする著作権法29条が設けられたのは,主として劇場用映画における映画会社ないしプロダクションを映画製作者として念頭に置いた上で,①従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,②映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,③映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,そのようにするのが相当であると判断されたためである。
<平成150925日東京高等裁判所[平成15()1107]>

本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上,その製作目的が,商品の販売促進等であることを理由として,同CM原版について同法291項の適用が排除されるとする原告の主張は,その主張自体失当であり,採用の余地はない。
のみならず,以下のとおり,本件ケーズCM原版の具体的な製作目的,製作経緯等を検討してみても,本件ケーズCM原版について,映画の著作物の著作権に関して当該映画の製作者に帰属させる旨定めた同法291項の規定の適用を排除すべき格別の理由はない。
すなわち,同法291項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立法されたものである。
ところで,本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること,他方,製作者たる広告主は,原告及び被告○○に対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法291項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法291項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。
<平成241025日知的財産高等裁判所[平成24()10008]>

著作権法29条1項所定の「著作者が…映画の著作物の製作に参加することを約束し」たとは,「著作者が,映画製作に参加することとなった段階で,映画製作者に対し,映画製作への参加意思を表示し,映画製作者がこれを承認したこと」を意味すると解すべきである。
<平成28225日東京地方裁判所[平成25()21900]>

【「映画製作者」の意義と該当性】

「映画製作者」の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2110号)とは,その文言と著作権法29条の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである,と解すべきである。
<平成150925日東京高等裁判所[平成15()1107]>

映画の製作に「発意」を有すると認められるのは,最初にその映画を自ら企画,立案した場合に限られると解すべき理由はなく,他人からの働きかけを受けて製作意思を有するに至った場合もこれに含まれると解するのが相当である。
<平成150925日東京高等裁判所[平成15()1107]>

2110号は,映画製作者について,「映画の製作について発意と責任を有する者」と規定している。すなわち,映画製作者とは,自己の危険と責任において映画を製作する者を指すというべきである。映画の製作は,企画,資金調達,制作,スタッフ及びキャスト等の雇い入れ,スケジュール管理,プロモーションや宣伝活動,並びに配給等の複合的な活動から構成され,映画を製作しようとする者は,映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ,その契約により,多様な法律上の権利を取得し,又,法律上の義務を負担する。したがって,自己の危険と責任において製作する主体を判断するためには,これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた,法律上の権利,義務の主体が誰であるかを基準として判断すべきことになる。
<平成150423日東京地方裁判所[平成13()13484]>

著作権法29条1項の「映画製作者」とは,映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいい(同法2条1項10号),より具体的には,映画の著作物を製作する意思を有し,当該著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入支出の主体ともなる者と解される。
本件についてこれをみると,原告は,本件ワークショップが開催された当時,「劇団○○」の構成員が出演する劇場公開映画を製作することを考えており,本件映画の脚本と監督を被告に依頼しているから,本件映画を製作する意思を有していたということができる。しかし,原告は,本件映画の製作に要した費用の一部を支払い,さらにその一部を自らの事業の経費として確定申告を行っているが,他方で,被告も,撮影機材,劇中曲,著作権フリー音声及び映像,小道具・衣装,映画祭への出展,レンタカー等に要した各種費用を支払い,これらの費用については,「劇団○○」宛の領収証により,原告が精算したものがあったが,そのような精算が行われないものもあったのであり,本件映画の製作に要する経費について,原告,被告をはじめとする関係者に明確な合意ないし方針があったとは認め難く,本件映画のキャスト及びスタッフは,いずれも報酬を受け取っていないこと,映画祭「TIFFCOM 2006」への出展は,被告が設立した合同会社△△が行ったことなども併せ考慮すると,原告が,本件映画の製作全体につき,法律上の権利義務が帰属する主体であるとか,製作に関する経済的な収入支出の主体であるとの状況にあったと認めることは困難である。
<平成30319日東京地方裁判所[平成29()20452]>

