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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

権利濫用

【一般論】

著作権法は、同法第1条所定の目的のもとに、著作権を権利として保護すると同時に、その保護期間を限定し、かつ、適法引用等著作物の公正な利用に意を用いた規定を設けており、著作権の保護期間内であっても、法の定める公正な利用の範囲内であれば、著作権者の許諾を要せず、著作物を利用することができるものとしているのであり、このような法の仕組みのもとにおいては、著作権者の許諾もなく、公正な利用の範囲をも逸脱して著作物を複製し、著作権を侵害する行為があつた場合にこれを公けの文化財あるいは文化的所産の利用の名のもとに許容すべき法的根拠はない。
<昭和601017日東京高等裁判所[昭和59()2293]>

控訴人らは,被控訴人らは匿名で書込みをし,その内容について責任追及を困難にすることを選んだ以上,その書込みについて著作権等の権利を主張することは許されない,と主張する。確かに,例えば,他人の名誉を毀損するなど,その内容について法的な責任を追及されるような内容のインターネット上の書込みを匿名でした者が,他方で,その書込みについて権利を主張することが,権利の濫用などを理由に許されないとされる場合があり得ることは,否定できない。しかしながら,そのような場合があり得るからといって,その理屈をインターネット上の書込み一般に及ぼし,およそ匿名で行った書込みについては,内容のいかんを問わず,権利行使が許されないなどと解することができないことは明らかである。
控訴人らは,被控訴人Jが,インターネット上で偽名を用いて他人を誹謗,抽象する書込みを行っているとして,そのことを理由に,本件について,権利行使を認めるべきではない,と主張する。しかしながら,本件の書込みとは別の書込みの内容は,何ら本件の書込みについての権利行使に影響を及ぼすものではないというべきであり,控訴人らの上記主張は主張自体失当である。
<平成141029日東京高等裁判所[平成14()2887]>

現行法上,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている(最高裁平成16年2月13日第二小法廷判決)。
上記各法律の趣旨,目的に鑑みると,不正競争防止法2条にいう不正競争によって利益を侵害された者が他人の意匠権を侵害する事実が認められる場合であっても,当該意匠権の侵害行為は意匠法が規律の対象とするものであるから,当該事実のみによっては,直ちに被控訴人が不正競争によって利益を害された者による不正競争防止法に規定する請求権の行使を制限する理由とはならないと解するのが相当である。
<平成30329日知的財産高等裁判所[平成29()10083]>

被告らは、原告図柄は写真家の著作権、演奏家の肖像権を侵害するものであって、これに基づく請求は権利濫用であると主張する。
しかし、原告図柄それ自体が著作物であるところ、仮にこの著作物に他人が著作権を有する写真が許諾なく使用されていたとしても、著作権法の観点からは、原著作物を翻案したものとして二次的著作物(著作権法2111号)として原著作物の著作権に服することがあるとしても(同法28条)、当該二次的著作物の著作権者が二次的著作物の複製権に基づいて差止めを請求することがただちに権利濫用となるものではない。
また、原告図柄の利用行為が写真の被写体である演奏家の肖像権を侵害するものであるか否かは本件全証拠によっても明らかでなく、この点を措くとしても、右の点は原告図柄の作成者である原告Aと演奏家本人との関係で処理されるべき問題であって、被告らの原告図柄の複製、頒布を正当化する根拠となるものではなく、また、原告図柄の著作権に基づく請求が権利濫用になるものではないと解するのが相当である。
<平成110909日大阪地方裁判所[平成9()715]>

以上によれば,本件各漫画が,原著作物の著作権侵害に当たるとの主張は失当であるし,仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても,それは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであって,その他の部分については,二次的著作権が成立し得るものというべきである(なお,本件各漫画の内容に照らしてみれば,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分について,オリジナリティを認めることは十分に可能というべきである。)。
そうすると,原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん,認められる場合であっても,一審原告が,オリジナリティがあり,二次的著作権が成立し得る部分に基づき,本件各漫画の著作権侵害を主張し,損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。
<令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]>

たとえ本件各霊言において(原告の被告に対する)名誉毀損と評価される箇所があったとしても,それゆえに原告の著作権の行使が直ちに否定されるものではなく,名誉毀損については,被告が原告及び原告代表役員に対して名誉毀損を理由として権利行使することによって対処すべき事柄である。
<平成240928日東京地方裁判所[平成23()9722]>

