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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

適法引用の要件(法32条の意義と解釈)②

【非著作物への引用の可否】

本条項の立法趣旨は、新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認められない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないものである。
<平成100220日東京地方裁判所[平成6()18591]>

著作権法321項の立法趣旨は,新しい著作物を創作する上で,既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから,所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから,利用する側に著作物性,創作性が認められない場合は「引用」に該当せず,同項の適用はないというべきである。
<平成220528日東京地方裁判所[平成21()12854]>

被控訴人は,著作権法321項における引用として適法とされるためには,利用する側が著作物であることが必要であると主張するが,「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」を要件としていた旧著作権法3012号とは異なり,現著作権法321項は,引用者が自己の著作物中で他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく,報道,批評,研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において,正当な範囲内で利用されるものである限り,社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと,同法321項における引用として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって,本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても,そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした判断が妨げられるものではなく,被控訴人の主張を採用することはできない。
<平成221013日知的財産高等裁判所[平成22()10052]>

旧著作権法とは異なり,現行著作権法321項における「引用」として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件ではないと解すべきである。
<平成26530日東京地方裁判所[平成22()27449]>

法32条1項は,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる限りで,著作権者の許諾を得ることなく,公表された著作物を自己の作品に採録して利用することができるとしているが,その趣旨は,新たな表現行為を行う上で,その内容上,既存の著作物を利用する必要があることを考慮した点にある。
<平成29112日大阪地方裁判所[平成27()718]>

【挙証責任】

当該利用行為が「公正な慣行」に合致し,また「引用の目的上正当な範囲内」で行われたことについては,著作権法32条1項の適用を主張する者が立証責任を負担すると解される(。)
<平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]>
【控訴審も同旨】
著作権法32条1項は,飽くまで著作権行使の制限規定である以上,その適用については,基本的に適用を主張する側が要件充足の主張立証責任を負うものと解するのが相当である。
<平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]>

【その他の留意点】

著作権法32条1項は著作権の制限規定であって,これによって認められる引用はそもそも著作権者の許諾がなくとも適法とされるのであるから,適法引用に当たるかどうかを判断するのに当たって,権利者が著作物の利用を許諾したかどうかや,許諾しなかった場合のその理由が考慮の対象になる余地はないというべきである。
<平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]>

編集物の素材として他人の著作物を採録する行為は、引用に該当する余地はないものと解するのが相当である。即ち、著作権法321項の第一文は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。」と定めているから、引用した側の著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる引用された著作物の利用に、その引用された著作物の著作権は及ばないことは明らかである。
これに対し、同法12条は、1項において、データベースに該当するものを除く編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する旨を定めた上、2項において、「前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。」と定めているから、1項の要件を充足し著作物として保護されるいわゆる編集著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる編集物の部分を構成している素材の利用に、その素材の著作物の著作権が及ぶことを意味することも明らかである。してみると、編集物の素材として他人の著作物を採録する行為を引用にあたるものとして、編集物の複製等の利用の際の素材の著作物の利用に、その著作権が及ばないものとする余地はないものというべきである。
<平成71218日東京地方裁判所[平成6()9532]>

本件においては,引用する側の表現であると主張する本件記者会見における(配布資料を含む)説明,批判,反論等と被告が引用される表現であると主張する本件各霊言及びその活字起こしファイルとは,同時ではなく1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられたものであり,また伝達媒体としても異なるところから,これらを理由として,著作権法321項の「引用」に当たらないと解する余地もあると考えられるが,以下においては,仮に「引用」に当たるものとして,同項の他の要件について検討する。
<平成240928日東京地方裁判所[平成23()9722]>

【個別事例(教科書国語テスト)】

引用する著作物に当たる平成11年度2学期用の本件国語テストにおいて、引用される著作物に当たる本件各著作物の一部又は全部は、四角の枠で囲んで他の部分と区分して収録されており、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるものと一応認めることができる。
しかしながら、本件各著作物の収録部分(表面上段)と設問部分(表面下段)とについて見ると、該各著作物(教科書に掲載された部分)からの国語テストに収録する部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択(穴埋め式の解答文や選択肢の設定を含む。)、その配列、問題数の選択等に、児童による教科書の理解及びその理解度の測定等を目的とした、相手方らの創意工夫があることは認められるものの、その場合における教科書の理解とは、具体的には、教科書に掲載された本件各著作物に表現された思想、感情等の理解ということに他ならず、したがって、右問題の設定、配列等における相手方らの創意工夫も、直接には、児童に該各著作物の収録部分を読解させること、すなわち、本件各著作物の一部又は全部に表現された内容それ自体をいかに正確に読み取らせ、また、それをいかに的確に理解させるかという点に収斂するものであって、該各著作物の創作性を度外視してはあり得ないものであると言わざるを得ない。そして、このことに、本件各国語テストにおける本件各著作物の収録部分とそれ以外の部分(表面下段の設問部分及び裏面の設問等の部分)との量的な割合等を併せ考慮した場合には、引用される著作物の部分を、本件各国語テストにおける、各著作物の収録部分(表面上段部分)に限ってみたとしても、引用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従であるという関係が存するものとは到底認めることができない。
したがって、平成11年度2学期用の本件国語テストに本件各著作物の一部又は全部を採録したことが、著作権法321項所定の引用に当たるとすることはできない。
<平成120911日東京高等裁判所[平成12()134]>

