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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の譲渡

【「特掲」(法612項)の意義と程度】

著作権法612項は,「著作権を譲渡する契約において,第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定するところ,これは,著作権の譲渡契約がなされた場合に直ちに著作権全部の譲渡を意味すると解すると著作者の保護に欠けるおそれがあることから,二次的な利用権等を譲渡する場合には,これを特に掲げて明確な契約を締結することを要求したものであり,このような同項の趣旨からすれば,上記「特掲され」たというためには,譲渡の対象にこれらの権利が含まれる旨が契約書等に明記されることが必要であり,契約書に,単に「すべての著作権を譲渡する」というような包括的な記載をするだけでは足りず,譲渡対象権利として,著作権法27条や28条の権利を具体的に挙げることにより,当該権利が譲渡の対象となっていることを明記する必要があるというべきである。
<平成181227日東京地方裁判所[平成16()13725]>

612項は,通常著作権を譲渡する場合,著作物を原作のままの形態において利用することは予定されていても,どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著作物の創作及び利用は,譲渡時に予定されていない利用態様であって,著作権者に明白な譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると,単に「将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」という文言によって,法27条の権利や二次的著作物に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。この点につき,法28条の権利が結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とするものであるとして,単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは,法612項が法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反する。
<平成151226日東京地方裁判所[平成15()8356]>

著作権を譲渡する契約において翻案権が譲渡の目的として特掲されていないときは,翻案権は譲渡した者に留保されたものと推定されるところ(著作権法612項),本件意見書の各著作者と控訴人間の管理委託及び出版権設定契約書においては,翻案権が譲渡の目的として特掲されておらず,また証拠中の「※意見書については,著作権及び版権は,○○に帰属します。」との記載だけでは,翻案権が譲渡の目的として特掲されていたということはできない。
<平成260521日知的財産高等裁判所[平成25()10082]>

本件投稿規程は,「採用された論文等の著作権は,早稲田大学政治経済学会に帰属するものとする。」と定めているのであり,翻案権が譲渡の対象として特掲されているものではないことからすれば,翻案権は論文執筆者に留保されたものと推定される(著作権法612項)。そして,本件学会誌は,政治経済学の研究者による,研究論文,研究ノート(判例研究・学会展望論文も含む)・展望論文,書評の投稿を募集しているものであるから,研究者が,学術研究の成果物である上記各論文等を投稿する際において,これらの表現形式を改変する翻案権までも譲渡していると解すべき合理的理由も存しない。したがって,仮に,原告が本件学会誌に本件原著を投稿することを承諾したときに,原告が本件投稿規定の内容を認識し得る状況があったとしても,本件投稿規程において,翻案権が特掲されていない以上,本件投稿規程により,本件原著の翻案権が本件学会に譲渡されたということはできない。
<平成190118日東京地方裁判所[平成18()10367]>

著作権法612項の趣旨は,著作権の譲渡契約において,そのような特掲のない限り,著作者の下に翻案権等を留めておくことにより,著作者の創作活動に支障を来さないようにするところにあると解され,著作隣接権である送信可能化権の場合に,この趣旨を類推することはできない。
<平成190119日東京地方裁判所[平成18()1769]>

【「推定」(法612項)を覆した事例】

これら交渉の過程に照らせば,F3契約においては,控訴人と被控訴人間においては,F3に係る本件プログラムについても,将来,改良がされることがあること,控訴人はその改良に積極的に協力するが,改良につき,主体として責任をもって行うのは,被控訴人であることが当然の前提となっていたことが認められる。すなわち,当事者間では,被控訴人が本件プログラムの翻案をすることが当然の前提となっていたと認められるのであって,これは,被控訴人による本件プログラムの翻案権を前提としていたものと解するほかない。
したがって,上記に照らせば,控訴人と被控訴人間では,翻案権の所在について明文の条項は定められなかったものの,本件プログラムを改良するなど,被控訴人が本件プログラムの翻案権を有することが当然の前提として合意されていたものと認めるのが相当である。
(略)
以上によれば,著作権法612項の推定にかかわらず,本件においては,関係各証拠によって,上記推定とは異なる,本件プログラムの翻案権を控訴人から被控訴人に譲渡する旨の控訴人と被控訴人間の合意を認めることができるであり,この合意に基づき,本件プログラムの翻案権は,被控訴人が有するものというべきである。
<平成180831日知的財産高等裁判所[平成17()10070]>