控訴人らは,本件各舞踊の著作権が被控訴人に帰属するとしても,同じ流派内の人間に対して著作権法上の主張をすることは権利濫用であると主張する。確かに,伝統的な文化活動の流派においては,著作権やノウハウ等組織の重要な知的財産について比較的緩やかな運用がされていることが多い。しかし,それはそのような組織では同門意識が組織存立の基礎となっており,同じ流派内に属する者同士には強固な信頼関係が築かれているからである。したがって,いったん信頼関係が崩れたときには,原則に立ち返り,厳密な運用がされることは当然であり,それをもって権利の濫用であると解することができない。
<平成141226日福岡高等裁判所[平成11()358]>

1審被告は,1審原告は,専ら1審被告の正当な言論活動を抑圧,妨害する目的で,著作権及び著作者人格権を行使しており,同権利行使は権利濫用に当たると主張する。しかし,1審原告写真が,「聖教グラフ」に掲載され,その後「グラフティ創価学会の現実 PART3」,「C創価学会=週刊実話増刊号」,「創価学会の光と影」に転載されたが,これに対し1審原告が何の異議も述べていないからといって,そのことから直ちに,1審原告が1審原告写真に対する著作権法上の権利がないことを自認し,あるいはその権利を放棄したということはできない。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

被告が本件記事を複製した部数は,合計35部であり,本件マンションの理事ないし居住者に頒布されていることから,その著作権侵害の程度は必ずしも重大なものとはいえないものの,侵害の程度・態様が軽微であるからといって,直ちに違法性が阻却されるわけではない。
<平成150718日東京地方裁判所[平成14()27910]>

【認定例】

A編集長は、右のような状況のもとで、本件原画に改変を加え、これを掲載することとしたもので、830日の夜の段階でA編集長としては、他にとりうる手段がなく、やむを得ず行ったものであったということができる。
右のような事実関係において、すなわち、自ら事前に2回にわたり、皇族の似顔絵や皇族を連想させるセリフ等の表現を用いないことを合意しておきながら、締切を大幅に経過し、製版業者への原画持込期限のさし迫った830日の夕刻になって、ようやく本件原画を渡し、長時間にわたる修正の要求、説得を拒否し、A編集長を他に取りうる手段がない状態に追い込んだ原告が、このように重大な自己の懈怠、背信行為を棚に上げて、A編集長がやむを得ず行った本件原画の改変及び改変後の掲載をとらえて、著作権及び著作者人格権の侵害等の理由で本件請求をすることは、権利の濫用であって許されないものといわざるをえない。
(略)
原告は、皇室をモデルにした作品をコミック誌に掲載することがタブーであるということは、民主主義国家である日本で本来あってはならないことであるとの認識に基づいて本件作品を創作したものであり、右のような認識は原告の思想として尊重されなければならないことは当然である。
しかしながら、右のような認識に基づく本件作品を、本件原画のまま掲載、出版することは、本件原画のような皇族の似顔絵、皇族を連想させる登場人物名、敬語による表現について、賛同、多様性の中の一態様として容認、無関心等いずれの理由によるにせよ、問題にしない出版業者によるか、自ら出版するべきものであって、右のような原画のままでは掲載しない方針の出版業者の方針に従うことを一旦合意しておきながら、一定の期日に発行しなければならない商業月刊雑誌の出版のための作業日程上、許される期限間際に右合意に反する原画を引き渡すことによって行うべきものではない。
もとより、出版業者が、原画の内容が自社の方針に反するからといってこれを無断で改変することは、決して許されるものではない。けれども、事前の合意に反して自社の方針に反する原画を出版のための作業日程上、許される期限間際に引き渡された本件の場合、A編集長がやむを得ずした本件原画の改変、掲載を理由に原告が損害賠償や謝罪広告を請求するのは、あまりに身勝手である。
<平成80223日東京地方裁判所[平成5()8372]>

