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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

データベース著作権の侵害性

【リレーショナルデータベース】

例え,原告のデータベースと被告のデータベースとの間に情報の選択において共通点があり,その共通点において,原告データベースの表現としての創作性のある部分が一部含まれているとしても,両データベース全体を比較した場合に,その保有する情報量に大きな差があるため,情報の選択として創作性を有する共通部分がその一部にすぎず,相当部分が異なる場合には,もはや情報の選択においてその表現の本質的特徴を直接感得できると評価することはできず,また,原告のデータベースと被告のデータベースとの間に体系的構成において共通点があり,その共通点において,原告データベースの表現としての創作性のある部分が一部含まれているとしても,両データベース全体を比較した場合に,共通しないテーブル,フィールド項目が相当数を占め,また,それら相互間のリレーションの仕方にも大きな相違がみられるため,体系的な構成として創作性を有する共通部分がその一部にすぎず,相当部分が異なる場合には,体系的構成においてもその表現の本質的特徴を直接感得できるということはできないというべきであって,そのような場合,被告データベースはもはや,共通部分を有する原告データベースとは別個のデータベースであると認めるのが相当である。
<平成26314日東京地方裁判所[平成21()16019]>

複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号),著作物の複製(同法21条)とは,当該著作物に依拠して,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを有形的に再製する行為をいうものと解される。
また,著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
そして,リレーショナルデータベースにおいては,データベースの一部分を分割して利用することが可能であり,また,テーブル又は各テーブル内のフィールドを追加したり,テーブル又はフィールドを削除した場合であっても,既存のデータベースの検索機能は当然に失われるものではなく,その検索のための体系的構成の全部又は一部が維持されていると評価できる場合があり得るものと解される。
以上を前提とすると,被告CDDBが原告CDDB【注:旅行業者向け原告システムに含まれる検索及び行程作成業務用データベースのことで、42個のマスターテーブルと405個のフィールド項目からなっている】を複製ないし翻案したものといえるかどうかについては,まず,被告CDDBにおいて,原告CDDBのテーブル,各テーブル内のフィールド及び格納されている具体的な情報(データ)と共通する部分があるかどうかを認定し,次に,その共通部分について原告CDDBは情報の選択又は体系的構成によって創作性を有するかどうかを判断し,さらに,創作性を有すると認められる場合には,被告CDDBにおいて原告CDDBの共通部分の情報の選択又は体系的構成の本質的な特徴を認識可能であるかどうかを判断し,認識可能な場合には,その本質的な特徴を直接感得することができるものといえるから,被告CDDBは,原告CDDBの共通部分を複製ないし翻案したものと認めることができるというべきである。
(略)
以上によれば,被告CDDBのうち,原告CDDBと一致する20のテーブル,フィールド及びテーブル間のリレーションにおいて は,被告CDDBと同様に,原告CDDBの体系的構成ないし及びに係る体系的構成が依然として維持されていると認められ る。そして,かかる体系的構成は,原告CDDBの制作者において,それ までのデータベースにはなかった設計思想に基づき構成した原告CDDBの創作活動の成果であり,依然としてその部分のみでデータベースとして機能し得る膨大な規模の情報分類体系であると認められ,データベース制作者の個性が表現されたものということができる。したがって,上記のとおり被告CDDBと共通する原告CDDBの部分については,データベースの体系的構成としての創作性を有するものと認められる。 