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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

応用美術の著作物性②

【伝統的な解釈(昭和時代)】

多量生産を予定している美術工芸品であつても、それが高度の芸術性を備えているときは、著作権の対象となりうる場合があり、申請人の大判も、創作性に関する点を除けば、著作権法にいわゆる美術の範囲に属すると解する余地はあろう。
<昭和451221日大阪地方裁判所[昭和45()3425]>

美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重量的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもって著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。従って、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。
<昭和480207日長崎地方裁判所佐世保支部[昭和47()53]>

応用美術であっても、本来産業上の利用を目的として創作され、かつ、その内容および構成上図案またはデザイン等と同様に物品と一体化して評価され、そのものだけ独立して美的鑑賞の対象となしがたいものは、当然意匠法等により保護をはかるべく、著作権を付与さるべきではないが、これに対し、実用品に利用されていても、そこに表現された美的表象を美術的に鑑賞することに主目的があるものについては、純粋美術と同様に評価して、これに著作権を付与するのが相当であると解すべく、換言すれば、視覚を通じた美感の表象のうち、高度の美的表現を目的とするもののみ著作権法の保護の対象とされ、その余のものは意匠法(場合によつては実用新案法等)の保護の対象とされると解することが制度相互の調整および公平の原則にてらして相当であるというべく、したがつて、著作権法22項は、右の観点に立脚し、高度の美的表現を目的とする美術工芸品にも著作権が付与されるという当然のことを注意的に規定しているものと解される。
<昭和540709日神戸地方裁判所姫路支部[昭和49()291]>

およそ美術は種々の観点から分類されうるが、美的価値に関する純粋性ないしは美的価値と実用的価値という観点から、鑑賞を目的とする純粋美術と、実用に供する物品に応用することを目的とする応用美術とに区分することができる。純粋美術は絵画、彫刻等専ら美の表現のみを目的とするものであるのに対し、応用美術は、単に美の表現のみではなく、装飾又は装飾及び実用を目的とするもの、換言すれば、実用に供しあるいは産業上利用することを目的とする美的創作物をいい、純粋美術に対置されるものとして歴史的にいわば自然発生的に生じてきたものであり、現在のところ、概ね、(一)美術工芸品、装身具等実用品自体であるもの、(二)家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの、(三)文鎮のひな型等量産される実用品のひな型として用いられることを目的とするもの、(四)染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするもの等が応用美術に属するものとされている(以下(三)(四)のものを便宜「実用目的の図案、ひな型」という)。
(中略)現行著作権法制定の経緯に照らせば、現行著作権法の解釈としては、応用美術を広く美術の著作物として保護するような立場は採りえないが、しかしながら、実用目的の図案、ひな型が客観的、外形的にみて純粋美術としての絵画、彫刻等と何ら質的に差異のない美的創作物である場合に、それが、実用に供しあるいは産業上利用することを目的として制作されたというだけの理由で著作権法上の保護を一切否定するのは妥当ではなく、応用美術については、美術工芸品の外に実用目的の図案、ひな型で、客観的、外形的に絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうる美的創作物が美術の著作物として保護されるものと解すべきである(著作権法22項は、少なくとも美術工芸品は美術の著作物として保護されることを明記したにとどまり、美術工芸品以外の応用美術を一切保護の対象外とする趣旨とは解されない。なお、家具、食器等にかかるいわゆるプロダクトデザイン等は現段階においては著作権法による保護の対象となるとは解しえない)。
しかして、純粋美術という概念自体、種々のものを含みうる概念であり(例えば、極端に抽象的な前衛画、彫刻等もある)、また、いわゆる応用美術も思想又は感情を創作的に表現した美的創作物であることに変りはない(右のような意味での美的創作物といえない図案、ひな型はそもそも応用美術とはいえない)から、右「実用目的の図案、ひな型で、客観的、外形的に絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうる美的創作物」の意味について更に考えるに、純粋美術、鑑賞美術といわれるものは、「専ら美の表現のみを目的としたもの」、すなわち「専ら美の表現を追究したもの」であることをその本質的特徴とするものであるが、これに対し、実用目的の図案、ひな型の中には、客観的、外形的にみて、実用に供しあるいは産業上利用する目的のため美の表現において実質的制約を受けて制作されたとみられるものがあり(例えば、商品名、商標、会社名等をその構成に不可欠の要素とした包装紙、商品のラベルの図案等)、これらは、仮に全体として思想又は感情を創作的に表現した美的創作物といえるものであつても、客観的、外形的にみて「専ら美の表現を追求したもの」という純粋美術の本質的特徴を有するものとはいえず、絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるものということはできない。したがつて、客観的、外形的に絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるものといえるためには、主観的な制作目的を除外して、客観的、外形的にみたときに、専ら美の表現を追求して制作されたものとみられる美的創作物であることを要し、かかる要件を充足する実用目的の図案、ひな型は著作権法上美術の著作物として保護されるが、逆に、実用に供しあるいは産業上利用する目的のため美の表現において実質的制約を受けて制作されていることが客観的、外形的に看取しうるものは、専ら美の表現を追求したもの、すなわち絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるものとはいえず、これらは現行著作権法上著作物として保護されず、専ら意匠法、商標法による保護に委ねられるべきものである(なお、実用目的の図案、ひな型で、絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるものについては、著作権法による保護と意匠法、商標法による保護との重複的保護が可能となるが、このような重複的保護は、純粋美術として創作されたものが、後に登録意匠、登録商標として保護される場合にも起りうることであり、何ら不当ではない)。
以上のように、応用美術については、現行著作権法は、美術工芸品を保護することを明文化し、実用目的の図案、ひな型は原則として意匠法等の保護に委ね、ただ、そのうち、主観的な制作目的を除外して客観的、外形的にみて、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けることなく、専ら美の表現を追求して制作されたものと認められ、絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうるものは美術の著作物として保護しているものと解するのが相当である。
<昭和560420日東京地方裁判所[昭和51()10039]>