■一連の「キューピー関連事件」
■以上認定した事実、すなわち、原告は、一方において、本件著作権を平成1051日に譲り受けたと主張しているにもかかわらず、①正当な権原を取得したとする時期よりはるか前である昭和54年ころから、キューピーの図柄等のデザイン制作、及びキューピーに関する商品の販売等を行い、自らが本件著作権の侵害となる行為をして、利益を得ていたこと、②自らが主催するキューピーに関する団体の活動においても、D【本件人形の著作者であり、本件著作権の原始的取得者】が作成したキューピーの複製品(原告の主張を前提とする。)を製造、販売したこと、③さらに、キューピーに関する原告の商品には原告が著作権を有するかのような表示を付したりしていたこと、④原告は、自己がデザインしたキューピーに関する商品を販売していた取引相手に対して、キューピー商品一般(原告の制作したキューピー商品以外のもの)について、使用許諾料の請求をするなどしている等の事実に照らすならば、自らが本件著作権の侵害行為を行って利益を得ていた原告が、本訴において、被告に対し、本件著作権を侵害したと主張して、差止め及び損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当すると解するのが相当である。したがって、この点からも、原告の請求は失当である。
<平成111117日東京地方裁判所[平成10()13236]>
■以上認定した事実、すなわち、参加人は、一方において、本件著作権を平成1051日に譲り受けたと主張しているにもかかわらず、①正当な権原を取得したとする時期よりはるか前である昭和54年ころから、キューピーの図柄等のデザインを業として開始して、キューピー商品の販売等により利益を得ていたこと、②自らが主催するキューピーに関する団体の活動においても、C【本件人形の著作者であり、本件著作権の原始的取得者】が作成したキューピーの複製品(参加人の主張を前提とする。)を製造、販売したこと、③さらに、被告との関係では、平成311月、平成42月、3月、参加人の所蔵するキューピーコレクションを用いたロビー展の開催を促し、その対価の支払を受けたり、平成5年から7年に掛けて、被告に顧客配布用の商品を販売し、約12000万円の支払を受けたりしたが、被告と取引が継続していた時期に、被告に対し、キューピーについて第三者が著作権を有していると示唆したことはなく、キューピーに関する参加人の商品には参加人が著作権を有するかのような表示を付したりしていたこと等の事実に照らすならば、参加人は、その主張を前提とすれば、自らが、本件著作権の侵害となる行為を多年にわたって継続し、多額の利益を得ていたばかりか、被告に対して、積極的な著作権侵害行為を誘発していたことになる。このような事実経緯に照らすならば、長年にわたり連綿と被告イラスト等の使用を継続してきた被告に対して、本件著作権を侵害したと主張して、差止め及び損害賠償を請求する参加人の行為は、正に権利の濫用に該当すると解すべきである。したがって、この点からも、参加人の請求は失当である。
<平成111117日東京地方裁判所[平成10()16389]>

被告代表者は,平成1051日にローズ・オニールの著作物に係る著作権を譲り受けたことから,キューピー株式会社によるキューピーの図柄等の複製行為が当該著作権を侵害する等と主張して,同社に対し,複製行為等の差止め及び10億円の損害賠償等を求める訴えを提起したが(東京地方裁判所平成10()13236号),同裁判所は,被告代表者の上記請求は権利の濫用に該当するなどとして,平成111117日,被告代表者の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
(略)
上記と同様に,被告代表者は,平成1051日にローズ・オニールの著作物に係る著作権を譲り受けたことから,株式会社日本興業銀行によるキューピーの図柄等の複製行為が当該著作権を侵害すると主張して,同社に対し,複製行為の差止め及び10億円の損害賠償等を求める訴えを提起したが(東京地方裁判所平成10()16389号),同裁判所は,被告代表者の上記請求は権利の濫用に該当するなどとして,平成111117日,被告代表者の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
(略)
上記認定のとおり,ローズ・オニールの著作物に係る著作権の保護期間及び本件契約の内容並びに本件訴訟に至る経緯等によれば,原告は,少なくともローズ・オニールの著作物に係る著作権を業として利用する目的はなかったのであって,むしろ,原告は,被告が著作権の侵害行為を行って利益を得ていたと指摘する判決に目を付けて,その利益を損害賠償金として取得しようとして,これに関する著作権を取得しようとしたものと推認することができる。
そうすると,このような原告の請求は,司法機関を利用しつつ不当な利益を追求するものであって,文化的所産の公正な利用を目的とする著作権法の趣旨に反するものであるから,原告の主張に係る著作権に基づく請求は,権利濫用として許されないというべきである。
<平成170909日東京地方裁判所[平成17()7875]>
【控訴審も同旨】
■控訴人は,あくまでも被控訴人の不正を明確にしたいだけであって,司法機関を利用しつつ不当な利益を追求するような目的を全く有しておらず,そのような誤解を避けるため,不服申立の対象を,原判決のうち10万円の支払請求に係る部分に限定した旨主張する。
しかしながら,原判決認定のとおり,①被控訴人代表者が,ローズ・オニールの著作に係るキューピーについての著作権の侵害行為を行って利益を得ていたと指摘する判決があったこと,②控訴人は,上記著作権の我が国における保護期間が満了するまで残り2か月にも満たない時点で,○○社から上記著作権を譲り受ける旨の契約を締結したものであるが,その譲渡代金の支払は,譲渡対象の権利が我が国の判決により認められることを前提とするなど,不自然な契約内容であること,③控訴人は,上記譲り受けからわずか1か月後に本件訴えを提起していること,④控訴人がローズ・オニールの著作物を利用した事実を認めるに足りないこと等の事情に照らせば,控訴人による上記著作権の取得は,上記著作権を業として利用しようとするものではなく,上記判決で指摘された被控訴人代表者の利益を損害金名目で取得しようとの意図に基づくものと推認されてもやむを得ないというべきであり,控訴人の本訴請求は著作権法の趣旨に反し権利の濫用として許されないものといわざるを得ない。控訴人は,被控訴人に対して全部で6億円の損害金支払請求権を有していることを前提に,その一部請求として1000万円の支払を訴求していたものであるから,控訴人が,原判決に対する不服申立の対象を,10万円の支払請求に係る部分に限定したことは,上記推認を何ら左右するものではない。
<平成180131日知的財産高等裁判所[平成17()10113]>

