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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

損害額の推定等(法114条)

【法1141項の意義と解釈】

著作権法1141項は,著作権者等が故意又は過失により自己の著作権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害行為によって作成された物を譲渡するなどしたときは,その譲渡した物の数量等に,著作権者等がその侵害行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益を乗じた額を,著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力を超えない限度において,著作権者等が受けた損害の額とすることができる旨規定している。
しかしながら,上記規定は,侵害者と同様に当該物に係る販売その他の行為を行う能力を有する限度において,侵害者の譲渡数量を著作権者等の販売することができた数量と同視することができるとしたものであるところ,一審原告らは,本件国語テストと同種の商品を自ら制作販売することのできる能力を有するものとは認められない。
のみならず,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害者の制作した物と代替性のある物でなければならないところ,一審原告ら主張に係る単行本は本件各著作物が省略を伴うことなく全部登載され,一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し,本件国語テストは,本件各著作物の一部と設問で構成されるものであり,一審被告らは一般の書店を介さず直接又は販売代理店を通じて各小学校に直接納入しているものであって,上記単行本と本件国語テストは本件各著作物の利用の目的,態様を異にし,販売のルートにも大きな違いがあり,上記単行本は本件各著作物の掲載された本件国語テストに代替し得るものではあり得ないから,一審原告ら主張に係る単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するとはいえない。
したがって,本件においては,著作権法1141項を適用することはできないというべきである。
<平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]>

著作権法1141項は、侵害品の譲渡等数量に、著作権者等が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物にかかる販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定する。
したがって、同項を適用する前提としては、著作権者等において、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していることが必要である。
ここで、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要する。なぜならば、同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、(侵害者が特定の事情を立証しない限り)侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
また、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為が行われた時点において、権利者がその製品を市場に供給する能力を有していることが必要であり、供給する能力を獲得する予定を有していたというだけでは足りないと解すべきである。この点につき、原告は、同項は、権利者の損害を「市場機会の喪失」と捉えるものであるから、代替製品の需要が継続してあり、いったん、侵害品に需要が食われてしまうと、その後、権利者が著作物の使用品を販売できなくなる関係にあるような市場では、侵害当時に権利者が著作物の使用品を販売可能な状態に置いている必要はなく、権利者の潜在的能力を含めて柔軟にその能力を認めるべきであるとか、パチスロ機業界においては、企画し開発を終えたパチスロ機の販売開始時期が、企画・開発から、1年ないし2年後となることは、よくあることであるから、同項の権利者の実施能力には、潜在的実施能力も含めて考えるべきであるなどと主張する。しかしながら、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解される以上、現に市場において侵害品と権利者製品が競合して存在するか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えることは不可能である。すなわち、商品には需要者にとって購入が必要な時期があり、また、著作物には流行があるのであって、例えば、何らかの著作物を使用した物品(キャラクターを付したランドセルや耐久消費財、その時点の流行テレビドラマ中の著作物を使用したアクセサリーなど)について、侵害品を購入した需要者を想定してみると、仮に購入時点で侵害品も権利者製品も存在しなかった場合には、その時点で市場に供給されている侵害品と代替性のある製品を購入するということが考えられるのであって、この購入をせずに将来供給される計画のある権利者製品の発売を待ち、既に購入が必要な時期を徒過したランドセルや耐久消費財や、流行遅れとなったアクセサリーなどを購入するとは考え難いところである。したがって、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為の時点において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
<平成161227日大阪地方裁判所[平成14()1919]>

原告は,①ストリーミングの再生回数が受信複製物の数量に当たること,②本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数はダウンロードの回数と同視できることなどからすれば,本件著作物の本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数が著作権法114条1項にいう受信複製物の数量となる旨主張する。
そこで判断するに,受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複製物をいうところ(同項),本件においてはダウンロードを伴わないストリーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物のデータを受信した者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないというのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが相当である。
また,本件動画サイトは動画をストリーミング配信するウェブサイトであるところ,本件動画サイトにアップロードされた動画をダウンロードすることは不可能ではないが,そのためには特殊なソフトウェアを利用するなどの特別の手段を用いる必要があることが認められる。
以上によれば,本件著作物の本件動画サイトにおけるストリーミングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるということはできないし,これをダウンロードの回数と同視することもできない。したがって,著作権法114条1項に関する原告の上記主張は失当である。
<平成28421日東京地方裁判所[平成27()13760]>

公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合,「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく,ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。ところが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数【PV(ページビュー)とは,ウェブサイト内の特定のページが開かれた回数を表し,ブラウザにHTML文書(ウェブページ)が1ページ表示されることにより1PVとカウントされる】しか認定することができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。
また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたものであり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違いがある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである(原判決において認定されているとおり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが,有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである。)。
そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから,これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である。
<令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]>