法所定の美術の著作物とは純粋美術の作品や一品製作でつくられる美術工芸品のような鑑賞の対象となるものに限られるものと解すべきところ、本件カレンダーは原告が本件考案に基づく実施品として作成したものであつて、その考案の一要素である標識体に色彩を採用したことによつて、中段部分の長方形の配列が七色に彩られ、下段部分の七個の月暦が七色に塗り分けられることとなつて、一応看者に綺麗な感じを与えるけれども、とうてい純粋美術の作品といえるものではないし、その長方形の色分け(どの個所をどの色にするか)は本件カレンダーが本件考案の実施品であり、その標識体に色彩を採用したことに因つて固定的に決まつてしまうものであるから、その美的構成において作者の美術的個性が発露される一品製作性を有するものでもなく、これを鑑賞の対象となる美術工芸品とも目することはできない。そうして、本件考案において必要とされる七個の標識体を色彩によつて区別しようとすれば、本件カレンダーの如き虹の七色に類する七色を採用することは何人も思いつくことであつて右色の選択にも何ら独創性を見出すことはできない。してみれば、本件カレンダーは法にいう美術の著作物に属さないものといわざるを得ない。
<昭和590126日大阪地方裁判所[昭和55()2009]>

本件広告は、その視覚的効果を考慮して、図案化された環状の鎖、シルエツト状の石油採取設備、波ないしは海洋を表現するための暗色、18個の工具の部品の写真、バルブの写真及びそれぞれの各英文文字を構成素材としてこれを一紙面に釣合よく配置し、見る者をして、全体として一つの美的な纒まりのある構成を持つものとして表現されている。
本件広告は、その表現形態に照らせば、これによつて表現しようとする事柄の内容面から見れば単にS通商の提供するサービス及び商品を示したに止まるが、その表現形式に目を向ければ、全体として一つの纒まりのあるグラフイツク(絵画的)な表現物として、見る者の審美的感情(美感)に呼びかけるものがあり、且つその構成において作者の創作性が現われているとみられるから、かようなグラフイツク作品として、法1014号が例示する絵画の範疇に類する美術の著作物と認め得るものである。
もつとも、本件広告は美術工芸品(法22項)に属しないことは明らかであり、そこから、商業広告の如きは、これをその他の応用美術として法の保護範囲に納め得ないのではないかとの問題が存するが、現行法制定の経過に鑑みれば、グラフイツクな作品は商業広告であつても著作物として法の保護範囲に属するものと解すべきである。
<昭和600329日大阪地方裁判所[昭和58()1367]>