上記のとおり,被告プログラムは適切なパラメータ設定を探るためにのみ作成されたものであり,適切なパラメータ設定のためには実際に幾つかのパラメータを設定してプログラムを動作させる必要があることに加え,被告プログラムの基となった本件プログラム2は,もともと原告が被告P3のアイデアを本件プログラム1に移植する形で作成したものであること,原告が本件プログラム2を作成した時点では,既に本件プログラム1のソースコードは被告P2に開示されており,本件プログラム2のソースコードも開示されていたと考えられること,被告P3は被告P2の指示の下で被告プログラムを作成したこと,被告プログラムは第三者に開示も頒布もされておらず,他方で第三者に頒布された乙5プログラム及び乙50プログラムは本件各プログラムとは異なるものであることが認められ,これらの事情を総合すれば,被告P3が被告プログラム作成に当たって本件プログラム2を複製又は翻案したことがあったとしても,かかる行為のみを理由として著作権侵害を主張し,損害賠償を請求することは,権利の濫用(民法13項)に当たり許されないものというべきである。
よって,仮に本件プログラム2が著作権法上の著作物と認められ,原告がその著作者であるとしても,これに基づいて被告P3の複製又は翻案行為について著作権の行使をすることは,権利の濫用に当たり許されないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告P3に対する請求には理由がない。
<平成211015日大阪地方裁判所[平成19()16747]>
【参考:控訴審においては、「損害に係る判断」(被告P3による被告プログラム作成行為の違法性)について、次のように判示した】
当裁判所は,本件においては,被告プログラムの作成により,原告に損害が生じたことを認めることができないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。①本件プログラム1及び2は,外国為替取引業者であるCMSが提供する外国為替証拠金取引のためのトレーディングソフトウェア「VT Trader」という「フリーソフト」上で動作するトレーディングストラテジーを自動実行させるためのプログラムであること,②原告は,自己の体調不良もあって本件プログラム1のバージョンアップに対応することができなかったこと,③原告は,共同で設立した株式会社○○の役員の被告Y1らの求めに応じて,プログラマーである被告Y2【注:原審の「P3」のこと。以下同じ】に対し,原告に代わってバージョンアップする目的で本件プログラム1のソースコードを開示したこと,④本件プログラム2は,原告が,本件プログラム1に,被告Y2が作成したスィングおじゃるY2版を取り入れることにより作成したものであること,⑤被告プログラムは,各トレードごとの成績を個別に検証し,適切なパラメータを設定することによって,より多くの利益を獲得できるプログラムにする目的で作成したものであって,販売目的で作成されたものではなかったことが認められる。これらの事情を総合考慮すると,被告プログラムが本件プログラム1及び2の複製物,翻案物であると評価されたとしても,原告に財産的又は非財産的損害が発生したものということは到底できない。よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告Y2に対する著作権侵害による損害賠償請求は理由がない。
<平成220427日知的財産高等裁判所[平成21()10070]>