控訴人らは,本件譲渡契約の譲渡対象に本件先行ソフトウェア部品プログラムが含まれているとしても,本件先行ソフトウェア部品プログラムに係る著作権法27条及び28条に規定する権利は,控訴人○○社に留保されている(同法61条2項)旨主張し,控訴人Xの供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,本件合意及び本件譲渡契約の内容からすると,控訴人○○社と△△社は,控訴人○○社の全従業員を,指定会社に移籍させ,控訴人○○社が△△社にBSS-PACKに係るプログラムについての権利を譲渡し,指定会社が,△△社から委託を受けて,控訴人○○社が行っていたBSS-PACKに係る事業を継続することとして,控訴人○○社の側では,控訴人○○社の従業員の雇用とBSS-PACKに係る事業の継続等を指定会社において確保し,△△社の側では,BSS-PACKに係る事業から得られる収入を得ること等を意図して,本件合意及び本件譲渡契約をしたと認めるのが相当であり,このことに鑑みると,BSS-PACKに係る著作物の翻案権等(著作権法27条)及び二次的著作物利用に関する原著作者の権利を控訴人○○社に留保するということは,本件合意及び本件譲渡契約の趣旨に反するものであって,不自然である。
また,本件譲渡契約により譲渡された本件登録プログラムについては,本件譲渡契約において,著作権法27条及び28条の権利の移転につき明文がないにもかかわらず,著作権法27条及び28条に規定する権利を含む著作権の譲渡がされた旨の登録がされている。
さらに,本件合意及び本件譲渡契約においては,本件登録プログラムである「上記(1)の著作物」の「バージョンアップ等改良後のプログラム著作物,その他関連する一切のプログラム著作物」である「(2)非登録プログラム著作物」及び「上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物」が譲渡対象とされている。
以上からすると,本件譲渡契約では,著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて著作権を譲渡する旨の合意があったと認められるのであって,同法61条2項の推定は覆ったというべきである。
<平成29427日知的財産高等裁判所[平成28()10107]>

【譲渡契約の解釈一般】

本件各契約における権利譲渡条項については,当該条項の文言自体及び本件各契約書中の他の条項のほか,契約当時の社会的な背景事情の下で,当事者の達しようとした経済的又は社会的目的及び業界における慣習等を総合的に考慮して,当事者の意思を探求し解釈すべきものである。
<平成190119日東京地方裁判所[平成18()1769]>

本件契約4条の「一切の権利(原告らの著作隣接権を含む)」に実演家の送信可能化権が含まれるか否かについては,契約の解釈の手法に則り,①本件契約の文言,各条項の関係,②契約締結当時における音源配信に関する状況,③契約締結当時における著作権法の規定,④業界の慣行,⑤対価の相当性等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。
<平成190427日東京地方裁判所[平成18()8752]>

将来法定される支分権を譲渡対象とすることの可否

将来法改正により法定される権利であっても,契約の対象とすることは可能である。しかも,我が国著作権法は,各支分権を例示とせず,限定列挙としたため,新たな利用形態の出現に対応して頻繁に法改正を必要とする。したがって,我が国著作権法の下では,将来法定される支分権を譲渡の対象とすることの必要性は極めて高いものである。
<平成190427日東京地方裁判所[平成18()8752]>

【共有著作権の譲渡(法65条1項3項の解釈)】

共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をしなかったことが、他の共有者において、持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由となることがあり得るとしても、そのような努力は、持分譲渡をしようとする共有著作権者に一方的に求められるものではなく、具体的事情の下において、他の共有者にもこれに必要な協力をすることが求められるものであり、持分譲渡をしようとする共有著作権者に要求される努力の内容・程度は、他の共有者におけるこのような協力の有無・程度と相対的な関係をもって定まるものと解するのが相当である。
<平成120419日東京高等裁判所[平成11()6004]>

