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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

利用の許諾

【利用許諾の範囲(対象)】

本件公正証書に係る契約において,Aが将来作成する著作物も含めて利用許諾の対象とする旨の記載がある点については,将来において同契約締結時において予想される範囲を超えた状況が生じたときに,同契約の合理的な解釈により,その許諾対象となる将来の著作物の範囲が制限的に解釈される余地があるとは解されるけれども,同契約が公序良俗に違反し,無効であるとは認め難い。
<平成260327日知的財産高等裁判所[平成25()10094]>

【(独占的)利用権の性質/(独占的)利用権に対する侵害】

控訴人の有する独占的利用権は著作権者の利用許諾に基づく債権的権利であるから,その後に著作権の全部又は一部の譲渡がされた場合には,我が国の著作権法上,譲受人に対抗することができないものである。そうすると,著作権の譲受人がその取得に先行する独占的利用権の存在を知っていたことのみから,譲受人の被許諾者に対する著作権の主張が権利の濫用になると解するのは相当でなく,その権利主張が権利の濫用に当たるか否かは,著作権の取得経過等に関する事情を総合的に考慮して決すべきものである。
<平成260327日知的財産高等裁判所[平成25()10094]>

本件独占的利用権は債権であって,その侵害に対する損害賠償も本来は契約当事者である被告○○に対してしか請求できないところであるが,被告△△は,被告○○が代表者を務め,被告○○と密接な関係にある者であり,本件書籍の出版が本件独占的利用権を侵害することを認識していた者であるから,原告は,契約当事者でない被告△△による本件独占的利用権の侵害に対しても損害賠償を請求することができる。
<平成27325日東京地方裁判所[平成24()19125]>
【控訴審も同旨】
本件独占的利用権は債権であるが,一審被告△△書院は,一審被告Yが代表者を務め,一審被告Yと密接な関係にある者であり,本件書籍の出版が本件独占的利用権を侵害することを認識していた者であるから,一審原告は,契約当事者でない一審被告△△書院による本件独占的利用権の侵害に対しても損害賠償を請求することができる。
<平成29928日知的財産高等裁判所[平成27()10057]>

本件において,原告は,本件キャラクターに係る商品化権に係る権利又は法律上保護される利益として,独占的利用権を有する旨主張する。しかして,独占的利用権者は,商品化権の権利者に対し,契約上の地位に基づく債権的請求権を有するにすぎないが,このような地位にあることを通じて本件キャラクターに係る商品化権を独占的に使用し,これを使用した商品の市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると,独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護が与えられるべきである。そうすると,独占的利用権者が,契約外の第三者に対し,損害賠償請求をすることができるためには,現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要というべきである。
<令和2625日東京地方裁判所[平成30()18151]>

著作物の独占的利用権者は,著作権者に対して契約上の地位に基づき債権的請求権を有するにすぎないが,そのような地位にあることを通じて当該著作物の独占的利用による利益を享受し得る地位にある。そして,前記によれば,原告は,本件ソフトを原告コミュニティへの入会特典として原告コミュニティへの入会費用を得ることによって,本件ソフトを独占的に利用する地位にあることによる利益を享受していた。
被告は,問題があると認識しながら,本件各参加者のうちA外1人に対し,本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付し,また,本件各参加者と共有するアカウントにより利用できるインターネットに接続しているサーバに本件ソフトのデータをアップロードしてこれらの際に本件ソフトを有形的に再製して複製した。さらに,被告は,本件各参加者と共有するアカウントにより利用できる上記サーバに本件ソフトのデータをアップロードして,本件ソフトを自動公衆送信し得るようにした(以下,これらの行為を「本件各行為」ということがある。)。そして,後記のとおり,被告の本件各行為がなければ,原告コミュニティに入会する者がいて原告は利益を得たことができたといえる。
これらによれば,被告は,上記のとおり,少なくとも本件ソフトを複製,公衆送信することによって,原告が本件ソフトを独占的に利用する地位にあることを通じて得る利益を侵害したといえる。
<令和21217日東京地方裁判所[令和2()3594]>

