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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

同一性保持権

【侵害性の一般的判断基準】

著作権法20条に規定する著作者が著作物の同一性を保持する権利(以下「同一性保持権」という。)を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである(昭和55328日第三小法廷判決参照)。
これを本件について見ると、被上告人B1が執筆した本件評論部分の中段部分冒頭の三行は、上告人の本件著作部分の内容を要約して紹介するものとして適切を欠くものであるが、本件著作部分の内容の一部をわずか三行に要約したものにすぎず、三八行にわたる本件著作部分における表現形式上の本質的な特徴を感得させる性質のものではないから、本件著作部分に関する上告人の同一性保持権を侵害するものでないことは明らかである。
<平成10717最高裁判所第二小法廷[平成6()1082]>

本件写真は、本件モンタージユ写真に取り込み利用されているのであるが、利用されている本件写真の部分(以下「本件写真部分」という。)は、右改変の結果としてその外面的な表現形式の点において本件写真自体と同一ではなくなつたものの、本件写真の本質的な特徴を形成する雪の斜面をシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景部分中、前者についてはその全部及び後者についてはなおその特徴をとどめるに足りる部分からなるものであるから、本件写真における表現形式上の本質的な特徴は、本件写真部分自体によつてもこれを感得することができるものである。そして、本件モンタージユ写真は、これを一瞥しただけで本件写真部分にスノータイヤの写真を付加することにより作成されたものであることを看取しうるものであるから、シユプールを右タイヤの痕跡に見立て、シユプールの起点にあたる部分に巨大なスノータイヤ一個を配することによつて本件写真部分とタイヤとが相合して非現実的な世界を表現し、現実的な世界を表現する本件写真とは別個の思想、感情を表現するに至つているものであると見るとしても、なお本件モンタージユ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものである。そうすると、本件写真の本質的な特徴は、本件写真部分が本件モンタージユ写真のなかに一体的に取り込み利用されている状態においてもそれ自体を直接感得しうるものであることが明らかであるから、被上告人のした本件写真の利用は、上告人が本件写真の著作者として保有する本件写真についての同一性保持権を侵害する改変であるといわなければならない。
(略)
なお、自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであり、したがつて、上告人の同意がない限り、本件モンタージユ写真の作成にあたりなされた本件写真の改変利用をもつて正当とすることはできないし、また、例えば、本件写真部分とスノータイヤの写真とを合成した奇抜な表現形式の点に着目して本件モンタージユ写真に創作性を肯定し、本件モンタージユ写真を一個の著作物であるとみることができるとしても、本件モンタージユ写真のなかに本件写真の表現形式における本質的な特徴を直接感得することができること前記のとおりである以上、本件モンタージユ写真は本件写真をその表現形式に改変を加えて利用するものであつて、本件写真の同一性を害するものであるとするに妨げないものである。
<昭和55328最高裁判所第三小法廷[昭和51()923]>

既存の著作物の著作者の意に反して,表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に変更,切除その他の改変を加えて,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは,著作権法202項に該当する場合を除き,同一性保持権の侵害に当たる(著作権法20条,最高裁昭和55328日第三小法廷判決参照)。
<平成240808日知的財産高等裁判所[平成24()10027]>

同一性保持権を侵害する行為とは,他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいう(最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判決,同10年7月17日第二小法廷判決参照)。
<平成281226日知的財産高等裁判所[平成27()10123]>

同一性保持権とは、著作者がその著作物の同一性を保持し、無断でその改ざんその他の変更を受けないことを内容とする権利であつて(旧著作法第18条第1項参照)、著作者の人格的利益の保持のため著作者に認められた権利であるから、著作者の人格的利益を害しない程度の変更は同一性保持権の侵害とはならないものと解すべき(である。)
<昭和520228日東京地方裁判所[昭和44()1528]>