一審原告は,日本法,韓国法のいずれにおいても,いわゆる共作楽曲の著作権の共有持分の信託譲渡については,信託受託者が著作権の円滑な行使を妨げることは考えられないため,他の共有者の同意は不要と解すべきであり,仮にこれが必要であるとしても,著作権等管理事業者の役割に鑑みれば,著作権等管理事業者に対する著作権の共有持分の信託譲渡については,他の共有者の黙示の同意があったと解すべき旨主張する。
しかし,著作権の共有持分の譲渡については,日本,韓国両国において,他の共有者全員の同意が必要とされており(日本国の著作権法651項,韓国の著作権法481項),この点は,著作権等管理事業法に基づく著作権の共有持分の信託譲渡であっても,どの著作権等管理事業者にどのような条件で信託譲渡するかにつき全ての共有者が同じ意見であるとは限らないから,共有者の同意が不要であるとか,黙示の同意があったと解することはできないので,一審原告の上記主張は採用することができない。
<平成240214日知的財産高等裁判所[平成22()10024]>

【譲渡契約の成否(募集広告・応募要項があった事例)】

一審原告は、自己の著作した古文の受験参考書に、「∧あなたもゴロあわせを作ってこの本にのせよう∨自分で工夫した単語の覚え方を下記までお送りください。採用作品はあなたの作品であることを明記しこの本にのせます。なお、採用された方にはあなたの作品がのったこの本を郵送します。」との広告を掲載し、Cも この広告に応じて自己の創作した原告語呂合わせを一審原告に送付したことが認められるが、右広告には、応募作品の著作権は一審原告に帰属する旨を明記した記載はなく、また、右募集広告の文言のみから、原告書籍に掲載された投稿作品の著作権を一審原告に帰属させる旨の合意が成立したものと認めることはできない。
<平成11930日東京高等裁判所[平成11()1150]>

控訴人は,原審において,東中コンペに合格したとしても,採用された設計図書の著作権全部が小諸市に移転するものではなく,東中学校を建設するのに必要な範囲で著作権の一部が小諸市に譲り渡されるにすぎず,それ以外は設計者である控訴人に残存する旨主張している。
しかしながら,小諸市の応募要領には,「採用した設計図書等の著作権は小諸市に帰属するものとし,この使用については小諸市が自由に行えるものとする。」と記載されており,応募者は,この条件を受け入れることを前提として,東中コンペ案を提出し,これが採用されたのであるから,小諸市と応募して採用された者との間には,採用された設計図書の著作権を小諸市に移転することについての合意が成立していると認められる。そして,小諸市の応募要領には,小諸市に移転するべき著作権の範囲について何らの限定もなく,また,上記権利移転の合意について何らかの制限があったことを窺わせるものは,本件全証拠を検討しても見いだすことができない。
そうすると,東中コンペ案についてもこれを前提にした東中実施設計図についても,控訴人が,これに基づく著作権主張をなし得ないことは,明白というべきである。
<平成1389日東京高等裁判所[平成13()797]>

【譲渡契約の成否(黙示的譲渡を含む)】

以上の事実からすれば,被控訴人県と被控訴人会社とは,平成9107日に,本件モニュメントのデザイン及び設計に係る委託業務契約を締結しており,控訴人は,そのころ,被控訴人会社との間で,控訴人が本件モニュメントに関して,そのデザインの提案をしたり,助言したりすることを合意したこと,控訴人が本件モニュメントのデザインに関してなした提案ないし助言の一部が採用されたため,控訴人は,被控訴人会社に対し,デザイン料約180万円を要求し,被控訴人会社からその要求金額の支払を受けたこと,控訴人は,第10回設計協議の段階における本件モニュメントのデザイン及び設計について,自己のアイデアが修正された態様で採用された部分も,採用されなかった部分も含め,その全体のデザインを了承し,被控訴人県が,そのデザイン及び設計に従って本件モニュメントを建設することを承諾していたこと,また,同協議以降,被控訴人県が本件モニュメントの設計デザインを設計協議の手続きを経ないで更に変更することをも了承していたこと,が認められる。
これらの事実と,本件モニュメントは,岐阜駅南口に設置することが当初から予定されており,それ以外の用途が考えられないものであったことをも考慮すれば,控訴人は,本件モニュメント製作に当たり,被控訴人会社との間で,その提供した図面等に描いたモニュメントのデザイン(本件著作物に当たるもの)について,これが美術の著作物に当たり,著作権により保護されるとしても,被控訴人会社に対し,その著作権を譲渡すること(被控訴人会社は,その後,上記委託業務契約に基づき,被控訴人県に対し,すべての著作権を譲渡することになる。)を,少なくとも黙示的には合意した上で,上記モニュメントに関するデザインを提案し,その対価として,被控訴人会社から,控訴人が要求したとおりの金額でその報酬を得た,と認めるのが相当である(仮に,著作権譲渡の合意について明確な合意があったと認めることが困難であるとしても,控訴人は,少なくとも,被控訴人会社が,被控訴人県の委託に基づいて,控訴人のデザインを一部採用した本件モニュメントのデザイン設計業務を行い,被控訴人県がこれに基づいて本件モニュメントを建設することを当初から基本的な前提条件として黙示に了承した上で,上記のとおり本件モニュメントについてのデザインを提案し,その対価を得たことを認めることができることは,明らかである。)。また,上記認定の事実からすれば,控訴人が本件著作物について,本件著作者人格権を有するとしても,控訴人は,被控訴人県が,控訴人のデザインの一部を採用したり,採用しなかったりすること,及び,控訴人のデザインを必要に応じ,修正した態様で採用した上で,本件モニュメントを建設することを当初から了承していた,と認めるのが相当である。
<平成160513日東京高等裁判所[平成15()5509]>

