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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物の侵害性

【書】

文字自体の字体は、本来、著作物性を有するものではなく、したがってまた、これに特定人の独占的排他的権利が認められるものではなく、更に、書の字体は、同一人が書したものであつても、多くの異なつたものとなりうるのであるから、単にこれと類似するからといつて、その範囲にまで独占的な権利を認めるとすれば、その範囲は広範に及び、文字自体の字体に著作物性を認め、これにかかる権利を認めるに等しいことになるおそれがあるものといわざるをえない。したがつて、書については、単にその字体に類似するからといつて、そのことから直ちに書を複製したものということはできない、と解すべきである。
<平成11110日東京地方裁判所[昭和62()1136]>

文字自体は、情報伝達手段として、万人の共有財産とされるべきところ、文字は当該文字固有の字体によって識別されるものであるから、同じ文字であれば、その字形が似ていてもある意味では当然である。したがって、書又はこれと同視できる創作的表現として、著作物性が認められるといっても、独占排他的な保護が認められる範囲は狭いのであって、著作物を複写しあるいは極めて類似している場合のみに、著作権の複製権を侵害するというべきであり、単に字体や書風が類似しているというだけで右権利を侵害することにはならないし、ましてや、著作権の翻案権の侵害を認めることはできない。
<平成110921日大阪地方裁判所[平成10()11012]>

書は、一般に、文字及び書体の選択、文字の形、太細、方向、大きさ、全体の配置と構成、墨の濃淡と潤渇(にじみ、かすれを含む。以下、同じ。)などの表現形式を通じて、文字の形の独創性、線の美しさと微妙さ、文字群と余白の構成美、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢い、ひいては作者の精神性までをも見る者に感得させる造形芸術であるとされている。他方、書は、本来的には情報伝達という実用的機能を担うものとして特定人の独占が許されない文字を素材として成り立っているという性格上、文字の基本的な形(字体、書体)による表現上の制約を伴うことは否定することができず、書として表現されているとしても、その字体や書体そのものに著作物性を見いだすことは一般的には困難であるから、書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分は、字体や書体のほか、これに付け加えられた書に特有の上記の美的要素に求めざるを得ない。そして、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであって、写真は再製の一手段ではあるが(著作権法2115号)、書を写真により再製した場合に、その行為が美術の著作物としての書の複製に当たるといえるためには、一般人の通常の注意力を基準とした上、当該書の写真において、上記表現形式を通じ、単に字体や書体が再現されているにとどまらず、文字の形の独創性、線の美しさと微妙さ、文字群と余白の構成美、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢いといった上記の美的要素を直接感得することができる程度に再現がされていることを要するものというべきである。
(略)
本件各カタログ中の本件各作品部分において、本件各作品の書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分が再現されているということはできず、本件各カタログに本件各作品が写された写真を掲載した被控訴人らの行為が、本件各作品の複製に当たるとはいえないというべきである。
控訴人は、書の最も重要な要素は形、すなわち造形性であり、書の複製の成否の判断においても、本質的な要素は形であるところ、本件各カタログ中の本件各作品部分でも本件各作品の書の造形性が再現されている旨主張する。しかし、上記のとおり書が文字を素材とする造形芸術である以上、その著作物としての本質的な特徴としては、字体や書体に付加される美的要素を軽視することはできず、単に書の形が再現されていれば複製が成立すると解した場合には、字体や書体そのものに著作物性を肯定する結果にもなりかねない。そうすると、書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分については、上記のとおり解さざるを得ないというべきであり、控訴人の上記主張は採用することができない。
(略)
言語の著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13628日第一小法廷判決)ところ、美術の著作物においても、この理を異にするものではないというべきであり、また、美術の著作物としての書の翻案の成否の判断に当たっても、書の著作物としての本質的特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分のとらえ方については、上記に述べたところが妥当すると解すべきであるから、本件各カタログ中の本件各作品部分が、本件各作品の表現上の本質的な特徴の同一性を維持するものではなく、また、これに接する者がその表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは、前示の判断に照らして明らかというべきである。
そうすると、本件各カタログに本件各作品が写された写真を掲載した被控訴人らの行為は、本件各作品の翻案にも当たらないというべきである。
<平成140218日東京高等裁判所[平成11()5641]>

