Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

写真著作物の侵害性

【一般的判断基準】

創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。
<平成180329日知的財産高等裁判所[平成17()10094]>

【被写体選定の独自性と侵害性】

絵画の複製に当たる「他人の絵画を人の手で模写する場合」と対比すべきは、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影する場合ではなく、写真Aそのものを有形的に再製する場合であるから、写真Aと同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影したからといって、直ちに写真Aの複製になるとはいい難い。まして、写真Bが写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方法を用いているからといって、写真Bをもって写真Aの複製であると解する余地はない。
<平成70328日大阪地方裁判所[平成4()1958]>

一般に、特定の作品が先行著作物を翻案したものであるというためには、先行著作物に依拠して制作されたものであり、かつ、先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を当該作品から直接感得できる程度に類似しているものであることが必要である。
ところで、写真技術を応用して制作した作品については、被写体の選択、組合せ及び配置等が共通するときには、写真の性質上、同一ないし類似する印象を与える作品が生ずることになる。しかし、写真に創作性が付与されるゆえんは、被写体の独自性によってではなく、撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであるから、いずれもが写真の著作物である二つの作品が、類似するかどうかを検討するに当たっては、特段の事情のない限り、被写体の選択、組合せ及び配置が共通するか否かではなく、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分、すなわち本質的特徴部分が共通するか否かを考慮して、判断する必要があるというべきである。
<平成111215日東京地方裁判所[平成11()8996]>

写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。
本件写真は,そこに表現されたものから明らかなとおり,屋内に撮影場所を選び,西瓜,籠,氷,青いグラデーション用紙等を組み合わせることにより,人為的に作り出された被写体であるから,被写体の決定自体に独自性を認める余地が十分認められるものである。したがって,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分についてのみならず,被写体の決定における創造的な表現部分についても,本件写真にそのような部分が存在するか,存在するとして,そのような部分において本件写真と被控訴人写真が共通しているか否かをも検討しなければならないことになるものというべきである。
(略)
本件写真は,作者である控訴人の思想又は感情が表れているものであるから,著作物性が認められるものであり,被控訴人写真は,本件写真に表現されたものの範囲内で,これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が,著作権法上,違法なものであることは明らかというべきである。
この点について,被控訴人Bは,被写体を容易かつ正確に表現できることに最大の利点がある写真について,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真を撮影してはならないとなると,写真による表現行為は著しく制約されることになり,こうした結論が創作活動の動機付けを与えようとする著作権法の趣旨に反することは,明らかである旨主張する。
しかしながら,当裁判所は,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真一般について,そのような写真を撮影するのが著作権法に違反するといっているのではない。特に,先行著作物の被写体を参考として利用しつつ,被写体を決定し,自らの創作力を発揮して新しい写真を撮影することが,著作権法に違反するといっているのではない。当裁判所がいっているのは,先行著作物において,その保護の範囲をどのようにとらえるべきかはともかく,被写体の決定自体に著作権法上の保護に値する独自性が与えられているとき,上記のような形でこれを再製又は改変することは許されないということだけである。したがって,上記のように解したからといって,写真による表現行為が著しく制約されるということに,決してなるものではない。
<平成130621日東京高等裁判所[平成12()750]>

著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13628日第一小法廷判決(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる。本件の原告写真15は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。
被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,原告写真1は,群馬県松井田町に所在する国鉄旧丸山変電所の内部を撮影したものであるが,原告書籍1「棄景」が全体の基調としているように,モノクロ撮影を強調しハイコントラストにしたものである。控訴人がこれを翻案したと主張する被告写真1は,被告書籍1「廃墟遊戯」及び被告書籍4「廃墟遊戯-Handy Edition」に収録されているが,これら被告書籍が基調としているように,枯れ葉色をベースにしたカラー写真である。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない。
被告写真2と原告写真2の関係をみるに,両者とも,栃木県足尾町に所在する足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)を撮影したものであり,建物右下方向からの撮影であって構図の点では近似している。しかし,撮影対象が現に存在する建物跡であることからすると,たとえ構図において似ていても,写真において表現されている全体としての印象が異なっていれば,一方が他方の翻案に該当するものと認めることはできない。撮影時季が違うことは,特に原告写真2でセピア色の中で白色に特徴付けられて写真左下に写っているすすきが,建物の色感覚をそのまま撮影したであろうと印象付けられる被告写真2にはなく,その位置に緑色の植物が写っていることから明らかである。これらの印象の違いと撮影物の違いにかんがみると,被告写真2が原告写真2の翻案に当たるということはできない。
原告写真3と被告写真3は静岡県修善寺町所在の大仁金山付近の建物外観を撮影したものであり,原告写真4と被告写真4は東京都奥多摩町に所在する奥多摩ロープウェイの機械室内部を撮影したものであるが,いずれも現に存在する建築物の外観あるいは内部を撮影したものであって,撮影方向が違う以上,これら被告写真が原告写真の翻案に当たるということはできない。原告写真3と原告写真4は,モノクロないしセピア色を基調とした写真であり,特に原告写真4はコントラストの強さを持ったものであって,ほぼありのままを伝えようとする印象を持つ被告写真34にはない強いインパクトを与えるものとなっている。
原告写真5と被告写真5は,ともに秋田県大館市に所在する奥羽本線旧線跡の橋梁跡を撮影したものであるが,同様に現存する建築物を撮影したものであり構図も違うから,この点において既に被告写真5が原告写真5を翻案したものということはできない。
以上のとおり,翻案権侵害をいう控訴人の主張はいずれも理由がなく,そうである以上,被告写真15が掲載された被告各書籍の発行等について控訴人が主張する複製権,譲渡権,氏名表示権の侵害の主張も理由がない。
<平成230510日知的財産高等裁判所[平成23()10010]>