本件各映画には,本件各監督の個性が発揮され,本件各監督が,それぞれ本件各映画の制作に,監督として相当程度関与し,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者ということができる。
そして,本件各監督と1審原告との間に著作権譲渡についての契約書はないが,1審原告が本件各映画の利用許諾等による対価を得た場合,本件各監督に対し追加報酬を支払い,また,1審原告が放送への利用許諾等をした際には,協同組合日本映画監督協会を通じて本件各監督等に対しその旨を連絡していることに照らすと,1審原告は本件各監督を本件各映画の著作者(の1人)として処遇し,遅くとも本件各映画が公開された頃までには,本件各監督が1審原告又は新東宝に対し,自己に生じた著作権を譲渡したものと推認することができる。
なお,長年にわたる1審原告の本件各映画の著作権の行使に対し,本件各映画の制作に関与した本件各監督以外の者から,自己が著作者であるとの主張がされた形跡がなく,また,本件各監督のほか本件各映画の制作に関与した者やそれらの遺族等から,何らかの異議が述べられた形跡もないことに照らすと,仮に,本件各監督のほかに本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者が存在したとしても,これらの者についても,遅くとも本件各映画が公開された頃までには,映画製作者である1審原告又は新東宝に対し,黙示的に本件各映画の著作権を譲渡したものと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。
<平成240509日知的財産高等裁判所[平成24()10013]>

本件イラストについて具体的表現行為をしたのはAであるから,本件イラストについては原始的にはAが著作権を有していたものと認められるが,イラスト代名目を含んで一括して金員が支払われていること,返還時期についての定めがあるとうかがわれないことからすれば,本件イラストの原画の所有権は原告に譲渡されたものと認めるのが相当である。
これに加え,本件イラストは,もっぱら,原告が被告○○の「びすけっと」や他の広告チラシの印刷に用いるために制作され,それ以外の用途は実際上想定されていなかったものと推測されること,実際上も,本件イラストの複製は排他的に原告においてされていることからすれば,本件イラストの著作権そのものも原告に譲渡されたと認めるのが相当といえる。
<平成140301日京都地方裁判所[平成12()2116]>

前記認定事実,とりわけ,①原告が,被告が設置している本件ウェブサイトで販売されていたイラストつきの酒類を見て,被告に対し,「私にも仕事させていただけないかなぁと思いまして」とのメールを送信し,条件を尋ねられた際には「グッズのギャランティとしては参考までに大体5~10万円でお受けしております。」と記載していること,②原告は,本件打合せにおいても,被告代表者に対し,原告が通常グッズのイラストを制作する場合には,パッケージが10万円,それ以外は最低でも5万円から仕事を受けていると説明していること,③本件打ち合わせにおいては,キャラクターを5人制作して,それぞれ異なる味の酒のラベルにすることなどが合意されたこと,④その後,原告が,自身の画集に本件果実酒のイラストを掲載してよいか尋ねたのに対して,被告代表者がラベルと同一のものはファンがとまどうから認めない旨回答していることなどからすれば,原告と被告との間には,平成24年12月11日の本件打合せにおいて,原告が本件果実酒のラベル等に使用するためのイラストを制作し,その著作権を被告に有償で譲渡する旨の契約が成立したものと推認されるというべきである。
<平成28229日 東京地方裁判所[平成25()28071]>

