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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

応用美術の著作物性③

【エクササイズ用のクッション】

(1) 本件商品は,前記前提事実によれば,エクササイズやストレッチをする際の補助具に用いるクッションであり,実用上の目的を有する工業製品に属するものであるが,他方で,証拠によれば,一般的なクッションとは異なり,長方形のクッションの四隅が斜め上方に突出することで,X字形の印象を与える形状を有するものであり,また,その突出部分には,細く長いものと短く太いものとの2種があり,突出部分と中央部分に,半球状又は半長球状の6個の突起部分が形成されているなどの特徴を有するものであると認められる。
(2) 本件商品のような実用に供される工業製品であっても,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合には,著作権法2条1項1号の「美術」の著作物として,著作物性を有するものと解される。しかし,そのような美的特性を備えていると認められない場合には,著作物性を有することはないものと解される。以上の点は,著作権法に明文の規定があるものではないが,実用に供される工業製品は,意匠法によって保護されるものであり,意匠法と著作権法との保護の要件,期間,態様等の違いを考えると,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合はともかく,そうでない場合は,著作権法ではなく,もっぱら意匠法の規律に服すると解することが,我が国の知的財産法全体の法体系に照らし相当であると解されるからである。これに反する控訴人の主張を採用することはできない。
(3) 本件商品は,全体として実用に供される工業製品として把握されるものであって,X字形の印象を与える形状は,幅広い体型にフィットさせるという目的で採用されたものであり,突出部分に2種あるのも同様の理由によるものであり,また,6個の突起部分も,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての機能から設定されるものである。
控訴人が主張するように,本件商品は,形状に工夫が凝らされていて,これを見た者に美しいと感じさせることがあり,そのために機能的な面で犠牲を払った点があるとしても,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性を備えていると認めることはできない。
控訴人は,特に,他社製品と類似する旨の指摘を被控訴人から受けてデザインを変更した際,独創性等を最も重視した旨主張するが,その際の企画書に,「改良点のコンセプト」について,「心地良さ(ストレッチ,マッサージ,指圧効果)と姿勢(骨盤)矯正ができる実用性を訴求ポイントとしてアピール」と記載されていることからして,控訴人の上記主張は採用できない。その他控訴人が主張する事情も,いずれも上記認定判断を左右するものではない。】
(4) したがって,本件商品は著作物性を有さず,原告が,その著作権を有すると認めることはできず,本件商品を設計する基礎となった各種図面に対する著作権についても同様である。
<令和3217日東京地方裁判所[令和1()34531]/令和3629日知的財産高等裁判所[令和3()10024]>

【カスタマイズドール】

「カスタマイズドール」は,頭部,胴体及び四肢部分で構成された人の裸体の外観形態を模写したヌードボディである「素体」に,自らの好みにあわせ,ウィッグ(かつら),衣類等を組み合わせたり,彩色(アイペイント,メイク等),加工,改造等をすることにより作り上げる人形であることに照らすならば,原告各商品のようなカスタマイズドール用素体を購入する通常の需要者においては,自らの好みにあわせて作り上げた人形本体(カスタマイズドール)を鑑賞の対象とすることはあっても,その素材である素体自体を鑑賞の対象とするものとは考え難く,また,原告が主張するような素体を選択する際に当該素体を見ることは,鑑賞に当たるものということはできない。
また,そもそも,原告各商品は,販売目的で量産される商品であって,一品制作の美術品とは異なるものである。
以上によれば,原告各商品が「純粋美術」として美術の著作物(著作権法1014号)に該当するとの原告の主張は,採用することができない。
<平成241129日東京地方裁判所[ 平成23()6621]>

【ピクトグラム】

著作権法において保護の対象として定められる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(同法2条1項1号)。
本件ピクトグラムは,実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き,これを,四隅を丸めた四角で囲い,下部に施設名を記載したものである。本件ピクトグラムは,これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され,実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから,いわゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。
応用美術の著作物性については,種々の見解があるが,実用性を兼ねた美的創作物においても,「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項),印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決頁参照)からすれば,それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には,美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である。
本件ピクトグラムについてこれをみると,ピクトグラムというものが,指し示す対象の形状を使用して,その概念を理解させる記号(サインシンボル)である以上,その実用的目的から,客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり,その意味で,創作性の幅は限定されるものである。しかし,それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか,そのためにもどの角度からみた施設を描くのか,また,どの程度,どのように簡略化して描くのか,どこにどのような色を配するか等の美的表現において,実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表現において制作者の思想,個性が表現された結果,それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には,その著作物性を肯定し得るものといえる。
<平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]>

【衣服の花柄刺繍部分のデザイン(図案)】

原告商品の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。
ところで著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条),その保護対象である著作物につき,同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨を規定し,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。その一方で,美術工芸品が含まれ得る実用に供され,産業上利用することのできる意匠については,別途,意匠法において,同法所定の要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると,純粋美術ではない,いわゆる応用美術とされる,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。
以上を踏まえて原告商品についてみると,原告商品の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。
<平成29119日大阪地方裁判所[平成27()9648]>

【有名デザイナーによるバッグ等】

原告商品【注:イッセイミヤケのデザインに係るショルダーバッグ,携帯用化粧道具入れ,リュックサック及びトートバッグ等いずれも物品を持ち運ぶという実用に供される目的で同一の製品が多数製作されたもの】は,物品を持ち運ぶという実用に供されることが想定されて多数製作されたものである。
そして,原告らが美的鑑賞の対象となる美的特性を備える部分と主張する原告商品の本件形態は,鞄の表面に一定程度の硬質な質感を有する三角形のピースが2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置され,これが中に入れる荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき,荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形するという特徴を有するものである。ここで,中に入れる荷物に応じて外形が立体的に変形すること自体は物品を持ち運ぶという鞄としての実用目的に応じた構成そのものといえるものであるところ,原告商品における荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることによってさまざまな角度が付き,鞄の外観が変形する程度に照らせば,機能的にはその変化等は物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であるといえる。上記の特徴は,著作物性を判断するに当たっては,実用目的で使用するためのものといえる特徴の範囲内というべきものであり,原告商品において,実用目的で使用するための特徴から離れ,その特徴とは別に美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えた部分を把握することはできないとするのが相当である。
したがって,原告商品は美術の著作物又はそれと客観的に同一なものとみることができず,著作物性は認められない(。)
<令和元年618日東京地方裁判所[平成29()31572]>

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