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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

地図・図形著作物②

【土地宝典】

本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し,広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示されている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法にも工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することができる。
<平成200131日東京地方裁判所[平成17()16218]>

【空港案内図】

本件で問題となっている空港案内図は,実際に存在する建築物の構造を描写の対象とするものである。実際に存在する建築物の構造を描写の対象とする間取り図,案内図等の図面等であっても,採り上げる情報の選択や具体的な表現方法に作成者の個性が表れており,この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,著作物に該当するということができる。
もっとも,空港案内図は,実際に存在する建築物である空港建物等を主な描写対象としているというだけでなく,空港利用者に対して実際に空港施設を利用する上で有用な情報を提供することを目的とするものであって,空港利用者の実用に供するという性質上,選択される情報の範囲が自ずと定まり,表現方法についても,機能性を重視して,客観的事実に忠実に,線引き,枠取り,文字やアイコンによる簡略化した施設名称の記載等の方法で作成されるのが一般的であるから,情報の取捨選択や表現方法の選択の幅は狭く,作成者の創作的な表現を付加する余地は少ないというべきである。
<平成170512日東京地方裁判所[平成16()10223]>

【地図に電車の路線図を組み合わせたもの】

本件地図デザインは,大阪市の地図に電車の路線図を組み合わせたものである。地図は,著作物として挙げられているが(著作権法10条1項6号),既存の地理上の事象を図面に書き込んだものであることから,正確に描くほどその表現には創作性を認める余地が少なくなるものである。しかし,記載すべき情報の取捨選択や表記の方法に作成者の経験,個性が表れており,この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,著作物に該当するものといえる。
(略)
本件地図デザインは,Pが,市販の地図等を参考に大阪市の地形を簡略にデザインしたものであるところ,その全体構成は,公社地図や大阪市全図とほぼ同じであり,大阪市の全体形状を再現したものにすぎず,例えば(証拠)のようにデフォルメされているものではない。したがって,本件地図デザインの創作性の有無は,細部の表現に基づいて検討する必要があるところ,そこでは,比較的詳細な地図である公社地図及び大阪市全図と比べると,全体的に,西側の海岸及び人工島,並びに多くの川の複雑な曲線をある程度簡略にし,大阪市の東側の境の部分も直線的なシンプルな線で描いており,また,河川については,一部の川の記載自体を省略するなどの取捨選択をし,全体的にすっきりとした表現がされていることが認められる。このように,そのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択にPの個性が表れていることからすると,その点において,創作性が認められる。     
よって,本件地図デザインは,Pの制作した著作物であるといえる。
<平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]>

【測量図】

本件実測図は,本件土地を測量し,その面積を求積した結果を示した「現況実測図」という名称の縮尺250分の1の測量図であり,本件土地と隣地との筆界点及びその座標,各土地上の建物,構築物等が図示され,また,本件土地の面積が「90.66895㎡」,「27.42坪」であること及びその「求積表」などが示されている。
しかるところ,本件実測図については,測量の対象とされた本件土地に係る情報の取捨選択,その作図上の表示方法及び表現内容のいずれにおいても,いかなる点で作成者である控訴人の個性が発揮されているといえるのかについて,控訴人による具体的な主張立証はない。
もっとも,控訴人は,仮に他者が本件土地の測量図を作成した場合の例としての「現況実測図」を添付しているが,この「現況実測図」は,控訴人が自ら作成したものであって,そもそも,第三者が本件土地の測量図を作成した場合の例であるものと認めることはできないから,本件実測図と上記「現況実測図」を対比しても,本件実測図が情報の取捨選択,その作図上の表示方法又は表現内容において控訴人の個性が発揮されていることの根拠となるものではない。
<平成2785日知的財産高等裁判所[平成27()10072]>