本件で,被告は,原告が,本件楽曲に係る使用料を支払うことなく,実施された本件公演において本件楽曲を演奏させたことについて,使用料相当額の不当利得が成立すると主張していることから,これが認められるためには,まず,被告が本件楽曲の著作権を有していたことが必要となるところ,P2は,会見において,本件楽曲を含む被告の作品として発表されている楽曲については,その著作権を放棄したいと述べ,被告との間で本件確認書【注:被告とP2は,JASRACに対し,被告を作曲者として作曲届を提出した全ての楽曲について,それらの著作権ないしその持分権(著作権法27条及び同法28条に規定する権利を含む。)がP2から被告に譲渡済みであり,著作権が全て被告に帰属していることを相互に確認するとの確認書(「本件確認書」)を作成した】を作成していることからすれば,P2において,少なくとも,本件楽曲の財産的な著作権を被告に対して譲渡したものと解するのが相当である。
これに対し,原告は,仮に譲渡契約があるとしても,その実質はゴーストライター契約であるから,著作権法121条に反する,あるいは公序良俗に反するもので無効である旨主張する。しかし,本件確認書に係る著作権譲渡合意が,それ自体としてゴーストライター契約であるとは認められない。また,本件楽曲に関して,被告とP2との間で,著作権譲渡合意とともに,原告主張のような趣旨の合意がされたとしても,本件確認書が,真の作曲過程の発覚後に,なお著作権の譲渡だけを特に確認することを対象として作成されていることからすると,被告とP2との間で,著作権譲渡合意が上記の本件楽曲に関する合意と不可分一体のものとされていたとまでは認められず,また,性質上不可分一体のものとも認められない。そして,著作権法121条は,著作者名を詐称して複製物を頒布する行為を処罰の対象とするにすぎず,著作権を譲渡することを何ら制約するものではないから,本件確認書自体が同条に反するものではなく,また,そのことは公序良俗違反についても同様であるから,被告とP2との間における本件楽曲の著作権譲渡合意は無効とはいえない。
<平成281215日大阪地方裁判所[平成26()9552]>
【控訴審も同旨】
被控訴人は,控訴人は本件楽曲の著作権者ではなく,控訴人とP2との間の著作権譲渡の合意は無効であると主張する。しかし,P2が本件楽曲の財産的な著作権を控訴人に譲渡したと認められ,本件確認書に係る著作権譲渡合意が無効ではないことは,前記で引用した原判決に記載のとおりであり,被控訴人の前記主張は理由がない。
<平成291228日大阪高等裁判所[平成29()233]>