被控訴人P1,P3及びP2は,それぞれの得意分野を持ち寄り,水尾の振興活動に係る事業を進めていくこととし,本件組合【注(前提事実):『控訴人の代表者であるP3,被控訴人P1及びP2は,それぞれ出資をして,ゆず姫有限責任事業組合契約(以下「本件組合契約」という。)を締結し,平成21年8月6日にゆず姫有限責任事業組合(以下「本件組合」という。)が成立した。 本件組合は,有限責任事業組合契約に関する法律に基づくものであり,法人格はない。』 】を成立させ,本件組合は,その事業活動の広報等のため,本件ゆずの里映像を製作することを企画し,これをP3に依頼した。そして,本件各ゆずの里映像を記録したDVDは,いずれもその内容から映画であると認められるところ,そのうち,第5版以降には,本件組合の名称がDVDの表面及び記録された映像に表示されており,また,第7版には「製作著作 ゆず姫有限責任事業組合」と記載されている。 
これによると,本件各ゆずの里映像のうち,本件各ゆずの里映像の第5版以降は,本件組合が企画し,その責任をもって製作したものであって,P3は,その著作者として,その製作に参加したものということができる。したがって,本件各ゆずの里映像のうち第5版以降に係る著作権については,本件組合の組合員に合有的に帰属するというべきである。
また,第1版から第4版の内容からすると,これらの映像は,将来,本件組合による活動に活用するためのビデオを製作するための習作的なものであったことが認められ,上述したとおり,本件組合が成立し,第5版以降の本件各ゆずの里映像の著作権が本件組合の組合員に合有的に帰属することを考えると,第1版から第4版にかかる著作権は,本件組合成立前は,製作者であるP3あるいは控訴人に帰属していたとしても,本件組合成立後,第5版以降のものと同様に取り扱われることが想定されていたと考えられる。そうすると,第1版から第4版にかかる著作権についても,本件組合の成立に従い,組合員に合有的に帰属するよう了解されていたものと認めるのが相当である。
<平成31314日大阪高等裁判所[平成30()1709]>

本件では,婚礼ビデオを適切に製作し,納品する法律上の義務は被控訴人が負っていたこと,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被控訴人であったこと,被控訴人は撮影料と交通費を控訴人に支払い,それ以外の製作費用も負担し,経済的な収入・支出の主体となっていることからすると,被控訴人が「映画製作者」に当たるというべきである。
<令和元年117日大阪高等裁判所[令和1()1187]>
【参照(原審)】
著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。
本件では,被告○○は,社内の人間だけでは撮影業務をこなせないことから複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり,原告はその外部業者の一人であったことからすると,被告○○は,各婚礼のビデオ撮影業務の担当を各外部業者に割り振って委託することにより,全体としての婚礼ビデオの製作業務を統括して行っていたといえる。
また,△△ホテルズから委託を受けて,新郎新婦から婚礼ビデオ製作の申込みを受け,その意向を聴取して打合せをするのは被告○○であり,婚礼ビデオを完成させて納品するのも被告○○である。また,被告○○は,原告による撮影に不備があった場合の新郎新婦に対する責任も負担している。そうすると,婚礼ビデオを適切に製作し,納品する義務は,△△ホテルズからの委託の下,被告○○が負っていたといえる。
加えて,現場での撮影業務自体は基本的には原告の裁量と工夫に委ねられていたが,被告○○も,新郎新婦に特段の意向がある場合には原告にそれを伝えて撮影の指示を行っており,原告の裁量等も被告○○からの指示という制約を受けるものであったほか,被告○○は,婚礼ビデオを完成させるに当たり編集作業を行い,その中では,被告○○が独自に製作した「プロフィールビデオ」等の上映シーンを加工し,そのBGMを音源から採取して差し込むなど,独自の演出的な編集も行っているから,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被告○○であるといえる。
そして,被告○○は,原告に対して撮影料と交通費を支払っているほか,それ以外の製作費用も負担しているから,本件記録ビデオの製作に関する経済的な収入・支出の主体となっているのは原告ではなく被告○○である。(以上からすると,本件記録ビデオの製作に発意と責任を有する者は,被告○○であり,被告○○は「映画製作者」に当たると認めるのが相当である。)
<平成31325日大阪地方裁判所[平成30()2082]>

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