【万年カレンダー】

本件カレンダーの万年暦と索引表の組合わせ、左右に暦年を配し、上段に各月を配し、その交点に長方形の色彩を配する万年暦の構成は、回転型式やスライド型式で既知のものとなつている万年暦の構想を、索引表と標識体の組合わせによるカレンダー方式に置き換えただけのものであつて、右既知の万年暦の思想を伝達するものとして特に学術的な創作的表現といい得るかどうかには、それが実用新案法上、新規な考案として認め得るにしても、いまだちゆうちよを覚える。
のみならず、本件カレンダーの構成は、本件考案が実施された結果の具体的表現形態そのものであり、本件カレンダーは結局のところ本件考案の一実施例品というべきものである。そうだとすると、考案を考案それ自体として実用化した作品は、たとえその考案が学術的なものであり、新規独創性を有するにせよ、単なる実用品であつて当該思想(考案)を「創作的に表現する」著作物には該らない(考案の内容を説明するための記述や図表は学術思想の表現として著作物性を有するが、考案の実施である作品そのものには著作物性がない)ものと解すべきである。
<昭和590126日大阪地方裁判所[昭和55()2009]>

【方位の吉凶を示す方位盤】

本件各方位盤は,方位の吉凶を示す図であり,気学では方位を特に重要視し,人の動きによって受ける吉凶の影響を前もって知っておくことの重要性を教えているというのであるから,方位の吉凶に関係のある要素を方位盤に織り込むことはありふれた表現にすぎない。また,方位盤が方位を示すものであることからすれば,これを八角形で表すこと自体はありふれた表現であるし,方位を八分割した八角形の図に吉凶を示す事項を記載することは,本件類似書籍にも見られるところである。方位,八卦のマーク,火の場所,十二支及び九星の5つの要素を織り込んだ点についても,本件各方位盤におけるそれらの表現は,同様にありふれたものである。
したがって,本件各方位盤は,原告の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず,素材の選択又は配列によって創作性を有するものともいえないから,著作物あるいは編集著作物とは認められない。
<平成170928日東京地方裁判所[平成16()4697]>

【株式の値動きを図表にしたもの】

株式の値動きを図表として表現するに当たり、縦軸に価格(上方ほど金額が高くなる。)、横軸に時間(左から右向きに時間が経過する。)をとること、単位期間(日、週、月)ごとの価格の変動の幅を長方形により表すこと、価格が上昇したか下落したかによって右の長方形を色分けすること、右のようして単位期間ごとに描いた長方形を時間の経過に沿って横軸方向に並べていくことは、従前から一般に行われているありふれた表現方法であると認められるから、原告図表につき、これを原告が「創作的に表現したもの」であると認めることはできない。なお、右のような表現方法をとるに当たり、一定の日、週又は月数の終値の平均値をもとにし、さらに短期、中期及び長期の三つの指標を組み合わせて図表を作成することが原告の独自の発案によるものであるとしても、原告が創作したと主張するものは思想自体であり、これを表現ということはできないから、著作権法による保護の対象となるものでない。
<平成120323日東京地方裁判所[平成10()15833]>

【住宅ローン商品の金利情報を図表にしたもの】

本件図表は,各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,全国又は各地域別の金融機関ごとに,その商品名,変動金利の数値,固定金利(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり,金利情報をこのような項目に分類して対比した図表及び金利の低い順に昇降順に並べて対比した表は,他に多く存在し,ありふれたものであって,思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。
<平成221221日東京地方裁判所[平成22()12322]>

