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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

一般不法行為論

【法6条に該当しない著作物の利用行為の不法行為該当性】

著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
<平成23128最高裁判所第一小法廷[平成21()602]>

【総論】

著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。また,不正競争防止法も,事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因,内容,範囲等を定め,周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。
ある行為が著作権侵害や不正競争行為に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利や商品等表示を独占的に利用する権利は,原則として法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
<平成240808日知的財産高等裁判所[平成24()10027]>

現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法,意匠法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を設定し,その権利の保護を図っており,一定の場合には不正競争防止法によって保護されることもあるが,その反面として,その使用権の付与等が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,ある創作されたデザインが,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該デザインを独占的に利用する権利は法的保護の対象とならず,当該デザインの利用行為は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(以上の点につき直接に判示するものではないが,最高裁判所平成16年2月13日第二小法廷判決,同裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決参照)。
<平成26926日大阪高等裁判所[平成25()2494]>

特許法,意匠法,商標法,著作権法又は不正競争防止法により保護されていない形状,構造,デザイン等を利用する行為は,上記の各法律が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害したり,自由競争の範囲を逸脱し原告に損害を与えることを目的として行われたりするなどの特段の事情が存在しない限り,違法と評価されるものではないと解するのが相当である。
<平成291116日東京地方裁判所[平成28()19080]>

控訴人Xは,被控訴人が控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)を侵害する不法行為を行ったことによって控訴人会社の代表者としての控訴人Xが精神的苦痛を受けたとし,このこともって控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求の根拠となる旨主張する。
しかしながら,控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求が認められるためには,被控訴人の行為が控訴人Xとの関係で不法行為を構成することが必要であり,そのためには,被控訴人の行為が控訴人Xの権利又は法律上保護される利益を侵害するものであることが必要となる(民法709条)。しかるところ,被控訴人が原告著作物を複製・頒布した行為は,原告著作物の著作権者である控訴人会社との関係では,その権利(著作権)を侵害する不法行為を構成することが明らかであるものの,原告著作物の著作権者ではない控訴人Xとの関係では,同人のいかなる権利又は法律上保護される利益を侵害することになるのかが不明というべきである。控訴人Xは,自らが控訴人会社の代表者であり,控訴人会社の著作権侵害によって精神的苦痛を受けたことをその主張の根拠とするが,会社の代表者たる個人が,当該会社に帰属する著作権に関して当然に何らかの権利や法律上保護される利益を有するものではないから,控訴人Xが控訴人会社の代表者であることのみをもって,控訴人会社の著作権を侵害する行為が控訴人X個人の権利又は法律上保護される利益をも侵害することが根拠付けられるものではなく,そのほかにこれを根拠付け得る事情も認められない。
以上によれば,控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)侵害を理由とする控訴人Xの慰謝料請求には理由がない。
<平成2869日知的財産高等裁判所[平成28()10021]>

学術的成果へのフリーライド】

控訴人は、学術論文においては個々の記載の文章上の工夫より、論文の構造、論旨、論理展開が重要視され、先輩研究者といえども、自分がその分野の研究で先行したからといって、後輩研究者の研究成果を横取りしたり、研究論文を剽窃したりすることは許されないから、そのような行為は、研究者の学問的業績に対する権利、利益を奪うものであって、不法行為を構成すると主張する。
このような一般的見解自体は正当なものと解されるが、本件の場合、被告第一論文並びに被告科研費論文及び第二論文が、原告論文及び原告報告を翻案したものでなく、これらを剽窃したものでもない上、被告第一論文と原告論文とは、C論文の紹介を通じて「エスニシティ」を論ずるという基本的性格において共通する面があり、両者を全体として対比すると、その目的、構成、議論の展開、結論がいずれも異なるものと認められ、被告科研費論文及び第二論文と原告報告とを全体として対比しても、その目的、構成、論理展開がいずれも異なるものと認められる以上、その発表行為が不法行為に該当しないのは当然といわなければならない。
<平成120329日東京高等裁判所[平成11()4243]>

学術研究の成果を他者が盗用し、自らのものとして発表するような行為は、それ自体、一般の不法行為となり得る場合もあるであろう(。)
<平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]>