【個別事例(小説中の詩の引用)】

「引用」とは,自己の著作物中に,他人の著作物の原則として一部を採録するものであり,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,上記両著作物の間に,前者が主,後者が従の関係があると認められる場合をいうと解すべきである(最高裁昭和55328日第三小法廷判決参照)。
これを本件について見るに,①利用されたのは中国語で書かれた本件詩9編全文であり,これが日本語に翻訳され,利用したのは日本語で書かれたモデル小説であること,②本件詩の翻訳は,表現形式上は,被告小説の本文と区別して行間を開けた上,本文と異なる字体で記載され,被告小説の巻末に,利用された本件詩の出所が明示されているが,本件詩の一部においてはその題号が巻末以外には掲載されていないし,題号が掲載されているものも本文中に記載されており,本件詩と同じ位置に同じ字体で記載されているわけではないこと,③本件詩は,被告小説において,主人公小悦が「南国文学ノート」と題された詩集に収録されている詩を読むという設定の下に小悦の心情を描写するために利用されたものと,本文中には何の出典もなく単に主人公小悦の心情を描写するために利用されたものとがあるが,いずれも本文中のストーリーの一部を構成していること,④被告小説における本件詩の利用目的は,それを批評したり研究したりするためではなく,本文中においてある場面における主人公小悦の心情を描写するためであることは,前記で認定したとおりである。そして,これらの事情に,当該場面において当該心情を描写するために必ずしも本件詩を利用する以外の方法がないわけではないことを併せ考慮すれば,本件においてその引用が公正な慣行に合致し,かつ,引用の目的上正当な範囲内で行われたものということはできず,被告小説における本件詩の利用は,著作権法321項所定の引用に当たるということはできないと解される。
<平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]>

【個別事例(政治ビラへの写真の引用)】

本件写真ビラは,専ら,公明党,原告及びDを批判する内容が記載された宣伝用のビラであること,原告写真の被写体の上半身のみを切り抜き,本件写真ビラ全体の約15パーセントを占める大きさで掲載し,これに吹き出しを付け加えていること等の掲載態様に照らすならば,原告の写真の著作物を引用して利用することが,前記批判等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲内の利用であると解することはできず,また,このような態様で引用して利用することが公正な慣行に合致すると解することもできない。
<平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]>
【控訴審も同旨】
本件写真ビラは,ビラ自体としては,1審原告,C及び公明党を政治的に批判することを目的としたものであるとしても,そこに掲載された本件ビラ写真は,ビラの表面に大きく目を引く態様で印刷されている上,1審原告写真の被写体の上半身部分のみを抜き出し,1審原告写真の創作意図とはむしろ反対の印象を見る者に与えることを意図したことをうかがわせる「私は日本の国主であり大統領であり精神界の王者であり最高権力者である!」,「デージンも何人か出るでしょう。日本一の創価学会ですよ!」などの揶揄的な内容の吹き出しを付したものであるから,このような態様による写真の掲載を,公正な慣行に合致し,かつ,政治的に批判する批評の目的上,正当な範囲内で行われた引用と解することはできない。
<平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]>

本件各ビラ等は,要するに,都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し,あるいはB議員が被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことを批判するためのものであって,本件写真それ自体や,本件写真に写った被写体の姿態,行動を報道したり批評したりするものではない。被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが,特定のためであれば,同議員の所属,氏名を明示すれば足りることであるし,イメージのためであれば,B議員の他の写真によって代替することも可能であり,本件写真でなければならない理由はない。また,本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが,身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。さらに,著作物の引用に当たっては,その出所を,その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならないが(著作権法4811号),本件各ビラ等においては,本件写真の出所が一切明示されておらず,これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない。
このように,そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
したがって,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法321項の「引用」に当たるということはできない。
<平成230209日東京地方裁判所[平成21()25767]>