【ピクトグラム(アルファベット)】

被告標章の作成,使用等によって,原告標章についての原告の複製権又は翻案権が侵害されるか否かを検討するため,被告標章と原告標章が同一性を有する部分についてみると,これらは,深緑色の長方形(横長)の中に白いアルファベット文字が配置されていること,そのアルファベット文字の書体,大きさ,文字間の間隔及び配置のバランス,全ての文字が円の構成要素とされていること,「OFF」と「USE」のアルファベット文字の上部に三つの白丸で弧を描くような装飾が施されていることなどで共通している。
アルファベット文字について著作物性を肯定するためには,その文字自体が鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。被告標章と原告標章のアルファベット文字が被告の店舗で使用等をするために様々な工夫を凝らしたものであることは原告が主張するとおりであるとしても,それらの工夫による被告標章と原告標章のアルファベット文字は,いずれも「オフハウス」という名称をよりよく周知,伝達するという実用的な機能を有するものであることを離れて,それらが鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えるに至っているとは認められない。また,その余の共通点については,いずれもアイデアが共通するにとどまるというべきであり,仮にアイデアの組合せを新たな表現として評価する余地があるとしても,それらはありふれたものであるといわざるを得ないから創作性は認められない。
したがって,原告標章と被告標章は,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから,仮に原告標章が著作物であるとしても,被告標章を作成等する行為は原告の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
<令和元年521日東京地方裁判所[平成29()37350]>

【ピクトグラム(イラスト)】

この観点からすると,それぞれの本件ピクトグラムは,以下のとおり,その美的表現において,制作者であるP1の個性が表現されており,その結果,実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるから,それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められる。
(略)
被告らは,本件ピクトグラムについて著作権法による保護を与えることにより,わずかな差異を有する無数のピクトグラムについて著作権が成立し,権利関係が複雑となり混乱を招き,利用に支障を来すなどの不都合が生じる旨指摘する。この点,本件ピクトグラムが実在の施設等を前提とすることから,当該施設を描く他の著作物と似通う部分が生じることは当然予想されるが,本件ピクトグラムの複製又は翻案は,上記に記載の選択により個性が表現されたものであるから,ほとんどデッドコピーと同様のものにしか認められないと解され,多少似ているものがあるとしても,その著作物との権利関係が複雑となり混乱を招くといった不都合は回避されるものである。
(本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているかについて)
本件冊子では,本件ピクトグラムがそのまま掲載されているから,本件ピクトグラムの複製とすべき範囲を上記のとおりデッドコピーと同様のものに限定されると解するとしても,本件ではなお「複製」に当たると認められる。
この点について,被告らは,本件ピクトグラムは本件冊子に小さく掲載されているにすぎないとして,複製に該当しない旨主張する。
しかし,複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再生することをいうところ,本件冊子の路線図に配された掲載ピクトグラムは,本件使用許諾契約の本件案内図(小546㎜×546㎜等)や別紙と比較すれば,小さなものであるが,本件冊子が本件ピクトグラムのデータを使用して作製されたもので,本件ピクトグラムが掲載された態様から本件ピクトグラムであることが十分看取できるものであることからすれば,本件ピクトグラムの内容及び形式を覚知させるに足りるものといえ,このような本件冊子の作製は,本件ピクトグラムの複製に該当するというべきである。
<平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]>

【イラスト】

本件デザイン図そのものは、全体としては本件街路灯を街路に配置した完成予想図であり、構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、「美術の範囲に属するもの」というべきであるから、美術の著作物に当たるものと認められる。そして、本件デザイン図自体の著作物性を右のように把握する場合には、その複製又は翻案とは、その絵画的な表現形式での創作性を有形的に再製することを意味することになる。
この観点から、まず本件設計図が本件デザイン図を複製又は翻案したものであるかを検討すると、本件設計図は本件街路灯についての技術的な設計図にすぎず、これが本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとはおよそ認められない。したがって、被告による本件設計図の作成が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
また、本件街路灯を製作、設置する行為は、本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製する行為とはおよそいえないから、右行為が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するともいえない。
<平成120606日大阪地方裁判所[平成11()2377]>
【注:本ケースの控訴審では、次のように、本件デザイン図についての著作物性そのものを否定した】
本件デザイン図は、装飾街路灯を街路に配置した完成予想図である。そして、全体としての構図や色彩、コントラスト等において絵画的な表現形式が取られているものの、右街路灯のデザインが街角でどのように反映するかをイメージ的に描いたものにすぎず、その表現も専ら街路灯デザインを引き立て、これを強調するにとどまっている。したがって、本件デザイン図は、それ自体、美的表現を追求し美的鑑賞の対象とする目的で製作されたものでなく、かつ、内容的にも、純粋美術としての性質を是認し得るような思想又は感情の高度の創作的表現まで未だ看取し得るものではないから、美術の著作物に当たるものとは認められない。
<平成130123日大阪高等裁判所[平成12()2393]>