【「意に反する改変」(法20条1項)該当性】

同一性保持権は,著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨で規定された権利であり,侵害者が無断で著作物に手を入れたことに対する著作者の名誉感情を法的に守る権利であるから,著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき,すなわち,通常の著作者であれば,特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは,意に反する改変とはいえず,同一性保持権の侵害に当たらないものと解される。
<平成180331日東京地方裁判所[平成15()29709]>

被告各写真が本件各写真と画素数が異なるとしても,本件各写真がウェブサイト上で商品販売促進用に限定的な大きさで表示されるものとして作成されていること(等)からすれば,当該画素数の変更が原告の意に反するものであるとまでは認められず,被告が原告の同一性保持権を侵害したとは認められない。
<令和元年918日東京地方裁判所[平成30()14843]>

【パロディーは合法か】

著作物について著作者人格権が認められるゆえんは、著作物が思想感情の創作的表白であつて、著作者の知的、かつ、精神的活動の所産として著作者の人格の化体ともいうべき性格を帯有するものであることを尊重し、これを保護しようとすることにあるものであるから、他人の著作物を利用してパロデイーを製作しようとする場合、その表現形式上必然的に原著作物の要部を取込み利用するとともに、その内外両面にわたる表現形式に何らかの改変を加える必要があることは承認せざるをえないところであるが、これを無制限に許容することは、明文の根拠なしに原著作物の著作者人格権を否定する結果を招来し、とうてい容認しがたいところであつて、パロデイーなる文芸作品分野の存在意義を肯認するとしても、原著作物の著作者人格権ことに同一性保持権との関連において、これを保護する法の趣旨を減損しない程度においてなすべき旨の法律上の限界があるものといわざるをえない。こうした見地からみると、控訴人の主観的意図はともかく、本件モンタージユ写真が客観的にその主張のようなパロデイーとして評価されうるとしても、前認定のような態様で本件写真の主要部分を取込み利用してこれに改変を加えた本件モンタージユ写真は、右の限界を超えた違法のものと評さざるをえない。
<昭和580223日東京高等裁判所[昭和55()911]>

【著作者の改変の同意】

著作権法201項の趣旨は,著作物が,著作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,その人格が具現化されていることから,著作物の完全性を保持することによって,著作者の人格的な利益を保護する必要があるため,著作者の意に反してその著作物を改変することを禁じているものであるが,一方,著作者自身が自らの意思によりその著作物の改変について同意することは許容されるところであって,著作者が,第三者に対し,必要に応じて,変更,追加,切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合には,第三者が当該著作物の複製をするに当たって,必要に応じて行う変更,追加,切除等の改変は,著作者の同意に基づく改変として,同一性保持権の侵害にはならないものと解すべきである。
<平成181019日知的財産高等裁判所[平成18()10027]>

控訴人は,本件原稿の提出に当たり,控訴人の了解なしに編集が加えられることに同意していない旨主張する。
そこで検討するに,広報委員会の控訴人に対する本件通知文においては,文字数等を具体的に指定した上で,「文字数の超過や写真・タイトル等のスペースが確保されていない場合は,委員会で校正をします。(句読点,段落等の構成も含む。)ので,あらかじめご了承ください。」との記載がある。申し合わせ事項の内容が控訴人に対して拘束力を有するかの点はさておいても,控訴人は,上記の記載のある本件通知文を受け取り,それに対して,何らの留保も付することなく広報委員会に原稿を提出したのであるから,本件通知文において指定された文字数等の範囲に収めるのに必要で,かつ,原稿の記載の趣旨を変更しない範囲においては,広報委員会が提出原稿の校正を行うことにあらかじめ同意したと認めるのが相当である。そうでないとすれば,文字数等の指定を知りながらこれを超過した原稿を提出した控訴人が校正に同意しないときに,文字数等が超過したまま掲載しなければならないことになり,文字数等の指定が無意味となって不合理である。
<平成28520日大阪高等裁判所[平成28()25]>