他方で,被告CDDBでは,体系的構成の点に変化が生じているほか,新たに追加された「130食事土産マスタ」,「131施設別詳細 種別マスタ」,「132施設種別マスタ」,「133施設詳細種別マスタ」,「134提携施設マスタ」,「135提携種別マスタ」,「13 6提携会社マスタ」及び「137単経路補完マスタ」の各テーブルが存在することやこれに伴うフィールドやリレーションの追加,原告CDDBと共通性があるテーブル内に新たに設置されたフィールド及びこれに伴うリレーションの変化等が存在すること,これらのテーブルに含まれるフィールドの内容や機能等に照らすと,被告CDDBにおいては,新たな検索等のための体系的構成が生じていることが認められる。しかしながら,被告CDDBにおける体系的構成に係る上記の変化は,それ以外の体系的構成ないし及びの同一性を失わせ るものではない。また,上記のとおり被告CDDBに新たに付け加えられたテーブル並びにこれに関連するフィールド及びリレーションは,地図上での単経路の表示を実際の道路の形状に即したものとする「137単経路補完マスタ」,食事処や土産施設の情報を「23観光施設マスタ」から移行させた「130食事土産マスタ」,全ての施設について種別による横断的な検索を可能とする「131施設別詳細種別マス タ」,「132施設種別マスタ」及び「133施設詳細種別マスタ」,提携施設に関する情報を新たに格納した「134提携施設マスタ」,「1 35提携種別マスタ」及び「136提携会社マスタ」というものであり,あくまでも体系的構成ないし及びの存在を前提に,検索の利便性をさらに向上させるものと位置付けられるものであるから,それによって体系的構成ないし及びの同一性が失われたということはできない。これ以外に被告CDDBに新たに付け加えられたフィールドやリレーションについても,これと同様である。そうすると,被告CDDBにおいては,原告CDDBの体系的構成ないし及びの本質的な特徴が認識可能であるものと認められる。したがって,被告CDDBに新たに付け加えられたテーブル,フィールド及びリレーションの存在によって生じた体系的構成の部分が創作性を有するとしても,被告CDDBにおいては,原告CDDBの体系的構成ないし及びの本質的な特徴が認識可能であり,その本質的な特徴を直接感得することができるものというべきである。
(略)
情報の選択における共通部分についての原告CDDBの創作性の有無等前記のとおり,被告CDDBの「35地点マスタ」には,2万3213件のレコードが存在するところ,そのうち1万1872件については,原告CDDBの「09地点名テーブル」のレコードと道路地点において一致すると認められる。そうすると,少なくとも,原告CDDBと被告CDDBとの共通部分である代表道路地点等の選別・選択については,原告CDDBの制作者の創作活動の成果が表れており,その個性が表れているというべきである。 したがって,被告CDDBと共通する上記原告CDDBの部分については,データベースの情報の選択としての創作性を有するものと認めるのが相当である。なお,旅行業者向けのデータベースにおいては,道路地点についての情報の選択に当たって特定の道路地点を選ぶことに制作者の創作性の発揮があるというべきであり,その緯度経度に関する情報はこれに依存しており,これを離れて独自の創作性があるということはできないから,たとえ緯度経度が一致しないレコードが大部分を占めているとしても,道路地点が一致する以上は,その限度で存する共通部分に原告CDDBの制作者の創作活動の成果が表れていると評価すべきであることは,被告CDDBについて説示したところと同様である。 そして,被告CDDBの「35地点マスタ」に存在するレコードのうち半分を超えるレコードが,原告CDDBの「09地点名テーブル」 に存在するレコードと道路地点において一致するのであるから,これら被告CDDBが原告CDDBと共通性を有する部分は,原告CDDBの共通部分の情報の選択における本質的な特徴を直接感得することができるものというべきである。 他方,上記共通部分を除く被告CDDBのデータベースとしての情報の選択については,1審被告らによる新たな創作的表現が付け加わっているものと容易に認めることができるから,被告CDDBは, データベースの情報の選択において,原告CDDBの翻案物に当たると認めるのが相当である。
(略)
以上の検討によれば,被告CDDBは,原告CDDBに依拠して制作されたものであって,原告CDDBの共通部分の体系的構成及び情報の選択の本質的な特徴を認識可能であり,その本質的な特徴を直接感得 することができるものといえるから,原告CDDBの共通部分の複製物ないし翻案物であると認めるのが相当である。
<平成28119日知的財産高等裁判所[平成26()10038 ]>

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