原告システムは,システムの各機能を実行させるプログラムとデータベース(原告CDDB)とで構成されており,プログラム部分とデータベース部分は,構成上は別のものであること,1審原告は,データベース部分である原告CDDBを単体では販売することはなく,原告CDDBを含む原告システムを一体のシステムとして販売していること,原告システムにおいては,プログラム部分とデータベース部分のそれぞれが顧客吸引力を有し,原告システムの購入動機の形成に貢献ないし寄与しているものと認められることを総合考慮すると,著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」は,原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額全額ではなく,データベース部分である原告CDDBの上記貢献ないし寄与の割合(以下,単に「寄与割合」という。)に応じて算出するのを相当と認める。
<平成28119日知的財産高等裁判所[平成26()10038 ]>

著作権法114条1項ただし書の事情は,著作権を侵害した者において主張立証すべきである(。)
<平成28427日 知的財産高等裁判所[平成26()10059]>

【法1142項の意義と解釈】

損害の認定に係る法1142項の規定は,推定規定であって,著作権者がそのような推定により認定された損害額と同額の利益を得ることができない事情が主張立証されたときは,上記推定は破られると解するほかはない。
<平成150718日東京高等裁判所[平成14()3136]>

1142項の規定は、侵害行為者の利益額を即著作者の受けた損害と推定するものであって、このことからすると、著作者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を得ている場合において著作者の損害を推定するものと解するのが相当である。
<平成141210日大阪地方裁判所[平成13()5816]>

著作権法1142項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定であると解される。
<平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]>

1142項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害につき、侵害者が受けた利益額が立証されればこれを損害額と推定することにより、権利者の主張立証責任の軽減を図ることをその趣旨とするものと解される。
したがって、侵害行為の当時、権利者が自ら製品の販売を行っておらず、その準備もできていない場合には、権利者において将来製品の販売をする予定があったとしても、同項を適用することはできないと解すべきである。
ここで、同項の適用の前提となる権利者により販売が行われているべき製品としては、同条1項と同様に、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要すると解すべきである。なぜならば、同条2項は、同条1項と同様、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
<平成161227日大阪地方裁判所[平成14()1919]>

著作権法1142項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者等が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき,侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者等の逸失利益と推定する規定であると解されるから,同項の適用が認められるためには,著作権者等が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である(。)
<平成230905日東京地方裁判所[平成22()7213]>

被告は,原告らは本件サービスと代替性のあるサービスを現実に提供しておらず,被告が本件サービスにより得た利益に相当する利益を得ていた可能性はないから,著作権法1142項による損害の推定を行う基礎がない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,原告らは,本件番組等の提供を含む放送事業を継続することを通じて,利益を得てきたとの経緯に照らすならば,被告が本件サービスを提供することは,原告らに対して,そのような利益を得る機会を喪失させた可能性を否定することはできない。したがって,被告主張に係る,原告らが本件サービスと全く同種の役務を提供していないとの事実のみによっては,同条同項の規定の適用を排除することはできないというべきである。
<平成240131日知的財産高等裁判所[平成23()10009]>

1142項の文言によれば,著作物を無断で複製した者が当該複製物を販売している場合には,侵害者が当該複製物を販売することによって得た利益の額をもって,著作権者が受けた損害の額と推定するものであることが明らかである。そして,この場合における「利益」とは,侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益,すなわち複製物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額を意味するものである。
<平成141031日東京地方裁判所[平成13()22157]>

【法1142項の「利益」の意味】

著作権法1142項にいう「利益の額」とは,売上高等の収入から,被告が侵害品を製造・販売するために追加的に要した費用を控除したものをいうと解すべき(である。)
<平成211109日東京地方裁判所[平成20()21090]>

著作権を侵害した者が「その侵害の行為により」受けた「利益」(著作権法1142項)とは,いわゆる限界利益【注:売上高から変動費を引いたもの】であると解される。
<平成230526日東京地方裁判所[平成19()24698]>

著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害者の売上から,侵害品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限界利益をいうと解される(。)
<平成27316日東京地方裁判所[平成26()4962]>

著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害による売上高から,その販売に追加的に要した費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当であり,侵害品の売上げによって追加的に要しなかった経費は控除すべきではない。
<平成2828日大阪地方裁判所[平成26()6310]>

原告は,著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に,少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。
そこで判断するに,同項は,著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから,同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが,原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから,原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても,そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると,上記の支出を免れたことによる被告の利益は,同項所定の「利益」となり得ないというべきである。
<平成28216日東京地方裁判所[平成26()22603]>

被告は,故意又は過失により,被告挿絵を含む被告説明書を複製し,平成26年12月5日以降,これを同封して本件商品を販売し,その結果,原告の原告挿絵に係る複製権及び譲渡権を侵害したと認められる。したがって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,この点に関する損害賠償責任を負う。
そこで,その損害について検討するに,原告は,被告が上記著作権侵害行為により本件商品の取扱説明書作成費用50万円を免れるという利益を受けたから,これが著作権法114条2項により原告が受けた損害の額と推定される旨主張する。
しかしながら,被告が説明書作成費用を免れるという利益を受けたからといって,その分原告が損害を受けたとみるべき合理的な根拠がないことは明らかであるから,著作権法114条2項に基づく推定の基礎を欠くというべきである。
もっとも,日本国内における本件商品の販売について原告と競合する被告が,上記のとおり本件商品の取扱説明書に関する原告の著作権を侵害している以上,これによる損害が全くないともいい難い。
そこで,原告挿絵及び被告挿絵については,もともと商品の取扱説明書としての性質上,表現内容が限られているものであり,実際,原告挿絵も,創作性の程度は低いといわざるを得ないことなどを考慮して,原告挿絵に係る上記著作権侵害による損害は3万円と認めることが相当である。
<平成28727日東京地方裁判所[平成27()13258]>

