原告会社が有する本件写真の著作権の独占的利用権が法的保護に値するものであることは,前記のとおりであり,同原告は,被告に対して,当該独占的利用権の侵害による損害賠償請求をし得るというべきところ,同原告が,事実上,本件写真の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らせば,同原告の損害額の算定に当たり,著作権法114条3項を類推適用することができると解するのが相当である。
<平成27年4月15日東京地方裁判所[平成26(ワ)24391]>
■原告会社は,本件著作物について独占的利用権を有していたものと認められ,日本国内において,事実上,これらの著作物の複製物を譲渡することによる利益を独占的に享受しうる地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同等の立場にあること,また,原告会社は,現実に,上記著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売していたことに照らせば,原告会社の受けた損害の額の算定に際して,著作権法114条1項を類推適用することができるものと解するのが相当である。
<平成28年9月28日東京地方裁判所[平成27(ワ)482]>
【独占的利用権者は著作権者に代位して差止請求権を行使できるか】
■原告会社は,本件著作物について独占的利用権を有していたものと認められるが,その余の本件各著作物について独占的利用権を有していたとは認められない。
しかるところ,原告会社は,原告会社が本件各著作物の著作権者に送付した本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との条項があって,同条項は,原告会社が,著作権者に対して,第三者が著作物の利用をした場合にはその排除を求めることができる旨の債権を有していることを前提とするものといえるから,原告会社は,著作権者に代位して,著作権の侵害行為の差止め及び廃棄を求めることができると主張する。
確かに,本件契約書案には,原告会社が主張するとおり,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があるが,著作権者が原告会社に対して差止請求権及び廃棄請求権を行使すべき義務を負担する旨の条項はなく,本件著作物の各著作権者が,原告に対して,第三者が侵害行為を行った場合に,当該著作権者において差止請求権や廃棄請求権を行使すべき義務を負担しているものとは認められない。他に,原告会社が,上記各著作権者に対して何らかの債権を有していることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,債権者代位権(民法423条)の法意を用いて,各著作権者が有する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認めることは困難である。
なお,本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があり,著作権者が,著作権に基づく差止請求権及び廃棄請求権を原告会社に行使させることを容認する趣旨を読み取る余地もあるが,仮にそのような合意の成立が認められるとしても,非弁護士の法律事務の取扱い等を禁止する弁護士法72条や,訴訟信託を禁止する信託法10条,著作権等管理事業者に種々の義務を負わせた著作権等管理事業法等の趣旨からして,かかる合意に基づく請求を認めることはできないというべきである。
以上によれば,原告会社による差止請求及び廃棄請求には,全て理由がない。
<平成28年9月28日東京地方裁判所[平成27(ワ)482]>
【独占的許諾契約を認定した事例】
■本件著作物の著作権者であるEは,平成24年8月23日,βとの間で,「1.制作物の一部または全体を無断で変更しません。変更する場合は権利者と協議の上,変更いたします。但し販促に必要な範囲において見出しの付加,素材編集は行えるものとします。」「2.権利者に許諾を得た範囲内での販売利用を致します。使用条件以外の利用・複製は,使用料金を含め改めて制作者に使用許諾を得ます。」「3.許諾に基づく商品等の販売時期・価格・広告宣伝方法,その他販売方法については弊社が決定出来るものとします。但し,これらの決定にあたり,権利者のイメージを損なうことのないよう配慮します。」「6.第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」「8.権利者は契約期間中に日本国内において,本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しないものとします。」との規定(以下,上記規定を「本件各規定」という。)に加えて「著作物の利用許諾の対価として以下の支払いを行う。300yen (JPY) per smart phone case product.」との規定のある「著作権利用規約及び契約」と題する書面を取り交わし,γは,同年9月27日,自身が運営するウェブサイトにおいて,本件著作物5の複製物であるスマートフォン用ケースの販売を開始した事実が認められる。
上記書面は,Eにおいて,自己の著作物を複製したスマートフォン用ケースをβが製造し,日本国内において販売し,また広告や宣伝などスマートフォン用ケースを販売する際に通常想定される範囲内において同著作物を利用することを許諾した上,これと同一の利用態様については,日本国内において他の者には重ねて許諾しない旨を約するものと評価でき,同合意に基づき,βは,本件著作物について現に利用を開始したと認められるから,βは,平成24年9月27日,本件著作物について独占的利用権を取得したと認めるのが相当である。
(略)
E,G及びYから同人らの著作物について本件各規定等のある書面を取り交わしたのはβであるが,βは,平成24年10月1日に原告会社を設立し,原告会社を設立した後は,著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売した場合のアーティストへの支払は原告会社から行っていること,これらについてE,G又はYから異議が述べられたことはないことが認められ,これらの事実によれば,平成24年10月1日以前にβが取得した独占的利用権は,同日頃,βから原告会社に承継され,同承継について,E,G及びYは,いずれも黙示にこれを承諾したものと推認され,同推認を覆すに足りる事情はうかがわれない。
被告は,原告会社が著作権者と取り交わした書面が「本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しない」と記載するにとどまり,「exclusive license」(排他的利用許諾)などと記載されていないなどとして,独占的利用権の成立を争っているが,著作権者は,利用態様を限定して独占的利用許諾を行うこともできるところ,「契約期間中に日本国内において,本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しない」という条項には,当該許諾契約により限定された利用態様と同一の利用態様により,日本国内において他の者には重ねて許諾しない趣旨を読み込むことができるから,同条項を有する書面により成立した契約関係を,独占的許諾契約と認定することに差支えはないというべきである。
<平成28年9月28日東京地方裁判所[平成27(ワ)482]>