【改変後の利用行為】

20条は,条文上,改変行為だけを侵害行為としており,改変された後の著作物の利用行為については規定されていない。
また,法1131項には,同一性保持権侵害とみなされる行為が規定されているが,そこで列挙されているのは,頒布行為や頒布目的の所持,輸入などの行為である。すなわち,同項は,法21条から法26条の3に定められた支分権の対象となる行為の中から,一定の類型の行為のみを一定の要件を課して同一性保持権侵害とみなしているのである。法1131項においては,頒布行為と同列に扱われるべき公衆送信(放送)行為や複製(録音)行為は,同一性保持権侵害とはみなされていないし,「頒布」は,法2119号において定義されているとおりの行為をいい,公衆送信(放送)や複製(録音)を含むと解することはできない。
(略)
同一性保持権については,立法論としてはともかく,現行法の解釈としては,上記のとおり,同一性保持権を侵害して作成された二次的著作物を放送する行為は,同一性保持権侵害とならないといわざるを得ない。
<平成151219日東京地方裁判所[平成14()6709]>

著作権法20条は,条文上,改変行為だけを侵害行為として,改変された後の著作物の利用行為については規定していないものである。
控訴人は,被控訴人らの行為自体は著作物及び題号を改変するものでないとしても,被控訴人が本件韓国語著作物を所蔵・貸与するなどの行為は,著作物及びその題号の改変を事後的に幇助したと評価できるものであって,実質的には同一性保持権を侵害すると主張するが,著作物及びその題号を改変するものではないにもかかわらず,著作権又は同一性保持権侵害の著作物を所蔵・貸与,複製する行為(又はこれに類する行為)をもって,原著作物及びその題号の同一性保持権を侵害することになるものということはできず,控訴人の主張は採用することができない。
<平成220804日知的財産高等裁判所[平成22()10033]>

【不訂正】

原告は,原本に訂正の指示をしたにもかかわらず,第2刷以降訂正されていない箇所10箇所についても,原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害を主張するが,著作権法20条にいう「意に反する改変」とは,文字通り著作者の意思に反して著作物に変更を加えるものであると解されるところ,上記の場合は被告らにおいて原告著作物に変更を加えたものではないから,これをもって原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものとは認められない。
<平成131030日東京地方裁判所[平成12()7120]>

【無断翻訳】

被告は,著作者であるAの許諾を得ることなく,本件詩を翻訳したものである。しかも,本件詩の訳文のうち,少なくとも,以下の箇所は,客観的にみて誤訳であるか,又は翻訳すべき語を翻訳していないものであるか,若しくは意訳の範囲を超えているものであって,これらはいずれも意に反する改変といわざるを得ないから,本件詩についてAが有していた同一性保持権を侵害するものである。
<平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]>

本件論文は,本件原著について,その内容を一部省略しつつ,これを日本語に翻訳したものであること,並びに,被告が,本件論文を作成するに当たり,本件原著の共同著作者である原告からその承諾を得ていなかったことは,当事者間に争いがない。したがって,被告は,原告に無断で本件原著を日本語に翻訳したうえ,その内容を一部省略して翻訳したのであるから,原告の有する本件原著の同一性保持権を侵害したものと認められる。
(略)
被告は,翻訳行為自体は,著作物の内面形式を維持しながら,その外面形式を変更するものであるから,同一性保持権侵害の問題になるものではない,とも主張する。しかし,著作者の承諾を得て行う翻訳については,客観的に見て許容し得ない範囲の誤訳を除いて,このようなことがいえるとしても,本件のように著作者の承諾を得ない翻訳については,英語の表現形式を日本語に変更するものであるから,同一性保持権の侵害にもなるというべきである。
<平成190118日東京地方裁判所[平成18()10367]>

