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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権制度全体

著作権制度の存在意義】

著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。
<平成23128最高裁判所第一小法廷[平成21()602]>

現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
<平成16213最高裁判所第二小法廷[平成13()866]>

著作権の消滅後は、著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく、著作物は公有(パブリツク・ドメイン)に帰し、何人も、著作者の人格的利益を害しない限り、自由にこれを利用しうることになるのである。
<昭和59120最高裁判所第二小法廷[昭和58()171]>

憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵害してはならない」旨規定し、私有財産制の原則を採るとはいつても、その保障は、絶対無制約なものでなく、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める」旨規定しているのであり、これは、1項の保障する財産権の不可侵性に対して公共の福祉の要請による制約を許容したものにほかならないことは、すでに累次の大法廷判決が判示するところであつて、著作権法30条【注:旧著作権法のこと。現30条以下の「著作権の制限」に相当】は、一定の場合に限つて著作物を公益のため広く利用することを容易ならしめる目的で、同条1項各号の方法により著作物を複製することは偽作とみなさないものとした法規であり、同法22条ノ7の録音物著作権についても、右3018号により興行又は放送の用に供することは偽作とならないものとされているのである。
そして、右の如く著作物の利用を許容するのは一定の場合の利用に限定しており、かつ同条2項において、その利用の場合は利用者に出所明示義務を負わせて著作権者の保護をもはかつているのである。すなわち、同条は、所論18号の規定を含めて、著作権の性質に鑑み、著作物を広く利用させることが要請され、前記のような要件のもとにその要請に応じるため著作権の内容を規制したものであつて、憲法292項にそうものであり、これに違反するものでないということができる。
右のような場合に、憲法の同条項により財産権の内容を公共の福祉に適合するように法律をもつて定めるときは、同条3項の正当補償をなすべき場合に当らない。
<昭和381225最高裁判所大法廷[昭和34()780]>

著作権法による保護を、このようなものとして把握する場合、特許法、実用新案法が思想(技術的思想)までを保護する(特許法2条、実用新案法2条参照)のとは異なり、思想や感情あるいはそれを表現する手法や表現を生み出すアイデアが保護されることはなく、その結果、著作権法による保護の範囲が、見方によれば狭いものとなることがあることは事実であろう。しかしながら、それは、著作権法の趣旨から当然のことというべきである。すなわち、著作権法においては、手続的要件としても、特許法、実用新案法におけるような権利取得のための厳密な手続も権利範囲を公示する制度もなく、実体的な権利取得の要件についても、新規性、進歩性といったものは要求されておらず、さらには、第三者が異議を申し立てる手続も保障されておらず、表現されたものに創作性がありさえすれば、極めてと表現することの許されるほどに長い期間にわたって存続する権利を、容易に取得することができるのであり、しかもこの権利には、対世的効果が与えられるのであるから、不可避となる公益あるいは第三者の利益との調整の観点から、おのずと著作権の保護範囲は限定されたものとならざるを得ないからである。換言すれば、著作権という権利が右のようなものである以上、これによる保護は、それにふさわしいものに対してそれにふさわしい範囲においてのみ認められるべきことになるのである。それゆえにこそ、著作権法は、「表現したもの」のみを保護することにしたものと解すべきであり、前述のとおり、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものと同一のものを作製すること、あるいは、これと類似性のあるもの、すなわち、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとしての独自の創作性の認められる部分についての表現が共通し、その結果として、当該作品から既存の著作物を直接感得できる程度に類似したものを作製することのみが複製・翻案となり得るのである。
<平成120919日東京高等裁判所[平成11()2937]>

