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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作者人格権

【著作者の人格的利益一般】

公立図書館が,住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは,そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。したがって,公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは,当該著作者が著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして,著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると,公立図書館において,その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり,公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである。
<平成17714最高裁判所第一小法廷[平成16()930]>

【著作者人格権総論】

著作物について著作者人格権が認められるゆえんは、著作物が思想感情の創作的表白であつて、著作者の知的、かつ、精神的活動の所産として著作者の人格の化体ともいうべき性格を帯有するものであることを尊重し、これを保護しようとすることにある(。)
<昭和580223日東京高等裁判所[昭和55()911]>

著作者人格権について検討するに、著作権法は、第2章第3節の「第2款 著作者人格権」において、公表権(18条)、氏名表示権(19条)及び同一性保持権(20条)の規定を設けるほか、113条において、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為(【注:現6項】)等が著作者人格権を侵害する行為とみなされる旨規定しているが、他に、著作者人格権を包括的に定義する規定やこの意義を解釈する指針となるべき規定を設けていない。そうすると、著作権法は、上記18条ないし20条に規定する権利及び113条により著作者人格権侵害とみなされる行為の禁止により保護されるべき権利を「著作者人格権」として規定したものというべきであって、これ以外の権利を著作者人格権に含めて解すべき根拠はない。控訴人は、著作権法が、上記のとおり公表権、氏名表示権及び同一性保持権のほか、113条において著作者人格権の侵害とみなす行為を規定していることを根拠の一つとして、著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益の保護を受ける権利を総称して著作者人格権というべきである旨主張するが、113条は、著作者人格権の侵害とみなす行為の内容を各項所定の類型に分類して規定しており、その内容について「著作者が自己の著作物に対して有する人格的、精神的利益を侵害する行為」というような包括的な定義をしているわけではないから、113条の規定を根拠として、著作者人格権の内容を控訴人主張のような包括的権利と解することはできない。したがって、著作権法は、18条ないし20条及び113条に明文の規定を有する上記権利以外のものについては、著作者人格権としてではなく、人格権一般の問題として民法709条による不法行為法上の保護を図っているものと解するのが相当である。
<平成130829日東京高等裁判所[平成13()147]>

【著作者人格権の一身専属性】

著作者人格権の一身専属性(著作権法59条)は,会社等の法人については,合併・分割を経ても同一性を失うことなく存続していると評価できる場合には,当該法人は著作者たる地位を失わないと解するのが相当である(。)
<平成26912日東京地方裁判所[平成24()29975]>

【著作者人格権の放棄の可否】

バージョンアップについては,著作権法2023号の範囲を超える改変が見込まれる場合は,同一性保持権の放棄あるいは包括的に翻案を許諾することも可能である(。)
<平成190726日大阪地方裁判所[平成16()11546>
【注】もっとも、本件において、同一性保持権(著作者人格権)が放棄できるかどうかが直接の争点となっていたわけではない。

【著作者人格権侵害総論】

著作権法によって保護されるのは、思想又は感情の創作的な表現であり、思想でもアイデアでも事実でもない。したがって、学術研究における実験の結果やそこから得られた知見といった、学術研究の成果そのものは、著作権法による保護の対象とはならないものである(勿論、学術研究の成果を他者が盗用し、自らのものとして発表するような行為は、それ自体、一般の不法行為となり得る場合もあるであろうけれども、著作権法が保護するのは表現自体であるから、表現そのものを盗用しない限り、著作権法上の権利を侵害するものとはならない。)。
したがって、被告が被告論文を作成し、発表したことが、原告論文についての原告の著作者人格権としての氏名表示権及び同一性保持権を侵害したものであるか否かを判断するためには、原告論文と被告論文の表現を比較すべきものであって、そこに記載されている研究の過程や成果についての内容を比較すべきものではない。
<平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]>