【地裁判決(平成以降時系列)】

原告図柄【注:レコードジャケットの図柄】は、演奏家の写真を背景図柄として使用しているのみならず、右上部分に黄色のデザイン化された文字で「G」と、また、その下に赤色のやや小さめの文字で「SEXTET」と題名が表示され、さらに、中段右寄りに白色の文字で三列にわたり六名の演奏家の名前等が表記されていることが認められ、題名の構成、題名、演奏家名等の表示の配置、背景写真とこれらの位置関係等において、なお、思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの(著作権法211号)ということができる(。)
<平成110909日大阪地方裁判所[平成9()715]>

実用に供する物品に応用することを目的とする美術(いわゆる応用美術)について、広く一般に美術の著作物として著作権の保護を与える解釈をとることは相当ではないが、実用品に関する創作的表現であっても、客観的に見て純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美術)としての性質も有すると評価し得るもの、すなわち、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものについては、美術の著作物として、著作権の保護を与えるのが相当であり、著作権法が美術工芸品を美術の著作物に含める旨を規定したのも、この趣旨に出るものであると解される。
そして、ある創作的表現が、実用品の産業上の利用を離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るといえるためには、少なくとも、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであってはならないと解される。
<平成120606日大阪地方裁判所[平成11()2377]>

フィンランド在住の人形作家Aは,フィンランドなどで語り継がれているトントゥの寓話から,トントゥのオリジナル人形を創作した。オリジナル人形は,幅,奥行き,高さ各約3ないし6㎝ほどの石膏製の人形で,11体手作りされており,Aが上記のようなトントゥの寓話を基に自らの感覚でその容貌,形状,色彩を具体化して人形としたものである。オリジナル人形は,A自身がトントゥの寓話から受けるイメージを造形物として表現したものであって,その姿態,表情,着衣の絵柄・彩色等にAの感情の創作的表現が認められ,かつ美術工芸品的な美術性も備えているもので,Aが著作権を有する著作物である。
<平成140131日東京地方裁判所[平成13()12516]>

ポスター,絵はがき,カレンダー等の商品の分野においては,当該商品の需要者は,専らこれらの商品に付された絵柄等を美術的な感情を満足させるために鑑賞することを目的として商品を購入し,使用するものであり,このような点から,既存の著名な美術作品である絵画や写真の複製物を用いて商品を製作することが,従来から広く一般的に行われている。このような点に照らせば,その複製物をこれらの分野の商品の絵柄等として用いることを予め想定して作成される作品であっても,当該作品が独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の美的創作性を備えている場合には,著作権法上の著作物として同法による保護の対象となり得るものと解するのが相当である。
<平成150711日東京地方裁判所[平成14()12640]>

本件各著作物は、いずれも当初からパチスロ機に用いることを目的として作成されたものであることは当事者間に争いがなく、これを反面から見れば、それ自体の鑑賞を目的として作成されたものではないということができる。
しかしながら、本件各著作物は、いずれも一応独立した図柄であるから、量産品の図面や金型等とは異なって、それ自体を鑑賞の対象とすることもできるものである。
このような、それ自体を鑑賞の対象とすることができる図柄については、これが平均的一般人の審美観を満足させる程度に美的創作性を有するものであれば、著作権法にいう美術の著作物に当たるものと解するのが相当である。
(中略)本件各著作物は、原告が主張するような特徴で描かれた液晶ソフトの画像に登場する人物ないし動物キャラクターやそれらを背景と組み合わせて作成された図柄や筐体のデザインとして作成された図柄であり、いずれも、その形状、構図等に作成者の思想感情が表現されており、平均的一般人の審美観を満足させる程度の美的創作性を有するものと認めることができる。
よって、本件各著作物は、いずれも美術の著作物として、著作権の対象となるものというべきである。
<平成160115日大阪地方裁判所(平成14()1919等)>