著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決),この理は本件のような写真の著作物についても基本的に当てはまるものと解される。そして,本件においては,原告各写真は,その被写体が原告建物であり,被告各写真は,その被写体が被告建物であり,互いに被写体を異にすることが明らかであり,また,原告表現建物に「建築の著作物」としての創作性が認められないことは前記のとおりであるから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできないのであり,被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるかについて検討するのが相当である。
(略)
そうすると,被告斜め写真は,構図において原告斜め写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その撮影時期や光量の調整,陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあるから,被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告斜め写真が原告斜め写真の翻案に当たるとは認められない。
(略)
そうすると,被告正面写真は,構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その陰影の付け方や背景においても違いがあるから,被告正面写真が原告正面写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告正面写真が原告正面写真の翻案に当たるとは認められない。
<平成261017日東京地方裁判所[平成25()22468]>

【肖像写真】

一般に,肖像写真は,被写体である人物をどのように表現するかを中心として,写真表現における創意工夫がされるものであるから,複製か否かを判断するに当たっては,人物を表現した部分に重きを置いて,著作物である写真の創作的特徴が複製を主張される写真に再現されているかどうかを検討することが許されるというべきである。上記観点から,1審原告写真と本件ビラ写真とを対比観察すると,本件ビラ写真は,比較的鮮明な白黒写真であって,1審原告写真の肖像部分のカラー画像を白黒画像に変えただけのものであることを一見して看取し得るものである上,具体的な表現形式という点でも,1審原告写真における人物のポーズや表情はもとより,顔の陰影,人物が着用しているローブの状態など,1審原告写真の撮影者が照明や光量,絞り等の工夫をすることによって表現した創作部分の特徴は,カラー写真が白黒写真に変更された後も,なお,相当程度忠実に再現され,実質的に維持されていると認められる。したがって,本件ビラ写真は,カラーが白黒になり,背景及び被写体である人物の下半身がカットされていても,なお,1審原告写真の複製物に当たるということを妨げない。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

本件写真と上記各被告写真とを対比すると,被告写真1は縦横の比率が若干横伸びしたように変更されており,被告写真1及び同3は色調がカラーからモノクロに変更されており,被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されているが,いずれも本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており,その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ,状態で,ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,被告による上記変更には,創作性があるとは認められない。したがって,被告写真1,同3及び同5は,いずれも本件写真の複製物である。
<平成230209日東京地方裁判所[平成21()25767]>

本件写真1等は,本件写真のうち,A名誉会長の肩から上の部分だけを切り出し,A名誉会長の額に大きさの異なる三つの目のような模様を縦に描き加えたものであると認めることができる。本件写真1等を見るに,上記のような違いはあるものの,本件写真におけるA名誉会長の表情をはっきりと確認することができることからすれば,本件写真1等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真1等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真1等は本件写真の複製物である。
(略)
本件写真19等は,本件写真のうち,被写体であるA名誉会長の首から上の部分を切り出し,A名誉会長の眼鏡の部分を茶色く塗り,頬の皺に沿って赤色の線を引いたものであると認められる。本件写真19等を見るに,上記のような違いはあるものの,未だ,本件写真におけるA名誉会長の表情を確認することができるものというべきであるから,本件写真19等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真19等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真19等は本件写真の複製物である。
<平成27427日東京地方裁判所[平成26()26974]>