原告会社が,本件著作物について独占的利用権を有していたことは前記で認定したとおりである。
原告会社は,平成25年7月8日,被告に対し,本件各著作物の複製物である被告各商品の製造及び譲渡について,本件各著作物の著作権者が被告に許諾した事実はないとして,被告各商品の販売等の停止を求め,さらに,同月9日には,一部のアーティストとの間で取り交わした「著作権利用規約及び合意書」の写しを添付して,原告会社が一部の著作物について独占的利用権を有すること,また,他の著作物についても現在アーティストに確認中であることなどを伝えた。
そうすると,被告は,平成25年7月9日以降,原告会社から具体的に独占的利用権を有すると指摘された著作物についての独占的利用権については故意にこれを侵害したものと認められるし,原告会社が同日時点で具体的に独占的利用権を有する旨を指摘しなかった著作物についても,他の著作物についても権利関係を確認中である旨を原告会社が指摘していることからすれば,少なくとも重大な過失により,原告会社が有する独占的利用権を侵害したものといわざるを得ない。他方で,被告が,平成25年7月9日より前に,原告会社が独占的利用権を有していることを認識し又は認識し得たことを認めるに足りる証拠はないから,同日より前の被告の行為については,原告会社に対する独占的利用権の侵害による不法行為は成立しない。
<平成28928日東京地方裁判所[平成27()482]>

原告は、これらのパンフレットの著作権は○○広告社に帰属し、同会社から複製権の実施を許諾されていることを理由に、△△社が各パンフレットを複製して頒布した行為が原告の各パンフレットに係る著作権の侵害に当たると主張する。しかし、原告の上記主張を前提としても、これらのパンフレットの著作権は○○広告社に帰属していて、原告は複製権の実施を許諾されているものにすぎないというのであるから、△△社が各パンフレットを複製して頒布した行為は、○○広告社に対する複製権侵害には当たるとしても、原告に対する複製権侵害を構成するものではない。
<平成150204日大阪地方裁判所[平成13()2752]>

一般に,非独占的使用権者は,使用許諾を受けた著作物に係る著作権の侵害者に対して,損害賠償を請求することはできない(。)
<平成30329日 東京地方裁判所[平成29()672]>

【独占的利用権侵害に対する法114条類推適用の可否】

原告会社は,原告Aらから本件写真の著作権の独占的利用権の許諾を受け,当該著作権を独占的に利用する権限(第三者に再利用許諾する権限を含む。)を有する者であることが認められる。
したがって,原告会社は,事実上,第三者との関係において本件写真の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあると評価することができるところ,このような事実状態に基づき同原告が享受する利益は,法的保護に値するものというべきである。
そして,本件掲載行為により,原告会社の上記利益(本件写真の著作権の独占的利用権)が侵害されたことが認められる。
(略)

原告会社が有する本件写真の著作権の独占的利用権が法的保護に値するものであることは,前記のとおりであり,同原告は,被告に対して,当該独占的利用権の侵害による損害賠償請求をし得るというべきところ,同原告が,事実上,本件写真の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らせば,同原告の損害額の算定に当たり,著作権法114条3項を類推適用することができると解するのが相当である。
<平成27415日東京地方裁判所[平成26()24391]>

原告会社は,本件著作物について独占的利用権を有していたものと認められ,日本国内において,事実上,これらの著作物の複製物を譲渡することによる利益を独占的に享受しうる地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同等の立場にあること,また,原告会社は,現実に,上記著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売していたことに照らせば,原告会社の受けた損害の額の算定に際して,著作権法114条1項を類推適用することができるものと解するのが相当である。
<平成28928日東京地方裁判所[平成27()482]>

【独占的利用権者は著作権者に代位して差止請求権を行使できるか

原告会社は,本件著作物について独占的利用権を有していたものと認められるが,その余の本件各著作物について独占的利用権を有していたとは認められない。
しかるところ,原告会社は,原告会社が本件各著作物の著作権者に送付した本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との条項があって,同条項は,原告会社が,著作権者に対して,第三者が著作物の利用をした場合にはその排除を求めることができる旨の債権を有していることを前提とするものといえるから,原告会社は,著作権者に代位して,著作権の侵害行為の差止め及び廃棄を求めることができると主張する。
確かに,本件契約書案には,原告会社が主張するとおり,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があるが,著作権者が原告会社に対して差止請求権及び廃棄請求権を行使すべき義務を負担する旨の条項はなく,本件著作物の各著作権者が,原告に対して,第三者が侵害行為を行った場合に,当該著作権者において差止請求権や廃棄請求権を行使すべき義務を負担しているものとは認められない。他に,原告会社が,上記各著作権者に対して何らかの債権を有していることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,債権者代位権(民法423条)の法意を用いて,各著作権者が有する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認めることは困難である。
なお,本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があり,著作権者が,著作権に基づく差止請求権及び廃棄請求権を原告会社に行使させることを容認する趣旨を読み取る余地もあるが,仮にそのような合意の成立が認められるとしても,非弁護士の法律事務の取扱い等を禁止する弁護士法72条や,訴訟信託を禁止する信託法10条,著作権等管理事業者に種々の義務を負わせた著作権等管理事業法等の趣旨からして,かかる合意に基づく請求を認めることはできないというべきである。
以上によれば,原告会社による差止請求及び廃棄請求には,全て理由がない。
<平成28928日東京地方裁判所[平成27()482]>