【あとがきの追記】

本件書籍は,その本文が原書籍1及び2のものと同一であり,さらに,原書籍1の「あとがき」と原書籍2の「文庫化にあたっての付記」に,Cが執筆した「本シリーズにあたってのあとがき」(本件あとがき)を追記したものであり,加えて,本件あとがきは本件書籍の記述部分全285頁のうち,262頁から269頁まで8頁にわたる記述であること,さらにそのうち7頁目において,6行にわたって,前記記載の記述【注:本件あとがきは,全136行の8頁にわたる文章であり,その内容は基本的に,本件書籍の表題であり,本文のテーマでもある金融腐敗の検証に関連する記載から構成されているが,そのうち7頁目において,6行にわたり,Cが,株式会社読売巨人軍の専務取締役球団代表兼GMの職にあった2011年(平成23年)11月,読売新聞グループ本社代表取締役M会長を記者会見で告発して解任されたこと,同告発は既に報告し確定していたコーチ人事を「鶴の一声」で覆す同会長の球団私物化の非を訴えたものであったなどと記述されている】があることが認められる。
上記記述の内容は本件書籍の本文の内容とは全く関係のない,Cの読売巨人軍における役職解任に関する記載であって,その記載内容からすれば原告の意に反していることは明らかであり,また,本文と密接な関係を有するあとがきという文章の性質に鑑みれば,これを本文と一体のものと考えるべきであるから,このように,原書籍1及び2に本件あとがきを原告に無断で追加した本件書籍を製本した被告の行為は,原告の意に反する原書籍1及び2の改変に当たるというべきである。
したがって,上記被告の行為は原書籍1及び2について原告が保有する同一性保持権の侵害行為に該当すると認めるのが相当である。
<平成26912日東京地方裁判所[平成24()29975]>
【控訴審も同旨】
元来,著作物は,著作者の思想又は感情の創作的表現であることに鑑みれば,著作者が自己の著作物に掲載すべく執筆したあとがきは,著作物と一体をなすものとして,上記創作的表現と不可分の関係にあるということができ,この理は職務著作物についても妥当するというべきである。そうすると,原書籍1及び2について職務著作が成立する範囲は,原書籍1及び2の本文のみならず,本文と一体不可分の関係にあるあとがきにも及ぶから,原書籍1の「あとがき」及び原書籍2の「文庫化にあたっての付記」についても職務著作が成立し,上記各部分の著作者は読売新聞社ひいては同社を包括承継した被控訴人であるというべきである。そうすると,原書籍1及び2に本件あとがきを被控訴人に無断で追加した本件書籍を製本した控訴人の行為は,原書籍1及び2について被控訴人が保有する同一性保持権を侵害するものである。
<平成27528日知的財産高等裁判所[平成26()10103]>

【説明文の不一致】

右各写真【注:「右各写真」は、実際には奈良県又は和歌山県で控訴人によって撮影された石垣の写真であるのに対し、被控訴人が、「右各写真」を、「青森県津軽中山に存在した耶馬台城跡を示す写真である」との説明文を付して掲載したことから、「右各写真」に対する同一性保持権の侵害性が問題となった】には、いずれも津軽中山の耶馬台城跡である旨の説明が付されていることが明らかであるから、事実と異なる右説明の下に本件写真を掲載した点で同一性保持権をも侵害するというべきである。
<平成90130日仙台高等裁判所[平成7()207]>

原告の上記同一性保持権侵害の主張は,被告Aが本件写真について加えた説明が本件写真の被写体と一致していないというものであって,本件写真そのもの又は本件写真の題号を変更,切除その他の改変をしたというものではないから,その主張自体理由がない。
<平成200626日東京地方裁判所[平成19()17832]>

【リツイート行為に伴う改変】

本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり画像が異なっているものであり,流通情報の画像データ自体に改変が加えられているものではない。
しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTMLプログラムやCSSプログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。
この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により位置や大きさなどが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザーを改変の主体と評価することはできない。さらに,被控訴人らは,著作権法20条2項4号の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。
<平成30425日知的財産高等裁判所[平成28()10101]>

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