本件掲載写真は,本件写真のうち,A名誉会長の胸部を削除し,肩までの上半身の写真にしている点を除き,被写体の表情,姿勢,服装,背景,被写体の顔に映る陰影等において本件写真と同一であり,本件写真をそのままデータ化してインターネット上に掲載されたものと認められ,本件写真で特徴的に表現されているA名誉会長の表情及び姿勢を明確に覚知することができる。
また,本件掲載写真は,本件投稿者が,本件記事に付すために本件写真検索サイトから選択した画像検索サイト上の写真であったことが認められる。画像検索サイト上の写真には原告の著作物であることを明示した表示はないものの,画像検索サイト上の写真は,被写体の表情,姿勢,服装,背景,被写体の顔に映る陰影等において本件写真と同一であり,本件写真を複製したものと認められる。
以上によれば,本件掲載写真は,本件投稿者が,本件写真と同一性を有する画像検索サイト上の写真に依拠して再製したものといえ,本件掲載写真は,本件写真を複製したものと認められる。
<平成28118日東京地方裁判所[平成27()21642]>

vs.写真(画像を含む)】

原告写真は,いずれも猫そのもの又は猫を含む風景を被写体とした写真であること,被告(会社)は,写真集に掲載された原告写真又はそのコピーに,猫の顔の部分を中心に切り取るか,又は猫のほぼ全身部分を切り取った上,更にその目の部分をくり抜く加工を施したことが認められる。これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり,これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできない。したがって,この点について原告写真の翻案権侵害をいう原告の主張は失当というべきである。
本件看板は,目の部分をくり抜いた猫の写真ないしその複製物を色彩あるいは大きさのグラデーションが生じるように多数(正確な数についての主張はないが,全部で数百枚に及ぶことは明らかである。)並べてコラージュとしたものであり,全体として一個の創作的な表現となっていると認められる一方,これに使用された原告写真又はそのコピーのそれぞれは本件看板の全体からすればごく一部であるにとどまり,本件看板を構成する素材の一つとなっているということができる。そうすると,本件看板に接する者が,原告写真の表現上の本質的な特徴(原告が,それぞれの原告写真を撮影するに当たり,被写体の選択,シャッターチャンス,アングル,レンズ・フィルムの選択等を工夫することにより,原告の思想又は感情が写真上に創作的に表現されたと認められる部分。ただし,原告写真の表現上の本質的な特徴がどこに存在するかについて原告による具体的な主張はない。)を直接感得することができるといえないと解すべきである。
したがって,本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることはできない。
<平成26527日東京地方裁判所[平成25()13369]>

本件写真1は,枝葉のほとんど見られない樹木の上部に,日本航空123便墜落事故の犠牲者と覚しき人物の手腕や衣類等が残存していると思われる場面を背景に,ヘルメットを着用した捜索隊員と思われる人物が捜索活動等に従事している際の表情を撮影したものと認められるところ,本件投稿写真1は,本件写真1に比して若干鮮明さに欠ける部分はあるが,本件写真1の特徴を細部にわたってそのまま再現しており,本件写真1との同一性を有するものと認められる。
また,本件写真2は,ヘルメットを着用した捜索隊員と思われる人物が,斜めに倒れた樹木に埋もれたがれき等を凝視する場面を撮影したものと認められるところ,本件投稿写真2は,本件写真2に比してやや周辺部分がトリミングされており,また,やや鮮明さを欠く部分があるが,本件写真2の特徴を細部にわたってそのまま再現しており,本件写真2との同一性を有するものと認められる。
そして,本件各写真が本件雑誌に掲載されて公表されたことは当事者間に争いがないところ,本件各写真が日本航空123便墜落事故の事故現場で事故直後に撮影されたものであり,一般の人物において容易に同様の写真を撮影できるような性質の写真とは認め難いことなどからすれば,本件各投稿写真は,いずれも,本件雑誌に掲載された本件各写真に依拠して有形的に再製されたもの,すなわち,本件各写真の複製物であると認められる。
<平成28427日東京地方裁判所[平成28()2419]>