被告論文に,原告論文に記載されているのと同一の自然科学上の知見が記載されているとしても,自然科学上の知見は表現それ自体ではないから,このことをもって直ちに被告論文が原告論文の複製又は翻案であるとはいえず,原告の著作者人格権が侵害されたということもできない。被告が被告論文を作成し,発表したことが,原告論文についての原告の著作者人格権としての氏名表示権ないし同一性保持権を侵害したものであるか否かを判断するためには,原告論文の表現と被告論文の表現とを対比するのが相当であって,両論文に記載されている自然科学上の知見,すなわち研究の過程や成果についての内容を対比すべきものではない。
<平成170428日大阪高等裁判所[平成16()3684]>

著作者人格権は,有体物としての書籍(本)そのものを保護の対象としているわけではなく,その書籍に文字や写真やイラストなどをもって固定されている表現内容などが著者に無断で変更されたり,使用されたりしないよう保護しているものであるところ,本件では,有体物としての書籍(本)そのものを除籍して廃棄したもので,その書籍の表現内容などに変更を加えたりしたものではないから,原告らの著作者人格権ないしは著作者の人格権そのものを侵害したという事案ではない。
<平成150909日東京地方裁判所[平成14()17648]>

科学等の著述をなすに際し、その分野の先行文献を引用するか否かは、本来該当著述者の自由にまかされているものであつて、先行文献の引用が適切にされていない場合に、引例の不適切としてその著述の内容ひいてはその著述者の学識に対する低評価等がもたらされることがありうることは格別として、著作権法上は先行文献を著述において引用(使用)していない以上当該先行文献の著作者の著作者人格権の侵害が問題となることはないことが明らかである。
したがつて、本件著作物が引用されていないことをもつて著作者人格権の侵害であるとの立論に基づく原告の本訴請求は、失当といわざるをえない。
<昭和571210日東京地方裁判所[昭和57()8975]>

そもそも、「著作者人格権」というのは、著作権法が18条の公表権、19条の氏名表示権と20条の同一性保持権の三権を指称する単なる定義用語にすぎないものであり(同法17条)、その用語から直ちに、同一性保持権が生命権、名誉権等と同じく講学上いわれる人格権であるとして、それに基づく差止請求権を非財産権上の請求であると結論づけることはできないが、同一性保持権は、著作者がその思想又は感情を創作的に表現した著作物をその意に反して改変を受けない権利であるから、その権利は、名誉権あるいは思想・表現の自由権等に類する人格権であるということができる。
そして、人格権は人格的属性をその対象とし、第三者の侵害からこれを保護することを内容とするものであって、経済的利益を受けることを直接の内容とする権利ではない。したがって、人格権に基づく差止請求によって原告が直接得る利益は、第三者による侵害から人格を保護し得た利益であり、特別の事情の認められない限り、これによって直接経済的利益を受けるということはできない。
(中略)原告の本訴請求が理由ありとされるときは、被告プログラムの記憶媒体の製造、頒布は、本件著作物の同一性保持権を侵害すると同時に原告の有する著作財産権の侵害を生ずる可能性があるといえるが、著作財産権と著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、かつ、法的保護の態様を異にするものであって、訴訟物を異にするから、著作財産権をも侵害することを理由に、著作者人格権に基づく本訴差止請求をもって原告が直接経済的利益を得ることを目的とする請求ということはできない。
<平成51207日東京高等裁判所[平成5()989]>

【著作権侵害との相関】

複製にも翻案にも当たらない著作物は,同一性保持権を侵害するものでもない。
<平成200611日東京地方裁判所[平成19()31919]>

原著作物の本質的な特徴を感得させないような態様における使用には,原著作者の氏名表示権(著作権法19条)も及ばないと解すべきである。
<平成260314日東京地方裁判所[平成25()26251]>

そもそも,被告らが原告記述部分及び原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものであるとは認められず,氏名表示権及び同一性保持権の侵害をいう原告Aの上記主張は,その前提を欠くものである。
<令和3326日東京地方裁判所[平成31()4521]>

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