【原著作物の著作権者は二次的著作物の侵害に対して法1142項に基づく損害額の賠償を求めることができるか】

著作権法1141項【注:現2項。以下同じ】は、民法709条の特別規定であり、損害額についての権利者の立証責任を軽減するものである。すなわち、権利者としては、民法709条に基づいて損害賠償を請求するためには、①故意・過失、②他人の権利の侵害(違法性)、③損害の発生、④侵害と損害との因果関係、⑤損害の額を主張立証しなければならないところ、右のうち④(損害と侵害との因果関係)及び⑤(損害の額)については、一般にその立証に困難を伴うことから、権利者の権利行使を容易にするため、これについての推定規定を設けたものであって、特許法1022項、実用新案法292項、意匠法392項及び商標法382項と同趣旨の規定である。
そして、右規定により推定されるのは前記の不法行為の要件事実中の④(侵害と損害との因果関係)及び⑤(損害の額)であって、③(損害の発生)までが推定されるものではないから、著作権法1141項に基づく損害を主張してその賠償を求める者は、損害の発生を主張立証しなければならない。
しかし、著作権者は著作物を利用する権利を専有するものであって(著作権法21条ないし27条)、市場において当該著作物の利用を通じて独占的に利益を得る地位を法的に保障されていることに照らせば、侵害者が著作権を侵害する物を販売等する行為は、市場において侵害品の数量に対応する真正品の需要を奪うことを意味するものであり、著作権者は、侵害者の右行為により、現在又は将来市場においてこれに対応する数量の真正品を販売等する機会を喪失することで、右販売等により得られるはずの利益を失うことによる損害を被ると解するのが相当である。すなわち、侵害者が侵害品の販売等を行った時期に著作権者が実際に著作物の利用行為を行っていなかったとしても、著作権者において著作権の保護期間が満了するまでの間に当該著作物を利用する可能性を有していたのであれば、侵害者の行為により著作権者に損害を生じたということができる。
そうすると、著作権者は、侵害行為が行われた時点において著作物を具体的に利用する行為を行っていないとしても、特段の事情のない限り、著作権の保護期間の満了までの間に著作物を利用する可能性を有するものであるから、侵害者に対して、著作権法1141項の規定に基づく損害額の賠償を求めることができるというべきである。
右のとおり、著作権者が著作権法1141項に基づく損害額を主張してその賠償を求めるためには、著作権者が著作物を利用する行為を行っていることを要するものではない。
しかしながら、著作権者が著作権法1141項に基づく損害額を主張することができるのは、著作権者が、著作物を利用する権利を専有し、自らの権原のみに基づいて著作物を利用することが可能であり、他方、侵害者により販売等のされる侵害品が真正品と同内容の物として互いに排他的な競争関係に立つことから、侵害品の販売等による利益をもって著作権者が真正品の販売等により得ることのできたはずの利益と等価関係に立つという擬制が可能なことによるものというべきであるから、このような前提が存在しないことが明らかな場合には、著作権法1141項に基づく損害額を主張することは許されないというべきである。
そうすると、著作権者の著作物を原著作物として二次的著作物が作成されている場合において侵害者が二次的著作物の著作権を侵害する物を販売等している場合や、著作権者の著作物を原著作物として侵害者が無許諾で二次的著作物を作成してこれを販売等している場合には、著作権者(原著作物の著作権者)は、著作権法1141項に基づく損害額を主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物は、原著作物に依拠してこれを翻案したものであるといっても、原著作物に新たな創作的要素を付加したものとして、原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるものであって、原著作物の著作権者であっても二次的著作物の著作権者の許諾なくしては二次的著作物の利用を行うことができず、また、二次的著作物の販売等により得られた利益には二次的著作物において新たに付加された創作的部分の対価に相当する部分が含まれているからである。すなわち、右のような場合には、原著作物の著作権者は自らの権原のみでは二次的著作物を利用することができず、また、侵害者が二次的著作物を販売等したことにより得た利益をもって原著作物の著作権者の得べかりし利益と等価関係に立つということもできないから、原著作物の著作権者は、著作権法1141項に基づく損害額の賠償を求めることができないのである。
したがって、本件において、原告は、本件連載漫画につき原著作物の著作権者としての権利を有するにすぎないから、二次的著作物である本件連載漫画の複製権を侵害する物品の販売に対して、原告が著作権法1141項に基づく損害額の賠償を求める点は失当である。
<平成121226日東京地方裁判所[平成11()20712]>

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