本件写真と本件画像を対比すると,本件画像は,本件写真のうち,応援団を統率する女子生徒と起立して応援する生徒等が写っている左部分及び中央部分を使用し(本件写真の約半分程度),グラウンドや観客数名の後頭部等が写っている部分を除いて,モノクロ画像にするなどの加工を経たものであると認められる。
本件画像は,本件写真に写っていたグラウンドや一部の観客の後頭部等が写っていないほか,加工を経たことによって,モノクロ画像となり,また,本件写真と比べると,女子生徒や応援する男子生徒らの表情等がやや不鮮明なものとなっている。しかし,本件画像は,フェンスとその土台で画面を右斜め下方向に分け,フェンスの前に応援団を統率している学生服姿の女子生徒を配し,女子生徒の左側に学生服姿やユニホーム姿の男子生徒を配して,女子生徒が起立して背中を大きくそらし,両手を上方に広げ,口を大きく開けた瞬間を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた画像であるところ,これらは,本件写真における創作的な部分であり,本質的特徴といえる部分で,本件画像は本件写真におけるこの創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したといえる。
したがって,本件画像は,本件写真に依拠し,本件写真の創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したものであって,本件写真を複製したものであると認められる。
<平成30426日東京地方裁判所[平成29()29099]>

本件写真1と本件記事写真1とを対比すると,本件記事写真1には,本件写真1の画面手前側の人の頭の影や演台全体が含まれていないものの,A名誉会長の服装及び姿勢,本件揮毫の設置態様,A名誉会長,本件揮毫,演台の縁及びマイクの位置並びにA名誉会長の背後にいる人物及びその背後のつい立ての位置関係等が同一であると認められるから,本件記事写真1の影像は,本件写真1の一部をトリミングしたものと同様であると認められる。そして,本件記事写真1において, 本件写真1の創作的表現を明確に覚知することができる。
したがって,本件記事写真1は,本件写真1に依拠して再製されたものであるといえるから,本件投稿1によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと認められる。
<令和2219日東京地方裁判所[平成31()9347]>

vs.イラスト・絵】

写真の著作物については,写真に著作物としての創作性が付与されるゆえんが,撮影や現像における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることにあるというべきであるから,当該著作物が,写真の先行著作物を翻案したか否かを判断するに当たっては,先行著作物が撮影された際に,創意工夫がされたことによる創作的な表現部分,すなわち,表現上の本質的特徴部分が,後の著作物に現れているか否かを対比検討して判断すべきである。
そこで,上記の観点から,本件ビラ絵と原告写真とを対比する。
(略)
本件ビラ絵と原告写真とは,Dの顔及び上半身の輪郭並びに目,鼻,口,耳,眼鏡,ネクタイ及び勲章の位置及び形状において,類似性が認められる。
しかし,①原告写真はDの表情,輪郭等,及び本件勲章が鮮明に写し出されているのに対し,本件ビラ絵は,Dの顔の表情や輪郭,本件勲章の形状の細部までは,正確に描写されていないこと,②原告写真はカラーであるのに対し,本件ビラ絵はモノトーンであること,③原告写真では,Dは式帽を着用していないのに対し,本件ビラ絵では式帽を着用していること,④原告写真では,Dはスーツ姿であるのに対して,本件ビラ絵では,ローブ様のものを着用している点,⑤原告写真は,背景の装飾品がぼかして撮影されているのに対して,本件ビラ絵は,背景が省略されている点等大きく相違する。
以上のとおり,本件ビラ絵は,本件写真における,Dの顔の表情,輪郭等の具体的な表現上の特徴はすべて捨象されているのであって,本件写真の表現形式上の本質的特徴部分を感得する程度に類似しているとはいえない。
<平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]>
【控訴審の同旨】
本件ビラ絵が,1審原告写真におけるC【注:原審のDのこと。以下同じ】の肖像部分の輪郭等を手書きでなぞって線で表現するという表現形式を採ることによって,Cの顔の表情,輪郭等の1審原告写真における具体的な表現上の特徴をすべて捨象し,それらの特徴を感得させないものとなっていることは,原判決説示のとおりというべきである。そして,被写体である人物とその人物の装用品等の組合せや配置,人物のポーズ,表情等は,1審原告写真のような肖像写真の撮影において,常に考慮される要素であるから,それらが具体的に表現された表現形式を抜きに,それ自体として写真の表現における本質的な特徴部分と評価すべきものではない。本件ビラ絵は,上記のとおり,写真を手書きの線による表現へと変更することによって,1審原告写真における具体的な表現上の特徴がすべて捨象されているものであるから,1審原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえず,1審原告写真の複製,翻案のいずれにも当たらないというべきである。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