【建築積算アプリケーションソフトの表示画面】

積算くん【注:建築積算アプリケーションソフトのこと】の意匠内外装積算ソフトは、著作者の意匠内外装の積算に関する知見に基づき、製作されたものであり、その表示画面は、同ソフトを使用する者が意匠内外装積算を行いやすいように配慮して、著作者が製作したものであると考えられるから、右表示画面は、著作者の知的精神活動の所産ということができる。
被告らは、積算くんが実用品ないし工業製品であるから「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではないと主張するが、そこに表現されている内容が、技術的、実用的なものであるとしても、その表現自体が知的、文化的精神活動の所産と評価できるものであれば、右要件は充足されるから、被告らの主張は採用することができない。
なお、原告は、積算くんの表示画面は美術の著作物であると主張するようであるが、表示画面に美的要素があることは否定できないとしても、その表示画面の表示形式、表示内容からすると、積算くんの表示画面を、あえて分類するとすれば、学術的な性質を有する図面、図表の類というべきである。
(略)
被告らは、積算くんの表示画面は、書式にすぎず、「思想又は感情の表現」ではないと主張するが、書式であったとしても、どのような項目をどのように表現して書式に盛り込むかという点において著作者の知的活動が介在し、場合によっては、その表現に著作者の個性が表れることもあると考えられるから、単に積算くんの表示画面が書式であることをもって、右要件を否定することはできない。
<平成120330日大阪地方裁判所[平成10()13577]>

【折り紙作品の折り図】

折り紙作品の折り図は,当該折り紙作品の折り方を示した図面であるが,その作図自体に作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該折り図は,著作物に該当するものと解される。
もっとも,折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のものであること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。
また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。
<平成230520日東京地方裁判所[平成22()18968]>

【製品カタログ】

原告図表1は,1頁全体を縦方向に均等に2分割し,左側に上から「品番について」,「カタログの表示について」,「マークのご案内」,「製品について」の説明を順次記載し,右側に上記「カタログの表示について」の記載項目に対応する製品写真,製品名その他の記載の例として,上から「〈バスの場合〉」,「〈水栓,シャワー,トイレの場合〉」,「〈洗面器の場合〉」,「〈キッチンシンクの場合〉」を記載したものである。こうした表現は,製品カタログに記載される情報を分かりやすく1ページにまとめて表現する点において表現上の工夫があるから,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものと認めるのが相当である。
(略)
一方,原告図表2は「アンダースコア バス」の製品につき,サイズ,重量及び容量,品番,価格,税込み価格,材質並びに色を,原告図表3はトイレシートの機能の有無及びその解説を,原告図表4は原告カタログに掲載された製品の品番に対応する部材の名称,品番,価格及び税込み価格をそれぞれ表形式で整理したものであるところ,製品に関する情報を表形式で整理することが一般的であることに加え,その表現も文字又は写真を黒色の細罫線又は太罫線で区切ったありふれたものであるといわざるを得ないから,これらの点に作成者の個性が発揮されているということはできない。
<平成28216日東京地方裁判所[平成26()22603]>