商品の取扱説明書の場合,商品の使用方法,機能,生じ得る問題点とその対処方法,部品や部分の名称,注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが,説明すべきこれらの内容が共通し,その説明内容等がありふれた表現でなされる限り,別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし,著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(著作権法211号)からすれば,仮に上記のような点に共通性が認められたとしても,そのことをもって,創作性ある部分が実質的に同一であるとか,表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
そうすると,控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして,被控訴人イラストと控訴人イラストは,それぞれが共通する部分は,結局,控訴人商品と被控訴人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないし,また,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ,被控訴人イラストが,控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか,控訴人イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被控訴人イラストが控訴人イラストを複製したものであるとはいえない。
<平成171215日大阪高等裁判所[平成17()742]>

原告博士絵柄のような博士の絵柄については,前記でみた博士の絵柄のように,角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性とするという点はアイデアにすぎず,原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点として挙げられているその余の具体的表現(ほぼ2頭身で,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこからカイゼル髭が伸びていること,目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部にふくらんだ髪が生えていること)は,きわめてありふれたもので表現上の創作性があるということはできず,両者は表現でないアイデアあるいは表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。また,被告博士絵柄全体をみても,前記の相違点に照らすと,これに接する者が原告博士絵柄を表現する固有の本質的特徴を看取することはできないものというべきである。
<平成200704日東京地方裁判所[平成18()16899]>

複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することであり(著作権法2条1項15号),既存の著作物に依拠して,その内容及び形式を覚知させるに足りるもの,すなわち,これと表現上同一性を有するものを作成することをいう。複製には,表現が完全に一致する場合に限らず,具体的な表現に多少の修正,増減等が加えられていても,表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるが,誰が作成しても似たような表現にしかならない場合や,当該思想又は感情を表現する方法が限られている場合には,同一性の認められる範囲は狭くなると解される。
原告著作物及び被告著作物は,いずれも睡蓮,ひさご,金魚鉢等を素材とし,印鑑,シール等の絵柄等に用いられるデザインである点で共通するものであるが,上記の素材はそれ自体ありふれたものである上,限られたスペースに単純化して描かれることから,事柄の性質上,表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると,本件において複製権侵害(複製物に係る譲渡権侵害とみても同様である。)を認めるためには,同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。
(略)
なお,原告著作物はいずれも単色で描かれ,用途等により種々の色が用いられるが,色自体は複製の成否の判断に影響しないと解されるので,着色部分を黒地ないし黒色ということがある。また,原告著作物と被告著作物の大きさはやや異なるが,複製の成否の判断に当たっては,別紙のとおり,同一サイズに拡大して比較することが相当と解される。
<平成261030日 東京地方裁判所[平成25()17433]>

本件イラスト類4~6及び11は美術の著作物に当たると解されるところ,これにつき複製又は翻案を認めるためには,原告の創作した表現上の特徴部分が本件文書において再現され,又はこれを直接感得できることを要する。
そして,これらイラスト類に描かれた対象物が実在の道具や古墳,広く知られた遺跡や周知の地形であることに照らせば,その表現上の特徴部分は,本件イラスト類4及び11においては矢じり等又は大陸棚の全体的な形状ではなく細部に施された陰影等に,同5においては全体の構図及び住居,柵等の細部の表現に,同6においては堀の部分の着色及び雲の描写に認め得るにとどまると解される。ところが,本件文書ではこれらイラスト類が縮小されるなどしており,細部の陰影等の表現は感得できず(本件イラスト類4,5及び11),全体の構図は見て取れず(同5),また,堀の色等も異なる(同6)というのである。そうすると,本件文書において本件イラスト類4~6及び11が複製又は翻案されているということはできないと判断するのが相当である。
<平成28623日東京地方裁判所[平成26()14093]>