【独占的利用許諾契約の公序良俗違反性が問題となった事例】
■本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[一審被告Y₁]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,一審被告Y₁が将来制作する全ての著作物を含み,その利用形態についても限定はなく,独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条)とされている。
一審被告Y₁は,本件独占的利用許諾契約は一審被告Y₁に著しく不利であり,公序良俗に反すると主張するが,一審被告Y₁は,一審原告から,独占的利用権の対価として2億円の支払を受けたほか,一審原告の取締役に就任してその経営に参画し,一審原告の株式も保有していたのであるから,本件独占的利用許諾契約の締結後も自らの著作物を管理,活用して様々な事業展開を行い,そこから得た収益から取締役としての報酬などを得ることができる地位にあったということができる。それに加えて,平成22年2月9日以降は,著作物の利用のたびに使用料の支払を受けることができ,また,契約を継続しがたい重大な背信行為を行った場合などの一定の事由が発生したときには,本件独占的利用許諾契約を解除することができる(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条)のであるから,本件独占的利用許諾契約は,その対象に同契約後に制作される著作物を含み,その期間が長期にわたるとしても,公序良俗に反して無効であるということはできない。また,本件独占的利用許諾契約は,一審被告Y₁に労務の提供を強制するものではないから,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうこともできない。
<平成29年9月28日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10057等]>
【参考:原審における同論点にかかる判示部分(一部無効と判示した)】
■本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[被告A]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,被告Aが将来制作する全ての著作物を含み,その対象著作物の範囲は極めて広範である。
被告Aは,その「本著作物」の全部について,複製,翻案,公衆送信等,ほぼあらゆる形態の利用について原告に独占的利用権を許諾し,他社に利用させることができなくなるという制約を被る。
独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条),すなわち,著作者である被告Aの死後50年にわたるもので(著作権法51条2項),極めて長期間である。
一般に,専属実演家契約などにおいては,当該専属契約期間中に制作される著作物の著作権を事前にかつ包括的に芸能事務所に帰属させることもしばしば行われており,将来制作される著作物について,事前にかつ包括的に独占的利用権を設定したとしても,そのことをもって直ちに対象著作物の特定性に欠けるとか,公序良俗に違反するとかいうことはできない。
また,著作物の利用形態がほぼ全ての態様にわたっており,利用期間が極めて長期であるという点も,そのことは著作権譲渡契約においても同様であるから,直ちに公序良俗に違反するとはいえない。
しかし,専属実演家契約において上記のような事前かつ包括的な著作権譲渡が許容されているのは,同契約が更新があるとしても有期の契約であり,同契約の終了とともに(将来に向かって)効力を失うこと,同契約継続中は,芸能事務所から実演家に実演家報酬が支払われていること等の事情によるものと解される(東京高裁平成5年6月30日判決,東京地裁平成13年7月18日判決,東京地裁平成15年3月28日判決,東京地裁平成25年3月8日判決等参照)。
これに対して,本件独占的利用許諾契約は,被告Aの死後50年まで存続するもので,当事者からの解除は一定の事由が発生したときに限られており(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条),当事者が契約の拘束力から離脱する道は閉ざされている。
また,原告は,本件独占的利用許諾契約を締結した後の平成22年2月9日に本件基本合意を,同年7月1日には本件印税合意を,それぞれ締結し,本件印税合意以降に原告が収受した印税の2割(被告Aが将来制作する著作物については6割)を被告Aに配分することを合意しているが,それ以前には,原告が印税を受領したとしても,被告Aに対する配分義務を有しない旨主張している。
そうすると,本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約が締結された平成20年1月25日頃以降,平成22年6月30日までの約2年半の間は,被告Aは,いくら著作物を創作しても,それを他社に利用させて印税を得ることができず,自己の著作物から利益を得る可能性を閉ざされていたものである。
前記のとおり,本件著作物利用契約書は,被告Aが将来制作する著作物についても原告に独占的利用権を設定するものであり,被告Aはかかる将来の著作物を含めて合意したものではあるが,被告Aの署名により真正に成立したものと認められる,旧公正証書添付の2007年(平成19年)6月11日付け契約書(以下「旧著作物利用契約書」という。)においては,原告に独占的利用権を設定する「本著作物」は「甲の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物(原注:以下「本著作物」という)」と,被告Aが将来制作する著作物を含まない定義になっていたのであり,旧著作物利用契約書の作成から,本件著作物利用契約書,本件公正証書の作成に至るまでの間に,「本著作物」の定義が拡大され,将来の著作物を包含することになった点や,旧著作物利用契約書や旧公正証書では3年間(更新拒絶がない限り,その後は1年ごとの自動更新)とされていた契約期間(旧公正証書6条,旧著作物利用契約書5条)が,被告Aの死後50年まで大幅に延長された点について,原告から被告Aに十分な説明がなされた形跡はない。
これらの事情を総合考慮すると,本件独占的利用許諾契約のうち,「今後制作される著作物」を除いた部分については公序良俗に違反するとはいえないが,「今後制作される著作物」につき,原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については,公序良俗に違反し無効であると認めるのが相当である。
もっとも,本件独占的利用許諾契約締結後に創作された著作物であっても,原告と被告Aとの間の本件印税合意により,原告が受領した印税の6割が被告Aに支払われるものについては,上記のように被告Aが自己の著作物から利益を受ける可能性を閉ざされるものではないので,公序良俗に違反するとまではいえない。
本件独占的利用許諾契約は,被告Aに労務の提供を強制するものではないから,当事者の任意解約権が排除されているとしても,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうことはできない。
<平成27年3月25日東京地方裁判所[平成24(ワ)19125]>
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