本件写真は,祇園祭のイベントである神幸祭において被告○○神社の西楼門前に4基の神輿(子供神輿を含む。)を担いだ輿丁が集まり,神官がお祓いをする直前の場面を撮影したものである。本件写真の被写体が客観的に存在する被告○○神社の西楼門と,同じく客観的に存在しながらも時間の経過により移動していく神輿と輿丁及び見物人であり,これを写真という表現形式により映像として再現するものであること,及び,写真という表現形式の特性に照らせば,本件写真の表現上の創作性がある部分とは,構図,シャッターチャンス,撮影ポジション・アングルの選択,撮影時刻,露光時間,レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべきである。すなわち,お祭りの写真のように客観的に存在する建造物及び動きのある神輿,輿丁,見物人を被写体とする場合には,客観的に存在する被写体自体を著作物として特定の者に独占させる結果となることは相当ではないものの,撮影者がとらえた,お祭りのある一瞬の風景を,上記のような構図,撮影ポジション・アングルの選択,露光時間,レンズ及びフィルムの選択等を工夫したことにより効果的な映像として再現し,これにより撮影者の思想又は感情を創作的に表現したとみ得る場合は,その写真によって表現された映像における創作的表現を保護すべきである。
(略)
このように,本件写真の創作的表現とは,被告○○神社の境内での祇園祭の神官によるお祓いの構図を所与の前提として,祭りの象徴である神官と,これを中心として正面左右に配置された4基の黄金色の神輿を純白の法被を身に纏った担ぎ手の中で鮮明に写し出し,これにより,神官と神霊を移された神輿の威厳の下で,神輿の差し上げ(神輿の担ぎ手がこれを頭上に担ぎ上げることをいう。)の直前の厳粛な雰囲気を感得させるところにあると認められる。
(略)
本件水彩画のこのような創作的表現によれば,本件水彩画においては,写真とは表現形式は異なるものの,本件写真の全体の構図とその構成において同一であり,また,本件写真において鮮明に写し出された部分,すなわち,祭りの象徴である神官及びこれを中心として正面左右に配置された4基の神輿が濃い画線と鮮明な色彩で強調して描き出されているのであって,これによれば,祇園祭における神官の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるのに十分であり,この意味で,本件水彩画の創作的表現から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。(以上のとおり,本件水彩画に接する者は,その創作的表現から本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると認められるから,本件水彩画は,本件写真を翻案したものというべきである。)
<平成200313日東京地方裁判所[平成19()1126]>

被告が,本件写真に依拠して本件絵画を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真と本件絵画とを対比すると,本件絵画は,その全体的構成が本件写真の構図と同一であり,本件写真の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画の制作行為は,原告の本件写真に係る翻案権を侵害する行為である。
<平成28719日大阪地方裁判所[平成26()10559]>

原告は,被告が本件写真素材を原告に無断でトレースし,小説同人誌の裏表紙のイラストに使用して,当該小説同人誌を販売した行為は,原告の本件写真素材に係る著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)を侵害していると主張する。
複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解すべきである。また,翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきである(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
本件イラストは,A5版の小説同人誌の裏表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて,ある人物が持つ雑誌の裏表紙として,2.6センチメートル四方のスペースに描かれている白黒のイラストであって,背景は無地の白ないし灰色となっており,薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入され,また,文字も加入されているものである。
本件写真素材の創作性を踏まえれば,本件写真素材の表現上の本質的特徴は,被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。一方,本件イラストは本件写真素材に依拠して作成されているものの,本件イラストと本件写真素材を比較対照すると,両者が共通するのは,右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみであり,他方,本件イラストと本件写真素材の相違点としては,①本件イラストはわずか2.6センチメートル四方のスペースに描かれているにすぎないこともあって,本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左前面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず,かえって,本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入されている,②本件イラストは白黒のイラストであることから,本件写真素材における色彩の配合は表現されていない,③本件イラストはその背景が無地の白ないし灰色となっており,本件写真素材における被写体と背景のコントラスト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすことで,赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は表現されていない,④本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれていることから,頭髪も全体が黒く塗られ,本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず,また,本件イラストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されていることから,鼻が完全に隠れ,口もほとんどが隠れており,本件写真素材における被写体の鼻や口は再現されておらず,さらに,本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等が認められる。これらの事実を踏まえると,本件イラストは,本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず,本件イラストは,本件写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。
したがって,本件イラストは,本件写真素材の複製にも翻案にも当たらず,被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したものとは認められない。なお,原告は,譲渡権侵害も主張するが,本件イラストが本件写真素材の複製及び翻案には当たらないため,本件イラストを掲載した小説同人誌を頒布しても譲渡権の侵害とはならない。
<平成30329日 東京地方裁判所[平成29()672]>

一覧に戻る