【独占的許諾契約を認定した事例】

本件著作物の著作権者であるEは,平成24年8月23日,βとの間で,「1.制作物の一部または全体を無断で変更しません。変更する場合は権利者と協議の上,変更いたします。但し販促に必要な範囲において見出しの付加,素材編集は行えるものとします。」「2.権利者に許諾を得た範囲内での販売利用を致します。使用条件以外の利用・複製は,使用料金を含め改めて制作者に使用許諾を得ます。」「3.許諾に基づく商品等の販売時期・価格・広告宣伝方法,その他販売方法については弊社が決定出来るものとします。但し,これらの決定にあたり,権利者のイメージを損なうことのないよう配慮します。」「6.第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対処します。」「8.権利者は契約期間中に日本国内において,本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しないものとします。」との規定(以下,上記規定を「本件各規定」という。)に加えて「著作物の利用許諾の対価として以下の支払いを行う。300yen (JPY) per smart phone case product.」との規定のある「著作権利用規約及び契約」と題する書面を取り交わし,γは,同年9月27日,自身が運営するウェブサイトにおいて,本件著作物5の複製物であるスマートフォン用ケースの販売を開始した事実が認められる。
上記書面は,Eにおいて,自己の著作物を複製したスマートフォン用ケースをβが製造し,日本国内において販売し,また広告や宣伝などスマートフォン用ケースを販売する際に通常想定される範囲内において同著作物を利用することを許諾した上,これと同一の利用態様については,日本国内において他の者には重ねて許諾しない旨を約するものと評価でき,同合意に基づき,βは,本件著作物について現に利用を開始したと認められるから,βは,平成24年9月27日,本件著作物について独占的利用権を取得したと認めるのが相当である。
(略)
E,G及びYから同人らの著作物について本件各規定等のある書面を取り交わしたのはβであるが,βは,平成24年10月1日に原告会社を設立し,原告会社を設立した後は,著作物を利用したスマートフォン用ケースを販売した場合のアーティストへの支払は原告会社から行っていること,これらについてE,G又はYから異議が述べられたことはないことが認められ,これらの事実によれば,平成24年10月1日以前にβが取得した独占的利用権は,同日頃,βから原告会社に承継され,同承継について,E,G及びYは,いずれも黙示にこれを承諾したものと推認され,同推認を覆すに足りる事情はうかがわれない。
被告は,原告会社が著作権者と取り交わした書面が「本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しない」と記載するにとどまり,「exclusive license」(排他的利用許諾)などと記載されていないなどとして,独占的利用権の成立を争っているが,著作権者は,利用態様を限定して独占的利用許諾を行うこともできるところ,「契約期間中に日本国内において,本許諾と明らかに競合すると認められる態様で第三者に許諾しない」という条項には,当該許諾契約により限定された利用態様と同一の利用態様により,日本国内において他の者には重ねて許諾しない趣旨を読み込むことができるから,同条項を有する書面により成立した契約関係を,独占的許諾契約と認定することに差支えはないというべきである。
<平成28928日東京地方裁判所[平成27()482]>