(原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属)
被告は,旧ウェブサイトを訴外〇〇に制作させ,訴外△△に管理を委託していたところ,集客力の向上のために,まず旧ウェブサイトの本件サーバの移管を原告に委託し,さらにその保守業務を原告に委託した後,本件制作業務委託契約により,旧ウェブサイトを,スマートフォンやタブレットに対応できるようにするなど,全面的にリニューアルすることを求めたことが認められるのであって,原告ウェブサイトの制作は,原告の発意によるものではなく,被告の委託に基づくものであり,原告が自ら使用することは予定せず,被告の企業活動のために使用することが予定されていたものということができる。
上述のとおり,原告ウェブサイトは,元々被告が訴外○○に制作させた旧ウェブサイトを,本件サーバへの移管後にリニューアルしたもので,原告ウェブサイトのデザイン,記載内容や色調の基礎となったのは,リニューアル前の旧ウェブサイトであることが認められる。
また,原告は,原告ウェブサイトを制作するにあたり,ワードプレス専用のプラグインやフォント,写真を購入したり,ワードプレスを利用して,原告ウェブサイトが利用しやすく顧客吸引力があるように構成したものと認められるが,一方で,原告ウェブサイトは,被告の株式スクールとしての企業活動を紹介するものであって,その内容は,基本的に被告に由来するというべきであるし,原告が,被告から,その従業員を通じ,仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したものであることは,前記認定のとおりである。
原告と被告は,以上の内容・性質を有する原告ウェブサイトの制作について,本件制作業務委託契約を締結し,例えば原告ウェブサイトの権利を原告に留保して,原告が被告に使用を許諾し使用料を収受するといった形式ではなく,原告ウェブサイトの制作に対し,対価324万円を支払う旨を約したのであるから,原告が原告ウェブサイトを制作し,被告のウェブサイトとして公開された時点で,その引渡しがあったものとして,原告ウェブサイトに係る権利は,原告が制作したり購入したりした部分を含め,全体として被告に帰属したと解するのが相当である。
上記解釈は,原告ウェブサイト制作後も,原告が被告に保守業務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち,原告ウェブサイトが原告のものであれば,被告がその保守を原告に委託することはあり得ず,原告ウェブサイトが被告のものであるからこそ,代金を支払ってその保守を原告に委託したと考えられるからである。
また,上述のとおり,原告ウェブサイトは,被告の企業としての活動そのものを内容とするものであるから,原告がこれを自ら利用したり,第三者に使用を許諾したり,あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定されていないというべきであるから,原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすべき合理的理由はない。さらに,原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすれば,被告は,原告の許諾のない限り,原告ウェブサイトの保守委託先を変更したり,使用するサーバを変更するために原告ウェブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが,そのような結果は不合理といわざるを得ない。
以上より,原告が原告ウェブサイトを制作したことを理由に,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると考えることはできず,原告ウェブサイトの著作権は,被告に帰属するものと解すべきである。
(合意による著作権の帰属)
本件保守業務委託契約において,同契約に基づいて,原告が制作したウェブサイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)があることは前記認定のとおりである。
しかしながら,本件保守業務委託契約は,訴外○○が制作した旧ウェブサイトを本件サーバに移管した後に,その保守業務を被告が原告に委託する際に締結されたものであって,原告がウェブサイトを制作完成することは予定されていないから,上記条項が何を想定したものかは不明といわざるを得ないし,同条項が,その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとも解されない。
(略)
原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約において,制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属するとすることが不合理であることは前記で述べたとおりであり,あえてそのように合意するとすれば,その合意は明確なものでなければならず,本件においてそのような合意が成立したと明確に認めるに足りる証拠がないことは上記のとおりであるから,被告と原告の合意によって,原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属したと認めることはできない。
<令和元年103日大阪地方裁判所[平成30()5427]>

本件プログラムの著作権の譲渡について
被告学園は,原告が,本件システムの開発当初から,被告学園に対し,同開発に係る成果物の著作権を譲渡することを承諾しており,平成25年5月23日に原告が被告学園に本件プログラムを引き渡し,被告学園が原告に対して開発費用を支払ったので,原告から被告学園に対して本件プログラムの著作権が譲渡されたと主張する。
しかし,原告は,本件システムの開発当初の平成25年1月の時点において,被告学園に対して本件システムの開発に係る成果物の著作権を譲渡する意向を示していたが,その後,原告と被告学園との間で,本件システムの開発費用や著作権の取扱い等について話合いがされ,著作権譲渡契約書案が作成されたものの,契約書が取り交わされるには至らず,交渉は決裂した。このような交渉経緯に鑑みると,同月の時点において,原告が本件プログラムの著作権を譲渡することを承諾していたと認めることはできない。
また,被告学園は,原告に対して開発費用として105万円を支払い,原告から本件システムを構成する本件プログラムに係る圧縮ファイル(本件圧縮ファイル)を受領したが,その当時,本件システムは完成しておらず,本件プログラムは作成途中のものであり,原告がその時点で本件圧縮ファイルを送付したのは,Bの便宜のためにすぎない。そうすると,上記105万円は,原告が本件プログラムの開発作業に従事した労務の対価として支払われたものと考えるのが自然であって,これが本件プログラムの著作権の対価を含むと認めることはできない。
【なお,上記105万円は,本件プログラムが譲渡される際には,その譲渡代金の一部に充当されることが予定されていたと解する余地はあるとしても,上記のとおり,譲渡の合意が成立していたとは認められず,また,上記105万円が譲渡代金の全額であったとも認められない以上,その支払によって本件プログラムの譲渡契約が成立したと認める余地はない。】
以上によれば,原告が被告学園に対して本件プログラムの著作権を譲渡したとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって,被告学園の上記主張は理由がない。
<令和21116日東京地方裁判所[平成30()36168]/令和3517日知的財産高等裁判所[令和2()10065]>

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