原告は,被告Aによる被告ら各共著論文の執筆・公表が,著作権等の侵害に係る不法行為とは別に,一般不法行為(民法709条)に該当すると主張する。
しかし,原告の主張は,一般的に著作には時間や労力を要すること,著作が表現の自由に関わるものであり,その著作者の立場や著作内容によっては他の憲法上の事由に関わること,他人がその著作を無断で利用した場合に,その著作者が何らかの影響を受けることを述べるにすぎず,著作権法がその制定当時から前提にしていた,学術の範囲に属する著作物に係る著作活動の本質やそれに伴う結果を指摘しているにすぎないから,著作権法上の保護法益とは別に保護すべき独自の法益があるとは認められない。
そもそも,著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているのであるから,同法により保護される権利の範囲に含まれないものについては,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,著作物を利用する行為について,著作権法に規律された著作物を独占的に利用する権利を侵害するか否かが問われるのとは別に,著作者の権利を侵害し一般不法行為が成立すると認められるのは,当該利用行為によって,著作権法の規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がある場合に限られるというべきである。
この点に関して原告は,研究者が研究成果を学術論文としてまとめ,広く第三者に公表することが憲法23条の学問の自由の根幹をなす権利であること,研究者は,執筆した学術論文の内容により第三者からその能力,専門性ないし業績を評価されること,学術論文を執筆するためには多大な時間と労力を費やす必要があり,金銭的な支出も不可欠であることを挙げて,学術論文の内容を他人に盗用・剽窃されないことが,著作権法とは別に,法的に保護された利益であって,被告Aが自ら調査・研究を行うことなく原告各表現を盗用・剽窃し,原告の業績等にいわばフリーライドしたことにより,原告の研究を妨害するとともに専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたことが,原告の上記利益を侵害する一般不法行為であると主張する。
しかし,研究者の執筆・公表した学術論文を第三者が複製等によって利用したからといって,それにより研究者の学問の自由が侵されるものとは認められないし,当該研究者の能力,専門性ないし業績に対する評価が低下するものとも解されない。
本件においては,それぞれ6頁から成る被告ら各共著論文において複製された原告論文の2箇所の記述は,いずれも9頁に及ぶ原告論文の中のわずか数行の文章にすぎず,しかも,その内容も(証拠)文献を要約したものであるか,英国著作権法の規定を解説したものであって,その表現の選択の幅は極めて狭く,その限度でかろうじて作者の個性が表れているにすぎないものであるから,被告Aが,これらの記述を利用することによって,原告の費やした時間,労力及び金銭,あるいはそれらにより得られた原告の業績等にフリーライドしたとか,専門家の一人としての地位を不当に得ようとしたなどと評価することはできないというべきである。
また,被告Aが原告論文の一部を被告ら各共著論文において複製したことによって,原告の研究活動が妨害されたものとも認められない。
以上によれば,被告ら各共著論文の執筆・公表が著作権等とは別の原告の法的利益を侵害し,それが一般不法行為に該当するとの原告の上記主張は採用することができない。
<平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]>
【控訴審も同旨】
原告は,学術論文を盗用・剽窃されない利益は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは別個の法的保護に値する利益であると主張する。
しかし,著作権法は,学術論文を,学術の範囲に属する言語の著作物として保護の対象とし(2条1項1号,10条1項1号),これに関する盗用や剽窃は,複製権,翻案権や氏名表示権等に係る問題として処理することを想定している(21条,27条,19条)と解されるから,原告の主張する利益は,著作権法が既に想定しているものといえ,別個に保護すべき法益とは認められない。
<平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]>

【ゲームシステムの流用】

当審も,被控訴人ゲームの配信行為が不法行為に該当するとは認められないと判断する。その理由については,原判決のとおりであるから,これを引用する。 
控訴人は,「ガチャ」,「クエスト」,「デッキ」,「バトル」,「合成」の五つの要素を絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて組み合わせている点や,野手,投手ともに能力に関連する情報を三つに絞り,情報を付与することとした点に,ゲームシステムとしての特色があり,そのような控訴人ゲームシステムは,法的保護に値すると主張する。
しかし,控訴人が主張するような各ゲームにアレンジして適用することが可能な「控訴人ゲームシステム」とは,ゲームのルールというアイデアというべきところ,各種知的財産権関係の法律で保護の対象とされていないそのような無形のアイデアが,不法行為上保護すべき法益と認められるためには,単に,そのようなゲームシステムと全く同一のものは従前存在せず,それが控訴人に営業上の利益を生み出しているというのみでは足りず,そのような一般に公開されているゲームシステムのルールないしアイデアを他の同業者が採用して独自にゲームを製作することが禁じられるという規範が,法的規範として肯定できるほどに成熟し,明確となっていることが必要であると解される。しかし,控訴人の主張からは,「膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして」という具体的な内容は不明であり,その立証もないし,仮にそのようなものが存在するとしても,控訴人が主張するゲームシステムが,それによって控訴人が利益を得ているということを超えて社会における法的に保護されるべき利益とされるべきような事情は認められず(なお,控訴人ゲームシステム自体,先行する他のゲームシステムにも存する五つの要素について,各要素の相互の関連付けを新たに構築することによって開発されたというものであるし,控訴人ゲームについて選手の能力の情報を三つに絞ったのは,先行する「プロ野球オーナーズリーグ」も同様である),そのような検討により編み出されたゲームとしての工夫が,著作権法や不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律による保護を超えて,不法行為法上の保護法益として認められるだけの特段の事情があるとは認められない。したがって,控訴人の主張自体によっても,控訴人の主張するゲームシステムをもって,一般不法行為法上保護すべき法益と認めることはできない。また,被控訴人に自由競争の範囲を逸脱するような行為があったことを認めるだけの事情も見当たらない。したがって,控訴人の主張は採用することができない。
<平成27624日知的財産高等裁判所[平成26()10004]>