一方,債務不履行(合意違反)の主張については,被告が,本件合意において定められた手順(本件雑誌に写真を掲載する際には,事前に原告会社への使用写真の通知と掲載原稿の内容通知をし,校正の了解を得た上で雑誌に掲載すること)を踏まなかったことは争いがなく,被告は本件合意に違反したものである。
しかし,上記違反に至った理由は,被告が,原告会社に対して,本件雑誌用の写真を提供するよう依頼したにもかかわらず,原告会社がこれに応じなかったためである。本件コンサートの演奏風景を撮影した写真は,例年,ディスクロージャー誌に掲載されており,原告会社もこのことを認識していたものであることに加えて,本件合意においては「撮影した写真の使用は本件雑誌への掲載のみとする」旨の定めもあることからも明らかなように,本件合意においては,被告からの本件雑誌掲載用写真の提供依頼について,原告会社が正当な理由もないのにこれに応じないというような事態は想定されていかったというべきである。
このように,被告は形式的には本件合意に違反したものであるが,これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるから,そうであれば,原告会社が被告に対して,本件合意違反に基づく損害賠償を求めることは,権利の濫用として許されないというべきである。
<平成28719日東京地方裁判所[平成27()28598]>

本件の事実関係を前提とすると,仮に,原告ウェブサイトの一部に,原告の著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても,以下に述べるとおり,原告が,その部分の著作権を理由に,被告ウェブサイトに対する権利行使をすることは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。
すなわち,前記認定したところによれば,原告は,原告ウェブサイト制作後,その保守管理を行っていたこと,被告○○は,平成29年秋の時点で,原告に対する支払を遅滞し,本件サーバの更新料も支払っていなかったこと,本件サーバを使用継続するには,同年11月30日に最低1万2960円(12か月分)を支払う必要があったが,被告○○はこれを徒過したこと,同年12月12日,本件サーバは凍結され,原告ウェブサイトの利用ができなくなったこと,被告○○はその直後に原告に13万8240円を振り込み,原告ウェブサイトを復旧するよう原告に依頼したこと,本件サーバの規約によれば,原告ウェブサイトのようなドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内であれば,更新費用を支払えば復旧可能であること,原告は,同月13日,被告P4に対し,原告ウェブサイトのデータは失われ,復旧するには再度制作する必要があり,その費用は434万円余であると伝えたこと,被告○○は,原告の提案を断って,P6に,原告ウェブサイトの復旧を依頼したこと,P6は,原告ウェブサイトのデータを利用して被告ウェブサイトを作成し,平成30年1月ころ公開したこと,以上の事実が認められる。
尋問結果を総合しても,原告が被告○○に対し,本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて,適切に警告し,期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし,原告ウェブサイトの利用ができなくなった直後に被告○○が金員を原告に振り込み,本件サーバの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに,原告が,データが失われ復旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や,復旧のために434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難い。かえって証人P6は,サーバが凍結された場合,サーバ会社に料金を支払えばすぐ復旧することができ,特に作業等をする必要はない旨を証言している。
原告ウェブサイトは,新たな顧客のために,被告○○の事業内容を紹介するのみならず,すでに顧客,会員となった者に対するサービスの提供も行っているのであるから,原告ウェブサイトの停止は,被告○○の企業としての活動を停止することであり,その制作・保守・管理を行った原告は,当然にこれを了解していた。
前記で述べたところによれば,原告ウェブサイトが停止するまでの原告の行為は,その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし,原告ウェブサイトの停止後の原告の行為は,原告ウェブサイトの停止が被告○○を窮地に追い込むことを知りながら,これを利用して,データは失われた,復旧できないと述べて,法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。
上述のとおり,原告ウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し,既に検討したとおり,原告ウェブサイトの著作権は全体として被告○○に帰属すると解されるのであるから,被告○○が,法外な代金を請求された原告との信頼関係は失われたとして,原告の十分な了解を得ることなく,原告ウェブサイトのデータを移転するようP6に依頼したとしても,やむを得ないことであると評価せざるを得ない。
これらの事情を総合すると,仮に,原告ウェブサイトの一部に原告の著作権を認めるべき部分が存在していたとしても,本件の事情において,原告がその著作権を主張して,被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。
<令和元年103日大阪地方裁判所[平成30()5427]>

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