【彫刻】

本件各写真によれば,原告彫刻は,乳白色の板状部材の表面に女性の裸体を表現した彫刻で,乳首のすぐ下と陰部のすぐ上の位置で胴体を上下に水平方向に直線でカットし,かつ,左乳房の中心付近で垂直方向に直線でカットしたものと認められる。
そこで検討するに,確かに,原告彫刻と被告製品【注:女性の身体の一部をモチーフにしたネックレス】とは,女性の身体のカットの構図において共通の特徴がみられることは原告の指摘するとおりであるが,このような構図それ自体に創作性は乏しい。
また,そもそも,原告は原告彫刻を所持しておらず,原告彫刻の具体的表現に関する証拠としては,原告彫刻が撮影された本件各写真しかないから,原告彫刻と被告製品の各表現の対比には限界があるといわざるを得ないが,とりあえずその点を措いても,本件各写真によれば,原告彫刻においては,右胸が身体の右端に大きく膨らみ,右腹部から右腰にかけては大きく湾曲したくびれがあり,また,腹部が膨らんでいる一方,へそが明確に凹み,腹部と脚との境界付近にも比較的大きな凹みが確認できるなど,全体に豊満で肉感的な印象を与えるものであるのに対し,被告製品においては,胸が中央部にかけて膨らんだお椀形で,腹部から腰にかけてのくびれは少なく,腹部の膨らみも緩やかで,へその凹みや腹部と脚との境界もはっきりしないなど,全体として平坦でひきしまった印象を与えるものであることが認められるのであって,こうした相違に鑑みれば,被告製品から原告彫刻の表現上の特徴を直接感得することはできず,両者が類似しているとは認めることができない。
<平成28225日東京地方裁判所[ 平成27()15789]>

【水槽を模した電話ボックス】

(1) 同一性又は類似性について
ア 共通点
原告作品と被告作品の共通点は次のとおり(以下「共通点①」などという。)である。
① 公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガラス)に水が入れられ(ただし,後記イ⑥を参照),水中に主に赤色の金魚が50匹から150匹程度,泳いでいる。
② 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され,その受話部から気泡が発生している。
イ 相違点
原告作品と被告作品の相違点は次のとおり(以下「相違点①」などという。)である。
① 公衆電話機の機種が異なる。
② 公衆電話機の色は,原告作品は黄緑色であるが,被告作品は灰色である。
③ 電話ボックスの屋根の色は,原告作品は黄緑色であるが,被告作品は赤色である。
④ 公衆電話機の下にある棚は,原告作品は1段で正方形であるが,被告作品は2段で,上段は正方形,下段は三角形に近い六角形(野球のホームベースを縦方向に押しつぶしたような形状)である。
⑤ 原告作品では,水は電話ボックス全体を満たしておらず,上部にいくらかの空間が残されているが,被告作品では,水が電話ボックス全体を満たしている。
⑥ 被告作品は,平成26年2月22日に展示を始めた当初は,アクリルガラスのうちの1面に縦長の蝶番を模した部材が貼り付けられていた。
ウ 検討
控訴人は,複製権又は翻案権の侵害を主張している。
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製すること(著作権法2条1項15号)をいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決,最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
依拠については後記(3)において検討することとし,ここではそれ以外の要件について検討する。
共通点①及び②は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重なる。なお,被告作品は,平成26年2月22日に展示を開始した当初は,アクリルガラスのうちの1面に,縦長の蝶番を模した部材を貼り付けていた(相違点⑥)。しかし,前記のとおり,この蝶番は目立つものではなく,公衆電話を利用する者にとっても,鑑賞者にとっても,注意をひかれる部位とはいえないから,この点の相違が,共通点①として表れている原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。
一方,他の相違点はいずれも,原告作品のうち表現上の創作性のない部分に関係する。原告作品も被告作品も,本物の公衆電話ボックスを模したものであり,いずれにおいても,公衆電話機の機種と色,屋根の色(相違点①~③)は,本物の公衆電話ボックスにおいても見られるものである。公衆電話機の下の棚(相違点④)は,公衆電話を利用する者にしても鑑賞者にしても,注意を向ける部位ではなく,水の量(相違点⑤)についても同様であることは前記のとおりである。すなわち,これらの相違点はいずれもありふれた表現であるか,鑑賞者が注意を向けない表現にすぎないというべきである。
そうすると,被告作品は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる一方で,それ以外の部位や細部の具体的な表現において相違があるものの,被告作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。そして,後記(3)のとおり,被告作品は,原告作品に依拠していると認めるべきであり,被告作品は原告作品を複製したものということができる。
仮に,公衆電話機の種類と色,屋根の色(相違点①~③)の選択に創作性を認めることができ,被告作品が,原告作品と別の著作物ということができるとしても,被告作品は,上記相違点①から③について変更を加えながらも,後記(3)のとおり原告作品に依拠し,かつ,上記共通点①及び②に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,原告作品における表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,原告作品を翻案したものということができる。
<令和3114日大阪高等裁判所[令和1()1735]>

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