【独占的利用許諾契約の公序良俗違反性が問題となった事例】

本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[一審被告Y₁]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,一審被告Y₁が将来制作する全ての著作物を含み,その利用形態についても限定はなく,独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条)とされている。
一審被告Y₁は,本件独占的利用許諾契約は一審被告Y₁に著しく不利であり,公序良俗に反すると主張するが,一審被告Y₁は,一審原告から,独占的利用権の対価として2億円の支払を受けたほか,一審原告の取締役に就任してその経営に参画し,一審原告の株式も保有していたのであるから,本件独占的利用許諾契約の締結後も自らの著作物を管理,活用して様々な事業展開を行い,そこから得た収益から取締役としての報酬などを得ることができる地位にあったということができる。それに加えて,平成22年2月9日以降は,著作物の利用のたびに使用料の支払を受けることができ,また,契約を継続しがたい重大な背信行為を行った場合などの一定の事由が発生したときには,本件独占的利用許諾契約を解除することができる(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条)のであるから,本件独占的利用許諾契約は,その対象に同契約後に制作される著作物を含み,その期間が長期にわたるとしても,公序良俗に反して無効であるということはできない。また,本件独占的利用許諾契約は,一審被告Y₁に労務の提供を強制するものではないから,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうこともできない。
<平成29928日知的財産高等裁判所[平成27()10057]>
【参考:原審における同論点にかかる判示部分(一部無効と判示した)】
本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[被告A]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,被告Aが将来制作する全ての著作物を含み,その対象著作物の範囲は極めて広範である。
被告Aは,その「本著作物」の全部について,複製,翻案,公衆送信等,ほぼあらゆる形態の利用について原告に独占的利用権を許諾し,他社に利用させることができなくなるという制約を被る。
独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条),すなわち,著作者である被告Aの死後50年にわたるもので(著作権法51条2項),極めて長期間である。
一般に,専属実演家契約などにおいては,当該専属契約期間中に制作される著作物の著作権を事前にかつ包括的に芸能事務所に帰属させることもしばしば行われており,将来制作される著作物について,事前にかつ包括的に独占的利用権を設定したとしても,そのことをもって直ちに対象著作物の特定性に欠けるとか,公序良俗に違反するとかいうことはできない。
また,著作物の利用形態がほぼ全ての態様にわたっており,利用期間が極めて長期であるという点も,そのことは著作権譲渡契約においても同様であるから,直ちに公序良俗に違反するとはいえない。
しかし,専属実演家契約において上記のような事前かつ包括的な著作権譲渡が許容されているのは,同契約が更新があるとしても有期の契約であり,同契約の終了とともに(将来に向かって)効力を失うこと,同契約継続中は,芸能事務所から実演家に実演家報酬が支払われていること等の事情によるものと解される(東京高裁平成5年6月30日判決,東京地裁平成13年7月18日判決,東京地裁平成15年3月28日判決,東京地裁平成25年3月8日判決等参照)。
これに対して,本件独占的利用許諾契約は,被告Aの死後50年まで存続するもので,当事者からの解除は一定の事由が発生したときに限られており(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条),当事者が契約の拘束力から離脱する道は閉ざされている。
また,原告は,本件独占的利用許諾契約を締結した後の平成22年2月9日に本件基本合意を,同年7月1日には本件印税合意を,それぞれ締結し,本件印税合意以降に原告が収受した印税の2割(被告Aが将来制作する著作物については6割)を被告Aに配分することを合意しているが,それ以前には,原告が印税を受領したとしても,被告Aに対する配分義務を有しない旨主張している。
そうすると,本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約が締結された平成20年1月25日頃以降,平成22年6月30日までの約2年半の間は,被告Aは,いくら著作物を創作しても,それを他社に利用させて印税を得ることができず,自己の著作物から利益を得る可能性を閉ざされていたものである。
前記のとおり,本件著作物利用契約書は,被告Aが将来制作する著作物についても原告に独占的利用権を設定するものであり,被告Aはかかる将来の著作物を含めて合意したものではあるが,被告Aの署名により真正に成立したものと認められる,旧公正証書添付の2007年(平成19年)6月11日付け契約書(以下「旧著作物利用契約書」という。)においては,原告に独占的利用権を設定する「本著作物」は「甲の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物(原注:以下「本著作物」という)」と,被告Aが将来制作する著作物を含まない定義になっていたのであり,旧著作物利用契約書の作成から,本件著作物利用契約書,本件公正証書の作成に至るまでの間に,「本著作物」の定義が拡大され,将来の著作物を包含することになった点や,旧著作物利用契約書や旧公正証書では3年間(更新拒絶がない限り,その後は1年ごとの自動更新)とされていた契約期間(旧公正証書6条,旧著作物利用契約書5条)が,被告Aの死後50年まで大幅に延長された点について,原告から被告Aに十分な説明がなされた形跡はない。
これらの事情を総合考慮すると,本件独占的利用許諾契約のうち,「今後制作される著作物」を除いた部分については公序良俗に違反するとはいえないが,「今後制作される著作物」につき,原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については,公序良俗に違反し無効であると認めるのが相当である。
もっとも,本件独占的利用許諾契約締結後に創作された著作物であっても,原告と被告Aとの間の本件印税合意により,原告が受領した印税の6割が被告Aに支払われるものについては,上記のように被告Aが自己の著作物から利益を受ける可能性を閉ざされるものではないので,公序良俗に違反するとまではいえない。
本件独占的利用許諾契約は,被告Aに労務の提供を強制するものではないから,当事者の任意解約権が排除されているとしても,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうことはできない。
<平成27325日東京地方裁判所[平成24()19125]>

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