【所有権と著作権】

美術の著作物の原作品は、それ自体有体物であるが、同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ、所有権は有体物をその客体とする権利であるから、美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。そして、美術の著作物に対する排他的支配権能は、著作物の保護期間内に限り、ひとり著作権者がこれを専有するのである。そこで、著作物の保護期間内においては、所有権と著作権とは同時的に併存するのであるが、所論のように、保護期間内においては所有権の権能の一部が離脱して著作権の権能と化し、保護期間の満了により著作権が消滅すると同時にその権能が所有権の権能に復帰すると解するがごときは、両権利が前記のように客体を異にすることを理解しないことによるものといわざるをえない。著作権の消滅後は、所論のように著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく、著作物は公有(パブリツク・ドメイン)に帰し、何人も、著作者の人格的利益を害しない限り、自由にこれを利用しうることになるのである。したがつて、著作権が消滅しても、そのことにより、所有権が、無体物としての面に対する排他的支配権能までも手中に収め、所有権の一内容として著作権と同様の保護を与えられることになると解することはできないのであつて、著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。
小説のような言語の著作物の原作品である原稿が、通常、美術の著作物の原作品のようにそれ自体としては財産的価値を有しないのは、美術の著作物の場合は、原作品によらなければ真にその美術的価値を享受することができないことから、原作品自体が取引の対象とされるのに対し、言語の著作物の場合は、原作品によらなくとも複製物によつてその表現内容を感得することができるところから、いきおい出版物としての複製物が取引の対象とされるからにすぎず、言語の著作物の原作品についても、有体物としての面と無体物としての面とがあることは、美術の著作物の原作品におけると同様であり、両者の間に本質的な相違はないと解されるのであつて、所論のように、美術の著作物の原作品についてのみ、著作権の消滅により原作品に対する所有権が無体物の面に対する排他的支配権能までも有することになると解すべき理由はない。そして、美術の著作物の原作品の所有権が譲渡された場合における著作権者と所有権者との関係について規定する著作権法451項、47条の定めは、著作権者が有する権利(展示権、複製権)と所有権との調整を図るために設けられたものにすぎず、所有権が無体物の面に対する排他的支配権能までも含むものであることを認める趣旨のものではないと解される。また、保護期間の満了後においても第三者が美術の著作物の複製物を出版すると、所論のように、美術の著作物の原作品の所有権者に対価を支払つて原作品の利用の許諾を求める者が減少し、原作品の所有権者は、それだけ原作品によつて収益をあげる機会を奪われ、経済上の不利益を受けるであろうことは否定し難いところであるが、第三者の複製物の出版が有体物としての原作品に対する排他的支配をおかすことなく行われたものであるときには、右複製物の出版は単に公有に帰した著作物の面を利用するにすぎないのであるから、たとえ原作品の所有権者に右のような経済上の不利益が生じたとしても、それは、第三者が著作物を自由に利用することができることによる事実上の結果であるにすぎず、所論のように第三者が所有権者の原作品に対する使用収益権能を違法におかしたことによるものではない。原判決が、被上告人の複製物の出版によつては上告人の原作品に対する使用収益権能が物理的に妨げられるものではなく、また、他人の権利の経済的価値の下落をもたらすような結果を生ぜしめる行為であるというだけではこれを違法とはいえない旨判示するのも、その意味するところは、ひつきよう、右に説示したところと同趣旨に帰するものと解されるのである。更に、博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収し、あるいは写真撮影をするのに許可を要するとしているのは、原作品の有体物の面に対する所有権に縁由するものと解すべきであるから、右の料金の徴収等の事実は、所有権が無体物の面を支配する権能までも含むものとする根拠とはなりえない。料金の徴収等の事実は、一見所有権者が無体物である著作物の複製等を許諾する権利を専有することを示しているかのようにみえるとしても、それは、所有権者が無体物である著作物を体現している有体物としての原作品を所有していることから生じる反射的効果にすぎないのである。若しも、所論のように原作品の所有権者はその所有権に基づいて著作物の複製等を許諾する権利をも慣行として有するとするならば、著作権法が著作物の保護期間を定めた意義は全く没却されてしまうことになるのであつて、仮に右のような慣行があるとしても、これを所論のように法的規範として是認することはできないものというべきである。
<昭和59120最高裁判所第二小法廷[昭和58()171]>

著作権の保護対象ではない本件錦絵の無体物の面の利用について所有者から許諾を得て対価を支払うべき商慣習又は商慣習法の存在は認められないから,その利用は本来的に自由であるはずだし,またその利用が本件錦絵の所有権を利用したともいえるわけではない。
<平成27924日大阪地方裁判所[平成27()731]>