控訴人は,多大な費用,時間と労力をかけて原告ゲームを制作し,これを配信して営業活動を行っていたところ,被控訴人は,原告ゲームの各種データをほぼ全面的にデッドコピーした上で,各画面のキャラクター,アイコン等や用語を一部改変して被告ゲームを制作し,控訴人の販売地域と競合する日本国内において配信し,これによって本来必要となる多大な費用,時間と労力を免れたものであり,このような被控訴人の行為は,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たり,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的保護に値する控訴人の営業上の利益を違法に侵害したものというべきであるから,控訴人に対する一般不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,控訴人の主張する法的保護に値する控訴人の営業上の利益とは,原告ゲームの各種データを独占的に利用して,営業を行う利益をいうものと解され,当該利益は,著作権法が規律の対象とする著作物の独占的な利用の利益にほかならず,これと異なる法的保護に値する利益であるものと認めることはできない。
また,本件においては,被控訴人による被告ゲームの制作及び配信行為が,自由競争の範囲を逸脱し,又は控訴人の営業を妨害し,控訴人に損害を加えることを目的とするなどの特段の事情は認められない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
<令和3929日知的財産高等裁判所[令和3()10028]>

【設計図面の流用】

被告らは,原告が被告らから持ち出された設計図を使用してトレーラーを製造販売したとして,原告が,新たな設計図を創造するという困難を一切負わず,それに必要な労力や費用を負担することもなく,被告らの財産的効果にただ乗りして利益を上げたことが不法行為を構成すると主張する。
被告ら自身,被告らの設計図は電子データとして保管されており,そのデータが持ち出されて使用されたと主張していることからすると,被告らの上記主張が,有体物たる設計図についての被告らの所有権に基づく排他的支配権能が侵されたという趣旨でないことは明らかである。したがって,被告らの上記主張は,無体情報としての設計図の記載を原告が無断で取得・使用したことが不法行為を構成するとの趣旨であると解される。
ところで,無体情報としての設計図の利用に関しては,現行法上,それに化体された技術上又は営業上の情報を保護する観点から不正競争防止法が営業秘密として保護し,また,その記載の創作性を保護する観点から著作権法が図形の著作物としての保護を与える場合があることにより,一定の要件の下に排他的な使用権ないし使用利益を認めているが,その反面として,その使用権等の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨,目的に鑑みると,設計図に記載された無体情報の利用行為が,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該設計図上の無体情報を独占的に利用する利益は法的保護の対象とならず,その利用行為は,上記各法律が規律の対象とする無体情報の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(以上の点につき直接に判示するものではないが,最高裁判所平成23年12月8日判決参照)。
本件での被告らの上記主張は,設計図について営業秘密の不正取得・使用等をいうものではなく,また,著作物としての保護をいうものでもない。したがって,被告らの上記主張の趣旨が,原告が被告らの設計図を無断で取得・使用等すれば,成果へのただ乗りの観点から直ちに不法行為が成立するというのであれば,設計図上の無体情報を独占的に利用する利益を被告らが有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ被告らの設計図が多大な努力と費用の下に作成されたものであったとしても,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする無体情報の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえない。
もっとも,被告らの上記主張は,原告の無断取得・使用等行為によって,被告らが設計図を使用して営業活動を行う利益を侵害されたとの趣旨であると解する余地があり,その趣旨であれば,営業秘密の保護や著作物の保護とは異なる法的に保護された利益を主張するものと解される。ただし,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業活動を行う利益が侵害されたことをもって不法行為法上違法と評価されるためには,その行為が公序良俗違反とみられる程度までに自由競争の範囲を逸脱する場合であることを要すると解するのが相当である。
<平成28929日大阪地方裁判所[平成25()10425]>