【コンタクトレンズのチラシ】

(本件チラシ中の表現の著作物性)
原告は,本件チラシの表現のうち,①「検査時間 受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」や「検査なし スグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ),②「コンタクトレンズの買い方比較」という表及び③「なぜ検査なしで購入できるの?」という箇所における説明文言の3点について,創作性があるとして,本件チラシに著作物性が認められると主張している。
しかし,まず上記①は,旧大阪駅前店において採用された眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができるという特徴を表現したものであり,眼科での受診(検査)が不要であると,検査時間や受診代金が不要となり,また検査が不要である結果,コンタクトレンズをすぐ買えることになると認められる。そして,上記①の宣伝文句は,以上のビジネスモデルによる顧客の利便性を消費者に分かりやすく表現しようとしたものと認められるが,不要になる事項を文字(単語)で抽出し,その文字(単語)の上に「×」を付すことはありふれた表現方法であるし,「検査なし スグ買える!」という表現は,眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店のビジネスモデルによる利便性を,文章を若干省略しつつそのまま記載したものにすぎず,そこに個性が現れているということはできない上に,強調したい部分に着色等したり,「!」を付したりするなどして強調することもありふれた表現方法にすぎない。以上より,上記①に創作性があるとは認められない。
また,上記②はマトリックスの表形式にすることによって,旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売方法との違いを分かりやすく表現したものである。確かに,表現方法としては文章で伝えるなどの別の方法が存することは原告主張のとおりであるが,本件チラシは販売宣伝のために作成されたものであるから,その性質上,表現が記載されるスペースは限られ,また見た者が一目で認識,理解し得るような表現をすべきことも求められるから,表現方法の選択の幅はそれほど広いとは認められない。
そして,文字で表現しようと思えばできる事項を表形式にまとめることは通常行われる手法であり,表形式で比較するに当たり,縦の欄に旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売方法を並べ,横の欄に複数の事項を列記し,マトリックス形式でまとめるというのも,ありふれた手法にすぎない。そしてまた,ここで比較の対象としている事項の選択も,眼科での受診(検査)を不要とし,店舗に来店して購入するという旧大阪駅前店でのビジネスモデルから自ずと導き出されるものばかりである。以上より,上記②に創作性があるとは認められない。
さらに,上記③の説明文言は,旧大阪駅前店では眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができる理由を文章で説明したもので,その内容は法規の内容や運用を説明した上で,旧大阪駅前店では,顧客の経済的・時間的な負担の観点から,販売時に処方箋の有無を前提としていないことを説明したものにすぎない。これは上記のビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したものにすぎず,文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない上,その記載方法も相当の文字数を使用して,しかも小さな文字で記載したものにすぎないから,その表現方法に何らかの工夫がみられるわけでもない。以上より,上記③に創作性があるとは認められない。
以上より,上記①ないし③の各記載について,創作性は認められない。
以上の点につき原告は,提携眼科を設けないでコンタクトレンズ販売店をオープンさせるというのは,かなり思い切った試みであったとか,検査なしでコンタクトレンズを購入できる理由を書いた説明文言は適法性を支える要素となっているなどと主張しているが,旧大阪駅前店におけるビジネスモデル自体が著作権による保護の対象になるわけではなく,そのビジネスモデルを表現した本件チラシにおける各表現方法自体がありふれたものにすぎないことなどは,上記認定・判示のとおりである。したがって,原告の上記主張によって,上記判断は左右されない。
(本件チラシの各表現の組合せによる著作物性)
原告は上記①ないし③等の組合せに著作物性が認められるべきであるとも主張している。
確かに,上記①ないし③は,眼科での受診(検査)を不要とし,コンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店でのビジネスモデルを強調するために,それが可能な理由等を小さな文字で説明する(上記③)とともに,当該ビジネスモデルによって不要となる事項を文字(単語)で抽出し,その上に「×」を付すなどしてキャッチフレーズを用いたり(上記①), マトリックスの表形式で他の店舗や他の販売方法と比較したりした(上記②)もので,それらを組み合わせることによって当該ビジネスモデルを強調し,読み手に分かりやすく説明しようとしたものということはできる。しかし,何かを強調し,分かりやすく伝えるために,説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は,特徴的な手法とは認められず,組み合わせの具体的方法に特徴があるわけでもないから,上記①ないし③の各表現に創作性が認められないことを踏まえると,これらの組合せ自体にも創作性は認められない。
なお,本件チラシでは,さらに視力検査をしている男の子のイラストが組み合わされているが,原告はイラスト自体の著作物性を主張するものではない上,広告宣伝において適宜関連するイラストを配することもありふれた表現方法にすぎないから,このイラストと組み合わせることによって,創作性が基礎付けられるとはいえない。
また,原告は当初,被告チラシの各商品の配列等が本件チラシとほとんど同一であることを主張していた。しかし,本件チラシにおいては商品の写真を掲げつつ,その下側に商品名や値段等を記載し,適宜商品の説明やアピールポイント等を付加しているところ,そのような各商品の配列等は,コンタクトレンズ販売店の広告としてありふれたものであると認められるから,創作性は認められず,原告の上記主張によって本件チラシの著作物性は基礎付けられない。
<平成31124日大阪地方裁判所[平成29()6322]>
【控訴審<令和元年725日大阪高等裁判所[平成31()500]>も同旨】

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