【個別事例(ブログへの写真の引用)】

本件記事は,「夜景見るの好き?」というタイトルのブログであって,「夜景を見るの大好き」,「お父さんが単身赴任中,お母さんと私と妹と愛犬とよく和歌山県の夜景を見に出掛けたことある」,「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との5行の記載に続いて,和歌山県方面ではなく大阪府方面の夜景を撮影した本件写真画像を複製した本件投稿画像が掲載され,その直下に「どの町の夜景もキレイで好き」との1行の記載がされたものであると認められる。
そうすると,本件記事は,本件投稿者が,夜景を見ることが好きであり,特に和歌山県の夜景を一番好んでいるという自身の嗜好を,夜景に関する思い出とともに記載したものであると理解できるが,このような嗜好や思い出を記載する中で本件写真画像を利用する必要性は乏しいというべきである。
しかも,本件写真画像は,大阪府方面を撮影したものであって,本件記事の内容とは直接的な関連がないのみならず,本件写真画像を複製した本件投稿画像が「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との記載と「どの町の夜景もキレイで好き」との記載の間に配置されていることから,本件記事の読者が和歌山県内の夜景写真であると誤認する可能性もある。
また,本件記事は,本文が4文(6行)と非常に短いため,本件投稿画像が本件記事全体の相当の部分を占めているといえる。
以上によれば,本件記事における本件写真画像の利用は,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」のものであるとも,「公正な慣行に合致するもの」とも認められないというべきである。
したがって,本件投稿者による本件写真画像の利用は,適法な引用(著作権法32条1項)には該当しない。
<令和2925日東京地方裁判所[令和2()9105]>

著作権法32条1項によって著作物を引用した利用が許されるためには,引用が,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。
しかし,本件投稿記事は,本件新聞記事2の内容を批評するものであると認められるところ,本件写真を掲載して勤行法要の様子等を伝える本件新聞記事1は,本件新聞記事2とは別の記事であり,内容的にも本件新聞記事2とは無関係であるから,本件新聞記事2の批評のために本件写真を本件投稿記事に掲載する必要はない。
したがって,本件写真の本件投稿記事への掲載は,引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるということはできないので,適法な引用(著作権20 法32条1項)には当たらない。
<令和21014日東京地方裁判所[令和2()6862]>

【個別事例(ドキュメンタリー映画への報道映像の引用)】

本件映画と本件各映像(本件使用部分)との関係についてこれをみると,本件映画は,資料映像・資料写真とインタビューとから構成されるドキュメンタリー映画であり,その中で資料映像として使用されている本件各映像は,テレビ局である原告の従業員が職務上撮影した報道映像である。
そして,本件映画のプロローグ部分のうち,被告制作部分は,画面比が16:9の高画質なデジタルビデオ映像であり,他方,本件使用部分は,画面比が4:3であり,被告制作部分に比して画質の点で劣っているから,被告制作部分と本件使用部分とは,一応区別されているとみる余地もある。
しかし,本件映画には,本件使用部分においても,エンドクレジットにおいても,本件各映像の著作権者である原告の名称は表示されていない。
被告は,本件映画において原告の名称を表示しない理由について,映像の出所は劇場用映画などからの引用の場合以外は表記しないとか,資料写真の出所は写真家の名前を伝える必要がある場合に限って表記するなど,制作上の方針を主張するにとどまり,本件映画のようなドキュメンタリー映画の資料映像として報道用映像を使用するに際し,当該使用部分においても,映画のエンドクレジットにおいても著作権者の名称を表示しないことが,「公正な慣行」に合致することを認めるに足りる社会的事実関係を何ら具体的に主張,立証しない。被告が提出する(証拠)は,「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」であり,フェアユースに関する規定を有する米国著作権法を念頭に置いたものであるが,同声明においても,「歴史的シークエンスにおける著作物の利用」に関し,「この種の利用が公正であるという主張を支持するためには,ドキュメンタリー作家は以下の点を示すことができねばならない。」として,「素材の著作権者が適切に明確化されている。」とされており,何らかの方法により素材の著作権者を明確化することを求めているのである。
実質的にみても,資料映像・資料写真を用いたドキュメンタリー映画において,使用される資料映像・資料写真自体の質は,資料の選択や映画全体の構成等と相俟って,当該ドキュメンタリー映画自体の価値を左右する重要な要素というべきであるし,テレビ局その他の報道事業者にとって,事件映像等の報道映像は,その編集や報道手法とともに,報道の質を左右する重要な要素であり,著作権法上も相応に価値が認められてしかるべきものであるから(著作権法10条2項が,報道映像につき著作物性を否定する趣旨でないことは,その規定上明らかである。),ドキュメンタリー映画において資料映像を使用する場合に,そのエンドクレジットにすら映像の著作権者を表示しないことが,公正な慣行として承認されているとは認め難いというべきである。
そうすると,総再生時間が2時間を超える本件映画において,本件各映像を使用する部分(本件使用部分)が合計34秒にとどまることを考慮してもなお,本件映画における本件各映像の利用は,「公正な慣行」に合致して行われたものとは認められない。
したがって,著作権の行使に対する引用(著作権法32条1項)の抗弁は成立しない。
<平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]>

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