著作権法211号及び同条2項の規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな型など,いわゆる応用美術の領域に属するものは,鑑賞の対象として認められる一品製作のものを除いて,特段の事情のない限り,これに含まれないことを示しているというべきである。
本件標章は,①当初から本件饅頭の商品名を示すものとして作成され,包装紙に商品名を表示する態様で使用されているから,正に産業上利用される標章であること,②漢字の「撃」に欧文字の「GEKI」を一部重ねたものであるが,「GEKI」は「撃」の音読みをゴシック体の欧文字でローマ字表記したものにすぎず,「撃」部分も,社会通念上,鑑賞の対象とされる文字と解するのは相当でないことから,本件標章は,著作物とは認められない。
<平成161215日東京地方裁判所[平成16()3173]>

著作権法211号及び同条2項の規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているものは,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。
原告商品は,小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもので,小物入れの機能を備えた実用品であることは明らかである。そして,原告が主張する,ペットとしてのかわいらしさや癒し等の点は,プードルのぬいぐるみ自体から当然に生じる感情というべきであり,原告商品において表現されているプードルの顔の表情や手足の格好等の点に,純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を認めることは困難である。また,東京ギフトショーにおいて審査員特別賞を受賞した事実が,原告商品の美術性を基礎付けるに足るものでないことは明らかである。したがって,原告商品は,著作権法によって保護される著作物に当たらない。
<平成200704日東京地方裁判所[平成19()19275]>

本件デザインは,当初から,原告商品のペットボトル容器のパッケージデザインとして,同商品のコンセプトを示し,特定保健用食品の許可を受けた商品としての機能感,おいしさ,原告のブランドの信頼感等を原告商品の一般需要者に伝えることを目的として,作成されたものであると認められる。
そして,完成した本件デザイン自体も,商品名,発売元,含有成分,特定保健用食品であること,機能等を文字で表現したものが中心で,黒,白及び金の三色が使われていたり,短冊の形状や大きさ,唐草模様の縁取り,文字の配置などに一定の工夫が認められるものの,それらを勘案しても,社会通念上,鑑賞の対象とされるものとまでは認められない。
したがって,本件デザインは,いわゆる応用美術の領域に属するものであって,かつ,純粋美術と同視し得るとまでは認められないから,その点において,著作物性を認めることができない。
<平成201226日東京地方裁判所[平成19()11899]>

原告図版【注:原告書籍の表紙のデザインとして用いられた図柄】は,単に,正方形と線(縦棒,横棒)を漫然と並べたにすぎないものではなく,①大小の正方形及び太さの異なる縦横の棒の配置ないし配色,②書名,編者名及び出版社名の配置,字体ないし文字の大きさ,③小さな正方形に描かれた木の葉や木の実等のイラスト,そこにちりばめられた丸い粒など,の具体的な表現方法において,制作者であるaの思想又は感情が創作的に表現されたものであると認められる。
したがって,原告図版は,著作権法上の著作物(著作権法211号)として,同法による保護の対象となるというべきである。
<平成220708日東京地方裁判所[平成21()23051]>

著作権法211号及び同条2項の規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により美術の著作物として保護されるのは,純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているもの(いわゆる応用美術)は,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。
本件デザインは,いすのデザインであって,実用品のデザインであることは明らかであり,その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできないから,著作権法による保護の対象とはならないというべきである。
<平成221118日 東京地方裁判所[平成21()1193]>