【大手学習塾向けの補習サービス】

原告は,本件における被告の行為は,原告の作成したテスト問題等を不正に使用することにより原告の営業の自由を妨害することを目的とするものであり,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たるので,一般不法行為を構成すると主張する。
本件においては,被告が原告の著作権を侵害したと認めるに足る証拠はないところ,著作物に係る著作権侵害が認められない場合における当該著作物の利用については,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないというべきである(最一小判平成23年12月8日参照)。
本件についてみるに,原告は,被告が原告作成に係る問題等を入手し,ライブ配信などの方法でその解説をするのは原告のノウハウにただ乗りするものであると主張するが,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業としてその補習を行うこと,すなわち,当該大手学習塾の授業内容を理解し,又はその実施するテストの成績を向上させるため,当該大手学習塾の問題や教材を入手し,その解説等を行うとのサービスを提供することは,自由競争の範囲を逸脱するものではなく,そのような営業形態が違法ということはできない。
また,原告は,被告の行為は原告の営業の自由を妨害し,原告の顧客を奪取することを目的とするものであると主張するが,被告がそのような主観的な意図を有していたことをうかがわせる証拠はない。加えて,被告が原告学習塾の生徒に提供するサービスは,原告学習塾における理解の深化や成績向上等を目的としているのであるから,被告学習塾に通塾する原告学習塾の生徒は原告学習塾における学習を継続することを前提としているものと考えられる。そして,仮に被告の行為により原告のプリバード(個別指導塾)の受講者が減少したとしても,それは大手学習塾の教材や問題の補習というサービス分野における自由競争の範囲内であるというべきである。
さらに,原告の作成した問題の入手方法,ライブ解説の配信方法等についても,原告の営業を妨害するような態様で行われていたと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,本件における被告の行為については,不法行為の成立が認められるべき特段の事情は存在しないというべきである。
【控訴審も同旨】
控訴人は,被控訴人が本件各表示をしていることが不競法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないとしても,被控訴人において,控訴人が多額の費用と労力をかけて作成した著作物であり,いわば企業秘密として非常に大きな価値を持つテスト問題について,控訴人に無断でその解説本を出版し,あるいは,ライブ解説を提供する行為は,控訴人の作成したテスト問題等を不正に使用することにより,控訴人の営業の自由を妨害することを目的とするもので,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為であるから,一般不法行為を構成すると主張する。
控訴人は,著作権侵害ないし不競法上の不正競争行為の主張をするものではないから,被控訴人の行為が一般不法行為を構成するのは,被控訴人の行為により,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益が侵害されるといえる特段の事情がある場合に限られるというべきであるところ(最高裁判所第1小法廷平成23年12月8日判決参照),被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害すると直ちにいうことはできないし,控訴人の主張も,そのような利益が存在することを十分に論証しているとはいい難い。
さらに,控訴人のテスト問題を入手して解説本の出版やライブ解説の提供を行うについての被控訴人の行為が,控訴人の営業を妨害する態様であったこと,又は控訴人に対する害意をもって行われたことをうかがわせる証拠はなく,被控訴人の行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱する不公正な行為であったとも認められない。
以上のとおりであるから,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,控訴人に対する一般不法行為に当たるということはできない。
控訴人は,大手学習塾である控訴人学習塾での成績を向上させるため,被控訴人が控訴人において多大な時間と労力をかけて作成したテスト問題の解説を行うという被控訴人学習塾の営業は,控訴人のノウハウにただ乗りするものであって,自由競争の範囲を逸脱し,一般不法行為を構成すると主張する。
しかし,大手学習塾が,自ら作問したテスト問題の解説を提供するという営業一般を独占する法的権利を有するわけではないから,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業として大手学習塾の補習を行うことそれ自体は自由競争の範囲内の行為というべきである。そして,控訴人が主張する,中学校受験生を対象とする学習塾同士が熾烈な競争下にある中で,控訴人がその教育方針に従い,そのノウハウに基づいてテスト問題を作問していること,被控訴人による解説は控訴人による事前の審査を経ておらず,その内容が受験テクニックに偏ったもので,控訴人の出題意図や教育方針に反することといった事情があったとしても,このことから直ちに,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が社会通念上自由競争の範囲を逸脱するということはできない。
控訴人は,被控訴人が,①控訴人学習塾の生徒をターゲットに控訴人学習塾での成績アップを宣伝文句として生徒を集め,②控訴人学習塾のテスト問題を中心にライブ解説の提供及び解説本の出版をし,③控訴人学習塾の大規模校の周辺を中心に被控訴人の学習塾を展開し,④合格率の高い控訴人学習塾の生徒を集客することにより,被控訴人の実績を誇示していることからすれば,被控訴人には,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったと推認されると主張する。
しかし,控訴人学習塾の生徒が被控訴人学習塾を選択し,プリバートに入室しなかったとしても,それが社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではないのは上記に説示したところから明らかである。そして,上記①~④の事情があることにより控訴人の信用が害されるとする根拠は不明であり,これらの事情から,被控訴人に,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったことが推認されるという控訴人の主張は採用できない。
以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の一般不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
<平成30126日知的財産高等裁判所[平成30()10050]>

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