民法上の所有権の客体である「物」は「有体物」に限定されており(民法85条),本件印刷用データそれ自体は,デジタル化された情報であり,無体物であるため,所有権の客体たり得(ない)。
<平成29112日大阪地方裁判所[平成27()718]>

【フェア・ユース(公正利用)の法理】

著作権法1条は、著作権法の目的につき、「これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」と定め、同法30条以下には、それぞれの立法趣旨に基づく、著作権の制限に関する規定が設けられているところ、これらの規定から直ちに、わが国においても、一般的に公正利用(フェアユース)の法理が認められるとするのは相当でなく、著作権に対する公正利用の制限は、著作権者の利益と公共の必要性という、対立する利害の調整の上に成立するものであるから、これが適用されるためには、その要件が明確に規定されていることが必要であると解するのが相当であって、かかる規定の存しないわが国の法制下においては、一般的な公正利用の法理を認めることはできない。
<平成61027日東京高等裁判所[平成5()3528]>

著作物を引用して利用する場合における著作権と著作物の公正な利用との調整に関しては,著作権法32条において,引用が著作物の適法な利用として許されるための要件を具体的に規定していると解されるから,同規定の趣旨から離れて,米国著作権法上のフェアユースの法理の適用により,他人の著作物を自由に引用して利用することができると解することは相当ではない。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

【著作権表示(マルC表示)の意義と効用】

C表示の意義についてみるに,万国著作権条約(パリ改正条約)は,2条において「いずれかの締約国の国民の発行された著作物及びいずれかの締約国において最初に発行された著作物は,他のいずれの締約国においても,当該他の締約国が自国において最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護及びこの条約が特に与える保護を受ける。」とした上で,31項において,「締約国は,自国の法令に基づき著作権の保護の条件として納入,登録,表示,公証人による証明,手数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には,この条約に基づいて保護を受ける著作物であって自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものにつき,著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともにCの記号を表示している限り,その要求が満たされたものと認める。Cの記号,著作権者の名及び最初の発行の年は,著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない。」と定めている。すなわち,Cの記号は,自国の法令に基づき一定の方式の履践を著作権の保護の条件としている万国著作権条約の締約国が,その締約国で著作権の保護を受けるための方式として要求しているものを満たしたと認めるための要件として,「著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともに」これを表示することを要求したものである。
このように,Cの記号は,ある著作物がいずれかの締約国で著作権の保護を受けるための条件として一定の方式を満たすことを要求している場合に,当該締約国において著作権の保護を受けるための方式を満たしたと認められるために表示されるものであって,それ自体として当該著作物について著作権を創設するものではないことは明らかである。また,日本のように,著作権の保護について上記のような方式主義を採用していない国においては,その表示が義務づけられているものではないことはもちろん,Cの記号の表示(C表示)の有無によって著作権の保護の有無が法的に左右されるものではない。したがって,日本においては,C表示が付されていないからといって著作権の保護を受けないというものではないし,逆に,C表示が付されているからといって,当然にそれが著作権の保護を受ける著作物と認められるものではなく,C表示の有無とこれを表示した著作物が日本国内において保護されるか否かは,法律上はまったく無関係である。
しかしながら,C表示は,その現実的な機能として,著作者及び最初の発行年の記載と相まって,いまだ当該著作物について,当該著作者を著作権者とする著作権が存続している旨を積極的に表明するとの側面をも有するものであり,その著作物を無断で使用する場合には著作権侵害になることを需要者又は取引者に対し警告するという機能を有することを否定することはできない。
<平成190130日大阪地方裁判所[平成17()12138]>

著作物に著作権者の表示がなされていなくとも,当該著作物は著作権法上保護の対象となるのであり,現に,著作権表示のない著作物は多数存在している。そして,原告イラストは,美術の著作物として著作権の対象となることは明らかなものである。そうすると,仮に原告のホームページにおいて,原告イラストについて©マークによる著作権表示がなかったとしても,著作権放棄である旨の表示がない限り,原告イラストは著作権放棄ではないと考えるのが自然であ(る)。
<平成27910日大阪地方裁判所[平成26()5080]>