原告製品は工業的に大量に生産され,幼児用の椅子として実用に供されるものであるから,そのデザインはいわゆる応用美術の範囲に属するものである。そうすると,原告製品のデザインが思想又は感情を創作的に表現した著作物(著作権法211号)に当たるといえるためには,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地から,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要すると解するのが相当である。
<平成26417 東京地方裁判所[平成25()8040]>

著作権法211号及び同条2の規定に加え,同法が文化の発展に寄与することを目的とするものであること(1条),工業上利用することのできる意匠については所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができることに照らせば,純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの,すなわち,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き,著作権法上の著作物に含まれないものと解される。
<平成28114日東京地方裁判所[平成27()7033]>

著作権法2条1項1号は,「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨規定し,同条2項は,「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」と規定している。そして,そもそも,著作権法は,文化的所産に係る権利の保護を図り,もって「文化の発展に寄与すること」を目的とするものである(同法1条参照)。これに対し,産業的所産に係る権利の保護については,工業上利用することができる意匠(物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの)につき,所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができる(同法2条1項,3条ないし5条,6条,20条1項等参照)など,工業所有権法ないし産業財産権法の定めが設けられており,このほか,商品の形態については,不正競争防止法により,「実質的に同一の形態」等の要件の下に3年の期間に限定して保護がされている(同法2条1項3号,同条5項,19条1項5号イ等参照)。
以上のような各法制度の目的・性格を含め我が国の現行法が想定しているところを考慮すれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法が保護を予定している対象ではなく,同法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである。
なお,原告は,実用に供される機能的な工業製品やそのデザインであっても,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を肯認すべきである旨主張するけれども,著作権は原則として著作者の死後又は著作物の公表後50年という長期間にわたって存続すること(著作権法51条2項,53条1項)などをも考慮すると,上述のとおり現行の法体系に照らし著作権法が想定していると解されるところを超えてまで保護の対象を広げるような解釈は相当でないといわざるを得ず,原告の上記主張を採用することはできない。
<平成28427日東京地方裁判所[平成27()27220]>

本件ポスターには,本件コンサートの開催日,時刻,場所,演奏者,曲目,入場方法,問合せ先などの情報が文字で記載されているほか,中央部には演奏者等の写真が大きく掲載されている。そして,このような本件ポスター全体の表現をみれば,たとえ同様の内容を含む表現であっても,その具体的表現には一定の選択の幅があるといえるから,本件ポスターを全体としてみると,創作的表現として著作物性が認められるというべきである。
<平成28719日東京地方裁判所[平成27()28598]>

原告傘立てが傘立てとして実用に供されるためにデザインされた工業製品であることは当事者間に争いがないところ,原告は,これを前提に,原告傘立てが美術の著作物として保護を受けると主張する。
しかし,傘立ての実用的機能に照らせば,有底略円筒状である原告傘立ての基本的形状は,傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また,原告は,原告傘立ての外周面のデザインが鑑賞の対象であると主張するが,そこでは円弧状に凹没する環状凹条が多数かつ水平にわたって上下方向に等間隔に連続して形成され,全体として略蛇腹形状とされているにすぎず,これは筒状ないし管状のものによく見られる形状であって,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。
したがって,原告傘立てについて,美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。
<平成301018日大阪地方裁判所[平成28()6539]>

原告は,原告イラスト作成後,それを広めるために,あるいは商業的に利用するために,Tシャツ販売サイトを介して,原告イラストを付したTシャツを販売したことが認められるが,これは原告が創作した美術の著作物を用いたTシャツを販売したにすぎないから,このことは,原告イラストの著作物性を否定する理由とはなら(ない)。
<平成31418日大阪地方裁判所[平成28()8552]>

著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と規定しているところ,その定義や著作権法の目的(同法1条)等に照らし,実用目的で工業的に製作された製品について,その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものは,「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」ということはできず著作物として保護されないが,上記特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には,美術の著作物として保護される場合があると解される。 <令和元年618日東京地方裁判所[平成29()31572]>

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