【独禁法21条と著作権の行使】

独禁法21条【注:『この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。』】の規定は,著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても,競争秩序に与える影響を勘案した上で,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される。
<平成130801日公正取引委員会審判審決[平成10年(判)第1]>

著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではない(独占禁止法21条参照)。
<平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]>

一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきである(。)
<平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]>

【著作物再販制度(独禁法23条4項)における「著作物」の意義】

昭和28年の独占禁止法改正により導入された独禁法第23条第4項による著作物の再販適用除外制度は,当時の書籍,雑誌,新聞及びレコード盤(著作物4品目)の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされている。そして,公正取引委員会では,その後,音楽用テープ及び音楽用CDについては,レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準じるものとして取り扱い,著作物4品目を含む,これら6品目に限定して著作物再販制度の対象とすることとし,その旨公表されている(平成4415日公正取引委員会公表)。
ゲームソフトについては,昭和28年の独占禁止法改正当時には存在しておらず,また,上記著作物4品目のいずれかとその機能・効用を同一にするものではないし,著作物再販制度が独占禁止法上原則として違法として禁止される再販売価格維持行為に対する例外的措置であることからすると,これを再販適用除外の対象とすべき著作物に該当するものということはできない。
(略)
著作権法上の著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義される(著作権法第2条第1項第1号)のに対し,独占禁止法の規制の対象となる「著作物」とは市場において実際に流通する個々の商品であるところ,書籍,雑誌及び新聞は著作権法上の著作物の「複製物」に当たり,また,レコード盤並びにこれに準ずる音楽用テープ及び音楽用CDは著作権法上の「商業用レコード」(著作権法第2条第1項第7号)であって,著作物の「複製物」に当たるのであり,著作物再販適用除外の対象となる「著作物」と著作権法上の「著作物」とが概念を異にすることは明らかである。また,前記の著作物の再販適用除外制度の立法経緯や立法趣旨に照らしても,独占禁止法第23条第4項の「著作物」を著作権法上の著作物と同様に解すべきであるとする根拠は見当たらない。
<平成130801日公正取引委員会審判審決[平成10年(判)第1]>

【著作権との関係で商標権の行使が権利濫用に当たるとされた事例】

被上告人は、乙標章【注:乙標章は、マフラーの一方隅部分に「POPEYE」の文字を横書にして成る】は、商標としての機能を備えて使用されていて、かつ本件商標【注:本件商標は、「POPEYE」の文字を上部に、「ポパイ」の文字を下部にそれぞれ横書し、その中間に、水兵帽をかぶって水兵服を着用し顔をやや左向きにした人物がマドロスパイプをくわえ、錨を描いた左腕を胸に、手を上に掲げた右腕に力こぶを作り、両足を開き伸ばして立った状態に表された、文字と図形の結合から成る】に類似しており、しかも、単に「ポパイ」の漫画の主人公の名称を英文で表したものであるから、「ポパイ」の漫画から独立した著作物性がなく、著作物の複製とはいえないことを理由に、乙標章につき本件商標権に基づいてその侵害を理由に損害賠償を求めることが、本件商標権の行使に当たるとして、本訴請求をしている。しかしながら、本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公「ポパイ」は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、「ポパイ」の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができる。そして、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」ないし「ポパイ」なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、「ポパイ」の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている「POPEYE」の文字からは、「ポパイ」の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、「ポパイ」の漫画の主人公の人物像の観念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。以上によれば、本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、正に権利の濫用というほかない。
<平成2720最高裁判所第二小法廷[昭和60()1576]>

【先成立の著作権がある場合の商標登録出願の可否】

商標法上,他人の著作権と抵触する商標について,商標登録を受けることができない旨を定めた規定は存在しない。一方で,商標権と著作権が抵触する場合の規律に関し,同法29条は,商標権者は,指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願前に生じた他人の著作権又は著作隣接権と抵触するときは,指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により使用することができない旨を定めており,同条の規定は,他人の著作権と登録商標が抵触する場合があることを前提とするものであるから,商標法上,他人の著作物について商標登録出願を行うことを禁止するものではないものと解される。
<令和元年1126日知的財産高等裁判所[令和1(行ケ)10086]>

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